どうやら今回の相手は謎の集団らしいですよ。
俺達はひとつの家にたどり着いた。天気が悪いせいか、少し暗い空気の家だ。
「こちらに1人の少年が居ますので、どうぞ会ってあげてください。きっと安心します」
ジァバさんの言葉に、俺は首を縦に振る。俺はドアを軽く2回叩く。
「ごめんください。この村の依頼で来ました、えぇーと・・・」俺はジァバさんの顔を見ると、声には出さないで、口をぱくぱくさせながら、ゆ・う・し・ゃ、と言っているのがわかった。俺は恥ずかしさを抑えて1回息を吸い込んでからはっきりと言った。
「勇者の神宮寺晴明と言います。入ってもいいですかっ」
俺が言い終わる前に、1人の赤髪の少年が俺の腹に思いっきりダイブしてきた。あまりの威力に、俺はしりもちをついてしまった。
「いってて、大丈夫?怪我してないか?」
俺がそう聞くと、腹の1部分が少しずつ濡れてきていることに気づいた。少年の顔を見てみると、声を必死に抑えながら大粒の涙をポロポロと流していた。俺は少年の頭を撫でる。
「よく耐えたね。本当に強い子だ。もう大丈夫だから、安心して、な?」
その少年は耐えられなくなったのか、俺の服に顔をうずめて泣き始めた。無理もない、こんな子供がいつ攫われてもおかしくない状況の中、ただただ自分の番を静かに待つことしか出来ないと思うと、どれだけ怖かったことか・・・俺は少年が泣き止むまで、永遠と頭を撫で続けた。20分後、おそらく泣き疲れてしまったのだろう、寝てしまった。俺は家の中にいた両親に少年を渡す。
「ありがとうございます勇者様。この子ずっと無表情のまま固まってしまって、正直勇者様が来て、緊張が解けてくれて助かりました・・・どうか今夜、私たちの子供を守ってください!お願いします!!!」
少年の両親が、同時に頭を下げる。
「もちろんです!俺が必ず、子供達を恐怖から救ってみせます!」
俺はそう言って、少年の家をあとにした。
「では、次にあの家の住んでいる姉妹に会ってやってください」
「分かりました」
俺は走ってその家に向かった。少しでも早くその姉妹を安心させてあげたかったから・・・。
俺はさっきの少年の家のように2回ドアを叩く。
「こんにちは、今日この村の依頼でやって来ました。勇者の神宮寺晴明です」
少しして向こうから小さな姉妹がくっついてドアをゆっくり開けてくれた。
「はじめまして、今日この村にいる悪いやつを倒しに来ました。勇者の神宮寺晴明です。晴明って呼んでくれると嬉しいな」
俺はしりもちをついてしまった笑顔で姉妹に言った。すると少し小さい、おそらく妹で金髪の女の子が俺の手を握ってくる。
「わるいひとを、おいはらってくれるの?」
少女は俺に問いかける。握っている手は、かすかに震えていた。俺は少女の手を空いた片手で重ねる。
「もちろん、俺は君たちと君たちのお友達を救いに来たんだ」
もう1人の金髪の少女も俺に近づいてくる。
「本当に?本当にみんなたすけてくれる?」
「あぁもちろん。そのために俺はここに来たんだよ?必ず君たちもみんなもたすけて、またいつもの日常に戻してあげるからね」
それを聞いて姉妹は俺の足にしがみついて、泣いてしまった。俺は姉妹の頭を撫でながら、もうこんな子供達が泣かずにすむように、このクエストは、何がなんでも成功させる。俺は目をつぶりながらそう誓った。
しばらくして、ジァバさんの家で村長のジァバさんとラックさん、そして村で1番強い背の高い男のジラと俺達で今夜の作戦会議が始まった。
「今夜の作戦会議を行うが、まずは正体不明の相手に対して、どのように子供達を守るか、そこから話をしよう」
村長が先頭に立ち、話を進める形になった。
「今まで通り、子供1人に2人警備でいいんじゃねぇか?それが一番の最善策だと俺は思うけどな」
確かにジラの言う通りかもしれない。でも、それじゃあ今までと同じことを繰り返してしまう気がした。
「でも、それでも相手が何者なのかすら分からないならやっても意味ないんじゃ」
ラックさんがそう言うと、ジラが眉間にしわを寄せる。
「じゃあ人数増やせばいい話じゃねぇか!2人がだめなら3人でも4人でも何人でも呼べばいいだけだろ!」
