九話 食堂に通されました
九話 食堂に通されました
要は黒スーツに黒ネクタイで、黒崎達のようであった。
エスパーダは黒いワンピースに真珠のネックレスをして、要とともに行く準備を整えている。
能達の面倒は見れないので、各自現地集合にしてもらった。場所は忍び込んだ研究所にあるホールを借り切ってやるらしい。
「堂々と入れるなんてな」
タクシーを降りて、改めて建物を見上げた。昨日はいろいろあった。が、それは胸のうちに決めておくものだ。
入り口では兎が要達を出迎えた。まだ通夜には早い。
「とりあえず、食堂で待機してもらって。要さんはいるだけで良いですから」
食堂に入り、妙な感動を覚えた。まるで聖地巡礼をしているかのよう。さらに画面越しでしか見られなかった黒崎の姿があった。
「はじめまして、能の兄の宿守要です。そして彼女はフィアンセのエスパーダ」
食堂のテーブルにエスパーダを乗せた。
「婚約……ですか?」
「はい」
指輪を見せてみる。
「そうなんですね」
黒崎は困ったような顔をする。
「葬式には我々も参加するので、小人に好印象を持ってない人がいると思います。私も……」
「あぁ、黒磯さんですか」
「なぜ知っているんですか?」
「サイズにカメラで撮影させていましたので、ここで起こった事はだいたい知ってます」
「なら分かりますよね」
「よしましょう。全ては父が悪いのです。俺は、俺達家族はそう考えてます。恋のために家族を捨てたんですから」
黒崎は要の怒りを感じて、それ以上責めてくる事はなかった。
時間が経ち、能と就が来ると、黒崎は二人と会話を始めた。
「要、何を苛立っているの?」
エスパーダに言われてドキリとした。
「そんな風に見える?」
「うん。昨日からかな」
やはり分かってしまうものなのか。さすがフィアンセだ。
「俺って、宿守応該に似てる?」
「誰かに言われたの?」
「母さん……。そっくりだって」
「小人族を好きだから?」
「多分、強情なところ」
「そうだね。要のスマホ使ってた時、アプローチしつこかったもん」
「課金をなんとかしたかったのもあるけど」
「そうだよね。でも好きって言ってくれて、私は嬉しかった」
「でも母さんは認めてくれない。だから今日来てもらった。もうエスパーダは家族なんだって」
「昨日まで、私達小人族のために動いてくれてたんだもの。私も要のために動くわ」
いつものだらけきったエスパーダとは違った。それだけ家族認識を喜んでくれたのだ。
「母さんがなんと言おうとエスパーダと結婚する」
「ちょ、待ってよ!」
エスパーダが慌て出す。
「ん?」
「人の葬式の時にプロポーズはダメ」
「……ごめん」
要は顔が熱くなった。