どうやら敵は謎の集団だけじゃないみたいですよ。
もう穴の中に入ってからもう10分は経った。今も俺は穴の中を休まずに進んでいた。残り約10分、急がなければ間に合わなくなる。そう自分に言い聞かせて進む。すると、何やら上から人の声が聞こえてくる。俺は今度はゆっくりと進んでいくと、硬い何かにぶつかった。よく触ってみると、道具などを入れた木箱のようだ。どうやらなんとか間に合ったようだ。俺は木箱を力を込めて殴ろうとするが、人の声が聞こえてきて、ビビって引っ込めてしまった。俺は敵の会話を盗み聞きすることにした。
「あれ、ローズ様はどこに行ったんだ?」
「俺にも分からんが、あの人は自由に動かせてやんねぇと、こっちに被害が出るからなぁ」
どうやらローズってやつがここのボスらしい、こいつらの話を聞いていれば、色々と情報が得られそうだ。
「にしても今回はガキが多いな、前回の2倍はいるぞこりゃ」
「確かにな、てかガキ1人ぐらいなら遊んでもいいよな?」
「お前まじかよ!ガキ相手に欲情とかまじでないわ」
(こいつら、一体何を言ってるんだ)
俺は一言一句聞き逃さないよう、耳をすませる。
「うるっせぇな!もちろん小さすぎるガキは相手にしねぇよ。だいたい12ぐらいのメスガキがいいんだよ」
「いや、普通にそれでもねぇわ・・・」
「分かってねぇな、おっ!ちょうどいいくらいのガキはっけーん!」
すると男がおそらく子供たちを閉じこめている檻の鍵を開ける音が聞こえた。
「おら!てめぇはこっちに来い!」
「いっ、いやぁ!離して!」
「てめぇ、この、暴れんじゃねぇ!!」
俺の耳に、男が女を殴る音が聞こえた。その瞬間、俺は穴を塞いでいた箱を破壊した。もう我慢の限界だったから。
「なっ、なんだてめぇは?!」
俺は男の言葉は聞かずに、まっすぐ拳を顔面にぶつけた。男は10メートルくらい吹き飛び、激しく木にぶつかった。
「てめぇらに答える義理はねぇ」
すると、もう1人の男が、赤い閃光弾を上空に撃った。仲間を呼んだのだろう。全方位から走ってくる音が聞こえる。俺は閃光弾を撃った男も殴り飛ばすが、あっという間に全方位を囲まれてしまった。
「?!あの白い鎧!おそらく最近噂になっている勇者じゃないか?」
1人の黒いローブの男がそう言うと、周りがコソコソと話し始めた。
「ちっ!あの村の誰かが呼びやがったんだ!」
「だが、この数相手に1人では対処しきれねぇだろ。今のうちにガキ共を連れて遠くに行くぞ!他のやつらは足止めしろ!」
その言葉に黒いローブの連中が俺に目掛けて突撃してくる。鎧を着ているから、連中の攻撃は全く痛くなかったが。反撃しなければしつこく付きまとってくるので、俺も連中に攻撃するが、その間に残りの仲間が子供達の乗っている馬車を動かしだした。
「おい!まて!」
追いかけようとすると、周りの連中が邪魔してくる。おそらくあの馬もユニコーン種だろう、たとえこの鎧を着ていても、その早さに追いつけるかどうかわからない、このままじゃ逃げられる。そう思った時。
「疾風の斬撃!」
突然、その声が聞こえたと同時に、馬と馬車を繋ぐところを的確に当て、切断した。馬車は転倒し、俺は子供達を心配するが、よく見るとみんな無事みたいだ。
「お待たせしました」
その声に俺は見に覚えがありすぎた。目の前に現れたのは、シルフィとカナリアだった。
「2人共、気がついたのか!」
俺が2人に近付くと、シルフィは俺の頭に風を纏った手でチョップした。
「なっ、なんで?」
