表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
純白の鎧で、異世界救います  作者: スイミン
6/12

どうやら俺は攫われた子供達を救うらしいですよ。

初めてのクエストからもう3日が過ぎた。あの後俺達はギルドにクエスト達成の報酬を貰い、そのまま宴会を行った。みんなが騒いでいる中、俺とシルフィはルピアさんにギルスの行いについて全てを話した。奴が今までシルフィ達にどんな酷い事をしていたのかを、今回奴が行った行動も話した結果。

「分かりました。このことは私の上司に話しておきます。まぁ確実にギルスは発見され次第、冒険者免許の剥奪とノーライト監獄に送られることは間違いないでしょう・・・」

「ノーライト監獄ってなんですか?」

俺がルピアさんにそう聞くと、彼女は細かく教えてくれた。

「ノーライト監獄っていうのはまぁ言うなら何も無いところですよ。明かりはなく、看守だけが持つことを許されている特殊な魔道具によって看守だけが周りを見ることが出来て、真っ暗な牢屋がいくつもある監獄です。罪人達はただ真っ暗な暗闇の中を期限が来るまでずっと暗闇の中で生きていかなければならないとこです」

それを聞いて少し想像してしまった。真っ暗で何も見えない状態で、一体どのように過ごせばいいんだろうか。いや、まず精神が持たない気がする。人は光があって何かを目で認識することができる。でもその光がなければ、たとえ音が聞こえたとしても、何が起きているのかを正確に知ることは出来ない。そんな所に長い間放り込まれると想像するだけで恐ろしかった。

「おそらくギルスはそこで最低でも50年は出てこれないでしょうね。もちろん監獄から出られたとしてもこの街に入ることは禁止されると思うので、安心してくださいね」

俺はそれを聞いて、可哀想よりも少しほっとしてしまった。これでシルフィ達はおばぁさんになってもきっとギルスに会うことは一生ないことが約束された気がしたから。

その後、俺達はみんなが騒いでいる中に参加ことにした。みんな踊ったり歌ったり好き勝手なことをしていたが、俺も今日はみんなと同じ気分だった。

「俺達も行こっか、シルフィ」

「はい!晴明様」

そうして俺達も宴会に参加した。

気づけば閉店の時間まで飲んでいた。おそらく2時くらいまで飲んでいただろう。みんなそれぞれ自分の家に帰り、俺は寝ている2人を抱えて帰ることになった。そうしてシェラの家に着き、ガングさんの手伝いもあって2人を寝室のベッドに運ぶことが出来た。

「初めてのクエストはどうだった?」

ガングさんはそう聞いてくるが、話すと長くなるのでこの話は明日話そうとそう思った。

「すいません。その話は明日でもいいですか?」

「そうだな、さすがに疲れてるよな。じゃあ明日聞かせてくれや、おやすみ坊主」

ガングさんが振り返らず、歩きながら手を振る。

「はい、おやすみなさい」

そうして俺は自分の寝室に戻り、深い眠りに入った。

次の日は俺とシルフィ、カナリアは二日酔いになり、その日は苦痛の日となった。落ち着いてからは、ガングさんとシェラにクエストの報告をした。2人ともギルスの話をしたらすごい怒ってくれて、「よくやったな坊主、スカッとするぜ」とガングさんに言われてすごく嬉しかった。

そうしてそれから2日が経って、俺達は今日も体の疲労を回復するために、家で寝っ転がっていた。

「坊主はまだ体の疲労が残ってるのか?」

「はい。体力には自信があるはずだったんですけどね・・・」

一応陸上で長距離やってたから、体力には自信があったんだけど・・・そう思っていると、ガングさんが何かに気づいたような顔で喋りだした。

「もしかしたら、坊主の鎧が原因なんじゃねぇのか」

ガングさんのその言葉に、俺は否定をした。

「それはないと思います。鎧はまるで着ていないと思わせるくらい軽いですし、疲れるはずがないですよ」

「そうなるともしかしたら精神的に何らかのダメージを与えているとかは?」

「んーそんな感じはしないですけどね。ただ単に動き過ぎただけだと思いますけど、やっぱり黒き喰人(ダークイーター)を10体も相手をしたのが体にきてるんだとおもいます」

