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探求者、世界を救う!?  作者: 真宵 にちよ
第二章~ルゼル王国動乱~
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EPISODE22、守るべきもの

「弱い!弱いなぁッ!」


 細目の男は、血が滴る剣を舐め回す。


「くっ…!」


 ルゼルの服の各箇所から血が滲んでおり、防戦一方だった。

 本来のルゼルの実力であれば、細目の男なんて簡単に倒す事が出来るだろう。


 ある原因が、ルゼルを苦しめていた。


(何故だ…魔力が練れないっ!)


 血の滲むような努力を重ね、独学で会得した魔力操作。

 精錬された聖魔力は、当時、右に出る者は居なかったとされている。

 黒い瘴気の影響のせいか、魔力が全身を循環せず苦戦していた。


「今、助けるよ!」


 ティルシアが立ちはだかろうとするが、ルゼルは断る。


「手出し無用だ…!この程度の輩に負ければ誰も守れない!」


 ルゼルの目が殺気立っている。

 覚悟を決めている目だ。


 ティルシアは頭をポリポリと掻き、村人達の前に立つ。

 万が一に備えて防御に回った。


 男は、ティルシアの倒した男に目を向けていた。


「て、てめっ!アイツを倒したのか!?くそう…、コイツを片付けたら、てめーも殺してやるからな!」


 男は感情を顕にし、ルゼルへ剣を突き立てた。

 男が扱う剣には、黒い瘴気が入り交じる魔力を纏っている。

 魔力防御無しで受けるにはリスクが高い。


「うっ!?」


 ルゼルは剣で防ごうするが、簡単に弾かれ無防備になる。


「もらったぜ!」


 男の突き立てた剣が心臓目掛けて放たれる。

 ルゼルは右腕で防ぎ、胸に到達しなかったが、深々と突き刺さってしまう。

 拳を固め左手で男を殴り付けると、剣を引き抜かれ距離を取られてしまった。

 右腕からは血が溢れ、震えて力が入らない。


「軽いねぇー…」


 魔力を纏わせていない状態であれば、殴ったとしても小石がぶつけられた程度だ。

 ティルシアは、目に魔力を集中させて魔力感知でルゼルの魔力を読み取った。


 原因を探るためだ。


 ルゼルからは魔力が滲み出ている。

 原因は魔力の枯渇ではない。


 意識を更に集中させ、魔力の流れを読み取る。


 すると、本来、保有していたであろう魔力を黒い枝が蝕み堰き止めていた。


 ルゼルの体は未だに黒い瘴気に蝕まれ、正常な魔力を巡らせる事が出来ない状態だ。

 今にも黒い枝が体から剥き出しになってもおかしくはない。


「はぁ…はぁ…」


 ルゼルは迷っていた。


 自身の体は一番良く知っている。


 黒い瘴気が身体の内側から蝕んで行くのを感じていた。


 それでも、ルゼルは本気で第二の人生を歩もうとしている。


 今まで生きてきた人生には、力が求められた。

 今から送る人生には、力はいらない。


 護るためには仕方ないと言っても、力を使う事に変わりはない。


 頭で分かっていても、体が追い付いていない。


 頭の中で起きる矛盾が更に苦しめ、目を背けたくなるほどに耐え難いものとなっていた。

 腕から滴る血が地面をゆっくりと染める。


 ルゼルは、失う事が多い人生を歩んでいた。


 魔王軍との戦いで守るべき民を多く失い、命を散らした戦友達。


「ルゼル様!ここは我らが!ぐわぁぁッ!?」

「助けて…助けてよ…ルゼル様!!」

「見えないよぉ…ルゼルお姉ちゃんどこ…?」


 追い込まれている状況や頭の中を駆け巡る散らばっていた負の記憶の欠片ばかりが交わり、再び闇の中へと後押しした。


 脈打つ鼓動が加速し、息も荒くなっていく。


 抑えつけていた負の感情。


 闇から伸びる手が、ルゼルの心を覆い隠す。


「これで終いだッ!斬撃《スラッシュ》!」


 男は剣を翻しながら距離を詰め、魔力を纏った斬撃をルゼルに浴びせた。


 剣の軌道は、ルゼルの首目掛けて放たれている。


 割って入ろうとしたティルシアだったが、自身の行動を制止した。

 男の斬撃は、ルゼルの首元で不自然な形で止まっていたからだ。


「な、なんだと!?」


 男は異変に気付き飛び退こうとするが、動けなくなる。

 ルゼルの傷口からは黒い枝が伸び、魔力を纏った斬撃を吸収していた。

 それだけではない。

 男の剣から黒い枝が拡大し、生き物のように肉へ食い込み男そのものを喰らおうとしていた。


 男は魔力を放出し逃れようとするが、黒い枝がそれを許さない。

 滲み出る魔力さえも吸い取っていた。


「なんだこれは!?お前も因子を持っているのか?」


 ん?