「なぜ起こしてくれなかったのですか?!気がついたら晴明はいないし、上空でしばらくの間ずっと探してたんですよ?!」
シルフィが腰に両手を当て、少し頬を膨らませながら言ってくる。
「いやいやいや起こしたよ?!起こしたけどシルフィ達全然起きないんだもん、しかもそんなに時間なかったし、だから仕方ないから1人で行くことにしたわけで・・・」
「そうだとしても!起こすために殴る、蹴るなどをしてくれれば!」
「そんなこと女の人相手に出来るわけないだろ!」
俺達が話してる最中でも黒いローブの奴らは俺達に攻撃してくるが、俺とシルフィはお互いに怒鳴り合いながらも相手の攻撃に対処し、攻撃をする。
「おっ、お姉ちゃんも晴明も喧嘩しないで黙って戦ってよ!!」
「いいえだめよカナリア!晴明には1人で行動するデメリットをこれから教えるところなんです!今ここで教えとかないと、いつまた危険な行動を取るか」
「いやいやおかしくない?!別に俺1人で行きたかったわけじゃないんだけど!そもそもあんな簡単にっ」
「ごちゃごちゃうるさいわねぇあんた達・・・」
その声を聞いた瞬間、黒いローブの連中の動きが止まった。それにつられるように俺達も動きを止める。俺はその声がした方に顔を向けると、そこにはまつ毛がながく、髪はまるで髪の長い女性と同じくらい伸ばしている、なんかオネエっぽい男がそこにいた。
「ローズ様!!戻られたのですか?!」
「えぇ今ちょうどね。で、これはどうゆうことかしら?説明して頂戴」
どうやらローズという男がここのボスのようだ。そのローズは1番近くにいた黒いローブの男に近づいて聞いた。
「あいつらが村のガキ共を連れ帰ろうとしているようです。しかも今噂されている純白の鎧の勇者が相手です。我々では太刀打ちできません。どうかローズ様のお力をっ」
男が言い切る前に、ローズは片手で男の頬を掴む。その表情は、まるで快楽でおかしくなっているような笑顔だった。
「あの鎧を着た方が勇者ですって、はぁぁあいいわぁねそういうの。本当に純白だわぁ、美しい!やっと私にふさわしい人に出会えたわぁ」
(何を言ってるんだあいつは・・・)
「ん?あの方のそばにいるメス女2人はなぁに?」
「はひっ、あのふはりはゆうひゃのなかまはと」
男は頬を掴まれながら答えると、気のせいか、ローズがプルプルと震えているように見える。そう思った瞬間、ローズがそのまま男の頬からあごを握りつぶし、男の頬の皮とあごが無くなり、大量の血が出ていた。
「メスがなにわたしの王子様に手ぇ出してんのよ、おめぇら見てぇなメスブタ風情が近くにいるだけで、王子様が穢れるのよ!!!」
その男が怒りながら地団駄を踏むと、その周辺の地面に亀裂が入っていく。それはどんどん大きくなり、木々が倒れ始める。少ししてローズが落ち着きを取り戻すが、その目は殺意を抱いていた。
「あんた達!今すぐあのメスブタ2人を殺しなさい!殺したやつにはそれ相応の報酬は出すわよ!!」
それを聞いた黒ローブ達はシルフィとカナリアを襲ってくる。もちろん俺もシルフィとカナリアを守りながら戦う。
「にしても数が多いな!どんだけ居るんだよ!」
「上空で見たところ、おそらくあと100人はいるとおもいます」
「じゃああと100人倒せば終わるんだな!」
「でっ、でも、それまで私達の魔力が持つか・・・」
「どうゆうこと?」
「そっ、そもそも魔法は本人の体の魔力を使って魔法を使えるわけで、それが尽きたら使えなくなっちゃうんです・・・」
(じゃあ魔力が尽きたらもう攻撃する手段がシルフィとカナリアにはない!)