まぁ結構早く勝てたから、そこまで疲れてはいないけど・・・

「そうか・・・って坊主はあれを10体も相手したのか?!よく生き残ってたな!」

「え、まぁ人間の心臓がある部分に全力で打ち込むと倒れていきますよ?」

俺がそう言うと、ガングさんはため息を着いた。

「もうワシには手に負えんな、この規格外の坊主は」

ガングさんがそう言うと、突然店の扉を大袈裟に開けてきた謎の男が息を荒くして現れた。

「なんじゃいとつぜん派手に入ってきて、何か急ぎの用か?」

ガングさんがそう聞くと、その謎の男がフードを外してこう言った。

「こ、ここにいる勇者様がいると聞いて!!」

その男はハァハァと呼吸が整わない状態で喋り続ける。

「ど、どうか勇者様にお願いがあります!!」

その男の顔を見てすぐにわかった。この顔は助けを求める顔だ。

「どうか私の娘を、村をお救い下さい!!!」

そう言って彼はゆっくりと倒れてしまった。

「どうしましょう・・・この人」

「仕方ねぇからとりあえず服脱がせて着替えさせたあと坊主のベッドに運ぶぞ」

そうして俺とガングさんはこの名もしれない男を着替えさせたあと、俺のベッドに寝かした。

「随分慌ててましたけど、一体何があったんでしょうか・・・」

「んなもんワシだってわからんわい。でもたしかなのはかなり追い詰められている状態なのは分かるぞ」

「ですよね・・・」

そんなことを話していると・・・

「ただいまぁ」

「ただいまかえりました」

「たっ、ただいまぁ・・・」

どうやら夕飯の買い出しをしていたシェラ達が帰ってきたようだ。

「おかえりなさい」

「おぉ帰ったか!」

俺とガングさんは大きい声で出迎える。

「シェラ、今日もう1人分多くメシ作れるか?」

ガングさんはシェラにそう聞くと。

「え、別にいいけど・・・誰か来るの?」

「いや、実はもう来てるんだ・・・」

「どゆこと?」

シェラはガングさんに細かい説明を求めた。

「いやぁワシにもよく分からないんだが、どうやら坊主に用があるようでな。今疲れて坊主の部屋で寝かせているとこだから、ついでに飯を食いながら用件を聞こうかと思ってな」

「なるほどね。まぁわかったわ、とりあえずもう1人分作るけど、そういう依頼はギルドを通してってのが常識なんだから、ちゃんと注意しといてよ」

彼女はそう言いながらキッチンに材料を置いて、風呂場のほうに行ってしまった。

「晴明様、一体何が?」

「ご、ご主人様?」

シルフィとカナリアが心配そうに俺を見る。

「まぁ、多分クエストの依頼だよ。話を聞いて受けるか受けないかを決めるから一応は出かける覚悟はしといてほしい」

俺は2人にそう言うと、2人は笑顔で首を縦に振ってくれた。

「もちろんです。どこにだってお供します」

「わっ、わたしも・・・」

「ありがとう・・・」

俺は2人に着いてきてくれることに感謝してそう言った。

少しして俺とガングさんで様子を見ていると。男姓が起きだした。

「うっ、ここは?」

「お、気がついたか」

「ここはこの人、ガングさんと言ってこの人がやっている武器屋のなかです。どうやら俺に用があったようですが・・・」

俺がそう言うと、その男は何かに気づいたように俺の方を強く掴んできた。

「でっ、ではあなたが鎧の勇者様ですか?!お願いします!!どうか私の娘と村をお救い下さい!!!」

男性はものすごく焦っているようだ。せっかく落ち着いていた呼吸が来た時と同じように荒くなってしまった。

「おっ、落ち着いてください。とりあえず話は聞きますから!落ち着いてくれないと話が進みません」

俺がそう言うと、男性は呼吸を落ち着かせようとゆっくりと呼吸し始めた。

「す、すみません。取り乱してしまって・・・私の名前はラックと申します。ここより2日ほど先にある村に住む者です。ここまで来たのは、勇者様にどうかお願いしたいことがございまして・・・」

「俺にお願いしたいこととは?」

「実は今、私たちが暮らす村で人攫いが現れたのです・・・」

「人攫い・・・ですか?」

ラックはその村で起きたことを詳しく教えてくれた。

「はい、先々週から私たちの村で毎晩眠りに入る頃に、村の子供たちが1人連れていかれるということが頻繁に起こり始めて・・・村の住人も警戒して夜中はみまわることにしたのですが、それでも人攫いはおさまらず、ついに私の娘まで・・・」

