EPISODE8、契約出来ない理由
ルカル帝国国境ーー
明らかに気だるそうな表情を浮かべた男一人と満面の笑みを浮かべて前進する少女が一人。
ティルシアとデイルの2人である。
「はぁ…。まさかアイツと殺り合うなんてな」
ティルシアによって無事回復されたデイルは肩を落とす。
「いや〜凄かったね!やっぱり契約騎士って凄いよねぇ〜。デイルも契約すれば良いのに」
一騎当千の力を有しているという噂を目の当たりにしたティルシアは、うきうきしながら目を輝かせている。
やはり契約による魔力消費なしで扱う事ができる現界魔法は惹かれるものがある。
とは言っても、強大な力にではなく、自身に及ぼす影響を知りたいだけなのだ。
「契約って言ってもな…。俺、あの時以来ちょっとトラウマなんだよな」
「あの時?」
「ほらあれだよ、世界を渡り歩いた放浪剣士が居た遺跡」
「あ〜、でも凄い英雄なんでしょ?」
「まぁな…」
放浪剣士が眠る遺跡は、まだパーティーメンバーがティルシアとデイルしか居なかった時に訪れた場所だ。
当時、デイルは放浪剣士と契約すると心に決め、意気揚々として攻略に励んだ。
その遺跡は、かつて名を馳せたであろう騎士達の亡霊が巣食い、それなりの激闘を繰り広げた。
手応えのある遺跡の1つだ。
そして、放浪剣士と言えば、剣を目指す者なら誰しも憧れる存在。
放浪剣士は、剣を我流で極め、どこの国にも属さず腕を磨くために世界を練り歩き、凶悪な魔物との激闘を制し、各地を救った英雄だ。
弱きを助け強きをくじく。
決して名乗らず、背中で語る男の中の漢。
子供のように目を輝かせ、ティルシアに熱く語っていた。
遺跡攻略を果たし、いざ放浪剣士とご対面。
デイルは胸を高鳴らせていた。
『ほう?名のある騎士達を倒し、ここまで辿り着くとは、中々の武人であるとお見受けする。汝の力…我に見せよ』
「臨むところだぜッ!ティルシア、手ぇ出すなよ?これは決闘だからな」
「あっ…うん」
ティルシアも少し緊張していた。
博識である彼女にとっても、非常に情報量が少ない英雄だ。
突き刺さった剣から現れたのは、筋骨隆々の鍛え抜かれた肉体に兜の顎部分からは無精髭が伸びている老人。
刀傷に両手は剣を振るって来て出来たであろう、かちこちに固まった血豆。
滲み出る強者の風格が全てを物語っている。
「流石…男の中の漢…!見ろ、ティルシア!これが理想の剣士ってもんだ」
デイルは剣を構える。
剣聖だった時は、旅に出る事が出来ず、強者と巡り会う機会は殆ど訪れない。
心の底から溢れる衝動。
楽しみでしょうがない。
流石は、剣を振るえば右に出る者は居ないとされる英雄だ。
まるで隙がない。
「憧れた英雄とやれるんだ。こんなに光栄な事はない…!行くぜッ!!」
デイルは放浪剣士に立ち向かった。
自身の実力が剣を極めた者と称される英雄にどこまで通用するのか。
心が滾る。
「あらァ〜ん?何て可愛い坊やなのぉ?」
デイルはそのひと声で、顔面から地面に突っ伏すようにして転がった。
「え…?ええ?」
「んふふふ…坊や…。アタシと契約したいのぉ?良いわよぉ!ンマッ坊や!その若さで剣聖なの!?良いわ…ッ!良いじゃないッ!アタシも滾るわぁ」
放浪剣士は、体をくねくねと捻り、妖艶な仕草でねっとりとした声を発する。
身の毛もよ立つ話し方だ。
ガッシャーン…。
デイルの中で憧れの理想像が崩れ去るのに時間は要らなかった。
「ふむふむ…あれが憧れの…理想像ねぇ…」
