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白い結婚で許される状況だと本当に思っていたなんて

作者: 渡辺 佐倉

「お前を愛することはない」


初夜の閨で最初に言われた言葉はそれだった。

別に愛してほしいと願い出たことは一度もないけれど、これはあんまりだと思った。


そもそも私と殿下との結婚は少々特殊だった。

何がどう特殊かというと少しだけ説明が必要なので聞いて欲しい。



我が国には聖女と呼ばれる存在が時々現れる。

その少女には癒しや豊穣、そして外敵から国を守る結界の力があるとされている。


力の強さは聖女によって違うと文献などにはあるが、どの力も国を運営していくうえで国力を安定させる重要なものだ。


だから、聖女が現れた場合次期王となる王子と婚姻を結ぶ。

けれど今代の聖女の場合、少しばかり問題があった。


聖女と年齢が釣り合う王子が二人いた。

二人の能力は拮抗していて、どちらが王となるか、決まっていなかったのだ。

第一王子は今の王妃様の子ではない。

前妃様は第一王子を産んで儚くなられてしまい、王は後添えとして今のお妃様を娶った。

第二王子は今のお妃様の子だ。


儚くなってしまったとはいえ第一王子の後ろ盾となっているのはこの国の四公の一家とそれと縁戚のある隣国の王家だ。

けれど、いま宮廷で実権を握っているのはお妃様だ。


聖女の伴侶を決める戦いは熾烈を極めた。



その中で、その戦いに敗れた方の王子の配偶者をどうするかという問題が浮上していた。

王となるものは聖女を娶る。

では、そうでない方になった王子の結婚をどうするか。


どちらを次の王にするかをまだ悩んでいた王は一つの王命を下した。


公爵令嬢アメリアは、聖女と婚姻を結ばなかった王子と結婚するように。



余りに非常識な王命にアメリアの家門であるコンラッド家は激怒した。

コンラッド家は四公に数えられるこの国でも名門の家だ。


それを「余りものを押し付けますのでよろしく」という様な王命を下されたのだ。

しかも対価は何もなく。むしろ王家と縁付けることをありがたく思えと言わんばかりのものだった。


父や兄は一時反逆も考えたという。

けれど、大きな飢饉を聖女様が救ったという話を聞いて他の貴族たちが説得にかかった。


曰く、今は聖女様をたてるときだと。

聖女様が誰と結婚しても憂いなく力を発揮してもらわねばと。

そのために王にならなかった方の王子が一人きりになってしまうのはまずい。

聖女は心優しき少女で今そのお心は二人の王子の間で揺れ動いているらしい。


王になるための力を誇示する戦いだけでなく、実際聖女と心をつなごうと王子二人は必死らしい。


幸い、コンラッド家には飢饉の大した影響もなかった。

だから、そう言えるのだとまで言われたらしい。


国内の不和は望まない。

それに”現状”では聖女の力の必要な地域があることも事実だ。


だから、コンラッド家は私一人を差し出してすべてを飲み込み耐えるという選択肢を選んだ。





――その結果がこれか。



私は、大きくため息をついた。

私は別に目の前にいる第一王子のことが好きだったわけではない。

この人がまだ聖女に心ひかれていることも知っている。

勿論第二王子が好きな訳でもない。



けれど、王家が繁栄するために泥をかぶった私と私の家門に対する回答がこれかとは正直思ってしまった。


「あなたとは白い結婚として2年後には離縁してもらう」


王子は私に向かって嘲笑するような目で見てからそう言った。

初夜のためのナイトドレスはいつも着ているものとはまるで違ってさぞかし滑稽に映ったらしい。


「それは王子個人としての意見ですか?」



私は静かに聞いた。


「は? 何を言っているんだ?

