EPISODE6、彗星の如く
デイルは、つくづく思う。
何故、快楽殺人者に近いスィンが聖獣である【彗星騎士】と契約出来たのかと。
聖獣、魔獣と契約する事によって人知を超えた力を有し【契約騎士】となる。
しかし、誰でも契約騎士になれるかと言われればなれる訳ではない。
聖獣、魔獣にはそれぞれ語り継がれる伝承があり、相応しい主を選ぶ。
聖獣は国を救ったなどの人類を守った英雄。
魔獣は国家転覆などの人類に仇なす英雄。
これだけを見れば、どう考えてもスィンは魔獣と契約してもおかしくはない。
【彗星騎士】の伝承とは天と地ほどの差だ。
彗星騎士はかつて、小国を魔王軍からたった一人で守りきった英雄だ。
その者は、蒼き鎧を纏いて翔け、夜空を流れる星のようだった。
彗星の如く戦う騎士であった。
契約出来たのが本当に謎だ。
「現界ーー」
スィンがそう言い放つと剣先に蒼き光が一点に集中する。
現界。
かつて英雄が使用していた魔法や奥義を魔力消費なしで行使する事が可能となる契約騎士に許された特権だ。
「堕ちろ…天星光雷ッ!!」
振り下ろした細剣から放たれたのは、ゆっくりと落ちる巨大な蒼き大玉。
数メートル落下した後、急停止。
すると、蒼き大玉からは爆散するように蒼き光が高速で落下していく。
天星光雷は、彗星騎士が扱っていたという空間魔法、雷魔法、光魔法を最高出力で凝縮させ爆散させる複合魔法だ。
実体のある光に雷を纏わせ、流れ星のように落下させ追尾能力もあり、殲滅力が高い魔法。
大軍相手にこの魔法で全滅させたという逸話が残っている。
降り注ぐ光雷は数知れず。
相手を容赦なく貫通する。
迎撃体勢を整えていたデイルは、全力で迎え撃つ。
剣閃を放った時よりも、魔力が剣に太く、重く纏わりついた。
「剣聖奥義…剣刃爆走ッ!!」
左手に持ち替えた剣を上空へ向けて斬り払う。
解き放たれた魔力は、無数の魔力斬撃を放ち、光雷に触れると包み込みように爆発し無力化していく。
剣刃爆走。
全力で振った一撃を溜めて放ち、触れた相手を爆破し、分裂させる事もできる。
分裂させたまま、威力を継続させるには、視界で捉えていなければならないため、追尾して来る光雷を迎撃するにはその場から動く事が出来ない。
剣閃と比べて負担は少ないが、分裂したまま威力継続させるには剣閃を遥かに凌駕する。
「…ちぃッ!!」
デイルの、こめかみには青筋が。
集中力を上げ、呼吸が止まるほどに力む。
魔力を攻撃にだけじゃなく、防御にも回しているためいつも以上に負担が大きい。
当然全て撃ち落とす事は難しい。
追尾能力を失った光雷が地面に落下すると、破裂音と共に地面に風穴を空ける。
それを見たデイルは更に防御力を上げた。
「まだまだ行きますよッ!」
スィンが現界魔法の出力を上げる。
降り注ぐ光雷の威力が増す。
負けじとデイルも魔力を込めるが徐々に押されつつあった。
「く…そ…ッ!…こんのぉ…やろうッ!!」
とうとう、光雷がデイルを捉え始めた。
全方位から降り注ぐ光雷。
1つ、2つ、3つ。
確実にデイルの魔力防御を削ぐ。
普通なら魔力防御ごと貫通するだろう。
それでも貫通させないのは、負けじと踏ん張るデイルの意地だ。
「うおおおおおおおおおッッ!!!」
雄叫びを上げ、踏ん張るが一斉に降り注いだ光雷によって一帯が吹き飛ぶ。
爆風が吹き荒れ、地面が陥没しデイルの姿が消え失せてしまった。
威力は絶大だった。
砂埃が巻き起こり、スィンが着地するとニタリと笑みを零す。
「今回こそ、私の勝ちですね…!?」
砂埃を突き抜け、剣がスィンの目の前で止まる。
「ハハ…まだ動けたんですね。本当に貴方は…」
スィンは、少し驚いたようだった。
胸を撫で下ろし、デイルを見つめる。
デイルは血だらけで、剣を突き付けたまま動かなくなっていた。
負けない。
