EPISODE5、剣聖奥義
「ーー剣閃ッ!!」
振り抜いた一撃は凄まじかった。
魔法ではなく、魔力を帯びた斬撃。
その斬撃はスィンが踏み出すのを躊躇わせる速度と威力を持っていた。
轟音と共に地面を抉りながら、スィンへと唸る獣のように向かっていく。
飛び上がり避けると、後方の木々を薙ぎ倒しながら飛んで行った。
衝突音と共に斬撃の嵐を巻き起こし、薙ぎ倒した木々を粉々にし、枝葉は重なりあって豪雨のよう降り注いでいる。
スィンは、その技を知っているからこそ躊躇ったのだ。
過去の影と重ねていた。
それは4年前に行われた御前試合まで遡る。
各国の王達が魔王討伐戦に向け、士気を高める為に開催した。
選ばれたのは当時の剣聖であったデイル。
そして、アルキス帝国騎士のスィン。
双方が名の知れた騎士であり、誰もが心待ちにしていた御前試合だった。
互いの技を競い、高め合い、健闘を讃える。
そうなるはずだったが、始まった試合は本当に死合になった。
健闘を讃えるなんてものじゃない。
両者が全力でぶつかりあい、観客さえ避難するほどの激闘。
互いの鮮血が飛び交う斬り合い、一挙手一投足が確実に相手を仕留めるための戦いであった。
その時にスィンが唯一恐怖したのが、剣閃という技である。
上級魔法に魔法拒否というものがある。
相手の魔法に応じた魔力を消費し、相殺する事ができるのだが、剣閃は魔法ではない。
剣聖が死と隣り合わせの修行で、習得するとされる奥義の1つである。
まさに初見殺しとも言える技だ。
自身が1秒間に繰り出せる斬撃を溜めて放出する魔力斬撃。
魔力操作で生成された斬撃のため、魔力防御は紙装甲と同然。
そして1番厄介なのは、斬撃の命中率によって斬撃が連鎖していく事にある。
先程、デイルが溜めて放った斬撃は5回。
溜めた斬撃の数だけ連鎖していく。
使用者自身も運任せの連鎖斬撃は、初撃に比べて威力が落ちるが木々をバラバラにするのは容易いことだ。
弱点があるとするならば、味方が多い戦場と使用者自身の魔力消費が大きいという点だ。
「ちっ…避けやがったか」
デイルは空中に飛び上がったまま静止しているスィンを見て舌打ちをする。
「これだから…殺し合いは止められないんですよね」
一方でスィンはニタリと笑みを浮かべていた。
スィンの生き甲斐は、強者との【生死】を賭けた本気の殺し合いだ。
発動させていた獄炎剣を解除し、空中に浮かんだまま、スィンは凛として高々と細剣を掲げる。
「アレを使う気か…!ティーッ!下がってろ!」
声を荒らげるデイル。
スィンが何を繰り出すか分かっているため、知らないであろうティルシアに忠告する。
しかし、ティルシアから返って来たのは、気の抜けた返事だった。
「あっ、大丈夫大丈夫〜」
ティルシアは、見上げたまま、軽やかに手を振って答えた。
「どうなっても知らねぇぞ…」
デイルは剣を握り締めて、剣や体に魔力を纏わせ迎撃態勢を整えていた。
スィンが放つ魔法を知っているからだ。
「我は『彗星』。汝の力欲する者なり。顕現せよ、【彗星騎士】」
辺りを包み込むほどの眩く神秘的な光。
まるで神でも降臨したかのような神々しさが、細剣の先から溢れ出ている。
そしてスィンの体を眩く透き通った蒼き光が包み込み、この世のものとは思えない柔らかな光が鎧となって現れた。
姿だけ見れば、神々しい騎士が降臨したかのようで儚さのようなものを感じる。
だが、スィンの口元は歪み表情は邪悪そのものだった。