夫となる私に相手にされず少しおかしくなったか?」


そう言われた。

初めから相手にされていないのは知っている。


王太子が決まった後も、婚約者としての連絡も、プレゼントも顔合わせも最低限のものさえなく結婚しているのだ。


それでも、王侯貴族としての責任とプライドがあるからこの場にお互いに臨んだと思っていたけれどそれは違うらしい。



公爵家が虚仮にされたという事だ。

これはそういう事だ。


ただでさえ、余った王になれない方の伴侶となれという事自体大分舐めた対応をされたというのはある。

公爵家がそれに怒っていなかったとでも思っているのか。


王命だからこそ、のんだ。

一度は諦めた。



それを二度も踏みにじるというのか。



「二年後婚姻無効を申し出るおつもりですか?」

「勿論。

私はもう一度彼女のそばにいるチャンスに賭けなければならない」



であれば、現国王陛下に結婚自体を取りやめてもらう様かけあうべきだった。

何も根回しもせず当たり前の様に私と婚姻をして、公爵家の金等も使う気満々でこれはない。


本当に、ない。



実は、最初の王命が出たときに私も必死に父を止めた一人だった。

別に王子と結婚をしたかったからではない。

どちらの王子にも恋愛感情は抱いていなかったし。


公爵家というよりもうちの領は魔法の研究が盛んだ。

その技術を売って富を得ているし、先の飢饉も魔法技術のおかげでさほどダメージが無かった。

地質改良も、雨量の計算も、河川工事もすべて魔法の力を使って行っている。


だからこそ自領の人間はすべて財産と一緒だ。

反乱をおこして、それがどういった結末になろうと、私たちはその魔法使いという一番大切な財産を失うべきではないと思ったのだ。

勝ったとしても損害ゼロはあり得ない。


そう説得したときに父は「お前が犠牲になるのはいいというのか?」と私に聞いた。

私は「貴族の結婚というものがそもそもそういうものですから」と答えた。


親子らしくない会話だと思った。


けれど、その時父は一つ条件をつけた。



「であれば、この結婚が貴族の結婚としておかしなことになった場合、それは仕方がないということだな?」


今思い返すとまるでこういう事態を見越していた様な言い方だった。


貴族の結婚は勿論、次代を産み血筋をつなげるという役割もある。

それを、今さっきあの王子はしないと言ったのだ。


父と兄は「準備だけは進める」と言っていた。

それは気が付かれないように念入りに念入りに隠して行われているらしい。


詳しくは私も知らない。


貴族同士の契約としての結婚としてあるまじきことがおきた場合、合図をすることになっている。



王子は今しがた「お前の顔を見ているのも不快だ」と言って部屋を出て行ってしまった。

合図をするか悩んだ。



けれど、思い出されるのは第二王子を選んだ際にこちらを蔑む目で見てきた聖女と第二王子の目と、先ほどの第一王子のこちらを馬鹿にしてくるような目だけだった。


王太子が決まった後の陛下もまるで私たちには興味が無いという風だった。


もういいんじゃないだろうか。


ベルを鳴らして、私が直接雇用している侍女数人を呼び寄せる。

そして屈辱の証でしかない夜着から着替え、侍女たちに「信頼できるもののみ呼び集めなさい」と声をかける。


「ついに、でございますか、お嬢様!」


感極まったように事情を知る侍女が言う。


「本当はもうお嬢様じゃなくなる筈でしたのに」


私が言うと、「あのような男に、お嬢様はもったいのうございます」と侍女は言った。


後は合図を出すだけだ。


合図は簡単、魔法弾と呼ばれる信号弾を打ち上げること。

信号弾はペンダントとして加工されいつも身に着けている。



窓を開けてそれを打ち上げる。

魔法使い以外には何も起こっていないように見えるが、魔法使いには一筋の光が公爵家へ向かって飛び立ったのが見えただろう。


侍女たちは忙しく準備をしていた。

勿論ここを出る準備だ。



侍女たちは端から分かっていたのではないかという位出立の準備が早かった。

それに公爵家からの迎えもあまりにも早かった。


まるで最初からこうなることが分かっているかのようだった。



* * *



「へえ、ずいぶん舐め腐った真似してくれるじゃないか」


口角は笑みを浮かべているのに全く目が笑っていない兄がそう言った。

迎えが早かったせいか、隠匿魔法を駆使していたせいか、さすがに初夜に花嫁が実家に帰ると誰も予想していなかったからか。

その日私たちは楽に第一王子との新居となる屋敷から逃げ出すことが出来た。



