第六話 2日目
すみません、暫く別件で停止しておりました!また再開します
「疲れた……」
朝日がビルの山から顔を覗き始めた頃。ようやく自分の部屋に戻ることが可能になった誠介は、眠気と疲れで動かない足に鞭を打ち、自室の前までたどり着いた。
そのままドアを開けようと鍵を差し込むが、何故か鍵はかかっていなかった。
「あれ……俺閉めたんだけどな」
疑問を持ちつつ、まああの時は急いでいたから忘れていたのかもな、と自己完結をして中に入ると……
「んだよこれ……」
玄関には、いや奥の部屋にも、見える限りの床全てに靴跡が無数に付いていた。誰かが土足で上がったということだ。
初めこそは邦海か夏あたりがいたずらでもしたのだろうか、と思っていたがその考えも一瞬で打ち砕かれた。
邦海が倒れていたのだ。
「邦海!大丈夫か!?」
慌てて駆け寄って体を揺するが返事はない。しかし息はしているのを確認し、ひとまず安心した誠介は、夏がいないことに気づきまた胸騒ぎがした。
「夏!どこにいるんだ!?」
返事はない。誰かに連れていかれたのか、最悪……。
誠介は顔が青ざめていくのを自分でも分かった。何かが起こり夏と邦海は襲われたのだろうか、と。
暫く立ち尽くしていると寝室の方から物音が聞こえてきた。それと同時にすすり泣きをする誰かの声も。
軽く肩を震わせた後、警戒しつつゆっくりとドアを開けた。
「なっちゃん……」
そこには夏がおり、誠介を見て安心したのか再び泣き始めていた。
慌てた誠介はとりあえずそこにあった毛布をかぶせて、頭を撫でた後アイスココアを淹れにキッチンへと向かった。また倒れていた邦海をソファーに寝かせ、同じく毛布を掛けた。
暫くすると、夏が寝室から出てきた。そして、ソファーの空いているところに座るとぼんやりとしている、放心状態といった感じだった。
「なあ、なっちゃん……昨日何があったんだ?」
ココアを手にキッチンから出てきた誠介は夏に優しく尋ねた。しかし、夏は肩を震わせただけで何も言わない。余程のことがあったのだろう、誠介も背中をさすって何も言わずに喋ってくれるのを待った。
時計の音が三百回鳴った後、夏はゆっくりと喋り始めた。
「ベルが鳴ったから有間君が出たのね。そしたら急に『逃げろ!』って聞こえてきたから、寝室に駆け込んで物陰に隠れたの。しばらくやり合ってたみたいなんだけど……気づいたら私寝てたみたいでさ、さっき誠介がドアを開ける音で起きた」
言い終わると、ココアを飲みながら毛布で顔を押さえた。そして、また泣き始める。
「なるほどな……」
大体の事情が分かった誠介はそれっきり黙り込んでしまった。誰も何も言わず、重たい空気が場を支配する。
沈黙を破ったのは誠介の無意識に出た一言だった。
「……ねみぃ」
一睡もしていないため、部屋に入ってからも瞼が鉛のように重くなっていた。
その直後、突然夏は顔を上げて立ち上がり、持っていた毛布を優しく誠介に掛けた。
「私はもう大丈夫だから。あなたはとりあえずシャワー浴びて寝なさい」
そういって珍しく微笑んだ。それはすぐに消え、真顔に戻ったときにはいつもの夏に戻っていた。だが、昨日の不安がまだ完全に消えたわけじゃない。夏の顔が、目がそう言っていた。
しかし、誠介は甘えることにした。夏には逆らわない方が身のためと同時に、自分よりも夏の方が色んな意味で強いと思ったからだ。
「わりぃな、11時になったら起こしてくれ。ここに人が来る」
「誰?」
「えっとだな……ここに住んでる古河真紀って言う大学生と、あと何か見習い探偵とか言ってたな」
「分かったわ」
机に置いてあったチラシに何かを書き込むと、誠介に向かってグッドサインを出した。
「じゃ、いってらっしゃい」
〇
「……なっちゃん何してんだ?」
風呂から上がった誠介は、洗面台の鏡に向かって何かをしている夏を見かけた。
「化粧。この後人が来るんでしょ?目の下のクマとか見せられないじゃない」
確かに先程目の下にクマがあったのだが、しっかりと隠そうとしているのを知って誠介は苦笑いした。
「……別にそこを気にするような人じゃなさそうだったけどな。まあいいや、おやすみ」
「おやすみ」
誠介は、寝室に入ろうとドアに手をかけたが、ふと邦海の姿が視界に映り、手を離して彼の所に向かった。そして、安らかな寝息を立てている邦海の頭をなでながら呟いた。
「夏の事を助けようとしてくれてありがとな。また今度何かおごるよ」
寝室に行った誠介は、余程眠かったのか秒で寝てしまった。