EPISODE18、赤髪の女
「はっ…」
起き上がったのは、火の光が照らす鮮やかな赤髪の女だった。
辺りを見渡すとすっかりと日が暮れており、焚き火が眩しい。
女は戸惑った表情で、焚き火を見つめた。
「ここは…一体…?」
彼女が呟くと、頭の奥底で鈍痛が渦巻き、思い出そうとする記憶が堰き止められていた。
何が起きていたのか、何があったのか、記憶が欠片となって鮮明に思い出せない。
「目が覚めたみたいだよ?」
ティルシアが気付くと、それぞれの作業を止め、女を見る。
「んぁ?」
デイルは警戒を強めていたものの、座ったまま眠りこけていた。
すると突然、女はデイルに飛び付いて強く、強く抱き締めた。
「わぉ!」
ティルシアが声を上げ、エスティは反応を見て口元を抑えて笑い、ライは耳をピーンと立てて、成り行きを興奮しながら見ている。
女っ気が無に等しいデイルに起こった展開に興奮せざるを得ない。
「無事だったんだな…!ティルト…良かった…本当に良かった…!」
「待て待て待て!俺はティルトなんて名前じゃない!」
突然の出来事にデイルの眠気が一気に覚める。
「何を言って…」
女は、眉間に皺を寄せながら、まじまじとデイルの顔を眺める。
思っていたよりも、優しい表情はしておらず、鋭い目付きだった。
「…誰だ貴様」
目を輝かせ、喜びを見せていた表情が一瞬にして冷たい殺意に変わる。
「あのなぁ!?」
女はデイルの剣を奪い取り、距離を取りながら剣を手に掛ける。
「貴様ら何者だ…!奴らの仲間か!?」
目が覚めた途端に、知らない者達に囲まれていれば警戒するのも無理はない。
「落ち着け、我々はお前の敵ではない。それに敵であれば動けるようにしてはいないだろう」
エスティの言葉に女は顔触れを見ながら、敵意がない事を知ると、剣をデイルに投げ渡し、焚き火の元へと静かに座った。
「お前は、何故あの廃村に居た?」
エスティの問いに女は首を傾げる。
「あそこは、廃村ではない」
はっきりと答える女の言葉に、ティルシア達が顔を見合わせる。
誰がどう見ても、人の住める環境ではない。
エスティは順を追って説明を始めると、女は静かに聞いていた。
廃村だった事。
黒い瘴気が充満していた事。
黒き鎧を纏い暴れていた事。
女は、信じられないと言った様子だったが、曖昧になっていた記憶の欠片が少しずつ組み上がり、黒き鎧を纏っていた事に関しては認めた。
「では…私は、村を守れなかったんだな」
女の顔には落胆の影が浮かび、込み上げる無力感が肩を小さく震わせる。
「私を救ってくれた事に感謝はするが、それそろ行かなければならない」
女は感謝を伝え、立ち去ろうとするが背中はどこか哀しげだった。
しかし、エスティの言葉に足を止めた。
「ティルトなら、行方知れずだ」
「…何?」
落ち込んでいた様子が一変し、瞳には殺意が宿り、敵意を剥き出しにする。
「女よ。何故、ティルトを知っている?」
エスティの問い掛けに、女はより一層に殺意を滲ませ応えた。
「私の大切な仲間だからだ…!今もあいつは1人で戦っているはずだっ!」
「魔王の待つ城で…か」
エスティは静かに視線を空に向け、表情が見えないようにエナンを深く被り、焚き火へ木材を焼べていく。
「貴様こそ何故知っている…。何故…助けに向かわないんだっ!」
女は声を張り上げエスティの胸ぐらを掴み寄せ、怒りと不安が入り交じる声が響く。
「魔王軍が本格的に侵攻を始めているんだぞ!」
「もう200年も前の話だ」
「200年…だと?」
「ティルトは私の愛弟子でな。あいつは魔王軍と激闘を繰り広げていながら歴史に名を残す事はなかった。だが、私はお前を知っている」
エスティは冷たくも現実を突き付け、掴み寄せていた女の手を払った。
「あいつが言っていた。どんな敵にも臆する事無く立ち向かう、頼りになる仲間が居ると。名を残すことはなかったが、お前は後世に語り継がれているぞ」
「何を言って…」
「【不死鳥】のルゼル。それがお前の名だな?ティー達も知っているだろう?」
エスティの言葉にティルシア達も頷く。
北の領地を治める大国、ルゼル王国が発祥する事になった語り継がれる騎士。
魔王軍相手に1人で立ち向かい、何度倒れようとも折れず国を救った英雄だからだ。
ルゼルと呼ばれた女の足がふらつく。
肌で感じることができない歳月。
何か悪い冗談だと言い聞かせたいが、ティルシア達の反応を見る限り嘘ではないと察してしまう。
「本当…なんだな?」
黒き騎士の正体は、ルゼルという。
ルゼルの中では、ほんの数時間程の出来事が、200年という時が経っているとは思いもしない。
当然だ。
「少し…一人にしてくれ」
ふらふらと、ルゼルはその場を離れた。
受け入れる時間は必要だ。
「しっかし、あのルゼルだなんて驚きだよねー」
ティルシアは寝転がりながら、分厚い歴史書を取り出してルゼル王国建国の歴史を読み始めた。
理解を深める為に必要な知識を得るためだ。
「ねぇ、エスティ。そのティルトっていう人は聖獣とか魔獣になってたりするの?」
「知っていたら、とっくに迎えに行っているさ。あの時、私が到着した頃にはティルトの姿はなかった」
「ふーん…」
エスティは何やら言葉を濁している。
いつもそうだ。
ティルシアが必要な知識を教えてくれる事もあるのだが深入りすると決して答えない。
仲間に対して甘過ぎる一面もあるエスティだが、仲間に加わる条件に不要な詮索をしないことと提示している。
これ以上、何か聞いても空返事しかない事を察したティルシアは口を閉じた。
話してくれる事を待つばかりだ。
「あの女、これからどうすんだ?」
デイルが話題を変える。
「おーっ、そうだったそうだった。わたしは仲間になるなら全然大歓迎だけど、皆は?」
「ティーさんがそう言うなら、わたしも大歓迎ですよっ!」
ライは快諾するが、エスティとデイルは少し考えている様子だった。
「私は静かに暮らせる場所を提供したい。いくつか宛てがあるのでな」
エスティの言う事も一理ある。
200年彷徨い続けたというのもあるが、200年前といえば年がら年中魔王軍と戦闘を繰り広げていた時代だ。
他の仲間も居ないとなれば、静かに暮らしてもらうのも1つの手だ。
「俺も今回はエスティに賛成だな。国に帰しても信じてくれねーだろうしな」
「どして?」
「馬鹿お前、200年さ迷ってました、言ったって嘘だって思うだろ?」
英雄騙りもいいところだ。
「まー、それもそうだね」
ティルシアは腕を組みながら考え込む。
はっきりと意見が分かれてしまい、エスティの意見も捨て難い。
仲間が増えるのは嬉しい事であるが、200年経っても戦い続けて来たルゼルを連れ回すと考えると気が引けるのも事実。
「じゃあ2つの案を合わせて、最初は村で暮らしてもらって、もし定住するならそれで良し!付いて来るってなったら連れて行く!これでどう!?」
珍しくティルシアが意見をまとめる。
一同には文句はない。
第二章~ルゼル王国動乱~
四大国の1つ、ルゼル王国
ティルシア達を待ち受けるのは一体…。