「やめんか!勇者様の目の前で言い争いなど!」
ジァバさんの発言で、一旦2人の言い争いは止まったが、ジラが今度は俺の事を睨んでくる。
「まず俺はこいつが勇者ってところが信じられねぇ!ただのガキじゃねぇか!本当は力もねぇくせにただかっこつけたかっただけじゃねぇのか?!」
それを聞いたシルフィがものすごい勢いで立ち上がった。その表情から読み取れるのは、怒りだった。
「その発言、私たちの主に対する侮辱ですよ!撤回してください!」
「いいや、俺はそいつを認めねぇ!なんならここでその勇者の力を見せてみろよ!」
「私たちの主の力を見る前に、あなたの発言は許せない!ここで少し痛い目を見てもらいましょうか!」
「いいぜ?嬢ちゃんの力で俺を倒すなんて何回やっても出来るはずねぇからな!」
シルフィは風を体に纏だし、ジラは壁に置いてある大剣を握る。
「ちょっと待っててシルフィ!俺は気にしてないし、今は喧嘩してる場合じゃないのはわかるだろ?な?」
「ジラもやめんかこのバカタレ!今はどうやって子供を守り救い出すかについて話している最中じゃぞ!」
俺とジァバさんで2人の喧嘩を止める。2人共お互い納得はしていないが、優先するべきことはちゃんと分かっているようだ。
「すみませんな、うちのバカが」
「いえいえ、こちらこそすみません」
俺とジァバさんはお互いに謝りあったところで、俺はひとつの名案を思いつく。
「あの、ジァバさん。俺に1つ考えがあるんですけど・・・」
「なんですかな、勇者様」
「あ、その前にその勇者様はちょっと、晴明でいいですよ?」
「分かりました。では晴明様、一体どのような策を思いついたのですかな?」
俺は向かい側に座るラックさん、ジァバさん、ジラを見てから話す。
「さっきジァバさん言ってましたよね?もしかしたら黒き喰人が犯人かもしれないと・・・」
「えぇ、確かにそう言いましたが?」
「実は俺のひとつの能力で体から光を全体に放つことが出来るんです。黒き喰人は眩しい光を嫌うので、今いる子供達全員を1箇所に集めて、そこに俺がいれば、子供達が攫われる瞬間に光を放てば、攫われずに済むと思うんです。そのまま姿を現したら今度は逃げると思うので、そのあとをついていげはやつらの場所がわかると思うんです!」
「確かに、晴明様にそのような能力があるなら、これはもしかすると子供達を助けることができるかもしれませんな!」
「村長!これなら行けますよ!リスクはありますけど、成功すれば子供達全員が帰ってくる!」
「うむ!晴明様のその案でいきましょう!」
「ちょっと待てよ・・・」
俺の案が決まった時、ジラが止めてきた。
「なんじゃいジラ、なんか不満でもあるんか?」
「いいや別にねぇが、俺はこのガキが信用ならねぇってだけだ。だからよ、俺をこのガキと一緒に行動するぜ、いいよな?」
そう言いながら、ジラは俺に大剣を向けてくる。
「あなた・・・まだそんな態度を」
シルフィがジラに近づくのを俺が片腕でそれを止める。
「構わないけど、なるべく自分の身は自分で守ってくださいね。俺もできるだけサポートしますけど、全部をカバー出来る訳では無いので」
「じゃあ決まりだな!日が沈み次第作戦決行だ!」
そうして、俺たちの作戦会議は終了した。
「あの男、晴明にあのような態度、やっぱり気にいりません!」
シルフィが頬を膨らませながら怒っている。その顔が少しだけ可愛いと思ってしまった。
「まぁ俺は気にしてないから、シルフィも気にするなって」
「ですが!こちらは協力してあげてる立場なんですよ?もうちょっと態度というものを考えてほしいものです」
「そーゆーものか?」
「そーゆーものです!!」
俺とシルフィがそんなことを話していると。
「おっ、お姉ちゃん・・・」
カナリアがシルフィを呼んだ。
「どうしたのカナリア?」
「いっ、いつからご主人様のことを名前で呼ぶようになったの?」
カナリアが上目遣いでそう言った。カナリアもかなり可愛いなぁ。
「あぁ、その時カナリアは馬車で寝てたものね。晴明が私に名前で呼んで欲しいって言われたからそうしただけよ?」