ラックが自分の手を強く握りしめる姿は本当に悔しそうで、こっちにもそれが強く伝わってきた。

「そこで最近現れた勇者様の話を聞いて、この方ならきっと私たちを救ってくれると思ったのです。そこで村のみんなで話し合った結果、馬の扱いが上手い私が選ばれてここまで1日かけて来ました・・・」

「1日?!さっき2日かかるって・・・」

「もちろん眠らずにここまで来ました。愛馬も限界だったはずですが何とかここまで運んでくれたのです」

そう言って彼はベッドから降りて、必死に頭を下げてきた。

「お願いします勇者様!!!私の村を、娘を救ってください!!!相応の代金は払います!!!ですからどうか、どうか・・・」

俺は彼に近づき、彼と真っ直ぐ顔が見れる高さまで腰を落とす。

「分かりました。その依頼受けさせていただきますが、とりあえず一旦ギルドまで行ってクエストの依頼を出しましょう。すぐに俺が受けるのでそしたら直ぐに向かいましょう」

「ほんとうですか?!」

「もちろん。ラックさんの娘さんの為にも、直ぐに準備しましょう」

俺がそう言うと、彼は目からポロポロと涙を流しながら頭を下げる。

「ほっ、本当にありがとうございます!心から感謝を・・・感謝を・・・」

こうして、ラックさんの村を救うクエストを受けることが決まった。

その後俺は、シルフィとカナリアにある話をするために、1階に降りた。

「シルフィ、カナリア。ちょっと話があるんだ・・・」

「「はいっ!」」

彼女達は急ぎ足で俺のところに来てくれた。

「さっきの男性、ラックさんの依頼を受けることにした。どうやらラックさんの村で子供達を夜中に攫う事件が起きているらしい・・・」

「子供達を・・・」

「ひっ、酷いです・・・」

俺は説明を続ける。

「それでラックさんの村に今晩から出発しようと思う。早く対処して上げたいからね」

「なら私たちもすぐ準備を・・・」

「いや、今回の依頼にシルフィ達は連れて行けない」

俺が彼女達にそう言うと、彼女達は驚いた表情をしていた。

「理由を聞いてもいいですか?」

シルフィが真っ直ぐ俺の目を見て聞いてくる。

「シルフィ達はまだ前回のクエストの疲労がまだ残っているから、もしものことを考えてやはり今回は俺一人で行こうと思う。だから2人は今回の依頼は・・・」

「行きますっ!」

「いっ、行きますっ」

俺が言いおわる前に、シルフィとカナリアが大きめの声で否定した。

「2人共まだ万全な状態じゃないんだから、わざわざついてこなくたっていいん・・・」

「行きますっ!!」

「いっ、行きますっ!」

「あ、いや、だからさ・・・」

「行きますっ!!!」

「行きますっ!」

有無を言わせず。彼女達は俺の提案を全て拒否した。

「どうしてそこまで着いていこうとすんの?俺は2人のことを思って・・・」

俺がそう言うと、シルフィがため息を吐きながら俺に言ってきた。

「晴明様は先程申しましたよね?私達に出かける覚悟をしておいて欲しいと、私達はもちろん行くつもりでいました。それなのに晴明様は私達に相談もなく勝手にここに留めようとしてます。私たちの意志を無視して・・・」

「っそんな・・・ことは・・・」

ないっと口から出でこなかった。シルフィが言っていることは確かに正しかった。俺は彼女達の気持ちを聞きもしないで、勝手に決めていた。俺の判断が絶対に正しい訳でもないのに・・・。

「晴明様が私たちの心配してくれているのはわかります。でも、どうか私たちの気持ちも聞いてください」

俺は彼女達の顔を見る。2人とも、その顔は笑っていて、少しだけ2人が輝いて見えた。

「私は晴明様について行きます。それがどんなに困難な場所であっても・・・」

「わっ、私もご主人様の元について行きます。お姉ちゃんが行く所には必ず私も一緒です」

この時の俺は内心とても嬉しかった。着いてきてくれる、一緒にいてくれることは、どんなことでも嬉しいものだ。でも、もちろん危険も着いてくる。それが冒険者なのは確かだ。またギルスのように彼女たちを傷つけるやからも出てくるかもしれない。でも、今度こそ俺が彼女たちを守ってみせる。俺は心の中で再度強く決心した。

