EPISODE28、幹部の実力
「無事だ…」
ベルドは自身の体を軽く叩き、感触を確かめる事で現実を実感していた。
「貴様如きの魔法で殺せると思っていたのか?」
エスティの声には嘲笑が込められ、デゴの表情はみるみる紅潮し血管が浮き出る。
「このオレが…っ!如き…だとぉ!?」
激しい怒りに駆られ、再び魔法を組み換えようと行動を起こすが魔法陣が炸裂し、デゴの腕が宙に弾け血飛沫が噴き出す。
黒い瘴気が体から溢れ、瞬時に腕を再生させ飛び退いていた。
デゴは焦りを見せたが腐っても強者だ。
魔法円鍵を展開させようとするが、エスティがそれを許さない。
今度は地面に叩き付けられ、視覚外からの攻撃は意識を混乱させる。
エスティはその場を一歩たりとも動いていない。
そればかりか魔法を使用した痕跡すら感じないのだ。
「ちぃッ…!」
デゴは分が悪いと判断し、即座に転移魔法を発動させると青い閃光とともにその場から離脱した。
この選択は、デゴの賢明な一手だ。
「少し待っていろ」
エスティもデゴと同様に転移魔法を発動させて消え失せた。
見物しているマレイは、立ち尽くす2人に声を掛けていた。
「あの魔法使い、何者?」
「さぁな…」
仲間であるデイルにとっても答えようがない。
エスティは過去を決して明かさない。
ティルシアとライは特に気にする様子もなく信頼している。
信頼だけはデイルも同じだ。
しかし、その一方で時折見せる残虐過ぎる一面が少なからず不安要素も抱かせている。
溜め息を零していると、エスティが姿を現した。
「少し手間取ったな」
エスティのローブは血で染まっていた。
明らかに返り血で、転移先での一騎討ちは、数分で決着がついたようだった。
「えー。マジ?」
マレイはわざとらしい仕草で驚いたように口元に手を当てる。
「土産だ」
エスティが放り投げた物体が地面に転がったのはデゴの生首で苦痛と恐怖に歪む表情は、一騎討ちの惨状を物語っていた。
デイルは結果が分かりきっていたため驚きもしなかったがベルドは驚きを隠せない。
「あのデゴを…仕留めたのか…」
魔法使いの天敵とまで言われるデゴをものの数分で片付けたのだ。
当然の反応だった。
「ふぅん…」
マレイは悲しむ様子もなく立ち上がる。
興味深そうにエスティを見つめ微笑む。
「このまま、そこの魔法使いとやってもいいけどどうする?」
マレイは余裕の表情を浮かべたままで、自信と挑発が入り混じりながら口にする。
しかし、エスティにその気はなかったようだ。
「出番だぞ、デイル」
エスティがデイルを指名する。
「俺?」
デイルは一瞬、戸惑いの表情を見せた。
まさか指名されるとは思わなかった。
「いいねぇー。魔法使いよりも、そっちに興味があったんだよね」
対峙した時から、マレイはデイルに興味を惹かれ心から湧き上がる衝動に駆られていた。
デイルは、短く息を吸い込み、軽く胸を張ったあとに息を吐いて脱力する。
静かに覚悟を決め、剣の柄へ手を伸ばした。
「先に言っとくが、そいつは私が倒した幹部よりも遥かに強いぞ」
エスティの言葉はいつもの冗談ではなく、警告以上のものを示唆するものだった。
マレイから滲み出る魔力は光を通さないほどに黒く、周囲を推し黙らせるような威圧感がある。
今まで感じた事のない不気味さが背筋を走り、剣を強く握り締めさせた。