「そうそう、てかカナリアも俺の事名前で呼んでた時あったじゃないか、あの時みたいに名前で呼んでくれていいんだぞ?」
カナリアは少しだけ顔を赤くしながら帽子を深く被った。
「あっ、あの時はお姉ちゃんがいなくて焦っていたから、つい読んでしまっただけなの・・・」
「そうなのか?まぁ俺のことはいつでも名前で呼んでくれていいからね?」
「かっ、考えとく・・・ます」
彼女は帽子を深く被りながらそう言った。
昼頃になり、俺達は村の子供達と過ごすことになった。どうやら勇者と一緒にいれば子供達が安心するらしい、空いている家を借りて、今は子供達と村の主婦の方々に作ってもらった食事を食べる前に自己紹介をすることにした。
「はじめまして、朝も会ったよね?俺の名前は神宮寺晴明、晴明でいいよ、よろしくね」
俺が自己紹介をすると、子供達が一斉に自分の名前を言い出すが、何を言っているのか全然分からなかった。
「ちょちょちょっと待って待って、一斉に言われてもわからないから、まずはお姉さん達の自己紹介もさせてあげてね?」
俺の言葉に、子供達は首を縦に振ってくれた。俺は左側に座っていたシルフィの顔を見て、首を縦に振った。
「はじめまして、せいめ・・・勇者様と一緒に行動しているシルフィと言います。よろしくお願いしますね」
シルフィがそう言うと、子供達の目が輝いていた。どうやら勇者という言葉を使うことによって、子供達に安心感を持たせることも出来るようだ。次に俺はカナリアの方を向く。カナリアは勢いよく立ち上がった。
「はっ、はじめまして!カナリアといいまふ、皆さんよろしくお願いしますっ!」
カナリアはお辞儀も勢いよくした結果、テーブルに額を思いっきりぶつけた。自己紹介で噛んでからのテーブルに額をぶつけるなんて、そんなに緊張することないと思ったが、子供達は声を出して笑ってくれたので、結果オーライってやつだな。カナリアは額を撫でながら座った。
「それじゃあ最初は少年から自己紹介してくれるかな?」
俺がそう言うと、少年は元気よく返事をしてくれた。
「僕の名前はリルっていいます。先月7歳になりました。将来の夢は冒険者になって、家族に楽をさせることです」
俺は正直驚いた。まだこの歳でもう家族のことを考えているリルのことがすごいと思ったから、まだ7歳の俺は、ただただ遊びに遊びまくっていて、家族のことや将来の夢なんてなかったような気がする。
「リルは凄いな!もう自分の夢を持っているなんてな、もしも冒険者になれたら、一緒に冒険してくれるか?」
俺がそう言うと、リルは笑顔で首を縦に振ってくれた。すると隣に座っていたポニーテールの少女が立ち上がった。
「じゃあ次私の番ね。私の名前はキッティっていいます。こっちは妹のマーインっていいます。私は7歳でマーインは5歳です。私の将来の夢はお洋服屋さんで働くことです」
姉妹の姉のキッティが丁寧に自己紹介してくれた。
「キッティちゃんはお洋服屋さんかぁ、じゃあお洋服屋さんで働いたらお姉ちゃん達にも作ってくれる?」
シルフィがキッティに言うと、「ちゃんとお金を払ってくれるなら」と大人になった時が楽しみなこだった。
「じゃあ次はマーインちゃんの自己紹介を聞きたいなぁ」
すると、キッティの隣に座っていたマーインが恥ずかしそうに両手で服をつかみながら自己紹介をしてくれた。
「わっ、わたしのなまえはマーインです。5さいです。将来の夢はおよめさんです」
「マーインちゃんは可愛いから、絶対綺麗なお嫁さんになれるよ」
俺がそう言うと、マーインが笑顔で目を輝かせながら俺のところにやってきた。
「ほんと?!」
「あぁ本当だよ、てかマーインちゃんを俺のお嫁さんにしたいくらいだよ」
マーインは嬉しそうに「えへへっ」と言って、俺が頭を撫でようとすると、突然シルフィが俺の左足が思いっきり踏みつけてきた。
「痛い痛い!シルフィ痛いってば!」
俺がそう言うと、シルフィは「はっ」と言って俺から足をどかしてくれた。
「すっ、すみません!いつの間にか晴明の足を踏んでいました」
「えぇ、無意識に俺の足を踏んだの・・・」