「わかったよ。シルフィ、カナリア、俺に力を貸してくれ」

2人は嬉しそうにお互いを見つめ合ってから、俺の方へ振り返って。

「「はいっ!!」」

というでかい返事をした。その声はもしかしたら、天まで届きそうなくらい大きな声だった。


その後、俺達はジェラが作ってくれた晩御飯を食ってから、すぐに出かけた。もう時間的には夜の8じくらいになってしまっていた。飯なんか食ってる余裕はなかったかもしれない。

「シェラ、また馬車頼めるか?今回は結構急ぎの依頼なんだ」

「話は聞いてたよ。もう準備出来てるから、さっさと乗りな」

そうして、俺、シルフィ、カナリア、ラックさんはシェラの馬車に乗り込み、冒険者ギルドに向かった。

ギルドに着き、すぐに受付にいたルピアさんの元へと向かった。

「ルピアさん!突然ですがこの人、ラックさんの依頼を受けたいんですけど、すぐに手続きをしてもらってもいいですか?!」

「わっ、分かりました」

俺が大きな声でそう言うと、ルピアさんは驚いた表情をしながらそう言った。

「ではラックさんにこちらの依頼申請書に内容と出身、名前を記入してもらい、血判をして水晶に手を置いてくだされば依頼申請完了です。そのあと神宮寺さんには前回と同じように水晶に触れていただいて完了となります」

「分かりました。じゃあラックさん、さっそく書類に記入と血判をっ・・・」

俺は振り返りながらそう言うと、一瞬言葉が出てこなかった。その理由は彼、ラックさんの表情がなんだか青ざめているように見えたからもあるし、足が妙に震えているようにも見えたからだ。

「あの、ラックさん?どうしました?」

俺は彼にそう尋ねると、彼は序盤でつまずく発言をした。

「じっ、実は僕、血が怖いんだ・・・だから血判は無理なんだ・・・」

俺達はみんなして口を開いてしまった。でも切り替えて俺はルピアさんに質問した。

「えぇっと。血判って俺の血とかじゃだめですか?」

「すみませんが、全ての依頼者様には血判をして頂くのが規則ですので、ご本人様の血でなくては・・・」

それを聞いて俺はシルフィとカナリアの目を見てアイコンタクトをとる。そしてお互い同時に首を縦に振って、ラックさんに笑顔を向ける。

「あの、なんですかその笑顔の理由はっ・・・」

俺は彼の言葉を最後まで聞かなかった。

「抑えろぉ!!!」

俺の合図でシルフィとカナリアは彼の両腕を掴む。彼は必死で逃げようとするので、俺は彼の足に向かってダイブする。なんとかラックさんの動きを封じたところでルピアさんに声をかける。

「今ですルピアさん!どこでもいいので軽く切っちゃってください!今なら簡単です!はやくっ!!!」

「はっ、はい!!!」

そう言って彼女はナイフを手に取り、ラックさんに近寄ってくる。

「やっ、やめてください!きっとそのナイフで切るのが失敗して、俺の指とかいろんな所を切ってしまうんでしょ?!まず自分の血が怖いのですので、どうかやめて下さい!!!」

ラックさんの言葉を、ルピアさんが丁寧に答える。

「安心してください。自分で切るのが苦手な方とか多いので、私結構他の人の血判をお手伝いしているので、安心してください」

彼女の言葉を聞いて彼は最後まで抵抗したが、結局彼女に皮膚と少しだけ切られながら彼の悲鳴がギルド中に響いていった・・・。

その後、顔が死んだような表情をしながら、ラックさんは水晶に手を置き、水晶の色が変わっていった。

「これで依頼申請は完了です。では次に神宮寺さんの手を置いてください」

俺はさっさと水晶に手を置いて、水晶の色が変わるのを待つ。ようやく色が変わり受付が終了した。

「これで完了です。気おつけていってらっしゃい」

「ありがとうございます!あと次からは名前で呼んでくださいね?」

ルピアさんはクスっと笑ったあと「分かりました」っと言って送り出してくれた。

そして俺達はギルドがの隣にある馬車を借りて、出発した。

しばらく俺達は、ラックさんの教えてくれる道を通り、ようやく道らしい道に軌道が乗った。

「そういえば、ラックさんの娘さんってどんな子なんですか?」

突然、馬車の手網を握っているシルフィが彼にそう聞いてきた。

「わっ、私も気になります」

カナリアもラックさんにそう聞くと、彼は少し笑いながら話してくれた。

「娘のシータは、いつも村に笑顔を届けてくれる。天使のような子です。いつも外に出て同い年くらいの友達と毎日遊び、帰ってくれば僕の妻の家事を手伝ってくれる、よくできた、僕と妻の娘です」

