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猫拾い  作者:
1/21

 坂本直樹さかもとなおきは随分大きなマシュマロを両手で触っている夢を見た。

 何故か二つ。

(何で? マシュマロを触ってんの?)

 随分感触もリアルだしな~、と呟きながら疑問に思いながらもふにふにと触ってみる。

 柔らかく温かい。

 温かい。

「温かい?」

 直樹は夢から覚めて、マシュマロって温かくねぇよな。いや、それ以前にこんなデカくねえ。

 バアアン! とドアを開ける轟音が響き、続いて怒声が飛び、思考が中断される。

「お兄ちゃん! 何時まで寝て……ん……の……?」

 直樹の妹の薫が目の前に光景を信じたくないかのようにフリーズする。

「もう少ししたら行く……というか何故に固まってるの?」

 変に優しく訊くと、薫がかぁぁと頬を紅潮させ、

「変態!」

 と叫んでドアを荒々しく閉め、

「お父さん! お母さん! お兄ちゃんがぁぁ!」

 と声を裏返しながら叫んで階段を下りて行く。

「???」

 訳の分からない妹の態度に疑問を抱き、

 むにょりと手に絹のように手触りの良い『何か』がまだある事に気付く。

 マジでマシュマロ? と疑問に思いながらも手に力を入れてみる。

 むにょりと、柔らかい『何か』に指が埋まるのを感じる。

「マシュマロ!?」

 驚きと期待で、眠気が吹き飛び目を見開き『何か』を見る直樹。

「え?」

 硬直。

「……………………………………………」

 直樹と同じ十五くらいの女の子が一糸纏わぬ裸で寝ていたのだ。

「………………………………………………………………………………………………」

 同年代に比べると明らかに大きな胸に手が埋めてある。

「……………………………………………」

 髪は茶髪。

 しかし、染めたものではないだろうと断言出来るくらい綺麗な茶髪。

 吊り目気味な大きく綺麗な碧眼が見開かれている。

 肌は白いが病弱な白ではなく健康的な白い肌だ。

 街中を一人で歩いていると確実に声をかけられる事受け合いの美少女である。

「……………………」

 一般人ならば生命の危機を感じる程の強烈な殺気を込めて睨んでいる少女。

「早く退け!」と言っているのだろう。

 しかし、脳内ショートを起こしている直樹は全く気付かない。

 ブスブスブスブス、と脳内真っ白の直樹は少女の顔を焦点の合ってない目で見やる。

「………………」

 猫のように背中を丸めている少女が急に、

「……ん」

 と艶やかな吐息を漏らす。

 脳内真っ白の直樹の手が少女の胸を揉んだのだ (自覚無し)。

「…………」

「何時まで……」

 我慢の限界が来、ふるふると肩を震わせながら言う。

「……」

 何時までも、石像のごとく固まって胸を触っている直樹に猫はプツンというコメカミのキレる音がした気がした。

「何時まで触ってんのよぉぉお!!」

 パン! ゴッ! ガスッ! ボコオ! シャシャシャシャシャッッ!!

 平手打ち、正拳突き、足蹴 (失敗) 、足蹴 (クリーンヒット) そしてトドメの乱れ引っかき。

「ムグアぁ! 大事な所に……!! ボコオ! って……入った……」

 直樹はピクピク痙攣しながら大事な所を押さえて悶える。

 少女は流石に恥ずかしいのか布団を身体に巻き付けている。

「ふ、ふん! あんたが悪いのよ!? 何時までも触ってるから……」

「この世は地獄だぁ!」と言っている直樹を幾らか心配しながらも謝る気は無いらしい。

 ようやく回復した直樹は少女を涙目で睨み付けて言う。

「誰だよお前」

「私は三日前拾われた猫よ」

 少女は顔だけ布団から出した状態でそうのたまう。

「猫耳さえ付けてないクセに随分堂々としたお嘘ですね?」

(猫が人間になるとかありえねぇっつうの)

 訳分からない事を言う少女に少し凄んで言う。

「それと、家宅侵入罪ってな三年以下の懲役か五十万円以下の罰金があるんだぞ?」

 ビクッと身体を分かりやすいくらい動かして、反論する。

「ふん、私はこんな所来たくなかったけどあんたが勝手に連れて来たんでしょ。犬に苛められてるからって勝手に助けて」

 少女は『勝手に』という所を強調して言う。

「何で猫の事をお前が知ってんの……?」

「だから私は猫だって言ってんでしょ!!」

 物分かりの悪い直樹に苛立ったように言う。

 ギラリと鋭い肉食動物独特の鋭い犬歯が見えた。

 完全に人間より鋭い。

「じゃあ猫に戻れんのかよ」

 絶対無理だろと強気に言う。

「勿論よ」

 予想外の答えに愕然としながらも強気に返す。

「最初っからそうしろよ、バカ!」

「バカですって? 都道府県の数も言えなかったクセに!」

「なっ!? 何で知ってんだよ!」

「テレビのクイズ番組で「分かった! 四十七都道府県だ!」とか叫んだのは面白かったわ~」

 おほほほほとお嬢様笑いをして見下す少女に軽くムカつく直樹。

「猫がお前になったんだったら『鶴の恩返し』よろしく何かやってくれんだろうな!」

「あんたが勝手に連れて来たんでしょ。私の方こそ何かして欲しいわね」

「三味線にしてやろうか? 糞猫!」

「四十七都道府県~、あはははははは!」

「テンメェ~!!」

 少女は顔を赤くして怒る直樹を見、溜め息をして言う。

「まあいいわ。あんたが信じようが信じまいが」

 マジックのように突然に少女が消え失せ、布団の上に茶色の毛並みの可愛らしい猫が居た。

「マジック!? 魔術!? 魔法!? 魔法の英語って何だ!? マジックか!?」

 慌てて少女を捜すが見つからない。

 背後から、自信たっぷりの声で、

「これで信じる気になるでしょ?」

 背後を振り返り、

「なぁ!?」

 驚愕で目が見開かれる。

 少女はまた素っ裸だったのだ。

「へ? ……ってきゃあああ!」

 顔を真っ赤にして叫び、慌ててマジックのように少女が消え失せ猫が出現する。

「マジ……だったのか」

 呆然としながら猫を見る。

 猫は照れ隠しの為か単にムカついただけなのか驚異的なジャンプ力で直樹の顔までジャンプし、放心状態の直樹の顔を引っかく。

「いってぇ!」

 猫は顔を押さえて痛がる直樹を一瞥すると、

 ポ~ンと軽い足取りで窓から飛び降りた。

 直樹は慌てて窓の下を見やると、猫は綺麗に着地し走って去って行く所だった。

 その光景を見た直樹は何故か、本当に何故か――しかし、それを思うのは癪だったので無理やり三日後に通う高校の事を考えた。

「何なんだよあいつ……」

 ボリボリと頭を掻いて居間に向かって歩き出した。

 三日後に通う高校について考えていたのが、猫と出会った時の思い出に変わっていた――それが当然の事であるかのように。

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