俺はピンチを感じた。このままじゃ俺1人で戦うことになる。2人共今はまだ魔法が使えているから防御してあげるだけでいいけど、これで魔法が使えなくなったら、俺は2人を守りながら2人分の攻撃をしなければならない。俺は2人を守れるのかが不安になる。
「大丈夫ですよ晴明、もしもの時は私の小刀を使いますから」
シルフィはそう言うが、そんなので相手の攻撃に対抗出来るわけがない。
「それじゃあ無理だ!シルフィとカナリアは魔力が尽きしだい報告してくれ!俺が逃げ道を作るから、そのままにげっ」
「馬鹿なこと言わないでください!私達が逃げたら今あの馬車の中にいる子供達を救えるんですか?!」
俺は、今も倒れている馬車を見る。まだ怯えて震えている子供たちが、馬車の中で動かず固まっている。馬車の鍵は空いてないから逃げることが出来ない。このまま置いていけば、確実に今日魔族の餌食に・・・それは防ぎたい!俺は戦いながら打開策を考える。
「たいくつでしょ?王子様ぁ」
気づけば俺は誰かに頭を掴まれていた。その力は強く握られていて、全く離れそうにない。
「ちょっとあっちで、私とステキなお話しましょ?」
そう言うと、ローズは俺を空に向かって放り投げる。「「晴明!!!」」
2人の声がどんどん小さくなっていき、最終的には聞こえなくなった。
「私達もいかなきゃ!」
シルフィ達も晴明を追いかけるが、黒ローブ達に道を阻まれる。
「メスブタはそこで待っていなさい。それにそこを動いちゃったら、ガキ共が危ないんじゃなぁい?」
ローズの言う通りだった。このままここを離れるということは、子供達を見捨てると同じ、それは許されない。
「じゃっ、私は王子様のとこに行くから。あんた達は私が帰るまでに殺っておくこと、分かったわね?」
そう言い残し、ローズは晴明を投げ飛ばした方向に飛んで行った。満月の月に照らされながら・・・。
俺はそのまま崖にぶつかった。その衝撃は強く、今まで受けた攻撃で1番重かった。ここに来て初めての痛みを味わっていると、何やら上から誰かが飛んで来る音が聞こえた。
「っやっば!」
俺は咄嗟に避ける。そして土煙を揚げながら上空からやってきたのは、黒ローブのボス、ローズだった。ローズは俺を見つけると頬を染めながら笑顔を向けてくる。
「はじめまして純白の勇者様、ワタシの名前はローズ。ちょっと男みたいな見た目だけど、ちゃんと女の子よ?趣味は綺麗な物や美しい物を探すことよ」
ローズは丁寧にお辞儀をしながら自己紹介を初め出した。俺は動揺でローズの話が頭の中に入ってこないがローズはそのまま話し続ける。
「そしてあなたはワタシと同じくらい綺麗で美しい。つまりそれはワタシの王子様になるのにふさわしいということ、だからね?ふふっあとは言わなくてもわかるでしょ?」
俺は呆然と座り込みながらローズを見る、するとローズが俺のそばまで歩いてきた。そして目の前までやって、そのまま顔を、俺の顔に近づけてきた。
「なっ、何しようとしてんだ?!」
俺はローズから離れる。その反応を見たローズは、手を頬に当てながら、再び頬を赤く染める。その表情に俺はかなり引いた。
「あらァもう照れちゃって可愛いんだから、それにしても声とか可愛い声してんじゃないの、ますます好きになっちゃったわ」
そのままローズはゆっくりとまた俺に近づいてくる。俺は条件反射的な何かで、ローズから距離を取ろうとする。
「どうして離れようとするの?ワタシはただ、王子様て一緒になって幸せになりたいだけなのよ?」
「残念だけど、俺はどこぞの王子様じゃないし、勇者ってのは周りのみんなが勝手に呼んでるだけだぞ?そしてなにより、俺は男に対して恋愛感情は持っていない!」
「愛に性別なんてのは邪魔なだけよ?それとひとつ言っておくけど、ワタシはオ・ン・ナ・ノ・コよ?そこんとこ間違えちゃ嫌よ?」
「意識は高いみたいだけど、その顔のパンチ強すぎて
