EPISODE9、全員集合!
「誰が夫婦だッ!ってお前かよ…」
静かな透き通る声を掛けて来たのは、白色で大きめのとんがり帽子。
エナンを魔女が被っている。
白を基調として青色の宝石を散りばめて装飾したローブに、スラッとしたスタイル。
魔法使いと言うよりは、明らかに魔女である。
肩まで伸びる銀髪に蒼き瞳を持つ 。
向ける瞳はどこか冷酷で感情がない。
「エスティ…。居るなら早く声掛けろよ」
エスティと呼ばれた魔女。
探究者ギルドの一人で、あらゆる魔法に精通している博識者。
自称1000年近く生きていると言う。
「いや、我々も先程着いたばかりだ」
「達?」
すると、エスティの影から現れた少女が一人。
「お久しぶりです!皆様!」
元気いっぱいな声で、明るい表情を浮かべる少女。
ふわふわとした猫耳にの狼の尻尾。
青黒髪でサイドテールが良く似合う。
「ライ!お前も来てたのか!」
「はいっ!」
ライ・デドン。
猫族、狼族の混血種で、狼猫族と呼ばれる。
数少ない生き残りだ。
猫族の俊敏性に加え狼族の破壊力を兼ね備えたパーティーには欠かせない存在だ。
「わぁーーっ!ティーさんっ!!」
尻尾をふりふりとさせ、ティルシアに抱きつき、
頬を擦り付ける。
「…にしても、本当に成長…成長したな!?」
デイルはライを見て驚きを隠せない。
ティルシアの身長は、150cmという低身長なのだが、ライの身長は160cm近くまで成長している。
2年前は、小柄で130cm程しか無かったのだが、成長が凄まじい。
胸も揺れる程に豊満だ。
「元々、繁殖力が凄まじい種族だからな。まぐわってみるか?」
「ばっ…馬鹿言ってんじゃねぇよ…。まだ子供だろ」
エスティは、普通に下品な絡み方をする。
かなり奥手のデイルだからこそ、そういう絡み方をして来るのだ。
下品な事に寛容なエスティだと思うが、以前にうっかりデイルが全裸のエスティを見た時、生死を彷徨う程の致命傷を受けた事がある。
だからこそ、こういう絡み方が非常に苦手なのだ。
「はーい…よしよし」
ティルシアが撫でるとライは大人しく座り込む。
最早犬だ。
「皆、本当に久しぶり!エスティも!」
ティルシアが笑顔を向けると、エスティは照れ臭そうにエナンを深く被る。
「また旅が出来て嬉しいよ。ところで、ティー。これから何処に向かう?」
エスティが尋ねると、ティルシアは地図を広げて他のメンバーに分かるように見せる。
「取り敢えず、北に目指そうと思う!まだ行ってない遺跡があってさ、ちょっと興味ある!」
大抵、ティルシアが決めた事に口を出さないエスティが口を開く。
「少し提案がある。その遺跡近くに廃村があるんだが…先に用を済ませたい」
「どしたの?」
「あっこれです!」
ライがポーチから取り出したのは、1枚の手配書だった。
その手配書には、黒き角に顔面を覆う兜、黒き鎧を纏う騎士の姿が映されていた。
「この騎士を倒すってこと?」
「ああ、賞金は見ての通りだ。当面の資金に充てたい」
ティルシアとデイルがまじまじと見つめる。
「「1000万G!?」」
犯罪者でも中々お目に掛かれない額となっている。
「欲しいもの…全部買える…!」
ティルシアはヨダレを出しながら、わなわなと体を震わせる。
1000万Gは、高級住宅が軽く数軒立つ値段だ。
「まぁ聞け。当分の資金に充てるというのもあるが、元々は50万から跳ね上がったんだ」
エスティの話では、元々手配書の騎士は、50万G
から今の額まで跳ね上がったという。
突如として、廃村に現れた騎士。
誰もが簡単な討伐任務だと思い、ある大規模な冒険者ギルドが引き受けた。
契約騎士も数人居る中で、敗北するなんて誰も思うはずがない。
しかし、蓋を開けて見れば、散々な結果になったという。
廃村に立ち込める【黒き瘴気】。
これは、魔王が誕生したという魔界に立ち込める空気で魔物を強化する特性を持ち、人間にとっては聖魔法で浄化しなければ、吸い込んだだけで意識を簡単に奪い、命さえも奪う猛毒である。
冒険者ギルドは言う間でもなく壊滅。
生き残った数人は、回復魔法で治癒出来ないほど重症で今も生死を彷徨っている。
そして、北領土を統治するルゼル王国に所属する契約騎士が出陣する事態となった。
ルゼル王国は、四大王国の1つで北領土を統治しており、所属している騎士一人一人が精鋭と呼ばれている。
そんな契約騎士でさえも廃村騎士に敗れ、報奨金が跳ね上がった。
敗れたにせよ、死者は出なかったが重症者を多く出した。
「ふむふむ…。黒き瘴気ねぇ」
ティルシアが腕を組み考え込む。
「ティーと私、ライも耐性はあるな?」
黒き瘴気は猛毒だが、人間にも耐性を持つ者が稀にいる。
契約騎士になれば、自然と耐性は上がるのだが、契約していない状態で耐性があるのは本当に稀であるのだ。
3人が視線を向けた先。
「こっちを見るんじゃねぇ!」
デイルである。
「置いてく?」
ティルシアがエスティに尋ねる。
「ちょっと待て!何で俺を置いてく前提なんだよ!」
「だって危ないじゃん」
ティルシアの言葉にデイルが鳩が豆鉄砲食らったような顔になる。
素直に心配から来る気持ちだった。
「あっ!でも先生、聖魔法の魔法瓶ありましたよね!?」
ライが思い出したように、先生ことエスティに話し掛ける。
「まぁ…確かに持ち合わせている。しかしな…」
聖魔法の魔法瓶は、製造過程に手間が掛かる。
自身の魔力で作る分には手間は掛からないのだが、エスティは聖魔法に関しては少し拘りがあるのだ。
聖魔法は、混じり気がない純粋な魔力ほど効果が高い。
その為、聖なる魔力が立ち込める地域、例えば大自然から魔力を抽出し制作しなければならない。
市場では非常に高額で取り引きされる。
それ程、貴重な物なのだ。
「勿体ないですけど、置いて行くなんて可哀想ですよ!!」
「勿体ないけど可哀想だな」
「だねぇ。可哀想だしねぇ〜」
純粋無垢なライに悪意はない。
しかし、ティルシアとエスティは不敵な笑みを浮かべている。
悪意しかない笑みである。
「お前らっ!大体、ティーもエスティも聖魔法使えるなら俺に掛けてくれてもいいじゃないか!」
最もな意見である。
「だって、効果切れたらまた掛け治すんでしょ?面倒臭いじゃん」
「その通り」
この始末である。
「お前らなぁっ!!」
すると4人は気配を捉えるのだった。




