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竜を殺すまで  作者: 鈴索
3/8

2話. 倒し倒し森を行く

 翌日。摂れる限りの十分な休養を得て、ヒューとクロは、くだんの盗賊たちが住処にしているというテュボスの森へやって来た。

 昨日の雨上がりから穏やかな天気が続くなか、ひとつあくびを噛み殺して、クロはぐっと両腕を空に伸ばした。

「良かったの? あんな約束しちゃって」

「少しでも知っておきたいからな、竜のこと。それに、寝床と飯は大事だ」

「それはそうなんだけど……まぁ、いっか」

 緩い息を吐いてクロが脱力する横で、ヒューは、肩に担いでいた布の袋から中身を抜き出した。

 槍だった。

 年季の入った褐色の柄は地面から彼の腰ほどまでの長さで、リーチよりも取り回しを優先したつくりになっていて、穂先に差し込まれた菱形(ひしがた)の鈍い刃が陽を浴びて輝く。

「袋、私が持つよ」

「すまん」

 抜け殻になった袋をクロに手渡して、彼女はそれを背負った鞄にしまう。

「手っ取り早く終わらせよう」

「うん」

 森に決まった入り口はないため、二人は適当に木々の間を分け入っていった。テュボスに生育する主たる樹は枝葉を豊かに広げる種類のものだったが、鬱蒼としているという程の密度もなく、木漏れ日が差し込むため十分に明るい。

 黙々と歩みを進めつつ、ときどき立ち止まって、出発前に村の男からもらったお粗末な地図を一緒に確認する。

 その数回目、探索の開始地点と現在位置を脳裏で照らし合わせながら、クロがぼやいた。

「この地図さ、おじさん自信満々に出してきたけど、盗賊たちが今もそこにいるとは限らないよね」

「ああ。だから、あくまで目安だ。なにより……」

 一度言葉を区切って、ヒューは獣めいた反射で頭上を仰いだ。

「向こうから勝手に来る」

 視線の先にははためく緑の衣。

 その小柄な襲撃者は、落下の勢いのまま、木材を削っただけの粗悪な棍棒をヒュー目がけて振り下ろす。

「っなに!?」

 しかし攻撃は不発に終わり、地面を叩くくぐもった音が響くだけだった。

 そして、一瞬で視界から消えた相手を探す暇もなく、彼の意識は途切れた。

 ごく自然に背中へ回り込んだヒューに、槍の柄で思い切り頭を叩かれたのだ。

「こんな風に」

「なるほど……って、納得してる場合じゃなくて」

 クロは地図を懐に突っ込み、森の奥を睨みつける。

「まだ来るよ」

 彼女の察知のとおり、まもなく三つの影が同時に、ヒューとクロの前に飛び出した。

 これを見て、ヒューは柄を握る手にぐっと力を籠める。

 すると、穂先の刃が音もなく外れ、反発し合う磁石のように宙に浮いた。

 まったく独自に、稲妻めいた軌道を描いて、浮遊する刃は中央、クロに一番近い三つ編み髪の盗賊へまっすぐ突き進む。

 狙われた三つ編みは咄嗟に顔を庇った。左右で構えていた二人も、慌てて彼女と奇怪な刃の間に割り込もうとする。

 だが、その切っ先の意図は違った。

 不意に静止したかと思うといきなり脇の盗賊の一人へと標的を変え、手に握られた短剣に矢のような速さでぶつかったのだ。

「うわ!?」

 意識外の攻撃で、盗賊は短剣を取り落とす。拾い直そうとしたところへ、がら空きになった脇腹にヒューが強かな蹴りを入れた。

 呻きを上げて太っちょな体が転がり、この賊も一人目と同じくあえなく地面にノびた。

 短剣を弾いた勢いで幹に突き刺さっていた刃は、ぶるぶる震えて再び動き出し、柄の穂先へかちりと収まる。それはまた変哲もない槍に戻った。

 息を乱すこともなく、ヒューは残った二人に向き直る。

「クソッ」

 こちらが奇襲を仕掛けたのに、なぜか返り討ちに遭っている。 

 そんな状況から盗賊たちは、明らかな警戒と共にじりじりとヒューから距離を取った。そして、彼らのうち背の高い方が、三つ編みに耳打ちした。

「ここは俺が引き付ける。お前は敵が来たと親分に知らせろ」

「え、でも……」

「早く行け」

 ためらう三つ編みの背中を諭すように叩く。もはや振り返らない彼を見て、頷くと、彼女は樹上へ器用に飛び移り森の奥へと姿を消した。

 その行方は、同じ戦場に突っ立っているクロがばっちり確認していたのだが、長身の盗賊は目前の敵に気を取られそれどころではなかった。

 彼は口元をきゅっと結ぶと、土を蹴立ててヒューに突進する。

 ヒューは穂先を盗賊とは逆の方向に構え、相手が最も接近してくる瞬間を待った。

 懐から白刃がのぞく。ナイフを持った右腕が突き出され、必死の形相で向けた殺意がヒューの首へと向かう。

 そのとき、相対した。

 醒めるほど深い緑の瞳の奥に、とてつもなく巨大で、恐ろしいものがあった。

 これは、今まさに自分が彼に放とうとしたもの……殺意だ。

「あ……」

 ほんの少し垣間見ただけ。ただその"少し"でも自分とは比べるべくもない。戦意を失うには十分な毒だった。

 柄の先端がまず顎先に一発。ついで、盗賊がさらにマントの中で潜ませていたバックラーを着けた左腕を叩き下ろし、守るもののなくなった鳩尾へとどめの一発。

 流れるような三連撃を食らって、最後の襲撃者もあえなく地に伏せた。

「ヒュー、こっち!」

 戦闘の終わったことを認めたクロは、逃げた者の行先を指で示す。

 ヒューは無言で頷いて、クロと一緒に森の中を駆けていく。

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