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策略

1〜3話のタイトルの変更と、読みやすいように全ての話に改行を増やしました。

家に帰ると、私は少し考えてからお父様の書斎へ立ち寄ることにした。


「お父様、少しよろしいですか?」


「ん?…ああ、セレステか。良いよ、適当に座ってくれ。」


書斎へお邪魔して、お父様と向かいの椅子に座る。すると、お父様も何かを察したのか、普段は忙しなく動いているペンを止め、しっかりとこちらへ向き合ってくれた。


「どうしたんだ?セレステ。その様子だと、いつもの商談ではなさそうだね。」


「はい、本題は違います。あ、でも今日も一応成果はありました!後々ラバリース侯爵家から手紙が来ると思いますので、ぜひ楽しみにしていてくださいね。」


「それはまた嬉しい報告だね。で、本題はどうしたのかな?」


お父様は、溺愛とまでは言わなくともしっかり私のことを大切にしてくれる。このように普段から話を聞いてくれるのもそうだが、もうそろそろ婚約者ができてもおかしくはない歳なのに縁談の話が私の耳に飛び込んでこないのは、恐らくお父様が私に配慮してくださっているからなのだろう。


「本日、私がお茶会へと招待されたことはご存知ですね?」


「ああ、それに関しては私も軽く聞いたよ。途中で帰ったんだって?」


「……お父様はどのような報告を受けているんでしょうか?」


そう聞くと、お父様は少し不思議な顔つきになりながら手紙を出してきた。


「君が到着する少し前にこんな手紙が来ていたのだけれど…もしかして何か食い違いでも起きているのか?」


「え…?少し、読ませていただいても?」


「ああ、勿論だ。」


そうやって手紙を読むと、絶妙におかしい事の顛末が書かれていた。


「体調不良を起こした友達を送り届けたあと、少し疲れてしまったと言って帰って行った私が心配…?友達思いな彼女に少し興味を惹かれてしまったので、もしよろしければお詫びも含めてお茶がしたい…?えぇ…何これ。」


王子殿下の名の下、急に怪文書を送り付けられたのは解せない。それにあの子は友達じゃないことも知っているだろうし、お茶会は既に解散していたんじゃなかったの?


あの王子、絶妙に勘違いと読み間違えで言い逃れできる範囲で事実誤認を誘導しているわね…


「一応王子の侍従が渡してくれたんだけどね、それ。下手にお断りするわけにもいかないから、明日にでも君の気持ちを確かめながら行動方針を練るつもりだったんだけど…その反応からすればこの手紙は少し予想外だったのかな?」


少しも何も、「婚約者になることに興味ある?」と唐突に聞いてきた直後に「ごめん冗談」とか言ってたから、てっきりなかったことにしたいのかと思ってました、はい。…と言いたい気持ちもあるものの、流石に殿下がお茶を濁した手前ここまで赤裸々にお父様に話していいものか。


「そうですね…少し冗談は振られましたが、そのような関係になるほどの仲を築いたとは到底思っていなかったもので、びっくりしました。」


「なるほど、それはまた謎な…うーん、しかしわざわざお手紙まで送ってもらった手前、こちらもお断りするのは難しくてねぇ…」


二人して考え込んでいると、とりあえず夕食の時間になってしまったのでこの件は一旦持ち越すことにした。


ーーーー


その晩、私はしばらく悩んでから一つの手紙を書くことにした。


宛先は…クライヴ殿下である。


「とりあえずはご挨拶と…あとは、そうだね。」


私は悩んだ末、ノクターン殿下がわざと残した隙を突くことにした。今日の夕方届いた手紙には、宛先はあれど差出人はあくまでも「王子」と言及されているだけで、明記されているわけではない。


それはなぜか。


考えられる理由は主に二つ。


まず一つ目として挙げられるのは、私が差出人を見て警戒をし、「王子」に会いに行くことを拒否すること。


しかし、これは考えにくい。なぜかといえば、王子のどちらも名前を誤魔化すほどの小心者に思えるような人物でもないからである。たとえ片方がそうだとしても、私に警戒されるような行動を取ったのはあの肝が据わった、飄々としたノクターン殿下のみ。よって、この線は捨ててよさそう。


二つ目の、より可能性が高い理由は、名前を書くことで誰かに妨害される可能性が高まるということ。


そもそもなぜ私がこれを「ノクターン殿下からの手紙」だと判断したのか。それには様々な要因もあるが、1番の理由はこのような行動をする意図に、それ以外の理由が考えられないからである。


もしノクターン殿下が立太子することが既に内定しているのであれば…現在その婚約者の席が空席である以上、裏での貴族の足の引っ張り合いは想像に難くない。流石に権力のボリューム層なのもあってか、良くも悪くも伯爵家まではそのような話は耳に届いていないものの、それでも王子たちの間に権力争いの様子が見られないのは有名な話だ。


クライヴ殿下のことならまだしも、ノクターン殿下がもし、御令嬢と接近するような動きを見せたら…それこそ、妨害されるに決まっている。


ではなぜ今回このような技ができるのか。


それは、あくまでも「心配である手紙」というカジュアルな建前のもと、個人的に送られてきた手紙であるから。伯爵家相手の手紙を唐突に出すならまだしも、お茶会を中退した御令嬢を心配して…とのことなら多少眉をひそめられても止められることはない。名前を濁されればそれこそ止められるわけがない。


…まだノクターン殿下の意図は読めないが、呼び出そうとしていることに関しては本気なのだろう。ならばこちらも本気で策を練らなければ、ノクターン殿下の思い通りに事が運んでしまう。


「クライヴ殿下には申し訳ないことをしたとは思うけれど…背に腹は代えられないわ。」


そういうと、私は手紙にお茶会へ誘ってくれたことへの感謝とお礼をつらつらと述べ始めた。


そう、この作戦は簡単。ずばり、全てを勘違い(・・・)で済ますのだ。


クライヴ殿下はいくらノクターン殿下と親しいとはいえ、流石に今回の彼の行動まで知っているとは考えにくい。つまり、彼からすれば唐突に、少しだけ話した伯爵家の令嬢からお茶会へと誘われたことに対する感謝と了承の返事を受け取ってしまうことになる。


そうなれば、彼にできることは二つ。


一つは勘違いであることを知らせ、急な誘いを丁重に断ること。これも充分考えられる。


「でも、話している様子からすれば……彼も決して、侮れるような人物ではないことが分かるわ。おそらく、彼はこのままお茶会を企画するでしょうね。」


つまり、彼はきっとそのまま誘いに乗ってくれる。そしてそれが私の真の狙いである。


「上手くいけば協力関係。でも、私にはそこまでの手札はない。おそらく今回は、ただ相手の出方を伺うだけになりそうね。」


ノクターン殿下の意図が読めない。まずは、この状況を打破しなければならないからだ。


「彼は…きっと今回だけでは諦めてくれませんわ。でも、クライヴ殿下に話を伺えば多少は意図が見えてくるはず。例えそうでなくとも、王室の方、それも王子の一人とのお茶会…嫌でも上位貴族の裏事情は漏れてくるでしょうね。どれほど餌を撒くかにもよるでしょうけれど…そこは追々、事が済んだ後でもできるのでひとまずは待機かしら。」


今はただ爪を研いで、彼の手から逃げ出す瞬間を待つしかない。

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