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第二手

「興味…ですか?」


既に距離感の問題からして情報過多なのにも関わらず、ここまで唐突な発言をされてしまうと返事がオウム返しになってしまうのも仕方がない…と思う。


「そう。王子の…いや、僕の(・・)婚約者になることに興味はないのかなーって。」


耳元で囁くように彼が言うと、少し顔を引きながら私の目を真っ直ぐ見つめ、回答を待っていた。鈴が転がるような彼の声色とは裏腹に、その眼差しは真剣そのもの。何を考えているのかは残念ながら読めないが、その奥に宿る鋭さから見て、返事を間違える事は避けた方がいいと本能が伝える。


「…なぜそのような質問を?」


ここはまず真意を探るべきだと判断した。


「うんうん、相変わらず君は慎重派だね。…まずはそうだね、みんなが僕の反応を見ていたのに君だけ全体の雰囲気を見ていたことかな?緊張のあまりお茶をこぼしてしまう御令嬢の様子がおかしいと事が起こる前から察知し、助けようとしていたよね?」


彼はここで一息置くと、意味深な笑みを深めて続けた。


「…それ以外にもね。所々空気の管理をして、話も回るようさりげなく補助してくれていたのは全体に気を配っていないとなかなかできない事だよね。でも、お茶会が平穏に運ぶことを手伝っていた割にはそれを主張する気配も、積極的に僕に話しかけようとする姿勢も見られない。興味ないのかな?って思っちゃって。」


気づいているならあの御令嬢のことも助ければいいのに…まあ、王子の立場から刺激してもあの様子では藪蛇だったかもしれないけど。でも、その気遣いができるんだったら退席する時もついていかない気がするから絶妙に腑に落ちない。


「……殿下はよく見ていますね。」


とりあえず無難な返答を返してみる。すると、彼は笑いながら話を続けた。


「そりゃあね、このお茶会の意図には君も気づいているだろう?まあ、相変わらずといえば相変わらずかもしれないけれど。君自身や家族に野望はないのかなーって思って。で、どうなの?」


さっきから私のことを昔から知ってるかのような発言を繰り返しているのはすごく気になるけれど…それよりもこの状況から抜け出す方が先ね。とりあえず曖昧な返事は受け付けてくれないようだから、差し障りないよう、うまく切り抜けよう。


「…そうですね。私はただ居心地の良い人と結婚できればと思っております。貴族なので恋愛結婚は望みませんが、せめて平和で優しい家庭を築き上げられるような、そんな婚約相手が理想ですね。」


「君の家族の意向は?」


「兄が後継予定で既に婚約者がいて、姉はもう結婚しています。親は私に多くは望まないと思っております。」


「ふーん。…僕なら居心地のいい相手になれると思うよ?」


それ、めっちゃ回答に困る返事なのでやめていただきたいですね…というかいい加減離れて欲しいのですが。


「…それはもう少し殿下と接さない限り分からないと思います。」


「なるほどねぇ…じゃあこれからはもっと会う機会を作らなきゃ。」


そうノクターン殿下は言うと、急にいたずらっ子のような表情になる。


「なーんて、冗談だよ。急に変な話を振ってごめんね、今日のお茶会で少し疲れてしまったみたい。」


「あっ、はい…」


とりあえずこの話は無かったことにして欲しいのかな?意図がかなり謎だからまた家に帰ってから考えないと…でもとりあえず即不敬罪になってないだけでも褒めて欲しい。


ノクターン殿下と二人で戻ってくると、こちらに駆け寄ってくるクライヴ殿下の姿が見えてくる。


「ラピス伯爵令嬢、大丈夫かい?お茶をこぼしたと聞いたけれど。」


「え?…ああ、それは別の御令嬢のことです。私はただ付き添いをしただけなのですが…ご心配いただきありがとうございます。」


「ああ、そうだったんだね。…でしたらなぜ兄上が?」


急にクライヴ殿下の目つきが鋭くなり、一瞬だけ探るような視線をノクターン殿下へ投げた気がする。なぜかしら…?


すると、ノクターン殿下は楽しそうにクライヴ殿下の方へと近寄ると、何やら内緒話を始めた。クライヴ殿下の目が急に見開かれたかと思いきや、表情が段々呆れたものへと変わっていった。


「…あの、もしお話が長くなるようでしたら私一人でも戻れますよ…?」


もしこのまま話してくれるのであれば今日のところ早めに退散したい。


「ああ、それなら心配いらないよ。実はもうみんなに帰ってもらったんだ。」


「え?…それはなぜなのでしょうか?」


そう聞くと、ノクターン殿下は意味深な表情を作り、こう述べた。


「うーん、そうだね…とりあえず、このお茶会の目的が達成できたから、かな?」


それはつまり…なるほど、隠れ蓑として使っていたのかしら。ということは私もここにいる義務はもうないはず。


「えっと、では私の方も失礼してしまっても大丈夫ですよね…?」


「あ、それはちょっと待って。」


そういうと、再びノクターン殿下は楽しそうな表情をしながらこちらに近寄ってくる。


「君、最近出回ってる噂について知ってるかい?」


「噂、ですか…?」


「そうそう、なんでも王子の一人が君のことが好きみたいだという噂。」


あまりにも唐突に、他人事のように彼が語ってしまうのでついポカンとしてしまった。


「…えっと、それが何か…?ただの噂ですよね?」


まさかそれを利用して変なことを企む気じゃないでしょうね…と少し警戒した目をノクターン殿下へ向けても、彼はただ不敵な笑みを浮かべただけだった。


「ただの噂だといいんだけどね…?」


彼はそういうと、またこちらの耳元に口を持ってきた。…もうそろそろセクハラで訴えていいのだろうか、この王子。


「特に何かを言いたいわけじゃないんだけどね。ただ、…もし困ったことがあれば、いつでも僕に相談に来ていいからね。」


本気で何がしたいのか分からないため、つい無意識に胡乱げな目を向けてしまった。


「そんなことは置いといて、とりあえず僕が君を馬車までエスコートしてあげるね。ほら、さっきお話に付き合ってくれたお礼だとでも思って。」


特に何か抵抗できる口実もないため、仕方なくエスコートされ馬車に乗り込む。いざ出発した後、振り返ったら彼は満面の笑みを浮かべながら手を大きくこちらに振っていた。


「…これから嫌な予感しかしないんだけど。」


少し寒気がするのもきっとまだ冬の名残だと自分に言い聞かせ、私は馬車の中で疲れた目頭をマッサージすることにした。

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