4話. 打ち込み、推し量る
迫りくる刃先を見てもなお、騎士は動こうとしなかった。
何かある。
疾走する最中、ヒューはそう睨んだ。
脅威に対して動かないというのは、大体のところ、恐怖に竦竦んでいるか腹に一物を隠しているかのどちらかであるからだ。
そして、騎士の不動を彼は後者と受け取った。
射程内。
短く息を吐き。細身ながらもしなやかな両腕が鮮やかな一撃を繰り出す。
「……危ない」
槍が金属の鎧に到達する寸前、ごく小さなしゃがれた声が呟いた。
同時に、半ば本能的に、ヒューは上半身を反るように捻った。
衝撃の線が頬の上を走り、皮膚が薄く裂けて、ほんの少し血が垂れる。
「驚いた」
騎士は深く息を吐いた。意想外の攻撃にも関わらず、相対するこの少年は見事に避けたのだ。
しかも、微塵も怯まずに"次"を仕掛け、柄の短い槍の取り回しの良さを思う存分に発揮したやり方で、騎士の四肢に軽い殴打を見舞ってきた。
無論、浅い力では古びた装甲を打ち鳴らすのみで、決定打にはなり得ない。それどころか、打つたびにヒューは自分自身の体が鈍い痛みを覚えるのを感じ取った。
探りを終え、一歩二歩と距離を取る。依然として、騎士は剣を抜く気配すらない。
「ヒュー!」
我慢できず、クロが駆け寄った。淡く輝くような翠の目がちらと彼女を捉えて、すぐに逸れた。
「大丈夫。もうわかった」
「わ、わかったって、何が?」
「あいつの戦い方だ」
「でも、戦い方も何も。あの人、ずっと立っているだけじゃあ……」
クロの言葉に、ヒューが頷いた。
「そうだ。あいつは、わざと戦おうとしていない」
槍を持つ手に力を入れる。それを合図に、柄から穂先がふわりと浮かび上がる。
そんな奇妙な光景に、樹の上の盗賊たちはもちろん、騎士でさえも動揺した。
柄と穂先の間の大気が、二つを繋ぐように、あるいは離すかのようにびりびりと震えた。
「こいつと似たものを持っているんだ」
ヒューはふっと短く呼吸をして、抱えるように持った槍の柄を勢いよく前に振った。
柄の動きに合わせて、宙に漂っていた穂先も鋭く滑空する。
過たず、その刃は騎士の兜にがつんとかち合った。かと思うと、穂先が来た方向とはまったく反対に、風のような波が起こり、ちょうどその先にあった枝を突き落とした。
運悪くそこに座っていた盗賊の一人はあえなく落下して、声を上げる間もなくうつ伏せに草地とべったりぶつかった。
「……」
騎士は兜の凹んだ面に触れると、腰に帯びた剣に手を伸ばした。
次のお話は11月22日の23時に上げます。
※11月23日に延ばします。