「はい・・・すいません」
「まっ、いいよ。それよりそろそろお昼ご飯をいただきますか!」
そうして、子供達との食事が始まった。
しばらくの間、子供達と家の中で遊んでいると、あっという間に夕方になってしまった。するといきなりドアを開ける音が聞こえた。そこに現れたのは大剣を持ったジラだった。
「おら勇者、そろそろガキを寝かしつけとけよ。もうそろそろ日が暮れるからな」
「分かったよ。じゃあみんな早いけどそろそろ眠ろっか!」
俺が子供達にそう言うと、みんな揃って「えぇー」と言い出した。
「おれ、もっと遊びたい!」
「わたしたちもおままごとしたかったのに!」
残念そうな声を聞いてちょっと胸が苦しかったが、これもこの子達を守るためだ。
「じゃあ明日はいっぱい遊んでやるからな、だから今日早く寝た子には、俺から特別に新しい遊びを教えてあげよう」
俺の言葉に、子供達はさっきと打って変わって用意されたベッドに潜り込む。
「おれが先に眠るからな!」
「わたしたちだもんね?マーイン」
「ねむねむぅ」
そう言って3人とも眠りに入ろうと目をつぶった。
「それじゃあ私からよく眠れるようにお歌を歌ってあげる」
シルフィがそう言うと、子供達は喜んでシルフィの歌を聞こうとする。
「では1曲、夢羊の眠り唄・・・」
そう言ってシルフィは歌い出すと、なぜかカナリアが俺の耳に手を当ててきた。そのせいでシルフィの声があまり聞こえてこない。
「ちょっとカナリア、これじゃシルフィの歌声が聞こえてこないんだけど!」
「聞いちゃだめ・・・」
俺はその言葉の意味を子供達を見てすぐ分かった。なんとシルフィが歌を歌って1分もしないで、子供達がベッドで眠ってしまっていたのだ。
「シルフィ、一体何をしたんだ?」
俺はシルフィにそう尋ねる。
「簡単な風魔法ですよ。子供達が呼吸する空気を風魔法で眠りに入るための安定した空気を子供達の体に循環させたんです。これで激しく起こさない限りは絶対に起きませんよ」
「わっ、私もよく眠れない時は、お姉ちゃんによく歌ってもらってました」
俺ははじめて風魔法でそんなことが出来ることに驚いていた。
「風の魔法ってそんなことが出来るのか、シルフィって実は凄い風使いだったんだな」
俺がそう言うと、シルフィが少しだけ顔を赤く染めたような気がした。
「そっ、そんなことよりもうそろそろ日が暮れますよ?一旦村長達のところに行きましょう」
「あぁ、そうだな」
そうだ、もう少しで辺りが暗くなる。その時に奴らが動きだす。俺はスイッチを切り替えて、ジァバさん達が待つ場所に向かった。
俺達は、村人達が集まっている場所が見えたのでそこに行ってみると、そこには村長が座って待っていた。
「お待たせしました」
俺がそう言うと、ジァバさんが1回首を縦に振る。
「皆さん、今日もお集まりいただき感謝する。自分の子供達攫われた親の皆さんも参加してくれたこと、本当に感謝する。おそらく今回の事件、黒き喰人が関わっていることは間違いないと思っておる。ワシらじゃ決して奴らに勝つことは出来ないであろう、じゃが今は勇者様がおる。我らを救ってくださる方が今ここにおる。今回をもって、こんなことはおしまいじゃ!攫われた子供達を救い出し、我らの日常を取り戻そうぞ!」
ジァバさんが拳を上げると、村の人達が声を上げながら続けて拳を上げる。
「作戦開始じゃ!!!」
こうして、俺達のクエスト、ケイト村での作戦が始まった。
俺とシルフィ、カナリア、ジラは子供達がいる家の中で敵が来た時に備える。他の人達は外で明かりを持って警戒している。
「じゃあ俺はもう鎧を着るから、少し眩しいと思うので、ジラさんは目をつぶっていてください」
「バカ言うんじゃねぇ!瞬きをする一瞬で子供達が攫われたらどうすんだ!気にしねぇからさっさとしろ」
その発言に俺はちょっと驚いた。この人はただよそ者の俺を警戒してるだけでついてきた訳じゃなく、本当に子供達のことを心配していることに俺は、本当はジラという男は悪い奴じゃないということを知った。
「分かりました。じゃあ失礼して・・・」
