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竜を殺すまで  作者: 鈴索
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5話. 潔く矛は収められる

 柄に手をかけたまま、騎士が大きく一歩を踏み出す。

 もちろん黙って見ているヒューではなくて、浮遊する穂先を容赦なく騎士に振りかぶった。

「ッ!」

 弧を描いていくそれを、騎士はとうとう自ら受け止めた。

 剣を抜いたのだ。

 金属同士の弾ける音が、森の穏やかな空気に吸い込まれる。

 また、一歩踏み込んだ。

 絶え間ない遠間からの攻撃を辛うじて受け流し、甲冑を鳴らして距離を徐々に詰めていく。

 そして、騎士の剣が届く間合いに入った。

「ぬうん!」

 防御を捨て、上段から振り下ろす。ヒューは反応していたが、その行く末をただ見守った。

 クロの短い悲鳴が響く。盗賊たちも、思わず身を乗り出した。

「……あれ?」

 ヒューがやられてしまった……そう思ったのだが、何も聞こえてこない。もちろん、彼の参ったという声も。

 一抹の覚悟を決め、薄く目を開けた先に映ったのは、豪快に地面に体を投げ出した騎士とその腕をはっしと掴んだヒューの姿だった。

 ついさっきまで、どう考えてもヒューが押されているようにしか見えなかったのに。

 結局、戦いの状況はどうなったのか。

 盗賊たちとクロが固唾を飲んで見守る。ヒューは、騎士の動きを抑えたまま、次の動きに備えていた。

 やがて、騎士が口を開き、はっきりと告げた。

「参った」



「ええと……何が起こったの?」

 戦いが終わり、開口一番、クロがそう訊ねた。

 見ていなかったのかと不思議そうな視線を投げかけながら、ヒューは言った。

「こいつが俺を投げようとしたから、反対に投げ返してやっただけだ」

「けどこの人、斬りかかろうとしてなかった!?」

「それはフリ(・・)だ。本気で斬ろうとしたわけじゃない」

 そして、あまり納得していない彼女を横目に、起き上がって鎧に着いた土を払う騎士の方を見やる。

「そもそも、最初から真っ当に戦う気なんてなかっただろう」

 まだ遠巻きに見守っている子供たちに注意してから、騎士は答えた。

「……ああ」

「じゃあ、ヒューが攻撃されたように見えたのは?」

 未だ疑問が解けないクロの質問に、騎士は今は鞘に収めてある剣に触れて、次いで穂先の元に戻ったヒューの槍を指差した。

「この剣は、不思議な力を持っている。おそらく、彼のその槍と同じように」

「理屈は全く分からないが、この剣を鞘に収めているときだけ、私に向けられるあらゆる脅威はすべて、相手にも(ひるがえ)るのだ」

 騎士の説明を引き取って、ヒューが後を続ける。

「だから、俺が遠くからの攻撃に変えた。そうすれば、待つことはできないし、勝負を決めに行かざるを得なくなる」

「それで、こいつは結局、剣を捨てて、俺を投げ飛ばそうとしたんだ。多分、なるべく大ケガにならないように」

 二人の話を総合して、戸惑うクロの頭は、一個、なんとなく分かったことを導き出した。

「つまり、この騎士さんは、盗賊の親分だけど良い人?」

 騎士は兜の奥から、苦笑した。

「いや、違う。私はとても立派な人間とはいえない」

 事の経緯を話そう。

 彼はそう告げ、一つ息をついてから、再び話し始める。

「私は、あてどのない放浪者だった。北の寒さから逃れるために、身一つで村を出ていった愚か者だ」

「その結末など想像に難くない。だが、行き倒れていた最中に、ある人に助けてもらったのだ」

「ある人?」

 枝葉の合間からのぞく、まだ青い空を仰ぎ、騎士は首を振った。

「今となっては、もう顔も覚えていない。ただその人に、この剣を押し付けられ、野盗の拠点に放り込まれたのだ」

「気が付けば、辺りには倒れた賊たちの山が出来ていた。これ幸いとばかり、私は食べものと生活に足るだけの備蓄を必死で漁った」

 過去の回顧から立ち返り、騎士は背後に固まっている子供たちに振り向いた。

「そのときだ。彼らを見つけたのは。おそらく、賊たちに(さら)われたのだろう。当然養うすべなどなかったから、解放するだけ解放して後は無視したのだが、ここまでついてきてしまった」

「それで、あいつらの盗賊行為を黙認していた、というワケか」

「なるほど……」

 騎士は、黙って頷いた。

「まぁでも、戦いは俺の勝ちだ。そいつらが村から盗んだ食料、ある分だけで良いから返してもらうぞ」

「ああ。約束は果たそう」

「今度はもう、こんなことやらないように注意してあげてね。騎士さん」

「……そうだな。中途半端な態度は、もう止めにしよう」

「私たちはここを去る。いつか、自分たちだけで生活できる環境を作るつもりだ」

「故も知れないが、君たちも、どうか気をつけて」



「とりあえず、さくっと解決、かな」

 食料の詰まった袋を載せた、盗賊たちが村から一緒に盗んできたらしい荷車を引きながら、クロがほっと一息をついた。

「竜のこと、教えてくれれば良いが……」

 ヒューはもう別のことに思いを馳せながら、一緒に荷車を引いていくのであった。

 こうして、ささやかな盗賊退治はあっけなく、幕を閉じた。

次のお話は11月27日の23時目安に出します。

※11月30日に延ばします。

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