表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/17

episode.16 落ちる

 愛梨が高校生で、あずきが人間の文化を知っているということが分かった後、他愛のない会話をしているうちにゆっくりと眠気が近づいてきた。

 時刻は零時を過ぎようとしている。現実よりも長いDOAの時間。倍の時間を過ごしているはずなのに、不思議と体は疲れていない。だが疲れていなくても眠気はくるようだ。


 愛梨たちは明日に備えて休もうと話を切り上げて、あずきの「おやすみなさい」という締めの言葉で各々眠りについた――。



 そうして眠りにつき、目が覚めた愛梨は体を起こすと発動したままの『時計』を見る。

 時刻は午前七時。DOAの世界では一時間は百二十分だから、現実世界だと十四時間は寝ていることになる。


(ここにいたら睡眠負債が全て無くなりそうだな)


 十四時間、しかも地面の上で寝ていたのに体が軽い。

 現実世界は、起きても瞼が重く、体中に石を括り付けられているように重苦しかった。寝ても覚めても頭には靄がかかり、その靄から手探りで考えを拾い上げるような毎日。


 それが全て無くなっている。体は軽く、頭は晴れている。手探りなんてしなくとも自分の思い、考えが見えている。


(こんなに体が軽くて、すっきり目が覚めたのはいつぶりだろう)


「早いのね」


 手元から可愛らしく、少し眠気を含んだ声がする。


「……うん。えっと……おはよう」


 眠そうに、おはようと返したあずきは、ぐーっと体を伸ばして眠気を飛ばしたのか、すっきりした顔を愛梨に向ける。


「やっぱあたしの魔法はいいわねー。地面なのに寝心地最高」

「?」

「ふふ。体がすっきりしてるでしょ?あたしの魔法は防御だけじゃなくて、どんな場所でもすっきり寝られるようになってるのよ」


 だからか、と愛梨は目覚めの良さに納得する。


「……防御と一緒に寝心地の良さもお願いするの?」

「お願いはしてないわ。特典かもね」


 うふふ、と笑うあずき。

 特典付きのあずきの魔法が少しだけ羨ましく思い、自分もお得感が欲しいなと、両手をじっと見つめた。





 シドウたちも目が覚めて、軽い朝食を済ませると愛梨たちは先へと歩を進める。

 どこまで行っても変わらない景色。歩いても歩いても続くトンネル。


 モンスターに出会うこともなく、殺風景な景色をひたすらに歩いているうちに、一行の空気が変わってきた。


 危険もない、死が近くにもない、走って逃げることもない。緊張感を纏っていた空気は、歩いているだけだ楽だ、という楽観的な空気へと。


「昨日は大変でしたけど、今日は平和でいいですね」


 ひゅんひゅんとワシは優雅に飛び回る。その背中に乗っているリスは、ふんふんと鼻歌を歌っている。


「そうね。来る前はいい話を聞かなかったから心配だったけど、蓋を開ければ大したことないわ。昨日以外はね」


 声を出して笑い、意気揚々と歩みを進める愛梨たち。

 

 歩く。歩く。歩く。雑談をしながら笑ったり、時には叫んだり。


 歩く。歩く。歩く。少しだけ笑顔がなくなっても。


 歩く。歩く。歩く。会話が減っても。


 歩く、歩く、歩く、歩く――。


「止まって」


 あずきが足を止める。他の者も気付いているからか、あずきの言葉をおかしいと思うことなく素直に立ち止まる。


「おかしくないかしら?こんなに歩いているのに何も変わらないなんて……」

「扉や階段があるわけでもなく……ただ道が続いているだけですね」


 周囲を見渡す。あるのは、ごつごつとした岩に土を塗りたくったような壁と、整備されていない土の道。

 こんなに長く歩いても何もないのはおかしい。あずきは黙って気配を探るが、動物の勘に引っかかるようなものは近くにはない。


「こ、ここに、来る時と、同じで壁に、な、何かあるとか!?」


 リスはワシの背中から飛び降りると、小さい足で駆け、壁を叩くが――。


「こ、この壁、変だよ!!た、叩いても、音が、しない!!」

「うん。リスくんの小さな手じゃ音はしないと思うよ」

 

 リスは己の手を見る。どんぐり一個を持つのがやっとの小さな手だ。どんぐりよりも硬い壁を叩いたところで何も音はしないだろう。よくて、壁を引っ掻くカリカリとした音だけか。


 ワシに冷静にツッコまれたことが恥ずかしかったのか、それとも自信ありそうに言ったことが恥ずかしかったのか、リスは顔を赤くして猛ダッシュでワシに駆け寄り、背中に飛び乗ると、ワシの羽毛に顔をうずめる。