なかなか女の子と認められるには厳しいと思うぞ?」
「顔より心で認めて貰えれば、それでいいのよ?」
お互いに一瞬の静寂が訪れた。だが、本当に一瞬だった。
「さて、そろそろ答えを聞かせてちょうだい?ワタシと一緒になるか、ならないか?」
ローズは俺にそのごつい手を差し伸べてくる。俺の答えはすでに決まっていたが、俺はローズに聞きたいことがあった。
「ローズ、お前に聞きたいことがあるんだ・・・」
「あら、ワタシの答えは後回しかしら?まぁいいわよ、何かしらぁ?ワタシに聞きたいことって?」
「なぜ子供達を攫う?いや、魔族に渡せば金になることは聞いた。でも、お前からはそれだけじゃないような気がするんだ」
俺の発言にローズは反応して、目を少しだけ大きく開き、そしてゆっくりと目を閉じる。そしてまた目を開くと、ローズの口が開いた。
「いいでしょう・・・あなたには教えといてあげる。ワタシは確かにお金以外に目的がある。それは人間や勇者でも出来ない、魔族にしか出来ないとされている禁術魔法・・・」
「禁術魔法、なんだそれは?」
俺の問いにローズは、ハッキリと言葉にして答えた。その魔法は・・・。
「蘇生魔法・・・死者蘇生よ・・・」
「蘇生・・・だって?」
「そう、死者を生き返らせることが出来る禁術・・・それを魔族が持っていることに気づいたの」
「つまり、お前には生き返らせたい人がいるってことか?」
ローズは何も言わずに、静かに首を縦に振った。その雰囲気から嘘はついていないことが分かる。
「なんだよそれ・・・魔法は7属性だけだろ?っまさか!樹の魔法が蘇生魔法を使えるのか?!」
俺はローズにそう言うと、ローズは首を横に振った。樹の魔法じゃないということは、もう回復できる魔法なんてないはず・・・
「言い方が悪かったわね、これは魔法であって魔法じゃないの・・・」
「どうゆうことだ?」
「死者蘇生は死者を生き返らせるのに、その者と相性がいい生者を生贄に出さなければいけないの」
「つまりお前は、あの子供達の誰かをその生贄にしようとしていたのか?」
「・・・そうよ?」
当たり前でしょ?っと思わせる表情をしたローズに、俺は一気に心と体から怒りがこみあげてくる。その怒りが殺意に変わる。
「ふざけんなよてめぇ・・・たとえお前の大切なひとを生き返らせたくてもなぁ、子供達を金と死んだ人を生き返らせるために攫うなんて、そんなの許されるわけねぇだろぉが!」
俺は自分の拳を強く握る。今にもローズを殺してしまいそうだったから。だが、殺すのはダメだ。こいつも人だ。人殺しは、シルフィとカナリアが悲しむ。
「許されようとなんて思っていないわ、ただワタシはお金と、あの子に生き返って欲しいだけなの」
ローズの発言を聞いて、どうやら生き返らせたいのは子供だということに俺は気づいた。
「そんなことを、その子が望んでいると思っているのか?!」
俺が発言したその瞬間、周りの空気が一気に変わった。鳥たちが夜だというのに一斉に羽ばたいていく音が聞こえる。まるで、何かの脅威から逃げるように。
俺がローズを見ようとした瞬間、すでに目の前には俺のじゃない拳が俺の顔めがけて迫っていた。俺は避けることが出来ず、そのまま顔面を殴られ、後方へと吹き飛ばされた。木が3本ほど犠牲になって、止まったが、衝撃が強くて、少しだけ身動きが取れない。その間に、ローズがこちらにゆっくりとか近づいてくる。
「あなたも、その辺のゴミ共と同じことを言うのね。正直あなたには期待していたのよ?もしかしたら、ワタシの気持ちを理解してくれる王子様かもしれないって。でも、どうやら違ったみたいね。つまらない男だわ、最後にワタシの胸に抱かれて・・・死になさい!」
そう言ってローズは、徐々に近づきながら、さっきまで人間だった姿を、まるで獣のような姿にかえて変えていく。そしてローズの姿は人間から、黒い角を2本生やした腕がバカでかい熊へと変貌した。