忽然と消えた花嫁の噂がもう市中に広がっているらしい。



それはおそらく私の家族が流したもので、今まさに事の顛末を話しているのに動きが早すぎる。


「今の状態を予想していたのですか?」


私が聞くと「そうだ。実際に予想したのは私たちではないが」そう父は言った。

父たちが予想していないのならだれだろう。


母だろうか。

婚姻生活のあれこれは詳しいのかもしれないけれど、母はここ半年私の嫁入り道具の準備などで忙殺されていて、とても今日の出来事を予想できたようには思えない。


「お前がなるべく犠牲を払わない方法をというのでずっと探していたのだよ」

「何を……?」


私は聞いた。

公爵家に目立った動きは無かったはずだ。


そこにいた私でさえ違いに気が付かなかった。


「一人、軍師を雇った」


というか、本人は昔お前に拾われたと主張しているが。

私は軍師を拾った記憶はまるでない。


父曰くその軍師は大国との小競り合いで無血で砦を奪い、とある小国を勝利に導いた人らしい。

その話は私も知っていた。


けれど、その後その軍師は仲間を裏切って死んだと聞いている。


そんな有名な人が何故わが家へと思った。


「兎にも角にも、本人を呼ぼう」


父が家令を呼びその軍師を部屋に呼び寄せた。

控えていたのだろう。彼はすぐに来た。


艶のない金髪を無造作に切りそろえた髪型の人が部屋に入ってきた。


「彼が、うちに忠誠をちかってくれた軍師、リチャード君だよ」


おどおどと彼は私に向かって頭を下げた。

まるでこれは怯えた犬だ。


と思ったところで一つの記憶を思い出した。

遠い昔、そうこんな艶のないゴールデンレトリバーをぼろぼろにしたような少年を拾ったことがある。

まるで捨てられて怯えた犬みたいな少年に食事を与えて、清潔な服とわずかな路銀を渡したことがある。


彼は「魔法が使えない」と言っていた。

それで私は「なら、魔法が必要ない仕事につけばいいわ」と言った。


「リード……」


名前は聞いた気がするけれど、幼かった私は覚えづらかったし何より犬っぽいその少年にあってないと言い捨てて、リードと呼んだ記憶はある。

その時と同じぼさぼさになったゴールデンレトリバーの髪色だった。


「覚えておいででしたか」


リードはしっぽがあったらぶんぶんと振り回している様な表情と声色でそう言った。


「あなたが、あの奇跡を生んだ軍師様なの?」


私が言うと「はい、まあ……」と答えた。


父が「その辺の調査は抜かりない。確かに彼がそうだ」



それに、と兄が付け加えた。


「君が今日逃げてくることも、それに合わせた王家の信頼失墜工作もすべて彼が立案しもう実行に移されているよ」


明日には公爵家に度重なる酷い行いをしていた王家の実態が広く世間に知れ渡る手筈らしい。


それに聖女の力に頼りすぎるせいで災害を呼び込んでしまっているこの国の体質についても。


「おまけの様なものですが、あの二人の王子が入れあげていた聖女サマの本性も白日の下に晒される手筈となっております」


私の望んだ血を流さない戦いのためにここにいる三人は権謀術数を張り巡らせてくれたらしい。


「女性には誰しも秘密があるものですよ」


聖女の本性がどういうものかは知らないが女というものは皆猫をかぶって生きているものだ。

聖女が少しかわいそうな気がしたけれど「そんな些細な秘密ではありませんよ」とリードは言った。


「本当に戦乱にはならないの?」


私が聞くと「ええ、円満に公爵領が独立できるよう手筈をうっております」とリードは言った。


という事は公国になるのだろうか……。

出戻りの娘はそんな状況に邪魔ではないだろうか。


余った方に嫁ぐ予定が、今は私が余りものだ。


「なんか、アメリアがまた難しく考えてる」


兄が私に向かってそう言った。


「私が戻らなかった方が工作は楽だったのでは……」


あらゆる面で私が居ない方がというか、王家の犠牲になったのだという方が印象操作がしやすい様に思えた。


「それだと、伝説の軍師様はうちでは働いてくれないよ」


兄は言った「だって、アメリアに拾われた身ゆえの一点張りだよ彼」と言ってニヤニヤしながらリードを見た。


「彼、かなりの周辺貴族を仲間につけてくれたからね、他国含めて」


何やら彼はかなりの期間暗躍を続けてくれていたらしい。


「戦いは始まる前が本番ですから」


リードはそう言う。


「私に恩を感じているのなら、アレは大したことではないわ」


私がそう言うと「勿論、恩義も感じておりますし、それを返したいとも思っていますがそれだけではないです」とリードは言った。