ティルシアは顎をさすりながら、冷静に成り行きを見守っているが笑いを堪えている。
「そうなの!?お嬢ちゃんッ!まぁ…アタシに憧れてくれるなんて…素質あるじゃないの〜!これぞ…う・ん・め・いッ!!」
放浪剣士は、自身の屈強な二の腕で自身を抱き締め激しく腰を振る。
デイルを見つめて、ウィンクを飛ばしたせいか、ハートマークがゆらゆらと向かって来ているのではないかと錯覚する。
力の抜けたデイルは、剣を手放していた。
「さぁいらっしゃいッ!!抱き締めてあげるわッ!そして契約という名のハネムーンへ行きましょうッ!!」
「あっ…結構です…」
この世の終わりみたいな声がデイルから魂と共に抜け出た。
まさかの憧れた放浪剣士は、とんでもない漢ではなく驚愕の存在であった。
暫くティルシアは、この事でデイルをからかって遊んだ。
という出来事があったのだ。
「抵抗あるよな、やっぱし。お前はどうなんだよ?遺跡攻略続けたてたんなら、沢山居たんじゃないのか?」
意気揚々と前進を続けていたティルシアがピタッと足を止めた。
少し考えた後、首を横に振り、笑顔を向ける。
「別に〜わたしに合う英雄が居なかっただけだし〜!はっはっはっ」
ティルシアが笑い飛ばすと、デイルはぐしゃっと頭を撫でた。
「全く…。早く見付かると良いな」
「?」
ティルシアの被っているベレットがズレ落ちそうになる。
デイルは質問が悪かったと後悔した。
(何かあったら言えよな。お前がそうやって笑う時、何かあった時だろ…)
デイルは直接伝える事はない。
誰にだって言いたくない事が1つや2つはある。
それを分かっているからこそ深くは聞かないのである。
「ところでよ、他の奴らは待ち合わせにちゃんと来るんだろうな?」
「多分ね」
「多分!?」
旅を本格的に再開するため、ルカル帝国国境を待ち合わせにしているのだが、来るかどうかは分からない。
残り二人も相当な変わり者である。
「まぁ、あいつら来るなら遺跡攻略も楽だしな…。なぁ、今度仲間にするなら、男にしようぜ?」
デイルが真剣な眼差しを向ける。
「どして?」
「考えてもみろ、色々大変なんだよ。」
デイルは前々から悩んでいた事がある。
それは、自身以外が女であるという事だ。
傍から見れば羨ましいと思うだろうが、実際はそうじゃない。
温泉に行けば一人。
買い物に行けば荷物持ち、3人の買い物にとことん付き合わせられる。
つまり、苦労を分かち合うメンバーが一人も居ないのだ。
「贅沢な悩みだなぁ〜…」
「まぁ、もしアイツらが来なかった時も考えないとな」
必ず来る保証がない以上、考えた上での提案だ。
「これから旅をするっていうのに、俺とお前だけじゃキツいだろ?」
「むぅ。わたしだと不服ですかぁ、そうですかぁ。回復も出来るし、前衛でも戦えるのにぃ」
ティルシアは頬を膨らませ拗ねる。
「じゃあもう、この間みたいに魔法瓶で吹っ飛んでも治してやんないもんね…!?」
ティルシアは、直ぐさま両手で口を塞ぐ。
それを聞いたデイルは眉を震わせていた。
「なぁー、ティー?」
「何でしょ」
デイルは引き攣った笑顔を向け、ティルシアの顔面を右手で力強く掴む。
「魔法瓶で吹っ飛んだって初めて聞いたなぁ?てめぇッ!あの時回復以外に何かやりやがったなッ!?」
デイルは知らないが、スィンの現界魔法でダメージを受けた後、意識を失ったため覚えていないが、ティルシアはうっかりトドメを刺すところだったのだ。
「この野郎…!」
「相変わらずだな、2人とも。まるで夫婦のようだぞ?」