この意地を突き通した結果だった。
「さて、姉君も吹き飛ばしてしまいましたか…流石に生きて…」
スィンは目を擦る。
「ちょっと疲れましたかね…」
もう一度、目を擦り、ティルシアが立っていた場所に目を向ける。
「嘘ですよね…?」
立っている。
そればかりか、砂埃を払っている。
「あっ、終わった?」
ティルシアは、何事も無かったかのように平然としていた。
そればかりかティルシアの周りだけが地面が吹き飛んでいない。
数々の死線を潜り抜けてきたスィンでさえ、驚きを隠せない。
あの猛攻を無傷で立っていた者を見た事がなかったからだ。
「ど、どうやって…あの光雷を防いだと…?」
「え?だって今のって彗星騎士物語に出て来る彗星騎士の現界魔法だよね?」
「それが何だと言うのです?」
「彗星騎士って色々魔法があるけど、さっき使ったのは空間魔法、雷魔法、光魔法の複合魔法だからね」
ティルシアは、左手を出しスィンに向ける。
「まず、これが空間魔法。ちょっと歪んで見えるよね?これは、雷魔法と光魔法を閉じ込めるための器とするでしょ?」
ティルシアは、空間魔法で作り出した丸い玉に光魔法を流し込む。
「…で、これが光魔法で空間の中に下地を作るとぴかぴかの玉が出来るでしょ?さらにここへ…」
光る玉へ今度は雷魔法を流し込む。
「ね?これでさっき撃った光雷に近い物の完成っと」
ティルシアは作り出した玉を放つと爆散し、スィンへと雷を纏った光が向かって飛んで行く。
「うっ…!?」
スィンは直ぐさま細剣で撃ち落とす。
「だから何だと言うのです?ただの真似じゃないですか」
「うん、ただの真似だよ。でもね、真似すると見えてくるんだよね、対処方法がさ」
ティルシアは、腕を組みながら頭を叩く。
「ずっと思ってたんだよね。この複合魔法でどうやって追尾してるのかなって、そこで1つ考えてみたんだけど」
ティルシアが指差した方向にスィンも振り向く。
「デイルが立ってた場所から放れた光雷は追尾せずに落下した訳で何でかなって」
ティルシアが口元を緩ませ笑う。
「あーなるほど!この追尾って魔力操作に反応してるんだなって。…で、じゃあデイルが放った魔力斬撃に反応するはずだってなるでしょ?」
ティルシアは更に説明を続ける。
「デイルさ、途中までは良かったんだけどね?地面に光雷が落ちた時に魔力を防御に回したから魔力斬撃よりも纏ってる魔力が大きくなったのさ〜つまり、光雷の追尾って反応する魔力量が決まってて、その魔力量を避雷針に見立てて追尾してるんじゃないかなって」
「つまり…貴女は…」
「そう!魔力を解いて、降ってきた光雷だけ剣で撃ち落としたってわけ!」
「ば、馬鹿な…あの威力を見て、魔力を解いたですって?」
ティルシアの説明は、にわかに信じ難い。
誰だって思うはずだ。
身に降り掛かる危険に魔力なしで、立ち向かったというのだから。
「ならば…直接叩くまで…!」
まだまだ余力を残していたスィンは地面を蹴り、急加速。
細剣を翻し、ティルシアの懐に容易に飛び込む。
初手と同じように首元目掛けて放たれるのは閃光如しの一太刀。
息の根を止めるものだ。
(所詮は少女。防げるものでは…)
スィンは目を見開き、口を空けてしまっていた。
「馬鹿な…。有り得ません…」
「有り得ないこと。有り得るのが世の中の面白い所だよね!」
ティルシアは、あまりにも軽々と。
閃光の如く放たれた一太刀を片手で受け止めていたのだ。
しかも何事も無かったように堂々と。
一瞬にしてスィンを支配したのは恐怖。
得体の知れない未知の力に恐怖を抱いていた。
かつて存在しただろうか、微動だにせず受け止めた存在したことはない。
「これ以上やるなら、全力でボコボコにするけどいいよね?」
無邪気な雰囲気から一変して、ティルシアの瞳に闘志が宿る。
だが、スィンも退く気はない。




