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episode.9 森の神殿 

 屋久島のような雰囲気のある森を抜けた先にそれは突然現れた。

 神殿というから、ヨーロッパにありそうなお城や大聖堂を思い描いていたが実際は違った。


 蔦が這う崖に大きな穴が空いている、きっとここが神殿だろうとワシは言う。


「なんだか思っていたのと違うわね」

「神殿というには雰囲気がないですね」


 こんな洞窟がなぜ神殿と呼ばれるようになったのか。誰も近づかない、神殿と言う名の洞窟にはどんな意味があるのか。

 噂ばかりで真実が分からない洞窟の中に入るのは勇気がいることだが、ワシとリスは目的の為ならばと気を引き締めて洞窟へと向かう。


 外見ではなぜ神殿なのか分からないが、中に入るとすぐに理由が分かった。

 白い壁、床、天井で作られた大広間。壁には一定の間隔でアンティーク調のランプが取り付けられ、天井近くの壁には天使のような壁像が掘られている。

 天井からはシャンデリアが吊るされ、目のまえには大理石のような石で作られた大きな祭壇が愛梨たちを出迎えた。


「はあ……すごいわね……。洞窟の中とは思えないわ」


 あずきはきょろきょろと周りを見ながら歩く。どこを見ても「はあー」と驚きの声を上げている様は、田舎から初めて都会に来た人のよう。

 シドウも初めてこの場所を見たのか、いつも以上に目を輝かせながらあずきのようにきょろきょろと周囲を見ている。


「これはすごいな。神である僕も驚きだ」


 興奮する二人とは対照的に愛梨は至って冷静、いや関心なさそうにしている。周囲を見回してはいるが、驚きや興味ではなく興奮している二人に合わせてとりあえず見ているという感じだ。


 広い場所ではあるが奥までの道は短く、あっという間にその部屋の最奥にたどり着いた。


 「ここまでね。この先はどうするの?」


 真っ直ぐ歩いてきたがこの先に続く階段のようなものは見当たらない。

 まさかここが神殿の最深部というにはあまりにも拍子抜けだ。

 仮にここが最深部で噂が本当ならばお宝があるはずだ。お宝らしきものが見当たらないことが、ここが最深部ではないか、噂は噂でしかなかったということを物語る。


「何もありませんね。リスくんはどう思う?」

「そ、そうだ、ね。えっと……えっと……何か仕掛けがあるの、かも?しれない?」


 おどおどしながら答えるリスは壁や床を調べ始める。

 リスに習いワシとあずきも周囲の壁や天井を調べ始める。

 動物たちが何かを調べ始めたのを見て、愛梨も床や壁を調べるふりを始める。




 ――調べても、調べても仕掛けのようなものを見つけることはできなかった。


「うーん、困ったわね。神殿はここで合ってるのよね?他にも神殿があるってことはないのかしら?」

「いえ、神殿と呼ばれる場所はここだけです。場所は合っているのですが……」


 どうやら行き詰ってしまったようだ。

 調べるふりをしていた愛梨は疲れたのかその場に座る。何もしていないシドウはさりげなく愛梨の隣に座った。


「疲れたか?」

「……そうだね」

「何か見つかったか?」

「……べつに」


 そうかと言い、それきりシドウは何も言わない。隣同士で座っているのに、何も話さない沈黙の時間に慣れることはなく、耐えきれずに愛梨は口を開く。


「……神様ならこの先も分かってるんじゃないの?」

「分かっていても神は手出し無用だ」


 手出し無用と言っても行き詰って先に進めないのなら依頼達成も何もない。このまま依頼達成できなくて村に帰るならそれに越したことはないが、あずき達はそういう訳にはいかないだろう。

 

(手出し無用って言っても少しくらいいじゃん……)


