EPISODE29、デイルVSマレイ
マレイの指が微かに動き、その瞬間、デイルの心臓は鋭く脈打った。
目を逸らさなかったからこそ、微かな動きを見逃さなかった。
研ぎ澄まされた神経は、反射的にデイルを動かしていた。
放たれていたのは、目に見えない程の小さな針。振り上げた剣の刃が針に触れると岩に接触したような衝撃が走る。
普通の剣であれば粉々だ。
通り抜けた衝撃は腕を震わせる。
エスティの言った「遥かに強い」という言葉を再認識させられた。
強力な魔法を扱うデゴが可愛く思えるほどに。
「よく気付いたねー。普通なら串刺しなんだけど」
挑発が込められた言葉にデイルは剣を握り直していた。
「アタシはデゴと違って魔法を使わないけど、魔力操作なら自信あるんだよね。己の魔力で戦った方が強さを実感できるからさ」
マレイは懐から短剣のような針を取り出して魔力を纏わせる。
魔法が使えないデイルにとっても魔力操作には自信がある方だ。
しかし、マレイが放つ禍々しい魔力には説明し難い禍々しさがあった。
その異質な魔力には、単なる黒い瘴気の影響以上の何かが隠されている。
警戒しながらも取った行動は先手必勝だった。
「…剣閃ッ!!」
デイルは力任せに奥義を発動させ、連鎖する斬撃を持つ剣閃を繰り出していた。
劈く轟音が衝撃波となり研磨された石が敷き詰められた床を抉り飛ばしながら唸る。
初見殺しとも呼べる連鎖する斬撃だ。
当然、マレイは避けるだろう。
それがデイルの狙いだった。
剣閃は、あくまで陽動の役割を果たせれば十分だった。
仕留めなくても、避けたことによって生じる大きな隙は、決定的なものとなる。
デイルは剣を翻し、踏み込もうとした。
「な、なに!?」
予想外の出来事にデイルは驚きの声を上げてしまっていた。
マレイの動きは、避けるどころか剣閃を待ち構えていたのだ。
「刺」
マレイは魔力針を握り締め、刺すように腕を突き出す。
たった一撃で、勢いを殺された剣閃を遥か上空に弾き飛ばされた。
触れた時点で連鎖する斬撃は、どんな強者でも回避を選択させる強力なものだ。
アルキス帝国【三帝】、スィンでさえ回避せざるを得なかった奥義だ。
弾き飛ばされるとは思いもしない。
それほどまでにマレイの魔力操作練度が高いことを示す形となった。
「そんなに驚いた顔しないでよ。というか、その技を使えるって事は剣聖か」
「てめぇ…剣聖の奥義って知ってて受けたのか!?」
「君の剣閃じゃなかったら避けてたかもね。なるほどね、9代目剣聖が居るって噂は本当だったんだ」
「【元】だ」
「【元】と言っても、あの子が剣聖を託したってわけでしょ」
「ババァを知ってるのか?」
「知ってるも何も、昔よく戦ったよ。決着は付かなかったけど、君には勝てそうだけど…」
マレイが挑発的にニヤリと口角を上げる。
その表情は、デイルの闘志を煽るものだった。
デイルが「ババァ」と言ったのは、剣聖の8代目であり師匠でもあり親代わりでもある人だ。
「やれるもんなら…やってみやがれ!」
床が陥没する強烈な踏み込みで、マレイとの距離を一気に詰める。
荒々しい動作だが剣に纏う魔力は重厚なものだ。
その勢いは、鍛え上げられた技と力の血晶であり、デイルの覚悟でもある。
魔力斬撃で首を撥ね飛ばすのは造作もない。
「これが…本気だって言わないよね?」
マレイは軽蔑するように言い放った。
デイルの斬撃は通常であれば魔力防御ごと叩き斬る力がある。
それを遊んでいるかのように嘲笑うように軽々と腕で防いでみせた。
魔力操作の練度だけみれば、デイルは各国の強者と肩を並べる実力者。
しかし、マレイの魔力練度はデイルの魔力練度を遥かに上回っていた。




