EPISODE3、変わり者?それも個性です
ティルシアが率いる探究者ギルドは個性的かつ曲者である。
そして、メンバーそれぞれは全員訳ありである。
冒険者という職業は、誰でもなる事ができる職種で、騎士になれなかった者や旅人などが多い。
中心都市レイトにある冒険者としての手続きを済ませれば、依頼の達成率によって正式な職業を獲得でき、実績を残せば残すほど、各国から優遇され報奨金も多く支払われる。
しかし、ティルシア達は名誉や栄光よりも自分達の目的を追い求める道を選んでいた。
ティルシア達は冒険者本部に登録されているにも関わらず結成されているギルドの中で最も悪名高く凶悪と知られている。
各国に展開する冒険者支部からは出禁を言い渡されている所もある。
冒険者は、国に仕えることはなく、世界を自由に探索することが出来る。
世界を冒険したいティルシアにとっては、うってつけだ。
あらゆる方面で問題を起こしているティルシア達ではあるが、冒険者本部から除籍処分を受けないのは、貢献度が凄まじく高いのである。
契約騎士からの応援派遣で、ようやく討伐出来る凶悪な魔物を巣ごと壊滅。
古の財宝、歴史が眠る遺跡迷宮の攻略。
通常冒険者が受注しないような依頼ばかり受注するため、冒険者本部も目を瞑っている部分もある。
しかし、他の冒険者から見ると好奇な目で見られ警戒される存在でもある。
敬意を払う者もいれば、疑念や嫉妬、恐怖を抱く者もいる。
それでもティルシア達は自ら選択した道を突き進むだけだ。
ルカル帝国郊外山中で、2人は兵士から逃げ延び、休憩していた。
ティルシアは、バッグから手のひらサイズの丸い瓶を取り出し、魔法を込める。
「何してんだ?」
デイルが尋ねる。
「簡単な爆弾でも作ろうかなって」
「爆弾?」
「そそ。咄嗟に魔法が出せない時、これを投げつければ致命傷にならない程度に…目くらましには使えるかなって」
デイルは、少々呆れ気味だ。
ポーションと呼ばれる魔法道具は、基本的に錬金術師や宮廷魔導師が専用の器具、素材を用いて制作するのだが、ティルシアの場合、それを使わずに自身の魔法だけで制作する。
「火魔法と水魔法を合わせてっと」
まず始めに水魔法で瓶の半分くらいに水を注入し、次に風魔法で真空を作り出し、火魔法が接触しないように調節。
そして、最後に火魔法を注入して完成。
「ひとまず、完成かな」
完成したポーションは、火魔法の赤、水魔法の青の二色で爆弾とは思えないほど鮮やかだ。
ティルシアはデイルに投げ渡すとそれを慌てて割らないように優しく受け止める。
「ば、馬鹿!投げるなよ!」
お手製爆弾をティルシアが作っている間、デイルは火を起こし、野宿の準備を進める。
ボロボロの布製のバッグから食材や調味料を取り出し、鍋に水を注ぐ。
ナイフで肉を切り、手際良く野菜の皮を剥き、鍋に入れて煮詰める。
下準備が終わった後、丁度、ティルシアがお手製爆弾を10個程作り終え、鞘ごと錆び付いている剣を握り軽く素振りをし始めた。
「その錆びた剣…まだ使ってるのか?」
「まぁね〜。中々手放せなくってさー」
「今のご時世、色んな武器があるだろ?属性武器とかよ」
ティルシアは、旅に出始めた頃に掘り起こした錆び付いた剣をずっと使っている。
デイルと出会ったのもその頃だ。
どれだけ力を込めても抜ける事がなく、鍛冶師が扱う錆取りの魔法もまるで効果がない。
斬るというよりも殴るに近い。
「ん〜、合わなかったんだよね。遺跡迷宮で見付けた武器とか使ってみたんだけど…」
「へぇ…ん?今何つった?」
「武器が合わなかった?」
「遺跡迷宮で見付けた武器って言わなかったか!?」
デイルが食いつく。
【遺跡迷宮】は、古の時代から存在しており、宝物や武器はかなり高価な代物だ。
売れば一生遊んで暮らせるくらいの金になる。
しかし、デイルは遺跡に眠る武器に興味があった。
「全部壊しちゃったけどね〜」
ティルシアがポリポリと頭を搔くと、デイルは口を空ける。
「こ、壊しただと?」