「立身出世をしてお嬢様に見合う男になりたかったんです」


前は裏切りという形で失敗しましたが今度こそは。

そう言ってリードは私を見た、今度は怯えた犬の様な顔ではなく、一人の男の顔をしていた。


「どの位の軍功をあげればお嬢様と釣り合うのかは分かりません。

ですが、少し、ほんの少しでいいのであなたを慕っている俺という存在について考えて欲しいのです」


リードはそう言った。

そんなことを突然言われると思っていなかった私はその時は何も答えることが出来なかった。

それに彼も私がその場で返事ができるとも思っていなかった様だった。



「お嬢様は、今日色々あってお疲れでしょうから」


とリードは言って私を長い話から解放してくれた。

侍女に寝支度をしてもらってベッドに倒れこむようにして眠った。


色々なことがありすぎてリードの告白について考えている余裕が無かった。


翌日から知らされるのはいかに第一王子が無責任で冷酷かという話、それから聖女がその力を使って、気に入らないメイドなどに酷い嫌がらせをしていたという話。


様々な王家の醜聞、そして、公爵家がいかに健気に臣下として尽くしてきたか、それをいかに王家が非道に足蹴にしたかという話ばかりだった。



これはきっと彼の工作が上手くいっている証なのだろう。



それ以外にも、聖女が自分の力を金で売っていた話も出ている。

これが父たちの言っていた聖女の本性というやつなのだろう。


少し性格が悪いというのを誇張して流すものだとばかり思っていたが、実際は聖女の力を使った搾取と脅し、そして見せしめとしての虐待の様な行為だった。

実りの少ない場所、災害が起きた場所ではあえて聖女がそういう風に仕組んだのではないかという疑心を生んで暴動が起きているという。


私の結婚相手が確定した際の馬鹿にしたような目の女の裏側はそんな風だったのかと驚いてしまった。


ここにきてようやく目が覚めた第一王子からは復縁の要請が来ているけれど、それこそ馬鹿にしている。

今までまともに手紙一つなかった人間が突然復縁要請をされても困る。


第二王子からは謎の側妃にしてやるアピールもあるけれどどれも父と兄が叩き落してくれている。



皆を救ってくれるに違いないと思ってたからこそ、聖女は国民に支持されていたのだ。

それが失墜してしまって今王国は窮地に立たされている。



リードからは毎日メッセージカードときれいな花、それからたまに犬モチーフの小物などが届いている。

どうやら彼は私が犬を好きなのだと勘違いしている。


侍女たちの見守ってますオーラ全開のニマニマとした笑みがいたたまれない。


「軍師様からのプレゼントが嬉しいのなら素直にそうおっしゃればいいのですよ」


古参の侍女が私にそういう。


嬉しいか、そうでないかと言ったら嬉しい。

けれど、ずっと残り物と結婚をするのだとそういう事について何も考えない人生を送ってきたため、プレゼント一つにどう反応していいのかさえ分からない。


そう素直に侍女に言うと「それであればそのようにメッセージにお返しになれば、あの軍師様喜んで国の一つや二つ獲ってお嬢様に献上いたしますよ」


領内では軍師様のお嬢様への溺愛っぷりは有名ですから。

そう言って侍女たちは楽しそうに笑った。


私が出戻って、大して時間が経っていない筈なのにここまで知れ渡ってしまっている。

これも彼の策略ですか?と直接リードに聞いてみたけれど、「まさか!!」と全力で否定されてしまった。


策略である方が良いのか、本当に溺愛されていると知られる方が良いのか、恋愛初心者の私には分からない。


けれど、ただ一つ分かることは、私が余りものだから彼は私に愛を注いでくれている訳ではないという事だ。


今日もリードは照れくさそうにしながら「出先で丁度見かけたので」とシルクの美しいハンカチーフを私に渡した。

それは私の瞳に似た色に染められていて、彼が態々それを選んでくれたことが分かる。



「私、実は好きな犬は一人だけですのよ」



唐突だっただろうか「あ、……それではあの贈り物は大変ご迷惑だったのでは!?」とリードが慌て始めた。


私はそれをみて思わずクスリと笑ってしまう。


「一人、と言ったのです。

私が好きな犬はぼさぼさのゴールデンレトリバーに似た髪の毛をしているのですよ」


私がそう言うと、敏い彼はすぐに私の言っている意味を悟ってくれて、「あ……」とか「う……」とか呻くように言ってから顔を真っ赤にした。


END



※番外編(聖女と結婚する方の王子様である第二王子視点)