 その光景をワシは「まったくもう」とでも言いたそうに、くすくすと笑っている。


 そんな仲良さそうな姿を横目にあずきが壁に近づく。

 どんっと構える壁。上を見ると、ごつごつとした岩の壁が、今にも崩れてあずきの体を潰してしまいそうだ。


 あずきは身震いして、そっと壁から離れる。


「愛梨ちゃん、壁を叩いてくれる?でも、気を付けてね」


 言われ愛梨は何も言わずに近くの壁を叩く。

 分厚いのか人間の愛梨が叩いても、ぺちぺちとした可愛らしい音しかしない。

 どこを叩いても、同じような音ばかりだ。


「……壁じゃないのかしら」


 あずきは下から上へと壁を観察する。


「ん?」


 何かを見つけたのか、あずきは目を細めて天井をじっと見る。


「……どうしたの?」


 天井を見たまま動かないあずきが気になり、愛梨は声をかける。

 愛梨に声を掛けられてもあずきは天井から目を離さない。


「あそこ……。ねえ?あの天井……何か切れ目が入ってないかしら?」


 愛梨はあずきが差す天井を見るが、あずきが言う切れ目は見つからない。


「どこ……?」

「ほら、あそこよ。あの、ちょっとぼこっとした岩みたいなやつの隣に……ぴーって線が……」


 ぼこっとした岩を探す。天井に不自然に飛び出た岩がある。その横を見ると確かに真っ直ぐな線のようなものが見える。


「……あー、うん。あるね」

「怪しいわね。あそこに向かって魔法をぶっ放してくれないかしら?」


 直後、愛梨の体が一瞬ぴたっと止まったのをあずきは見逃さない。


「え……いや、何かあったら……大変だし……」


 「無理」という言葉を飲み込んだ代わりに、やんわりと断る言葉を言ったつもりだったのだが――。


「大丈夫よ!!愛梨ちゃん強いんだから!!何かあったらあたしが守るわ!!」


 あずきは断らせまいとの勢いで、愛梨に応援と安心の言葉をかける。

 愛梨はあずきの笑顔に弱いのか、押しに弱いのか、言い返すこともなく不満と諦めが混ざった顔で、小さくため息をついて両手を合わせる。


 魔導書を持った愛梨は天井にある切れ目をじっと見る。

 愛梨が何かをやるんだと思ったワシたちは、愛梨の後ろに下がる。


(ああ、嫌だな。さっきみたいなのが出てきても死ねないじゃん……)


 愛梨は指を伸ばした右腕を、天井の切れ目に向けてまっすぐ伸ばす。


(さすがに私の事情に他の人を巻き込むのは違うと思うし……)


 伸ばした腕から指先に青白い風が絡むように集まり出す。


(……死ぬのは私だけでいいんだよ)

「かまいたち」



 指先から放たれ青白い風は一本の線となり、勢いよく天井を破壊する。


 ガラガラと崩れる岩の音に混ざって、どしんと何か重たい物が落ちる音がする。

 その音は一度や二度ではない、何十回も聞こえてくる。


「きゃっ」


 重たい音の中に一度だけ、ずんっと、重たい音と同時に地面から足、足から全身にかけてビリビリとした衝撃。その衝撃なのか地面が激しく上下に揺れる。

 立っていられない程の揺れに、あずきは足を取られ倒れる。


「あずきさん、大丈夫ですか!?」

「よろけただけだから平気よ。それより天井が壊れたけど……この大きな音は何?」


 天井が崩れるのが止まらない。崩れは広がり、やがて壁までも崩れ始める。


「天井を壊しただけよ!?」


 左足ががくんと下がる。

 足元をみると床にひび割れがあり、それはみしみしと音を立てて広がっていく。


 崩れる。

 愛梨は後ろにいるあずき達の元へ走る。


 あずきも気付いたのか、隣にいたシドウに飛び掛かり、抱きかかえられていた。


「どういうこと!?何が起きてるのよ!?」

「……わ、わからない。でも……このままじゃ!?」


 足元の地面が一気に崩れて愛梨、あずき、シドウは吸い込まれるように下へ。


「愛梨さん!!あずきさん!!神様!!」


 ワシは急いで愛梨たちの後を追いかける。

 飛べない愛梨たちは空中ではなす術もなく落ちていく。この先に何があるのかわからない。無抵抗に、引っ張られるように落ちていく。

 

(どうしよう……どうしよう……)


 こっちへおいで、と言われているように、下へ下へと引っ張られる愛梨たち。

 愛梨たちを追いかけるワシだが、下から吹き上がる風と、愛梨たちと一緒に落ちる無数の岩の間を縫いながらで、なかなか愛梨たちに近づけない。


「えっと……えっと……」


 愛梨は命綱なしの高所からの落下を考えたことはあるが、実際経験すると恐怖とパニックで頭が混乱して、何も考えられなくなっていた。


「間に合って!!」

「!?」


「花よ花!!あたしの願いを聞いて――」


 どんっという音と共に愛梨たちは地面という終着点に落ちた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