表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/6

1

『小学二年生の****ちゃんが車に轢かれて亡くなりました。運転していたーー』




 いかん。だらしなボディ。少し油断したらこれだ。

 素直な性格と言われれば誉め言葉だが素直な身体は果たしてどうか。決してそれは誉め言葉には成り得ない。

 食べなければ痩せ、食べれば太る。当然の仕組みだ。だが人には体質というものがあって、いくら食べても太らないというファンタジーというかチートのような人間もいる。まぁその人にはその人の苦労がもちろんあるとしてだが。


 それに比べれば私の身体のまぁ素直な事。

 食べれば太る。面白いぐらいに太る。おいしいご飯に感謝し、胃袋に幸福を詰め込む。私はただご飯がおいしくておいしくて仕方がなくて、こんなにおいしいものを我慢する意味があるのか?という疑問が浮上した瞬間にいや否と全体重で圧し潰した。


 ーージーザス。


 見下ろした自分の下っ腹がぽっこり出ている頃には時すでに遅し。

 幸せは無償ではない。犠牲が必要なのだ。腹にため込んだ幸福はしっかり形となって膨張していた。幸せの証は気付けば不幸の塊のように醜く膨らんでいた。


 そして私は原始的な方式をとった。

 ラン、ラン、ラン。

 これだ。太ったなら運動。運動といえば走る。これっきゃない。

 そして私は夜のランニングを始めた。


「気をつけなさいよ」


 とは言いながら私が止めても止まらぬ爆走娘である事を承知の母は、言うだけ言ったからなとそこで親の責務は果たしたと言わんばかりにそれ以上何も言わなかった。むしろその表情から私の努力の姿勢を誇らんとしているようだった。ようだったと思う。ような気がする。


 


 ーーああ、痩せる。痩せていく。


 夜のランニングは思いのほかに清々しく気持ちよかった。身体の為に始めた事だったのに、いざ始めるとランニングは私の肉を削ぐと共に精神を隅々まで清めてくれた。勘違いしてほしくはないが、決して私の心が汚れているわけではない。身体同様の素直さと真面目さと面白さでは他を圧倒し追随を許さないぐらいだ。


 ーーおう?


 そんな私のダイエットまっしぐら道コースの中に祈里神社いのりじんじゃという小さな神社がある。慎ましく昔から存在している存在感の薄い神社で、故にどんな神社かなんて全く気に留めることも目に留める事もない、失礼ながら私にとってはいてもいなくてもどっちでもいいクラスメイト並みの存在の神社を、私はその日初めてまじまじと見たのだ。


 いや正確には神社をではない。社の中にある小さなお堂。

 そのお堂の前に何かが蹲っていた。


 ーーなんだあ?


 思わず足を止めた。夜の九時。見る限りそれは人のようだった。

 白いシャツにズボン。そして裸足。しかしその者の顔は見えない。

 その姿はまるで土下座のようだった。


 ーー罪深き大人?

 

 こんな時間に一人でお堂に土下座。凄まじき悪事を働いたのだろうか。

 ……いや待て待て。もしかしたら超絶ヘビーストマックペインで蹲っているとしたら?

 だとすれば彼をレスキューしなければならないのが人の指名ではないだろうか。


 ーー……んなわけねぇか。


 すまん。あんたの腹もピンチかもしれんが、私の腹も違う意味でピンチなのだ。己で解決せよ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