国、のためでもあったと思う。

勿論聖女であった彼女のことを愛していたし、彼女が自分が思っている様な人でないと知っても胸の奥にくすぶる恋心の残りかすはじくじくと痛むように彼女が好きだと言っている。


けれど、彼女と結婚をしたかったのはこの国をよくしたかったからだ。

聖女が王妃についた代は国は安定するという。


様々な奇跡の力は国全体に恩恵となる。

それは公爵家にとっても公爵領にとっても同じことだと思っていた。


聖女は公爵家にとっても最重要で最優先に王妃として傅くべき相手なのだと思っていた。


それに、王になれなかった方とは言え王族だ。

こんなにいい条件の婚姻はない。


そう父親である国王も私たち兄弟も本気で思っていた。



公爵の溺愛する娘の気持ちを考えなかった。

結果としてはそういう事になるのだろう。


けれど、本気で我々は名誉なんだから喜ぶに決まっているだろうと思っていた。


公爵令嬢が忽然と消えて、市中には悪い噂のみが広がって、何人ものメイドを公爵家が預かっていると聞き。

そのメイドは聖女におぞましい扱いを受けていたという。


そして、二度も理不尽を突き付けた王国から離れることを決めたという。

国民は聖女への不信感が増してはいるが、今までの聖女信仰を捨てることもできないだろうから戦はしない。

そちらから仕掛けてはこない限りだが。



そう公爵ははっきりと言っているそうだ。


今代の聖女に問題が本当にあったとして、次の聖女もそうかは分からない。

この国はずっと聖女と共に生きてきたのだ。


そのすべてを変えて、魔法使い中心の社会にする等不可能だ。


生活に聖女信仰が入り込みすぎている。

それを変えるにしても長い長い時間がかかるだろう。



では、公爵家の独立を許すのか。



戦争をして公爵家をつぶしてしまえば丸く収まることが分かっている。

噂なんていうものは別のもので上書きしてしまえばいい。


けれど、それはできそうになかった。


いつからそうなっていたかは全く思い出せないけれど、冒険者ギルドも傭兵団も主だった戦力をすべてあちら側がおさえていた。


それは兵站を運ぶための海運も運河も何もかもだった。


噂が当たり前の様にすさまじい勢いで広がって、そして戦うためのものも押さえられている。

国力を削って戦争を行う選択肢もあるが昨年飢饉があったばかりだ。

ただでさえ聖女への不信が広がっている中それはできない。


国土を削られて、穏やかな衰退をしばらくは飲むしかない状況だ。

聖女を伴侶に据えたのに国を衰退させた愚かな王として私は後世に語り継がれるのだろう。


兄は、少しおかしくなってしまって療養中なので、状況が分からず、ただ、その分幸せに過ごせているのかもしれない。


国王陛下は公爵家の独立を認めた。

そして兄と公爵令嬢の結婚は無効、無かったこととすると宣言した。


それから、兄の、いや王家の非道を公爵に謝ったという。


私は、この独立の裏に誰がいるのかを調べた。

かなり長い時間をかけてようやくその人物にたどり着いた。


その男は今アメリアの夫となっているという。

参謀としての力を買われ公爵家に雇われている男らしい。


他のことは何も分からなかった。


ただ、他国との晩さん会で夫婦連れだって参加しているアメリアを遠目で見たことはある。

野暮ったい(ぼさぼさ)の男の隣で楽しそうに笑うアメリアを見て、初めて彼女のことを少しだけかわいいと思ってしまったことは墓場まで持っていく秘密だ。

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― 新着の感想 ―
王族の婚姻に政略は必至と言えどもアメリアと実家に対し全く礼儀も欠いている悲惨な境遇に思わず言葉を失いました。 同様の王命が下っていても、もし仮に第一王子が真摯に将来的な展望を描いていたならと二人の異な…
[気になる点] 国民からしたらクズ王家や聖女を名乗る馬糞以下がのうのうと生きているのは勿論、あっさり自分達を捨てた公爵一派も地獄に落ちてほしい対象だけどな。 何千人首吊りしたり飢え死にしたんだろうか
2023/09/16 12:58 退会済み
管理
[一言] この王家は滅ぼして公爵家が王座についた方がみんな幸せになれそう^^;
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