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ただ、怖かった。
愛情なんて、脆くて儚くて、壊れやすいものを向けられる位なら、いっそのこと向けられなければいい――そう思った。
野良猫の私を拾ってくれた、男の人は犬を飼うからという理由で、私を捨てた。
一緒に寝たり、ご飯を作ってくれたり、一緒に遊んだりしたのに――捨てられた。
犬を飼うからっていう理由で。
だったら、愛情なんて脆くて儚くて、壊れやすいものをまた、失うのなら……。
いっそのこと拒絶すれば、拒絶すれば、傷つかなくて済むのに……。
「う、ぇ」
嗚咽を洩らしながら言う猫は、かなり無理しているように直樹は見えた。
多分、自分の中で必死に押し留めていたのだろう。
話す相手なんて居なかったのだろう。
俺という相手を見つけ出したから、喋れたんだぜ?
ま、コイツは気付いてねえだろうけど。
直樹は黙って、ラーメンが完全に伸びるまで抱き締めていた。
―――――――――
「は~あ。ラーメン完全に伸びちゃってるよ」
時刻は三時。
ザッと一時間は抱き締めていたのだ。
ラーメンなど楽勝で伸びる。
伸びまくって皿から出ている位である。
チラリと猫を見る。
頬は蒸気し、ピンク色に染まり、涙が頬に伝い畳に落ちていく。
無理して立ったのが悪いのかジワリと包帯から血が滲んでいる。
直樹は包帯の巻き方なんて知らない。
前に、避難訓練で教わったが、全く覚えていない。
悪いなと、栗色の髪をした頭を撫でる。
うおっ! と慌てて手を離す。
――スッゲェ手触り良かったんですけど。
「はあ、どうすりゃ、コイツを家に置く事が出来んだろ? 俺にも東条にも、愛情を注いで貰ってんのが分かんないのかね? 人も動物も、愛情がなけりゃ生きていけねぇんだぞ?」
また、頭に手を伸ばし撫でる。
「ま、お前を放る事なんてしないけどな」
笑いながら――密かに意志を込めて、言う。
猫が、恥ずかしそうに直樹の反対側に寝返りをうった。
「(何で私が寝たふりなんか)」
と、直樹は聞こえない程度の小声で言う。
ギィと扉が開かれる。
「お兄ちゃん? ポストに手紙が入ってたんだけど」
と言った所で固まる。
「ぷはっ。ヤベェ、あッ、違う! 誤、解! 誤、解!」
良く分からないノリで誤解だと伝える直樹。
包帯を巻いている猫にキスしている格好で。
しかも、幸せそうに鼻血を流しながら。
事は、一時間前に遡る。
ラーメンを食べて、テレビを見ていた時だ。
「直樹……」
何故か、もじもじして要件を言わない。
直樹は手助けしてやる事にする。
「何だ? ようやく、起きたか」
「ああ、うん。えっ、とね……」
何だろうか一体。
状況確認してみる直樹。
何故かもじもじしている。
頬が蒸気してピンク色になっている。
キョロキョロ目をせわしなく動かしている。
まるで、告白する女子その物ではないかッッ!!
「まさか、告白!?」
ボンッ! という効果音がついたかのように顔を真っ赤にし、
「んな訳ないでしょっ! 馬鹿じゃないの!? 私は、ただ……あの、あれ」
意を決したように人差し指を直樹に向けて言う。
「アンタを利用する為にアンタと一緒に居ても良いわよって言ってるの!」
「はあ、そうですか」
何だ、告白じゃねえのか、とガッカリ半分、安心半分で惚けたように返す。
「アンタが居ないと魔法も擬人化も出来ないし、魔力も貰えないし!」
はあ、そうですか。
腑抜けた表情で猫を見る直樹。
「何なのよ! その目は!」
やはり、顔を赤くしながら怒鳴る猫。
「何でいきなり、出て行こうとしなくなったんだ?」
「う、うるさいわねッッ! どうだっていいでしょ!? そんな些細な事は!」
「そうっすね」
まあ、コイツが出て行こうとしないのならいいか、と前向きに考えを纏め風呂に向かう。
全身汗でベトベトで気持ち悪いのだ。
春に全力疾走を続けていたのだから、当然といえば当然の結果である。
直樹は知らない。
猫があの恥ずかしいセリフを聞いてまた、信じてみようかなと思った事を――。
今更、恥ずかしくて素直にはなれないけど、大きな第一歩を歩んだ事を――。
「ふわあ」
欠伸をしながら去る。
「ち、ちょっとどこ行くのよ!?」
明らかに、焦りと戸惑いの表情を浮かべながら言う。
頬が蒸気しピンク色に染まり、少し吊り目気味の目が垂れたがり、可愛らしく目をうるうる潤して泣き顔寸前である。
男が見たら、一撃ノックダウンものだろう。
駆け寄って頬ずりでもしてしまうだろう。
しかし、「鈍感大魔王」という明らかに馬鹿にされている異名とる彼はその顔を見て、
(クックック。あの、アイツが風呂行くだけでこんな泣き顔寸前に、クックック。からかったろ)
はあ、と頭を振り、「残念だよ」と意味深な言葉をボソリと呟き立ち去ろとする。
「へ? ちょっ、ちょっと! どういうことなの……」
殆ど泣き声で言う。
興に乗ってしまった直樹は、
「お前がもう少し……ふっ、今更だな」
「ねえっ! もう少し何!?」
「いや、もういいんだ。じゃあな」
手を降って風呂に向かう。
絶望したように表情が消えたと思った次の瞬間――猫は泣いていた。
「なおぎぃ、捨てないで、え」
ふるふると震えた手で直樹のジーンズの裾を手に取ってボロボロ泣いて言う。
それを見た、直樹は顔面蒼白である。
「あわわわっ! 捨てる訳ねぇじゃねぇか! だから、泣くな!」
直樹は酷く後悔しながら、猫の涙を拭う。
「うっ、うぇ」
「あのっ、その、泣き止んでくれ。からかったろとか思った俺が悪かった!」
手をつけず、猫の周りをテンパりながら言う。
「捨てられたかと思っだぁ、うっ」
半泣き状態まで回復した猫は陶磁器のように白く綺麗な指先で涙を拭いながら安心したようなホッとしたような顔を向ける。
ドキンと胸が高鳴る。
(泣き顔見てとか、俺は変態か。畜生!)