 そんなことを言えば「君がやればいい」と言われ、断ったら「怠惰だな」と言うか、くすくすと笑うだけ。

 何を言われるのか分かっているなら、わざわざ言って気分を害することはないと、愛梨は気まずい沈黙に耐えることを選んだ。


 シドウには何も言わなくてもいいが、あずき達には何か言ったほうがいいのだろうかと愛梨は頭を悩ませている動物たちを見る。

 色々と話し合っているようだが考えがまとまらないのか、アイデアが出てこないのか、うんうんと唸っている。


 何か言ったほうがと思ってはいても、そもそも調べるふりをしていただけで考えてもいない愛梨には言葉すら見つからない。

 真剣に話し合っている動物たちを見ていると、適当に調べるふりをしていたことに小さな罪悪感を感じ、愛梨は少しだけ真面目に調べるかとゆっくりと立ち上がると、そっと壁に手を置いた――。




「あずきさん、少し聞いてもいいですか?」

「どうしたの?」

「いえ、神殿のこととは違うのですが……愛梨さんっていつもあんな感じなのですか?」

「え?」


 ぼーっとした様子で壁に手を当てる愛梨をワシはちらりと見る。


「全然話さなくて、いつもぼーっとしてて……その、少し、なんというか……」

「とっつきにくい?」


 図星だったのかワシは黙ってしまった。ワシの背中に乗るリスも同じことを思っていたのか黙る。

 そんな二匹を見てあずきはふふっと笑った。


「そうね。確かに愛梨ちゃんは少し難しい所があるかもしれないわ。でも面白いわよ?」

「面白い……ですか?」

「ええ。黙って俯いてるくせに、なんだかんだであたしを手伝ってくれたり、魔法を使えばとんでもないことになったり。それにね、愛梨ちゃんは優しい子よ」

「お、おいら、には……そんな風には、見え、見えない……です」

「いいえ、愛梨ちゃんは優しいわ」


にこっと笑いあずきは愛梨のほうを向く。


(優しいから……待ち人になったのよね。愛梨ちゃん……)




 ――真面目に壁や床を見るが何もない。亀裂や崩れた箇所もなくて、本当に行き詰ったようだ。


(やっぱり何もない。ここが最深部で、お宝なんて嘘じゃないの?面倒になってきたな……)


 諦めようと思ったとき、カリカリと何かを引っ掻く音が聞こえた。

 見るとリスが床を齧っている。道がないなら穴を開けて道を作ろうということだろうか。

 だが、あんな小さな歯で削っていてはいつになるか分からない。穴が開く頃には死んで二度目の人生が始まってしまいそうだ。


 方法はあれだが何もしないよりは、ということだろう。

 愛梨はリスの行動を気にすることなく、壁と床を見る。


 カリカリ……カリカリ……。


 静かな内部にリスの齧る音が響く。話し声とは違うからか齧る音は目立って聞こえる。


(音が響くな……。穴が開けば儲けもんだけど……音……穴?)


 齧ることをやめないリスを見て愛梨は何かに気付き壁や床を叩き始めた。

 突然の愛梨の行動にあずきが駆け寄る。


「愛梨ちゃん、何か分かった?」

「うん……もしかして……」


 愛梨は適当に壁や床を叩く。ドンドンと重い音が大広間に響く。

 ドン、ドン、ドン……トン。


「ここ……」

「え?」

「ここだけ……音が軽い」


 愛梨が軽い音がする壁と他の壁を叩いて、音の違いをあずきに聞かせる。


「本当だわ。音が全然違う。どういうこと?」

「この奥が空間になってる、と思う……」

「じゃあこの壁を壊せば何かあるのね!?」

 

 愛梨はこくりと頷いた。あずきの声を聞いたワシとリス、そして神様が集まる。

 みんなで音の違いを確認する。


「確かに音が違いますね。でもこの壁はどうやって壊しますか?」

「い、い、石で、叩く……と、とか?」

「頑丈そうな壁だし石じゃ無理よ。ね?愛梨ちゃん?」


 どうすればいいのか分かっているあずきは楽しそうに愛梨に投げかける。

 愛梨自身も分かっているのか、投げられた視線を受け流すように顔を背けるが、背けた先にはにやにやと笑うシドウが立っていた。


「石じゃ無理、だそうだ」


 いつも以上に明るく楽しそうなシドウ。視界の端であずきもにっこりと笑っている。

 逃げられないと悟った愛梨は、はあっと気だるげに息を吐く。


「私がやるよ……」

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