「うん!だからこの錆びた剣って凄いよね!どんなに硬い物でも殴れるし!」
「お前なぁ…」
デイルは遺跡迷宮の武器は、中々お目にかかれないため、ひと目でも扱ってみたかったが、叶いそうにない夢となった。
「でもよ、その錆びた剣。本当に大丈夫なんだろうな?」
「何が?」
「何がって…それ握った瞬間、凄い勢いで魔力吸うんだろ?」
ティルシアが扱う錆び付いた剣は異常だ。
柄を握れば、魔法を放出している時のように魔力を吸っていく。
魔剣のような効果がある。
言葉を続けようとした時、2人は直ぐに身構えた。
「ティー、感じたか?」
「もちろん。あちゃ〜囲まれてるね」
身構えたのは、敵意がある者達の接近を感じ取ったのだ。
【魔力感知】。
魔力の流れを瞬時に読み取り、位置までも把握する事が出来る。
魔力を抑えていなければ待ち伏せだろうと見破る事ができ、冒険者にとっての危機回避の1つだ。
「こんなとこで野宿とはなぁ!何だ、旅行客か?」
大柄でスキンヘッドの男が茂みから姿を現す。
そして次々に男達が姿を現した。
「盗賊団か」
デイルは剣に手を掛ける。
「デイル、あの大柄の男、手配書にあるよ」
「マジかよ」
ティルシアは、冒険者支部に張り出されていた手配書を覚えていた。
ドグリ。
ドグリ盗賊団の頭で旅行客の身ぐるみや兵士達の装備を奪う。
元兵士や傭兵くずれの戦闘集団でもある。
「俺様を知っているたぁ、見る目があるな嬢ちゃん」
「へへっ!頭!久しぶりの女ですぜ!早く楽しみましょうよ!」
口振りから察するに、以前にもやった事があるようだ。
「兄ちゃんよ!相手が悪かったなぁ。女と所持品置いていきゃあ助けてやるぜ!おっと、まさか戦うなんて事、しねぇよな?こっちは20人、勝ち目なんてねぇぞ?」
やる気満々だ。
「…先に言っとくが、掛かって来るなら命の保証はしねーぞ?」
デイルが剣を握り締める。
「何を寝ぼけた事言ってやがる!やっちまえッ!」
ドグリの一声で盗賊達が飛び掛かろうとしたが、ピタリと足を止めた。
次々に盗賊達がガタガタと震え始めた。
「ど、どうなってんだこれ…」
「か、体が動かねぇ」
「ビビるこたねぇ!人数では勝ってんだ!」
ドグリでさえ、足をガクガクと震わせている。
盗賊達から見れば、ただの旅行客にしか見えないだろう。
しかし、デイルは正真正銘の強者。
体から滲み出る凄まじい殺気は盗賊達の本能に訴え掛けていた。
「剣よ…」
デイルがそう言い放つと、剣は鞘からゆっくりと抜けていく。
まるで剣に意思があるかのように。
剣が抜けると、一瞬の輝きを放ち、眩い程の刀身が顕になる。
デイルが扱っている剣は、【継承武器】というものだ。
前任者が託さない限り、武器は本来の力を発揮しない。
特殊な武器である。
【剣聖の剣】。
剣聖であったデイルが前任者から託された武器で癖が強い。
剣身は非常に重く、常人は振るう事さえ難しい。
剣自身が所有者の意志に反応し、初めて抜く事が出来る。
また魔力を流し込めば、折れようが刃こぼれしたとしても修復する効果を持つ。
「な、何もんだ…コイツ…!!」
「俺か?俺は探究者パーティーの剣士、デイルだ」
デイルが名乗ると、盗賊達は腰を抜かしていた。
「た、た、探究者パーティーだと!?」
「と、通った道には草も生えねぇ…あの…?」
「街を歩けば建物が崩れるとか…」
散々な言われようである。
「しかも…デイルって言えば…あの虐殺事件を引き起こした…」
デイルはニタリと笑い、盗賊達へ言い放った。
「ぶっ殺されてぇ奴から掛かって来い!皆殺しにしてやるぜ!!」
絶叫と共にドグリ達は、その場から脱兎の如く逃げ出した。
誰でも命は惜しいものだ。
静まり返った後、デイルはゆっくりと剣を納める。
「ふぅ…」
「いつ見てもすっごい悪役っぷりだねぇ」
「まぁな。仲間諸共、敵を葬った騎士、血も涙もない剣聖。慣れっこさ」
デイルは少し悲しそうな目をしながら、剣を納めようとするが、ピタリと動きを止めた。
察知した気配。
敵か、味方か。