「コノスガタヲニンゲンニミセルノハ、ジュウネンブリダワ」
そう言ってローズは俺を殴ろうとするが、俺はすぐに避ける。さすがにくらい過ぎると危なそうだから。
「人間じゃねぇなっておもってはいたけど、まさか本当に人じゃなくて、人に化けてたバケモンだったなんてな」
俺は少し苦笑しながら構える。さすがに全力のパワーを出してもローズのパワー勝てるかわからないけどやらなければ結果はわからない。俺は一旦距離をとり、ローズが近づいてきた時の1発を待つ。ローズは俺にめがけて殴るために走ってくる。そして大きく振りかぶった拳をかわし、ローズの熊面に向かって殴る。するとそのままローズは後方に倒れた。どうやら俺の拳でもダメージは与えられることが分かった。
「イッタイワネェ!アンタハオトメノカオヲナンダトオモッテルノ!」
ローズは殴られた頬を手でさすりながら、でかい声で俺に向かって言ってくる。
「うるせぇ!てめぇもさっき俺がよそ見している時に殴ってきたじゃねぇか!しかも今のてめぇの姿はどうみたってバケモンなんだから女って言うよりメスだろうが、このっメスグマが!」
俺がそう言った瞬間、ローズの目がさらに殺意をまとった視線を俺に送る。一瞬殺されたのかと思わせるくらいの殺意だった。
「アンタハケッシテイッテハイケナイコトヲワタシニイッタワネ・・・モウテメェハヨウシャハシネェ、ホンキデコロシテヤル。コロシテ、キッテ、クダイテ、クダイテ、バラバラニシテ、クッテ、コロシテ、キッテ、バラバラニシテ、クッテ、サバイテ、タタイテ、クダイテ、コロシテ!コロシテ!コロシテ!コロシテコロシテ!!コロシテ!!コロシテ!!コロシテヤル!!!」
よく見ると、ローズに生えてる黒い2本の角の間から、また新たな角が生えてきた。その角は2本の角と違い、黒よりさらに黒い、まさしく漆黒という言葉にあった色をしていた。
「やっぱりただのバケモノじゃねぇかよ・・・」
「シヌマエノコトバハソレダケカ!!!」
ローズが俺を殴るが、俺はそれをかわすが、なぜか俺は後方へ吹き飛ばされた。確かにちゃんとかわしたはずなのに、そんなことを考えていると。
「晴明?!」
俺は右を向くと、シルフィとカナリアがいた。黒ローブの連中も残り少なくなっているのに気づいた。
「晴明!大丈夫ですか?!」
「あぁ、なんとかね。でもシルフィ、カナリア、今すぐ子供達を連れて逃げろ。ローズが化け物になった」
それを聞いた黒ローブ達は慌て始めた。確かにあの姿を知っている連中なら怯えて当然かもしれないな。
「ローズ様が堕神獣化された!」
「まずいぞ!ここからはなれねぇとまたあん時みたいに死人が出るぞ!!」
「はやくいくっ」
次の瞬間、上空から巨大な何かが落ちてきた。土煙のせいで、周りがあまり見えない。少しずつ周りが見えるようになった時には、さっきの3人の男はいなかった。そのかわり、俺達の目の前にいたのは、さっき俺と戦っていた巨大な熊、ローズだった。さっきと少し姿が変わっていて、背中に黒い羽が生えていた。
ローズが着地した場所を移動すると、その下にさっきまで大声で話していた男3人が、血を出しながら潰れていた。そのすぐ側に、シルフィとカナリアが腰を抜かしたように座り込んでいるのが見えた。
「シルフィ!カナリア!大丈夫か?!」
その言葉を聞いて、シルフィとカナリアは正気に戻った。すぐに自分たちで立ち上がる。
「はい、特に怪我はしていません」
「わっ、わたしも特には・・・」
「なら良かった」
そんなことを話していると、化け物になったローズは周りで気絶している黒ローブの連中を食い始めた。
ひとくちで人を丸呑みできるほど大きな口に成長し、ローズが噛む度に不快な音が周りに響く。カナリアは耐えられず吐いてしまった。無理もなかった、人が目の前で食われているのを見るのは男ですら耐えられない。でもそれよりもどうすれば無事に子供達と俺達が無事に帰えることが出来るか、もしくはどうすればやつを倒すことが出来るのか。
