EPISODE25、貸し
感動の再会とは裏腹に、大臣達のざわめきが増していた。
ルゼルが生きていたとしても、200年も前の話である。
信じろというのが無理な話だ。
「皆様、やはり運命は我らの味方!仕えるべきはルゼル様ただ一人!今こそ、ルゼル様を王女とし、新たな戦力と共に迎え入れるのです!」
国王の面前で発した言葉。
堂々たる国家反逆罪だ。
しかし、大臣達からは罵声や怒号ではなく拍手喝采が巻き起こる。
国王を差し置いて、称賛する大臣達の姿。
中には涙を流し感激している者さえいる。
異様な光景だ。
「さぁ、ルゼル様!私と共に…!」
サランが手を差し伸べる。
「何を言ってる?私は王女になんかならないぞ」
「な、何を仰いますか…!貴女は、これまで多くの民を守って来たではありませんか!」
サランが、その言葉を口にした時、ルゼルから懐かしさを感じていた表情が消え失せた。
「守れなかったから、王になる資格がないんだ」
ルゼルは今でも悔いている。
あの村を救えなかった事を。
「それに、私は戦いから身を引く事にしたんだ。平和に暮らそうと思っている」
200年前は、平和からかけ離れた世界だったと断言出来る。
激化する魔王軍と人間達の戦いは、血を血で洗う戦いそのものだ。
激突すれば人間はそれに報復し、守るべき民までも立ち上がり犠牲になった。
「なら…仕方ないですね」
サランが左手を振ると、ルゼルは立ちくらむ。
体調が悪い訳ではない。
ただ急激に眠気が襲って来た。
瞼が徐々に閉じていき、立つことさえ出来ない。
「何…を…」
サランは崩れ落ちるルゼルを優しく抱き寄せる。
誰でも扱える初級の睡眠魔法を使ったのだが、今のルゼルには効果は抜群。
魔力が安定しないルゼルにとって、防ぐ術は持たずなされるがままだ。
「是が非でも…貴女は私の王女になってもらう」
サランの取った行動に、デイルが敵意を剥き出しにした。
「何してやがるッ!」
「ほざくな冒険者。更地にさせる程の戦力…ここで消しておかなければ脅威になるからな」
サランが合図すると騎士達が直ぐに取り囲む。
「あと一つ。私は冒険者が嫌いでね」
サランはティルシア達を見下しながら高みの見物を決め込んでいた。
デイル達は、寝ているティルシアを守るようにして背中を合わせ拳を握る。
「こんな状況でも、まだ寝てんのかよ!」
「ベルドよ、その者達を片付けろ」
すると、デイルと気が合いそうだったベルドが拳を握り構えていた。
「最初から俺達を始末するつもりで、ここに連れて来たのかよ!」
デイルは唇を噛み締める。
見損なったという気持ちが強かった。
「ああ。てめーらは大きな戦力になるからな」
ベルドが肯定する。
「嫌な人だと思ってましたけど、貴方は誇りある騎士じゃないですか!」
ライは実際にベルドと戦ったからこそ、誇りを蔑ろにするような人物ではないと思っていた。
しかし、肯定した以上、ベルドは敵となってしまった。
実際ベルドは、サランからの命を受け、探求者ギルドを始末する為に連れて来たのだ。
「ルゼルから聞いてはいたが、ティー達が戦ったという人魔解放戦線。貴様…人魔解放戦線と組んでいるな?」
エスティは、2年前から薄々勘づいていた。
ルゼル王国へと足を運んだ理由は、不穏な噂の確証を得るためだ。
住民の不可解な死。
ここ最近で増した戦力。
もし、強大な力を持つ人魔解放戦線が裏で糸を引いていたとするなら納得がいく。
「やれ!」
サランの合図で騎士達が飛び掛かると、ベルドが誰よりも早く飛び出していた。
デイルが蹴りを繰り出そうとするが、直ぐに行動を制止する。