でも、と猫が続けて言う。
「からかったとか」
般若のように怒りをたぎらせる。
泣き顔を見られた羞恥心と、からかわれた怒りとでリンゴ以上に真っ赤な顔を近付ける。
声と肩は震えていて、大変ヤバい状態である。
はわわわわと顔を真っ青にし、冷や汗が背中を伝う。
「魔法」
フンッとどこからともなく現れた毛玉。
「毛玉アタァァァァァッッックゥゥゥゥゥゥ!!」
バレーのアタックのように毛玉を打つ。
対象は直樹。
「ぶべらっ!」
と、顔面に毛玉が当たり、宙を舞う。
直樹は鼻血をダラダラと流しながら、ひたすら平謝りを繰り返す。
「マジですみません! ゴメンなさい! 悪かったです!」
「………………………………………………」
目を吊り上げながら、睨め上げる。
「あの、ホンッットにゴメン!」
不意に、
「魔力を注いで!」
と言う。
「は?」
「魔法を使ったから魔力が凄く減ったの!」
「あのさ、魔法を使わなくても魔力って減るわけ?」
これからの事を考えるなら知って置かねばなからない情報である。
「まあ、直樹の近くに居たら自動的に魔力が供給されるけど、人間になってる間の魔力分だけだし。それに、激しい運動なんかしたら魔力は減るけど」
「マジかよ……その度にキス……」
「早く魔力を注ぎなさいよ!」
意地でもキスとは言わないらしい。
と。
ヒラリと、紙が落ちてくる。
天井に張ってあったのだろう。
『やあ、魔力の事だけどね。キスじゃなくてもいいんだよ(笑)』
「マジでかぁぁぁあ(嬉)!」
『キスって交わすと雑菌が一杯入るじゃないか、あれと原理としては一緒なんだよね(笑)。だ・か・ら、口じゃなくても穴に口をつければOK(笑)。ああ、耳の場合は舌を入れてね(笑)』
『PS.ディープキスなら更にパワーアップ(笑)。更にいくと……』
ビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリ!
「(笑)(笑)うるせぇぇぇ(怒)!!! ……使って謎ぽくしてんじゃねえよ!! うぜえ(怒)!」
一ミリ単位で破り捨てた。
想像する。
鼻に口を当てるのを。
流石に無理だな。
耳も――無理だ。
やはり、キスしかないのか。
耳の方がマシか……?
「あのさ、耳にキスしてもいいかな? 舌を入れて」
「変態!」
ガン!
「痛てぇ! 分かったよ。猫になってくれ。それでキスするから」
渋々ながら了承して、猫になる。
「それじゃ、キスするぞ!」
目を瞑り一気にする。
生暖かい唇。
唇に当たる毛。
チクチクして痛い。
(やっぱり、人間の方がよかっかも)
と、思ってる矢先に妹が帰ってきたのだ。
そして、固まっている妹に誤解だと身振り手振りで現そうとするが、どうぶつの事を言う訳にもいかず、滅茶苦茶な言い訳ばかりを並べ立てる。
薫は極寒の方が暖かいですよ~と言う位底冷えする声で言う。
「ふ~ん、突如能力を持った背後霊が「ウリィィィィ!」とか言いながら何か良く分からない能力でそんな状態にしたと……」
「そうなんだ。新手だぞ! 気をつけろよぉぉ! オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァァ!!」
「変な趣味に変な言い訳……最低よ!」
薫は何もない空間にパンチを繰り返している直樹を目掛けて、
ガン! ポコポコポコポコポコポコポコポコポコポコッッ!!
「最初の一撃が……」
何で最初がガン! で最後がポコポコッ! 何ていう可愛い攻撃なんですか? と呆然としていると、
天井からパサリと頭に手紙が落ちてくる。
「ん?」
『明日、引っ越して貰います(笑)。by松田』
『PS,何にもないや(笑)』
「なら、PSとか使ってんじゃねぇぇぇ(怒)!! それと(笑)(笑)うるせぇぇぇんだよぉぉ(怒)!!」
0.0001ミリ単位で破り捨てた。