「本当に堕神獣だなんて・・・」
「その堕神獣ってなんなんだ?」
シルフィがついつい出た言葉に、俺は気になっていたことを聞く。
「堕神獣は、昔は人に愛され、崇められていた神獣が何かしらの影響で人を殺したり、悪さをした神獣のことを言います。あの頭に生えてる角が黒いことが堕神獣を表しています」
「堕神獣になると、どうなるんだ?」
「ほとんどの堕神獣は自我を失い、暴れ回ることしか考えられなくなります。ですがたまに自我を保つことの出来る堕神獣もいると聞きます」
「今の状態は自我を失っているってことか?」
「そうです。そして堕神獣は角の数と角の色で強さがわかります。だいたいの堕神獣は角1本の漆黒色ならまだ対応できますが、2本目にはいるとBランク冒険者を50人にお願いしてやっと倒せるぐらいですが、あの堕神獣は角3本に1本は漆黒色、あそこまで行くともう王都にいるSランク冒険者でも倒せるかどうかわかりません・・・」
「確かに強かった。いままでで1番強かったかもしれない」
そしてついに、ローズは俺達の存在に気づいてしまった。化け物になっても、その表情はわかった。あの表情は楽しんでいる顔だ。俺達を喰らうことが確定していて、それ間逃げる姿を楽しみにしている。そんな表情だ。だが、ローズはなぜか俺達の方に向かってこない。ローズが歩いている方に目を向けると、そこにはまだ馬車に閉じ込められている子供達に向かっていた。
「まずい!っシルフィはカナリアを連れて逃げろ!あとは俺がなんとかする!」
俺は走って馬車に向かおうとするが、シルフィに腕を掴まれて、動けなくなる。
「何を言ってるんですか!私達も行きます!子供達を置いて逃げるなんて出来ません!」
俺は悩む。このままシルフィ達を連れていけば、シルフィとカナリアが死ぬ確率は高くなるが、ローズを倒せる確率は高くなる。でもシルフィとカナリアが死ぬのは俺が耐えられない。連れていきたくない。でもこのままじゃ子供達が危ない、俺一人で子供達を守り抜けるかわからない。この時、俺の頭にある方法を思いつく、それはシルフィとカナリア、そして子供達をおそらく無事に村に返すことの出来る唯一の方法。そのためにはまず俺はシルフィとカナリアに許されないことを言うことが必要だった。考えてる暇はない。
「シルフィ、カナリア、正直今お前達が残っても足でまといなだけだ!お前達が残るってことは、俺が死ぬ確率をあげることと一緒だ、だから俺の目の前から今すぐ消えてくれ!」
俺は2人の顔を見ない。今どんな顔をしているのかだいたい想像がつく、きっと唖然としていて絶望しているのだろう・・・。
「せっ、晴明っ」
シルフィに名前を言われた瞬間、俺は2人を投げ飛ばした。シルフィの風の魔法なら飛んでくるだろが、もう魔力がないのだろう、飛ぼうとしない。だか、これでいい、あとは俺の仕事だ。
「子供に手を出すなんて、さすがケモノだな!だが、喰うなら俺にしとけよ!」
俺は馬車に向かって走る。ローズが着く前に俺は馬車の鍵を壊した。子供達は驚くが、時間が無かったから大きな声で説明した。
「いいか!なるべく早くそこから出ろ!俺があのバケモンを足止めする!」
その声を聞いて、子供達は急いで出ようとする。ローズは逃がすまいと子供達に向かって走る。俺もローズに向かって全力で走る。そして俺とローズは激しくぶつかる。その衝撃が風になって周りの木々をザワつかせる。俺はすぐローザの端にある2本の角を掴む。
「あとは力の押し合い勝負だ!」
俺が力を入れて押すと、ローズも力を入れて押し返してくる。早く逃げろよと思いながら押し続ける。だが、ローズの力が強く、徐々に押されていく。
「くそっ!さっきまで女の子とか言ってたやつが随分と力強くなりやがって!」
