EPISODE23、ティルシアの本気?
その一方、救援に向かったデイル達は、ルゼル王国兵士に行く手を阻まれていた。
「ここは、ルゼル王国騎士団が討伐に当たっている。貴様ら冒険者の出る幕ではない!」
エスティが伝令に来た兵士に伝え、救援を申し出たという事情を話したのだが、兵士達が退こうとしないのだ。
誇りと名誉を重んじるのは分かるが、この状況では何の役にも立たない。
「…契約騎士が居ないようだが?」
エスティは苛立ちを隠しながら冷静に立ち回っている。
何ならここにいる全員を力ずくで退けさせても構わないのだ。
そうしてしまうと後々面倒になる。
兵士達の魔力を読み取ると、精鋭には到底及ばないようだ。
100人は超えているが、魔物の侵攻を止めるには実力が伴っていない。
烏合の衆と言っても過言ではないだろう。
その証拠にエスティは兵士と対面した時、じわりと魔力を巡らせている。
実力者であれば、この魔力を読み取り強者である事は一目瞭然なのだが、残念な事に気付いてすらいない。
「我々の戦力は、契約騎士様だけでない。前線に向かっているのは契約こそ出来なかったものの、兵士の中でも精鋭達だ」
やたらと兵士が強気に出ているのは、前線に向かった精鋭達のお陰らしい。
更に残念な事にデイル達は、この場所へ向かって来る魔力を捉えているのだが、兵士達が気付く様子はない。
「なんだ…何か向かって来るのか?」
揺れる地面と木がなぎ倒される音で、ようやく兵士達も気付いたようだ。
前線に向かったであろう精鋭兵士達が、脇目も振らずに逃げて来る。
「みんな逃げろッ!!魔生物だぁぁッ!!!」
魔生物という言葉を聞き、兵士達が慌てふためき始めた。
完全に想定外といった反応をみせる。
視認出来るように、魔生物が姿を現した。
「グギャアアッ!!」
唾液を絡ませた鳴き声と共に現れた魔生物は、この世のものとは思えない程の姿をしていた。
体長は5メートルを超え、6本足で地面を這いずり、背中には大きな無数の針。
針には、犠牲となってしまった兵士達が突き刺さっている。
大きな口を開ければ唾液に血で染まった牙が顕になった。
魔生物は、魔王軍が使役していたという殺戮の限りを尽くす化け物だ。
騎士や兵士が太刀打ち出来ないのも頷ける。
魔生物の中で、捕食系に分類される、【喰らう者】と呼ばれる生物だ。
捕食対象を背中にある針で突き刺し保存し、見境いなく食い散らかす。
国1つが平らげられたという事もあり、恐怖の象徴として必ず挙げられる。
強気な姿勢を貫いていた兵士達も化け物を前に一目散に逃げ出してしまう。
情けないことこの上ない。
「お、おい!あんたらも逃げろ!!」
兵士がエスティ達を気にかけるが、当然、討伐対象であるため退かない。
「グギャアア!!」
喰らう者がエスティ達へギョロリと目を向けた。
魔力に反応して襲ってくる生物だ。
魔力を滲み出させていたため思惑通り、喰らう者達の意識を向ける事が出来た。
ガバッと大きな口を開け、突撃して来るとデイルも剣に手を掛けながら飛び上がっていた。
「三連斬ッ!」
抜剣し、水平に斬撃を繰り出す。
喰らう者は、三等分にされ、地面に散らばる。
「こんなのが、2千もいるのかよ」
相当な数だ。
骨が折れる事は確定する。
「おそらくな。後、そこ危ないぞ?」
エスティが注意を促し指を向けると他の喰らう者が大きな口を開け、デイルに襲い掛かっていた。
「言うの遅えって!?」
デイルが丸呑みされてしまう。
喰らう者が味わうように、口を激しく動かすと内側から爆散する。
「ぺっ!」
涎塗れのデイルが、喰らう者の体を斬り裂いていた。
「先生!まだまだ来ますよ!!」
ライが身構えると、大群で押し寄せる喰らう者がなだれ込んで来る。
すると、目の前にティルシアとルゼルが現れた。
「お待たせ!」
「待たせた…」
ルゼルは、体力も魔力も安定していない。
ふらふらで直ぐにでも倒れそうだ。
「おい、大丈夫かよ…!」
デイルが肩を貸す。
「あちゃー。何これどういう状況?」
ティルシアが喰らう者に囲まれている状況に苦笑いを浮かべてしまう。
「ティー。久し振りに魔力解放してみるか?」
エスティがティルシアに提案すると驚いた表情を浮かべる。
「いいの!?」
「ああ」
デイルとライがゴクリと息を呑む。
ティルシアの魔力解放を見た事がないからだ。
「よぉーーし!修行の成果見せちゃうぞ!」
ティルシアが、ニコッと笑う。
「修行してたのか?」
デイルがエスティに聞く。
知る限り、ティルシアは素振りや魔法の実験しかしていない。
「見れば分かる」
デイルは成り行きを見守った。
ティルシアの強さは分かっているつもりだが、どことなく本気で戦っている様子はない。
その片鱗が見れるかもしれないのだ。
「すぅぅぅぅぅ…」
ティルシアは息を吸いながら、錆びた剣を突き刺すと喰らう者達の視線を釘付けにしていた。
揺れる空気に喰らう者達が動揺している。
呼吸が詰まるほどに高密度に練り上げられた魔力は不気味な静けさを誘う。
「魔力…解放っっ!!」
ティルシアが魔力を解き放つ。
一気に放出した魔力が大地を揺るがした。
2年に渡り抑え付けていた魔力は、地面を抉り木々を吹き飛ばしていく。
高密度の魔力は、取り囲んでいた喰らう者を細切れにするように肉片1つ残さずに消し去っていく。
圧倒的だ。
目の前の光景に息を呑むしかない。
魔力解放によって生じた魔力衝撃は留まる事を知らず地形さえ変えてしまう。
魔力解放を終えると、辺りの景色は一変し、開けた更地と化した。
間近で見ていたデイル達も危険だったのだがエスティが魔力防御を展開し、傷を負う事はない。
「で、でたらめな魔力量だ…」
デイルが驚きを隠せない。
どう言葉で表現したらいいか分からないからだ。
すると、ふにゃっとティルシアが倒れ込む。
魔力を使い果たし、立つ事が出来ない。
「すっごいですね!ティーさん!!」
ライが飛び跳ねて喜ぶ。
「さて、帰るとするか」
目的も果たしエスティが転移魔法を発動し、その場から離脱する。
その一方で、逃げ帰った兵士達は騎士の応援を待ち、討伐に赴いたのだが、現状に絶句する事となった。




