プロローグ
――神託によりし者よ、目覚めたまえ……!
エミリは、うっすら目を開けた。
目の前に、角。しかもでかいやつ。
額から立派な角を生やした男が、まじめな顔でこちらを覗き込んでいる。
「……病院じゃないな」
それだけ言って、彼女はもう一度目を閉じた。
「お、おい! 神託の者よ!? 聞こえておるか!? ここは我ら魔族の村タルーア、そなたは我らが大儀のために――!」
「うん、聞こえてる聞こえてる。はいはい、状況理解。言葉は通じてる、それだけでラッキー」
「…………」
魔族たちの空気がぴたりと止まった。
――え? この人、一人でしゃべってない? と、周囲の魔族たちがそわそわとヒソヒソし始める。
エミリはのそのそと上体を起こし、ぐいっと肩をまわす。首のあたりが痛い。
寝違えか? むちうちか? 異世界に召喚されるときの衝撃で首がやられたのだろうから、むちうちの線が濃厚――と彼女は淡々と結論づけた。
「……水、もらえます? あと、できればスポーツドリンク的ななにか」
「ス? スポ……?」
「あー大丈夫、説明する。電解質と糖分がバランスよく入った、体内に吸収されやすい水っぽい飲み物。うん、多分まだこの世界にはない。理解したふりでスルーしてOK」
現れた“神託の者”は、期待に胸をふくらませていた魔族たちを、ものの数秒で置いてきぼりにした。