第65話 展開予想
手元に10番単勝30000円と印字された馬券がある。
ちなみに師匠は「俺は全財産を賭ける」とかいって12万ぐらい単勝を買っていた。締め切り寸前のオッズは10倍ぐらいまで下がっている。
師匠とアカネさんが話をしている。
「10倍つくなら帯ゲットできるからまあいいや」
「うちらも単勝10万買うたからな。ダブル帯やで」
「俺たちバズるなあ」
「そしたらうちら有名人や」
そんな会話をしていると5,6人のおそろいの鼓笛隊のようなユニフォームを着た女の子がゴール前のスペースに楽器を持って現れる。おじさんが赤い旗を振ると足でトントンと合図をしてプペポペーと楽器を吹きその曲が終わるとゲートに馬が入っていく。
メインレースはこの女の子が現れてファンファーレを吹くのが大井競馬の名物らしい。
師匠が高揚した様子で呟いている。
「前にいけよ。みんな前に行け。ばちクソハイペースになれよ。いやなるんだぞ」
場内のアナウンスの声が聞こえてくる。
「各馬、枠入りスムーズ。14番イロコイザタが収まって……」
ガシャン!という音がしてゲートが開く。
「スタートしました! 各馬スムーズにスタート!」
ターフビジョンを眺める。そこにゲートが開いた直後の馬達が映っている。すると10番の騎手がバンバンと馬のお尻を鞭で叩き激しく手綱をしごいている。
「10番マルチビューイング、山佐騎手、出鞭をくれてハナを主張しています。そうはさせじと各馬ハナ争いが激しくなっています」
それを見ていた師匠とアカネさんが「「まじかーーーー」」と叫んだ。
確かにゲートが開いた直後に鞭を使ったりするのはあまり見たことないし何かまずそうな気がする。
「これってなにかまずいことなんですか?」
自分が声を掛けたことに関係ない感じで師匠とアカネさんが独り言のよう喋っている。
「終わった……まさか強引に出していくとかありえねー聞いてねぇよー」
「10番が強引にいくなんて聞いてへん。なんでや! ふざけんな! 金返せーー!! あほーー!!」
これはまずいことになったみたいだ。とにかく何が起きたのか知りたい。
「とにかくよく分からない俺に説明してくださいよ」
師匠がハイハイといった感じで話しかけてくる。
「このレース前が潰れるから後ろから行くと思った10番を本命にしただろ?」
「そうですね。最初から飛ばす馬が有利だけど、みんなが飛ばすからマイペースで走る10番を本命にしたんでしたね」
「そういうこと。でだゲートが開くと10番がとにかく逃げにでようとしたってこと」
説明を聞きながらレースを見ていると確かに10番は先頭を走っているがその近くに3,4頭の馬がいる。
「え! 全くの見当違いだったってことですか」
「そういうことだ。ああ炎上しちゃうなぁ フォロワーごっそり減るなあ。あれのせいで俺らの予想家人生終わりかもなあ」
「だから煽りすぎない方がいいって言ったじゃないですか」
場内アナウンスが今の状況を伝える。
「10番マルチビューイング、ハナを取り切りました、そのすぐ後方に3番ヨステビト、6番イッポンニンジン、11番ビバリーヘルメットが続きます……」
じっとターフビジョンを眺めながらアカネさんが呟く。
「うちらはあの10番がいつも通りの競馬をしてくれると思って買ってたわけやのに。それをあのアホが出していきよってからに、うちらのプランがめちゃめちゃや!」
そういってアカネさんは頭を抱えている。
「どうして10番はいつも通りに走らないんですかね?」
「うーん。調教師の指示か騎手判断かわからへん。まあ今日みたいな極端な前有利な馬場やったから逃げたいと思ったんやないか? シランケド」
馬群が向こう正面を駆けていくのが見える。
師匠それを見ながら声を上げる。
「俺の全財産返せよ……フォロワー返せよ……いやちょっとまてよ? これは俺たちの展開予想と違うんだからノーカンじゃね? そうだノーカンだノーカン」
「師匠そんなこと言っても賭けたお金はかえって来ませんよ?」
「んなことは分かってるよ。フォロワーにこういえばフォロワー減らねぇんじゃねぇかなあって」
……なにを今更いってんだこの人。
競馬引退中なので更新です。
レース中正直こんなに会話できませんけどねー