俺は剣を鞘から抜く、剣が白く光だし、周りが白い光に包まれる。白い光が収まった頃には俺は鎧を身につけている。ジラは少しだけ驚いたが、すぐに子供達が眠るベッドの方を見る。
そうして警戒すること約2時間、全く奴らが来る気配がない。だからといって、俺達は警戒を怠らない。それからさらに2時間後、やはり奴らは来ない。もうそろそろ来てもいい時間なはずなのに。
「シルフィ、カナリア、そっちになんか変わったことはないか?」
俺は2人に話しかけるが、全く返答してこない。聞こえなかったのかと思い、彼女達の方を見てみると、2人共、窓から空を眺めていた。
「おい2人共、今は作戦に集中しろ!って・・・」
俺は妙な違和感を感じた。なぜか2人共、全く俺のことを見ようとしない。普通なら喋りかければ何かしらの反応はするはずだ。だが、2人は全く微動だにしない。何かがおかしい、そう思って子供達の方を見てみると、そこには黒いローブのようなものを羽織った人が今にも子供達に触ろうとしていた。
「てめぇそいつらに触ろうとしてんじゃねぇよ!」
俺はそいつに全力で蹴り込んだ。壁に思いっきりぶつかったところを俺は両腕を固めて、謎の存在に問いかける。
「おいお前なにもんだ!どうやら黒き喰人じゃなさそうだが・・・一体なぜ子供達を狙う、こたえろ!」
黒いローブを身につけたそいつは全く俺の問いに答えようとしない、俺はそいつが被っているフードを脱がす。その正体は、ただの人間の男だった。魔獣でもなく魔人でもない、本当にただの人が、なぜ子供達を攫うのか、俺は少し混乱したが、今すべきことを思い出す。
「さぁ、こたえろ!お前の目的はなんだ!」
すると男は不気味な笑顔をしながら、俺の問いに答えた。
「攫ったガキどもはなみんな魔の者達に売るんだよ、魔の者達はガキは高く売ってくれるんだぜ?知らなかったか?」
「魔の者だと?!」
つまりこいつは、魔の一族に人間を売っていたのか。
「そうだよ、奴らは実験とか痛めつけるのが好きだからなぁ。今日の夜でこの村の子供全員を捕獲して、一気に売る予定なんだ。まぁ俺は捕まっちゃった訳だが、でも俺には仲間もいるんだぜ?時間になっても帰らなかったら、捕まえたガキだけでも売るってことにしてんだ。その時間まであと約30分もない。俺を殺しても、結果捕まったガキは助からねぇ、残念だったなぁ」
男の笑い声が俺の耳に響く。その声は気持ち悪くて、不快で、それら全ては俺を怒らせるのに十分だった。俺はその男の顔に目がけて拳を打ち付ける。その顔は地面に埋まった。殺してはいない、だが本当のことをいえば殺したかった。
「そんなことより、あと30分でどうやってこいつの仲間を探せばいい」
俺は考える、全神経を頭にまわして考える。歩きながら考えていると、突然方足が踏み込めずに転んでしまった。俺はその足を見てみると、そこには人が入れる大きさの穴があった。俺はそれを見てさっき殴った男を見る。
「もしかしたらあいつ、この穴から来たんじゃないのか」
俺が思うにあの男は地の魔法を使うことができ、その魔法で地面に穴を開けて、そこから子供達を攫い、最後にまた地の魔法でその穴を塞げば、何も無かったようにすることが出来る。
「いや、それじゃあシルフィ達がなぜあんな状態になったのかがわからない」
するとさっきの男の方から、何やら小さい瓶が転がってきた。その瓶のふちにさっきまで使われたような跡があった。おそらくこの瓶のせいで、シルフィ達はあんな状態になってしまったんだろう。そして今までも同じようにやってきたのは間違いないだろう。
「となると、この穴を通っていけば、あいつの仲間達に会えるかもしれない」
考えている暇はなかった。俺はその穴に勢いをつけて入っていく、残り約25分ぐらいで奴らに追いつかなくては行けない。俺は今出せる全力の力で穴の中を進んでいく。
「待っていろよ黒マント野郎ども、今そっちにいくからなぁ!」
俺は子供達を救うって言った方がかっこよかったかもと思いながら、穴の中を進んでいった。
同時刻、森の中では黒ローブの連中は残りの子供を連れてくるのを待っていた。
