EPISODE4、三帝
ティルシアとデイルは、盗賊を退けたのだが新たな気配を感じ取っていた。
「犯罪者をみすみす見逃すなんて、冒険者としてどうなんですか〜?」
聞こえた方に目を向けると、黒髪で糸目の女。
黒と紫色で装飾された精巧な鎧を纏い、スラリと背が高い女騎士。
ティルシアとデイルは、まだ魔力感知を発動させたままで、魔力の接近があれば反応できる。
声を掛けられるまで気付かなかったとなると、女騎士が只者ではない事が分かる。
「その鎧…アルキス帝国騎士か。そして…」
デイルが睨む。
現在、魔王討伐後、世界を統治する国家が4つあり、それぞれ東西南北に分かれて統治している。
アルキス帝国は四大大国の1つ、西領を統一している武装国家であり、圧倒的軍事力で他国を屈服させた大国だ。
四大国の中で最も在籍している【契約騎士】が多く、騎士や兵士一人一人が精錬されている。
「腰にある細剣。何でお前がここに居る…!」
デイルは敵意を剥き出しに、剣を女騎士へ向けた。
「知り合い?」
ティルシアが尋ねる。
「騎士やってたら、嫌でも耳に入るぜ」
「貴方のような元剣聖に覚えて頂いているとは、光栄ですね〜」
女騎士は【元】を強調しながら、デイルに軽くお辞儀をした。
「でも、貴方に用はないのですよ。あるのは、そちらのお嬢さんです」
「え?わたし!?」
「私はアルキス帝国契約騎士、スィン・デルガロと申します。ティルシア様、是非ともアルキス帝国騎士団へ入団して頂きたく参りました」
スィンは深々と頭を下げるとティルシアは小首を傾げる。
アルキス帝国領で活動はおろか、恨みを買うような事は多分していないからだ。
「貴女様の妹君、フィルキア様も望んでいる事です」
フィルキア。
ティルシアの双子の妹で、騎士になったと聞いているがそれから音信不通となっている。
「フィーが?」
「ええ」
「なら伝えといて!お姉ちゃん、音信不通で怒ってるよ!たまには連絡くらい寄越しなさいやって。あと、騎士にはならないって」
「ハハハ…。はっきりと仰る方ですね、フィルキア様の言伝は、仲間になるなら迎えるがそうでなければ…死んでも構わないとーー」
スィンのにこやかな表情が一変。
無表情になり、覗かせる瞳は冷酷そのものだ。
抜剣。
それはまるで閃光。
スィンの細剣は、ティルシアの首目掛けて放たれていた。
当然、その動作を見逃さなかったデイルは、受け止めると同時にスィンを弾き飛ばす。
「ティー下がってろ!ここは俺が相手する」
ティルシアはスィンに言われた事が、にわかに信じられない様子だった。
血を分けた姉妹。
長年過ごしてきた妹が姉の死を願うと思ってもみなかったからだ。
ティルシアは頭を切り替えながら、直ぐに距離を取った。
「2人でも良いんですよ?」
「不意打ちする卑怯者は、俺一人で十分だ」
デイルは怒りの感情剥き出しにしていた。
その証拠に眉間には青筋が浮き出ている。
会話の途中で命を狙う卑怯さに。
仲間として許せるはずもない。
「なら…さっさと片付けて終わらせますよ」
スィンが体勢を低く構えた。
その姿はまるで、獲物を狙う肉食動物のようだ。
デイルの言った通り、スィンの名は嫌でも耳に入る。
アルキス帝国が保有する戦力、契約騎士の一人で
【三帝】と呼ばれる一人でもある。
三帝は、一騎当千と謳われる契約騎士の中でも更に別格で国1つ攻め滅ぼせると恐れられていた。
スィンも契約騎士として名を馳せた紛うことなき最大勢力の一角。
アルキス帝国皇帝は、弱者に対しては強気な姿勢を貫くが、地位を脅かす存在に対して臆病な所がある。
他国への抑止力よりも自身の国、地位が三帝に脅かされるのを恐れ投獄したという。
釈放した事に疑問が残る。
スィンは、一呼吸で数十メートルあった距離を一瞬にして詰めて来る。
懐に入り込む前にデイルは、横薙ぎに足元を斬り払った。
しかし、手応えはなく、空振りに終わり土埃が舞うだけだ。
スィンは静かに真上に飛び上がっていた。
動きを予測し、懐に入る直前に飛び上がっていたのだ。
足場のない空中。
殺してくれと言わんばかりの大きすぎる隙。
デイルが見逃すはずもない。
「もらったッ!!」
デイルの握り手から剣へ自身の魔力が纏わりつき、刀身に宿る。
魔法というよりは保有する魔力をそのまま、剣に纏わせていた。
【魔力操作】というものである。
魔力操作は、自身が保有する魔力を理解し、精錬する事によって自在に操る事が出来る。
体に纏わせれば魔法を防ぐ防御力にもなり、武器に纏わせれば、どんなに強固な鎧さえ斬り裂く事が可能となる。
…が。
魔力操作は、自身の魔力をいかに精錬しているかが重要だ。
それによって攻撃力も防御力も異なる。
そのため、魔力操作が出来るからといって必ずしも強者とは限らない。
「ふんッ!!」
繰り出された斬撃は、空気を揺るがす程だった。
剣から放出される強烈な魔力斬撃の余波は、周囲の木に切り込みを入れる。
スィンは、その強烈な一撃を紙一重で急降下して避けていた。
そればかりか、同時にデイルの肩に細剣を振り下ろしながら着地し、再び距離を取る。
「ぐっ…!」
デイルの肩から上がる鮮血。
傷は浅い。
「へぇ。斬り飛ばしたと思ったんですけどね。流石元剣聖ですね」
「なるほどな…当然詠唱なしで発動出来るよな」
デイルは頭では分かっていたが、体が付いていかなかった。
急降下した時、デイルは攻撃に回した魔力を咄嗟に防御へ回したが完全には間に合わなかった。
圧倒的にスィンの速度が上回っているという事になる。
【詠唱省略】。
言葉の通り魔法を発動させる時、自身の想像力のみで発動させる事が出来る高等技術である。
高位の魔法ほど難易度は増すというデメリットはある。
空中に飛び上がり、中級魔法に分類される空間魔法の1つである【空歩】。
一時的に空間を固め足場を作る魔法だ。
スィンは空間を蹴り上げて急降下していた。
「これならどうでしょう?炎よ…纏え」
スィンは細剣を指でなぞると炎が纏う。
「付呪魔法、獄炎剣。斬った相手を溶かす、この剣ならいかがですかね?」
細剣を振り払うと落ちた炎は、地面を焦がし、その場所は煮え滾る。
上級魔法に分類される付呪魔法、獄炎剣。
魔力を纏った状態であれば、硬質な鎧や魔力防御を簡単に溶解させる威力を持つが、その間は魔力を消費し続ける。
「やってみやがれッ!」
デイルは右足を前に出し、剣を左腰まで引き、空気を吸い込む。
「無駄ですよ」
再び、スィンが距離を一瞬にして詰めようと、踏み出すが少し仰け反っていた。
ティルシア心の声
(やったれデイル!ぶちかませ!!)