「素敵なお子さんですね・・・」

「なっ、名前も可愛いですね?」

シルフィ達がそういうと、ラックさんは嬉しそうに娘の自慢話をし始め、それは3時間も続いた。

しばらくして、カナリアとラックさんが眠った。俺は今も手網を握っているシルフィの隣に座る。

「ごめんな、馬をシルフィに任せっぱなしで。俺も次から馬の試験を受けて、免許取ったら俺と交代でやるから」

俺がそう言うと、シルフィは笑顔を俺に向けてくれた。

「それじゃ今度私が扱い方を教えますね?晴明様ならきっとすぐに馬の扱い方を習得しますよ」

「そうかな、俺って動物にあんまり好かれる体質じゃないだけどなぁ」

「大丈夫ですよっ、確かに好かれやすい人ももちろんいますけど、動物達は臆病な性格な子がほとんどです。ですが、一緒にいることでどんどん分かってくるんです。この人は優しい人だ、私たちを大切にしてくれる。そういう感情を持ってくれて、初めて分かり合えると思うんです。優しさが大切なんですよ。その点晴明様は誰よりも優しいので、きっとすぐ好かれますよ・・・」

彼女の発言に、俺はものすごく心打たれた。優しさが大切、確かにそうかもしれない・・・。

「そうかなぁ、そうだといいなぁ・・・」

「はい、きっとそうですよ」

俺と彼女は真っ直ぐ前を見る。しばらくして俺はずっと思っていた事を彼女に話すことにした。

「あのさ、シルフィ。これはただのお願いなんだけどさ・・・」

「はい、なんでしょう?」

俺はシルフィの顔をまっすぐ見る。そして1回言葉を喉につまらせてから言った。

「俺の事はもう様付けしないで欲しい。実際シルフィの方が年上なわけだし、俺のことは呼び捨てで構わないからさ・・・」

「ですが、命の恩人相手にそのような失礼な呼び方・・・」

「1回、1回でいいからさっ、言ってみて欲しいんだよ、だめかな?」

彼女は少し困った顔をして、「ではっ」と言ってから大きく深呼吸して・・・。

()()

その言葉に、俺はニヤニヤしそうになる。言ってくれたのも嬉しかったが、何より月の光に照らされる彼女の顔が、髪が、あまりにも綺麗だったから。

「じゃあ1回言ったからこれからはそう呼ぶこと!」

「えぇっ、それはちょっとずるくないですか?」

「いいの、俺がそう呼んで欲しいって言ってるんだからさ、それにカナリアも俺のことを1回呼び捨てにしてたんだからいいんだよ」

彼女は少し困った顔をするが、すぐに笑顔になる。

「では晴明、改めまして、これからも私達をよろしくお願いしますね?」

「あぁ、もちろんさ。シルフィもカナリアも今度こそ俺が守ってみせるよ」

俺は少し心臓の鼓動が早く感じたが、何故かそこまで苦しくはなかった。むしろ心地よかった。

さらに時間が経ち、少し外が明るくなってきた、おそらく今は午前5時くらいだろう、よく目をこらすと、何やら遠くに村が見えてきた。

「晴明っ!」

「あぁ、ラックさんを起こしてくるよ」

俺はラックさんの元にいき、ラックさんの肩を揺らしながら彼の名前を呼ぶ。

「ラックさん!ラックさん!起きてください!村が見えてきましたよ」

俺がそう言うと、彼は大袈裟ってくらいに飛び起きてきた。

「ほんとかいっ?!」

「えぇ、あの村で間違いないですか?」

ラックさんはその村を見て、俺に首を縦に2回振った。

「あぁ間違いない!ケイト村だ!」

どうやら目的地の村に近づいてきたみたいだ。シルフィはそれを聞いて、少し馬の速度を上げ始めた。すると、馬のスピードが上がると同時に馬の頭から何やら1本の角が生えてきた。