「遅ぇなあの新入り、くそっ、帰ってきたら何発かぶん殴ってやろうか」
「よせって、ボスの耳に届いたら面倒だ。あの人は仲間にとことん優しいから、悪口ひとつ言っただけで殺られるぞ」
「だぁれが殺るですって?」
その声を聞いた2人はゆっくりと後ろを振り返ると、そこには月の光に照らされながら木の上に座る、1人の男がいた。
「ぼっ、ボス!」
「ノンノン、ボスって呼んじゃいやよ?ローズって呼んで?」
その男は頬に手を当てながら、2人に言った。
「ろっ、ローズ様、なぜこちらに?」
「あら、私がここにいちゃいけないって言うのかしら?」
「いえ、そんなことはありませんけど・・・」
「けど?けどってなにかしら?」
座っていたローズはゆっくりと立ち上がる。
「いえ、なんでもございません・・・」
ローズは木の上からその男の目の前に降り立つ。そして、その男に抱きついた。
「いいのよ、なんかあればなんでも言ってくれて構わないわよ」
「あっ、その、それじゃあちょっと離れてもらってもいいですか?」
「だぁめよ、もっとあなたを感じさせて?」
そして男は気づく、徐々に抱きしめる力が強くなっていっていることに。
「あの、ローズ様、苦しいです。そろそろ離してっ」
「あらあら、まだ足りたないのかしら?欲張りさんね」
さらに力を強くしていく。男の体からボキッという音が聞こえる。
「ろっ、ローズさっま、はなしっ」
「それじゃあラストスパートよ」
ローズの腕の筋肉がさっきまでの腕の4倍ほど大きくなる、そして、抱きしめられていた男の体が気づけばくの字に曲がっていた。
「ふぅ、どうやらこの子も、愛されながらイったみたいね」
ローズは抱きしめていた男を離す、その男は口から泡を出しながら死んでいた。
「ろっ、ローズ様、一体何を?」
一緒にいたもう1人の男は、ローズに問いかける
「え?あぁこの子に愛を与えてあげたの、ほら見て見なさい、あんなに幸せそうな表情でイっているわ」
男は足をガクガクさせながら、ローズを見る、その姿はまるで花なんかじゃなく、ただの人間の皮を被った化け物だったから・・・上半身の大きさが大人の男性を軽く10人は抱き抱えることが出来る大きさにまでになっており、筋肉の付き方がもう人間離れしていた。
「あらぁ、あなた今恐怖の感情を抱いているのね。可哀想に今あなたにも、愛を与えてあげるわ」
ローズが1歩近づいてきた瞬間、男は叫びながら、ローズから離れようと全力で逃げる。
「あんな化け物が一緒だったなんて聞いてないぞ!今日で俺はやめる!どこか、どこか遠くへ逃げよう!」
一方、ローズは男が見えなくなるまで止まっていた。
「私の愛を拒絶した・・・?だめ、そんなのだめよ、だめなんだから、私の愛を受け取らないなんて、絶対に、だめ、だめだめだめ、だめだめだめだめだめだめだめだめだめだめだめだめだめだめだめ」
次の瞬間、獣のような叫び声が、周辺に響いた。
「なんだよ、今の声・・・」
男は振り返ると、1人、木を倒しながら走ってこちらを追ってくる男が見えた。
「私の愛をうけいれろぉぉぉぉぉぉ」
男が見たのは、さっきのローズの姿とは違い、上半身がもう既に獣と化していた。あっという間に男はローズの大きな手に捕まってしまった。
「おっ、お願いします!離してください!っ離せ!」
男は、ローズが掴んでいる手に抵抗するが、全く振り解けない。
「あなたは私の愛を受け入れないの?」
ローズの問いに、男は叫びながら答えた。
「いらない!お前の愛なんか欲しくねぇ!このっ化け物が!」
その言葉を聞いたローズは、目から大粒の涙を流し出した。
「あっそう、じゃあ・・・潰れてなさい」
ローズはまるで、トマトを潰すように、その男を潰した。男の血が、周りに広がる。
「はぁ、私の愛を受け取らないなんて、ソレは天使からの贈り物を受け取らないのと一緒なのよ?」
ローズは元の人間の姿に戻り、そのまま来た道を通って戻っていく。
「あら、そろそろ時間になるわね。急いで戻らなくっちゃ!」
ローズは笑顔を作りながら、急ぎ足で戻っていく。
「待っていてね、私の桃源郷」
残り時間はあと10分・・・