10
入学式。
それは、高校生になる儀式のような物である。
「ち、遅刻じゃねぇかぁぁぁぁ!」
只今、目覚まし時計の長い針――つまり長針が10を指していて、短い針――つまり短針が9を指している。
つまりは、
「遅刻どころじゃないんじゃない?」
である。
「シャル、コレはどういうこった?」
時計の向こう側、壁に方にある単三電池を指差す。
直樹はした覚えが全く無いのでシャルしか居ない訳である。
「あれは、多分、私が毛玉アタックした時に……」
「毛玉アタック? 何時したそんなの」
「直樹が私に近付いてた時に、ちょっとね」
住居はマンションの五階で、ワンルーム――要するに、一つしか部屋がないわけだ。
風呂はついているが。
つまりは一緒の部屋で寝ないといけないという事になる訳である。
「道理で鼻がヒリヒリする訳だよ、チクショウ」
まあ、もう文句を言っても仕方ないだろう。
―――――――――
ピピピピピピピ!
目覚まし時計が鳴り響く。
柔らかい布団の上をもぞもぞ、這うように目覚まし時計までいき、ストップさようとした。
と、
「んっ……は」
悩まし気な声が下から聞こえてくる。
後ろで下からである。
猫だからか、猫だからなのかぁぁぁ! とか思いながら後ろ下を見ると、
やはり、居た。
シャルが。
柔らかい胸は直樹の股間で潰されている。
直樹の胸で脚を押さえつけている体制。
あ~、シャルの方が脚長いチクショウ!! とか現実逃避を始めてみる。
「ど、どいて……直樹」
もじもじと可愛らしく言うシャル。
「おおっ!?」
慌てて跳ね起きる。
無言。
エレベーターの中のような嫌~な雰囲気が二人を包む。
変に、恥ずかしいというオマケ付きである。
何か喋れ! もしくは、殴れぇぇぇ! いや、毛玉アタックでもしやがれ! つーかしてくれぇぇぇぇぇぇ!!! この雰囲気は耐えれねぇんだよおおお!! 今日の晩御飯は秋刀魚にしてやるからぁぁぁ!!! と、念を送ってみる。
しかし、通じる訳も無くこの雰囲気は五分も続いた。
―――――――――
「風鈴学校かぁ」
職員室に行った所、「ああ、お前一組な」と言われたので一組に来てるのだ。
因みにシャルは二日後に学校に来る予定である。
ガラガラガラとドアを開けた瞬間、
ズダダダダダダ! とパワフルな走りで少女がやって来た。
「お前、まさか、麗奈か!?」
直樹は多分、幼なじみの瀬川麗奈だろうと検討をつける。
しかし、麗奈とは幼稚園だけ一緒で、小、中学校は別々だったのだ。
小学校五年生までは連絡を取り合ったり、会ったりしてたのだが(主に二月十四日)、直樹が電話を壊してしまい、それ以来音信不通だったのだ。
風の噂では彼氏が居るらしい。
中学一、二年の頃聞いた話しなので今はどうか知らないが。
ボブカットの小顔で可愛い少女で、モデルのように出る所は出て締まる所は締まっている体型である。
目はまん丸で本気で可愛くなったと一瞬ドキッとした。
昔は胸で無かったのに、今で制服越しからでも分かるぐらいに大きく成長していて月日の長さを感じさせる。
しかし、顔や、雰囲気は変わってなく嬉しい。
直樹は謝らないといけない。
「直く」
「ごめんっ!」
麗奈が何か言う前に謝る。
「マジでごめんっ! 電話ぶっ壊れちゃって、メモリー機能も潰れちゃってて……、麗奈の連絡取れなくてさ。直ったら直ったで、連絡来なくなったし。マジでごめんっ! 何でも言う事聞くし、何されてもいいから、許してくんねえかな?」
「むぐっ」
出鼻を挫かれた麗奈は、先程の言葉の意味を理解すると、ニヤニヤ笑顔になる。
「ん~、ふふふふふ、ひひひひひ。しょうがないなぁ。許してあげるよ」
「死ねとかそういうのは無しだぞ!?」
「分かってる♪ 分かってる♪」
―――――――
麗奈と直樹は隣席だった。
「直くんに何お願いしようかなぁ~♪」
ご機嫌な麗奈姫は何やらノートに願いを書いているようだった。
「はあ~あ、言うんじゃなかった」
少し後悔しながら直樹は笑っていた。
「休んでる人に直くんの名前があったから、吃驚したよぉ」
「ちょっと熱でな」
寝過ごしました、などとは言わない。
後ろの席の男子が好奇心一杯の顔で訊いてくる。
「なあ、もしかして、お前らって恋人同士?」
ザワッ!
「ふんっ、瀬川さんがあんなのと付き合ってる筈がないッッ!」
「いやいや、ああいう質素な男子が意外にもっていうのが多いよね、世の中」
「嘘だぁぁぁあ!!」
「瀬川が……そんな…………」
「アンタには私が居るでしょっ!!」
「けっ! ラブラブしてる奴ぁ、死ね! 問答無用で死ね! けっ!!」etc。
「うっさい黙れお前ら! 全然違うからね!? 幼なじみだからね!?」
直樹が言う。
「ほほ~、幼なじみからというやつですか」
「うっせーよ! 幼なじみ萌えか!」
「悪いか! チクショウ! 幼なじみがブサイクばかりの俺の気持ちも分かりやがれ!」
「分かるかぁぁぁあッッ!!」
「はふっ、これから……恋人?」
顔を真っ赤にして麗奈。
「いやな、麗奈。何真に受けて怒ってんだ?」
はっ、と我に帰った麗奈は残念そうに、そうだね、直くんのバカと呟いた。
「ホントバカだね」
「何で初対面のテメエに言われなきゃなんねえんだよ!」
「俺は俊也よろしく!」
「名前で自己紹介って変わってんな。俺は坂本よろしく」
「ところで直くん、合コンなるものをしてみないかね?」
「直くんとか言ってんじゃねえよ! 坂本って呼べ!」
「うわ~、やっぱり恋人である麗奈以外は名前で呼ぶんじゃねえよ! みたいなあれですか?」
麗奈以外に直くんとか呼ばれたくないのは事実である。
しかし、
「恋人じゃねえっつってんだろうが!!!」
「んで? 行く? 合コン。来週の日曜なんだけど」
高校生、しかも一年生で合コンかよとか思わない訳ではないが、このまま恋人同士とか言われると麗奈も気分が悪いだろうと思い、俊也に合コン行ったるわと言おうと思ったのだが、麗奈に止められた。
アイアンクローで。
苦痛により、苦悶の表情と、
「あだだだだだだだ」
という叫び声を出している。
「言う事聞いてくれるんだよねえ!?」
「勿論です!」
「じゃあ、来週の日曜にデートして」
「分かりました……って彼氏居んのにマズくね?」
「別れたからいいのッッ!」
「わかったわかった!」
麗奈はアイアンクローを解除して窓の方をニヤニヤ笑いながら見ている。
「やっぱり恋人同士じゃねえか!」
ブボン! と顔を真っ赤にする麗奈。
直樹は怒る。
「言葉に気ぃ使いやがれ! 幼なじみっつうのはなぁ! とっても繊細で、デリケートなんだよ! 友達以上恋人未満みたいな感じぐらいに繊細なんだよ、分かるか」
「分かるかっ! なぁにが友達以上恋人未満じゃボケェ! もう進化すれば恋人以上夫婦未満になります~ってか? チクショウ!!」
「今分かった! 幼なじみとは恋人以上家族未満の事だッッ!!」
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