 と、ティルシアが男の言葉に引っ掛かる。


 肉体強化と再生速度は、黒い瘴気によるものではないのかと疑問が浮かぶ。


「守るなら…全員殺すまでだ」


 暴走。


 ルゼルの左目を覆っている眼帯からも黒い枝がル頬を侵食している。


 抑えていた感情が爆発してしまっていた。


 右腕の傷が黒い枝で塞がり、無意識に男の首を鷲掴みにする。


「がぁ…っ…やめ…ろ」


 腕から伸びた黒い枝が、男を侵食していく。

 逃げようとルゼルの腕を殴り蹴ったりと抵抗を見せるが、力強く太刀打ちできない。

 ルゼルが向ける瞳は狂気に溢れてしまう。


 力は強まっていくばかりだ。


「貴様らのせいで…」


 ルゼルの右腕に黒い枝が収束し、黒き腕甲へと姿を変える。


 最悪の状況だ。


 ここで止めなければ、再び黒き騎士へと変貌を遂げる。


 そうなれば、村人達もタダでは済まない。


 ティルシアがルゼルを止めようとするが、子供の掠れた声が響く。


「ルゼお姉ちゃん!!」


 子供は泣いていた。

 ルゼルから溢れ出た殺気に居ても立ってもいられなかったようだ。


 子供の声がルゼルの心を揺さぶった。


 男を手放し、顔を抑える。

 子供の声が無かったら、完全に闇へ呑み込まれていただろう。


「私は…」


 すると、負の記憶の欠片が心地の良い記憶が埋めつくして来る。


「ルゼル様、見て下さい。貴女の守った民達ですよ!」


 笑顔で溢れる民達の笑顔。


「ルゼルお姉ちゃん!遊ぼう!」


 手を引く子供達。


 ーーそして。


「別に我慢する事ないさ。苦しい時、困った時は支え合うってのが、仲間ってもんだろ?」


 そう言って優しい笑顔を向けてくれた大切な仲間の一人、ティルト。


「皆…ありがとう」


 噴き出した黒い枝が少しずつ形を崩し、ルゼルへ収束していく。

 すると、黒い枝が覆っていたルゼル本来の魔力が解き放たれる。

 聖魔力を纏う光が魔法封じ(マジック・シール)を突き破った。

 それほどまでに精錬された魔力で、ここまで神々しいのはティルシアも見た事がない。


「これで終わらせる…」


 ルゼルは姿勢を斜めに右腕を引き、左手を細目の男へと向けた。


「何が終わらせるだ!ふざけやがって!!」


 男は激昂し、剣を振り上げ向かって来る。


聖光(ルクス)…」


 右腕が白き輝きを放つ腕甲を纏い、剣とともに男を突き抜けていた。

 行動を終えたルゼルは、静かに剣を納めようとする。


「びっくりさせやがって!」


 男は踵を返し、突き抜けたルゼルを背中から突き刺す。

 しかし、自身に起きた異変に気付くまでに時間は掛からなかった。

 突き立てた剣は、腕ごと地面に落下していた。


 あの一瞬で斬られていたのだ。


 勝てないと悟った男は、その場から逃げようとしたのだが足の感覚が消え失せ、体勢を崩す。


 パチン。


 と、ルゼルが剣を納めると両足、片腕が斬り飛び宙を舞う。

 一瞬の内に放たれた斬撃を目で捉える事はおろか、何をされたのか分からなかった。


「治らねぇ!?」


 黒い瘴気の影響を受けている細目の男。


 大抵の傷は、瞬時に回復する。


 だが、ルゼルに斬られた部分が再生せず、のたうち回る事しか出来ない。


 聖職者が天に仕える者として、修練に励みようやく手にする事ができる聖魔力。

 ルゼルは、生まれながらにして魔力そのものが、聖魔力を帯びていた。


 彼女の振るう剣は、魔の者を討ち滅ぼす。

 それはまるで、魔を退ける天使のようだった。


 ティルシアの見立て通り、聖魔力による攻撃は有効だった。


「人魔解放戦線について、話してもらうからね?」


 ティルシアが細目の男の前に座り込むと、満面の笑みを浮かべていた。


「あ…ああ…待て…何をする気だ…?」


 男達がどうなったか、言うまでもない。


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