俺も負けずに押し返そうとするが、あまり進んでくれない。確実に俺の方が押されているのがわかってしまう。しかもここでローズの真ん中の漆黒の角から黒い電撃を放ってきた。
「ぐぅっがぁぁぁぁ!!!」
痛い、痛すぎる!このままじゃ確実に死ぬ!本当に死んじゃうぞ!まぁ、その覚悟はさっき出来てたんだけどなぁ・・・。
俺は握っている黒い角を見る。そこで俺は何か新しい方法が思いつく。
「もしかしたら・・・いや、やってみないとわかんねぇよな!」
俺は角を掴んでいる両手に白い光が集まるイメージをする。そして両手が純白に光る、すると、ローズがつらそうに叫び出す。よく見ると、角が黒かったのが、徐々に白くなっていくのが見てわかった。
「やっぱり!理由はわからねぇが、どうやら俺の光は角にダメージを与えられるみたいだな!」
俺は引き続き押しながら両手に力を入れる。だが、たまらなくなったローズが暴れ出し、俺は放り投げられる。俺はすぐに立とうとするが足が動かなくて立てなくなっていた。
「ちくしょう・・・もうちょっと鍛えとけば良かったかなぁ・・・」
ローズが俺に向かって突進してくる。踏み潰されて終わると思ったその時、ローズはの動きが止まる音が聞こえた。俺は顔を上げてみると、そこには、1人の黒い人がいた。俺はこいつを知っていた、それも俺がこの世界に来ることになった元凶となった存在。
「黒き喰人・・・」
よく見れば、その存在は1体どころでは無かった。ローズを囲むように、何百体もいるその存在がいた。そのまま黒き喰人はローズに近づいていく、ローズも抵抗するが、あっという間にローズの体中に黒き喰人がくっついていた。しばらくすると、黒き喰人が離れていく。見えてきたのは、ローザが横たわっている姿だった。そしてまるで役目を終えたように黒き喰人達は、森の暗闇に消えていった。すると、俺の後ろから声が聞こえてきた。
「晴明ー!!」
その声は彼女の声だということがすぐに分かった。この世界にきて、初めての聞いたのも彼女の声だった。
「っ!晴明!!」
シルフィが俺の傍によってくる。そして反対側にカナリアが座る。
「晴明!大丈夫ですか?!」
「せっ、晴明、大丈夫?!」
「あぁ、ちょっと起こすの手伝ってくれない?」
俺がそう言うと、2人共手を差し伸べてくれた。俺は2人の手を握り、立ち上がる。
「なんで来たんだ?!あんな酷いこと言ったのに・・・」
「そんなの、すぐに嘘だって気づきましたよ」
「うっ、嘘、お姉ちゃんショックで少し動かなかった。私が晴明がそんなこと言うわけがない、きっと嘘をついたんだよって言った」
「ちょっとカナリア!言わないでよそんなこと!」
俺はクスッと笑った。どうやら嫌われていなかったことに少し安心してしまったのかもしれない。
「にしても晴明がほんとに倒してしまうなんて思いませんでしたよ」
「わっ、私も・・・」
「いや、俺がやったんじゃない・・・やったのは黒き喰人だ」
その発言に2人共驚いたが、俺の言葉にすぐ信用してくれた。
「黒き喰人が何故そんなことを・・・」
「まっ、まだ謎だらけってことだね、お姉ちゃん」
姉妹がそんなことを話していると。倒れているローズから小さい声が聞こえてきた。
「マ・・・ダ、オワ、レ・・・ナイ」
それは、まだ生きてやり遂げなければならないことがあるような必死な声だった。俺は鎧を脱ぎ、ローズにゆっくりと近づく。
「ローズ、お前に聞きたいことがある」
「ちょっと、晴明?!」
ローズの目が俺の方に向く。それ目は今にでも死に行くような目をしていた。
「なぜお前が堕神獣になってしまったのか、それを俺は知りたい」
それを聞いたローズは、化け物の姿から人間の姿に戻り、横になりながら話す。
「いいわよ、おしえてあげるわ。なぜワタシが堕ちたのか、それはある少女との出会いが始まりよ・・・」