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猫拾い  作者:
5/21

 ただ、怖かった。

 愛情を向けられるのが――。

 ただ、怖かった。

 愛情が離れていくのが――。

 ただ、怖かった。

 捨てられるのが――。

 ただ、怖かったんだ。

「…………」

 猫は薄目を開ける。

 白い布団。

 茶色の天井。

「起きたか」

 突如視界にぬっと現れた直樹が言う。

「大丈夫か?」

 猫はボンヤリと直樹の顔を見る。

「昼飯食うか。お前はキャットフードでいいよな?」

『嫌。ところでアイツらは?』

「アイツらは、お前を病院に連れてって、帰って行ったぞ。包帯巻かれてるだろ?」

 猫は脚に身体に包帯を巻かれまくっている。

 どうぶつは回復力が半端ではないらしく、十日間位で全快するらしい。

 因みに、雀に東条は風鈴高校二年生らしい。

 東条は、

『悪かったな。お前が猫を捨てたんだと思ってよ。猫を痛めつければ、飼い主であるお前が来るって言うからよ。……ああ、そうそう猫、スゲェ悲しそうにしてたぜ? ま、だからこそ飼い主を呼び出す為にあんな嫌な事をやった訳だが』

 と、苦虫を噛み潰したような顔をして言っていた。

 雀の暴走の理由は判らないらしい。

 ――スゲェ悲しそうに……か。

「じゃあ、お前何食うんだ?」

『直樹と同じの』

「お前猫だろ?」

『人間になれば食えるじゃない』

「食えっけどさ」

『あんた達だけ、美味しそうな物食べてズルいわ』

「じゃあ、人間になれよ。裸で食えよ」

『あれ何?』

 クイッ、と顎で明らかに女物の衣服を指す。

 ん? と直樹は服の上にあった紙を拾って読む。

『先に帰らせて貰ったよ(笑)? ああ、そうそう、魔力を探知するレーダーとか、あれ嘘だから(笑)。ホントはあの機会、間違った(笑)。あの機かい』

 うわー、機械って漢字忘れちゃってるよ、と呆れ顔の直樹は先を読む。

『あの機かい同士が電波を飛ばし合ってお互いの位置を確認するための機かいなんだね(笑)?』

 訊くな!

『ああ、でも魔力を探知するレーダーはあるよ? 魔力って特殊な電波が出ているんだよね(笑)。動物は魔力持ってないから、人間がキスして、分けるしかない――なら、病院以外で魔力が急にポッと出たらそれは、どうぶつが居るって事が分かるという訳だ。二つしかまだ造れてないから渡す訳にはいかないんだ悪いね(笑)』

『PS,手紙になるとPSって使いたくなるよね(笑)』

「ナァァァニガ(笑)だァァァァァ(怒)!!」

 ビリビリビリビリビリビリビリビリビリビリ!!

「千切りィィィ(怒)!!」

 約一ミリ前後になった紙をゴミ箱に突っ込む。

 そのまま、台所に向かい即席ラーメンを二つ作り、荒々しく机の上にラーメンを置く。

「オイ、タマ! 出来たぞ」

「誰がタマよ!」

「お前、だ、よ?」

 太ももが丸見えの中学なら確実に校則違反のスカートにピンクのキャミソールである。

 しかし、可愛らしいヘソが見え隠れするくらいに小さい。

 大きい胸も苦しそうに自己主張を続けている。

 顔を朱色に染め上げ恥ずかしそうにもじもじしている。

「は、え、あ、い、お、お前、それ、何?」

 できる限り顔だけを見て言う。

「コレしかなかったの」

 真っ赤な顔で言う。

 余程恥ずかしいのか言い方が弱々しい。

 ――可愛い。

「って、何考えた俺今ァァァァァ!?」

 ぶんぶん、頭を振るい立ち上がる。

「俺、今から服買ってくるわ!」

 ガッ! とゲーム機のコンセントに引っかかり転ける。

 前には猫。

「うおっ!」

「へ?」

 猫を押し倒し、そのまま転ける。

 ゃ、ば、い!

 脚が変な風に絡み合い、顔には柔らかい胸があり、オマケに手は細いくびれのある腰に回っている状態である。

(コイツは猫! コイツは猫! コイツは猫! コイツは猫!)

 よ~し、オッケー。暗示作戦成功。

「い、た、い……」

 呻くような声。

「あッ!」

 一瞬で喉が干上がる。

 直樹は一瞬で猫から退き、謝る。

「ゴメン!」

「それより、私ご飯食べたらここから居なくなるから」

「は?」

 コイツ、何て言った?

 直樹は一瞬脳の活動がストップした。

「熱っ! 私は猫何だから、猫舌なのよ!?」

 という抗議の声があがる。

「ふざけんなよ! お前、またどうぶつに狙われたらどうするつもりだ!? 今度は本気で殺されるかも知れねえんだぞ!?」

 乱暴に肩を掴んでコッチに振り向かせる。

「何とかするわよ!」

「お前、俺が居ないと魔法だって擬人化だって出来ねぇんだぞ!? わかってんのか!?」

「関係ないでしょ……」

 ポツリと呟く。

 カァァ、と全身の血が沸騰する。

 脳の血管がブチ切れたかと思った。

「関係ない、だ?」

 意識していないのに声が低く低くなって出てくる。

 猫は、直樹の変わりように驚き、身を竦める。

「ナニよ! 三日しか一緒に居なかったじゃない!」

「時間なんか関係ねえ!!」

 打ち消す。

「危険が迫ってる女の子をホッとけるかよ!」

「な、によ、何よ、ナニよナニよナニよナニよナニよナニよ!」

 いきり立ちながら、両手で直樹の身体を押し、直樹はガン! と壁に頭を打ちつける。

「が……ッッ!」

 衝撃で声が漏れ出ると同時に猫の身体を抱き締める。

 猫の額が直樹の胸に当たる。

「いたい! いたい!」

 否、締め上げると言った方が正しいかもしれない。

「ぜってぇ、お前を離さねえ!」

 前と同じように、逃げないように、ジタバタしても離さないようにキツくキツく抱き締める。

「痛いってば! 離しなさいよ!」

 顔を真っ赤にしながらダンダンと胸を叩く。

「悲しかったんだろ?」

 優しく囁く。

「な、にが!」

「俺が居なくて。東条が言ってたぞ?」

 胸を叩く手が止まり、服をきゅう、と握る。

「自惚れないでよね! 私は――」

 ただ、怖かった。

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