第二話 1日目
ジリリリリ……
目覚まし時計が鳴る。星梨奈は手をめちゃくちゃに動かして時計を止め、だるそうにゆっくりと起きた。
「……なんか今日の夢、不気味だったな」
そう呟くとベットからずれ落ちるように降り、その姿勢のままスマホで予定をチェックしていった。
「今日は……私は何にもないね。朝食食べ終わったらもう少し寝とこっかなぁ……でも誠介12時からバイトだね。起こしに行かなきゃなぁ」
昨日置いておいたパンを一口かじると、服を着替えるために立ち上がりクローゼットへ向かおうとした。
その時、急に隣から大きな物音が聞こえてきた。何があったのだろうか……不審に思った星梨奈は着替えるのもそこそこに隣の部屋へ行った。
隣の部屋は星梨奈の幼馴染、誠介が住んでいる。低血圧のため朝起きるのが苦手な誠介は、毎朝星梨奈に起こしてもらっているのだ。しかし星梨奈は、誠介が用事があるときだけ起こすようにしている。
特にこの夏休みは。
合鍵を使って誠介の部屋に入った星梨奈は目を見開いた。今は朝の8時だ、なのに誠介は起きている……ていうのと、誠介がベットの上でうずくまっていたからだ。
「えっと……何があったの」
「あ、おはよう星梨奈。ちょっと色々あってさ」
そう言う誠介の顔は青ざめていた。どうやら本当に色々とあったらしい。
「私でよければ聞くよ?」
「いやな、変なゆm……あ、じゃなくて……」
変な夢、と言おうとして慌てて濁した誠介は星梨奈に右足の親指を見せた。
「とりあえず思いっきり壁を蹴っちゃってさ、爪が割れた」
「……手当するよ」
それだけではないだろうとツッコミを入れたかったが、何も言わずに棚にあった救急箱を取り出す。
「いいよ、大したことじゃないし」
「あ、そう?」
星梨奈はあっさりと引き下がり、手に取っていた救急箱を直す。
「そっちは何しに来たんだよ」
誠介はめんどくさそうに立ち上がり、台所に向かった。暫くすると両手にマグカップを持って戻ってきた、中身はコーヒーだ。
「物音がしたから見に来た」
「あそ、多分俺が壁蹴った時の音だな」
聞いたくせに興味なさげに会話を切る。いつものことだ。
「あと今日12時からバイトっていうのを言いに来た」
スマホを再確認した後に星梨奈が言うと、誠介はトングで角砂糖を持ったまま固まった。角砂糖はゆっくりとずれ落ちてき、軽快な音を立ててコーヒーの中に入る。
「え、マジ……今日かn、友達と遊びに行く約束してる……ん……だけど」
数秒のフリーズの後、誠介は机からスマホを取り、ものすごいスピードでキーボードを打ち始めた。
「……友達って誰」
急に声のトーンが下がりジト目で睨み始めた星梨奈を一瞬見て引いた後、仕方ないといった風に誠介はスマホの画面を見せてくれた。
「夏先輩、ゲーセン行こうって言われてさ」
「ふーん」
いつもの誠介と同じ反応をした星梨奈に苦笑いをした後、席を立って寝室の方向へと向かっていった。
「じゃ、電話してくる」
星梨奈は寝室をちらりと見た後、朝食をまだ済ませていなかったことに気づき自分の部屋に戻る準備をし始める。その支度も終わり帰ろうと玄関のドアに手をかけた時、誠介の笑い声が聞こえてきた。それと同時に楽しそうな声。急な嫉妬心に負け、こっそりと聞き耳を立てるように寝室を覗き込んだ。
「あーだからさ、うん、俺から誘ったもんを断ることになんだけど……え、パフェ食べたかった?あーまあ行ける日また見とくからさ。うん、今回は本当にごめんってば。え、明日?う~む……まあもしあったとしてもさぼるわ、おん、んじゃあ明日の午後2時な。なっちゃん」
そういって満足そうに電話を切り、寝室から出てこようとするのが見えたので慌てて玄関に向かい、そそくさと帰ることにしたが、脳内では盛大にパにくっていた。
(なっちゃん……!?夏先輩前にあだ名で呼んでいいのは付き合ってる人だけとか言ってたよね。てことはもしや……)
一方、電話を終わり寝室から出てきた誠介は、凄いスピードで逃げていった星梨奈を不思議そうに見送っていた。
もうすぐ期末テスト…ヤバい