視線が明らかに違う方向を向いていた。
飛び掛かった騎士の1人を踏み台に、ベルドは更に加速する。
騎士達の視線がベルドに注目した。
「な!?」
視線の先はサランだった。
上擦った声が上がり、目を見開いていた。
完全に不意を突かれた。
「待ってたぜ…この時をなァッ!!」
ベルドが拳に魔力を纏わせる。
「貴様ッ!?」
「吹っ飛びやがれ!」
しかし、ベルドの拳はサランに届く事はない。
サランの目の前に現れた見えない壁によって拳が防がれる。
「魔力障壁か!?」
魔力を放出させて攻撃を防ぐ魔力防御の1つなのだが、完全に不意突かれたサランが展開させる事は出来ない。
「ベルド避けろ!」
エスティが魔力を捉え、ベルドに警告するが鮮血が舞う。
「ぐあっ!?」
ベルドは体に衝撃を受け、デイル達の元へと吹き飛ばされてしまう。
サランの元へと駆け付けた黒いローブを身に纏う影が2つ。
「大丈夫か!?」
デイルが吹き飛ばされたベルドを受け止めると、体には太い針が深々と突き刺さっていた。
「悪ぃ…助かった」
ベルドが太い針を抜き、自ら回復魔法で傷を癒すが治りが遅い。
「くそ…黒い瘴気の影響か…」
太い針は黒い瘴気を纏っていた。
エスティの言った通り、サランの後ろ盾は人魔解放戦線で確定した。
「しっかり殺せよ!」
黒いローブを着ていても分かる屈強な肉体を持つ男は針を投げたであろう、もう一人へ文句を零していた。
「【殺し】はアタシの信条に反するからね」
もう一人は声から察するに女性だった。
「サラン、随分と良い後ろ盾を得たな」
エスティが鼻で笑う。
「おい魔法使い。そりゃどういう意味だ?」
男がフードを脱ぐと、顔面に大きな傷を受けた厳つい顔が顕になる。
「皮肉に決まっているじゃんね」
フードを脱ぐと、ツリ目でにこやかな表情を浮かべる青髪の女が答える。
2人の顔触れにデイルが驚く。
恐らく知らない者は居ないだろう。
「【屠りし者】デゴに【不殺】のマレイか…!」
【屠りし者】デゴと【不殺】のマレイ。
人魔解放戦線は、強大な力を有しているとはいえ、烏合の衆と言ってもいい。
しかし、人魔解放戦線が最も恐れられている理由は、戦力の要である幹部達である。
二つ名を持つ幹部達の実力は、一国を攻め滅ぼすと言われていて幹部と相まみえたら最後、必ず命を落とすと恐れられている程だ。
「あの冒険者達を始末しろ、いいな」
サランが命じルゼルを抱きかかえたまま、奥へと姿を消す。
「ベルドよ。貴様、こうなる事を分かって連れて来たな」
エスティがベルドの意図を汲む。
「ああ。戦力としてなら、十分過ぎるからな。サランが王を誑かした後、長年好き放題だ。そして昨日、魔生物が現れた時、【契約騎士】達を地下牢に閉じ込めやがった…」
ルゼル王国の実権は、建国時からサランが握り、国王は代々傀儡で何の役にも立たない。
それは国を支える大臣達と信頼足り得る騎士しか知らない情報だ。
ベルドはサランに能力を高く評価され、実態を知らされていたが当然、国民を犠牲に成り立つ国を認めるはずもない。
現体制を崩すべくして暗躍を続けていたが実らず、ティルシア達に遭遇し今を描いた。
「まずは、仲間を解放したい。手を貸してくれ」
「良いだろう。1つ…貸しだぞ?」
エスティが不敵に微笑む。
後が怖いが、そうも言ってはられない状況に、ベルドが承諾する。
ベルドは地面に手を触れ、ティルシア達から取り上げた武器を手渡す。
「やるとするか…」
エスティが全身に魔力を巡らせ、魔法封じの手枷を破壊し、デイルとライも同じようにして魔力を巡らせ手枷を破壊し、戦闘態勢になった。