「おっ、おいシルフィ、馬からなんか角が生えていないか?」

「え、馬はユニコーン種がほとんどですけど?」

「俺の知ってる馬は角なんて生えてないぞ・・・」

「えーと、私たちにとって普通の馬はユニコーン種なんですけど、晴明のいた東の大陸も普通はユニコーン種の馬だと思うのですけど、違うのですか?」

彼女は不思議そうな顔をする。どうやらこの世界の普通の馬はユニコーン種というらしい。

「いや、そういえばそうだったね。ごめん忘れてくれ」

「分かりました。忘れることにしますね」

そんなことを話していると、どんどん馬の速度が上がっていく。

「シルフィ、ユニコーンの速度ってどこまで出せるの?」

「個体差は出ますが、平均で最大160キロは出ますよけど?」

「160キロ?!」

だとしたらかなりの風が俺達を襲うはず、ではなぜ俺達に風邪が全く当たらない。

「風邪が全く当たらないのはどうして?」

「ユニコーン種は風の抵抗を受けない特殊な能力をもっていて、その能力のおかげで今も私達に風を受けつけないようにしているんです」

す、凄すぎる。そんな能力あれば、俺の陸上の走りもさらに早くなるという事だ。俺もその能力が手に入るなら欲しい。そんなことを思っていると、あっという間にケイト村についてしまった。村の門の前には、村人が集まっていた。でも、何やら暗い空気が村人達から感じられた。

「みんな!勇者様を連れてきたよ!もう大丈夫だ!これで子供達を救えるぞ!!」

ラックさんが村人全員に聞こえるように大きな声でそう言うと、何やら年寄りの爺さん、おそらく村長らしい人が俺の目の前まで歩いてきた。

「はじめまして勇者様。わしのこの村の村長を務めております、ジァバと申します。今日はわし達の村を救って頂くために遠いところからわざわざありがとうございます」

村長のジァバのお辞儀と共に後ろにいる村人も一緒に頭を下げた。

「頭を上げてください。俺達で良ければ全然協力しますので」

俺がそう言うと、ジァバさんは頭を上げる、もちろん後ろにいる村人も頭を上げた。

「では、今の状況ははっきり申し上げても?」

ジァバさんが俺に発言を求めてくる。俺は首を縦に振った。

「ラックから聞いての通り、わし達の村で子供だけを攫う事件が起きています。わし達も夜中見回りをしているのですが、全く正体を掴めず、風の噂で貴方様のことを聞いて、ラックを寄越しました。そしてそれからさらに子供を攫う数が増えていき、結果今の子供の数はたったの3人にまでなってしまいました」

ジァバさんが自分の手を強く握っているのが見えた。

「わし達ではどうすることも出来ません!どうか勇者様、この村の子供達をどうかお救い下さい!報酬はいくらでも払いますので、どうか!」

そして再びジァバさんが頭を下げ、村人も続くように頭を下げる。俺はこの人達がどんなに子供達の存在が大切なのかを感じた。

「もちろんです!必ずこの村の子供達全員を救ってみせます!そのために村の皆さん全員で協力しましょう!」

俺がそう言うと、さっきまで暗かった村の空気が、少し、ほんの少しだが明るさを取り戻したように見えた。

「ありがとうございます。勇者様に感謝を・・・」

ジァバさん泣きながら、俺にそう言ってくる。

「ところでジァバさん、ひとつ聞きたいことがあるんですけど、いいですか?」

「はい、なんでしょうか?」

俺は気になっていたことをジァバさんに聞く。

「人攫いの正体が掴めていないのはわかりました。では、ジァバさんが思うに、一体どんな存在だと思いますか?」

俺はそう聞くと、ジァバさんは下を向いて怯えた声で質問に答えた。

「わしが思うに、黒き喰人(ダークイーター)が1番怪しいと思います」

それを聞いて俺はばぁちゃんの言葉を思い出した。そう、奴らは未成年の子供達を狙う、名前は違うが、姿と習性が呪人影(じゅじんえい)とまるっきり一緒だ。

「一体どういうことだ・・・」

俺の肌に少し冷たい風が当たる。空模様は少し黒い曇りだった。まるで今日の出来事を知っているようなそんな雲行きだった。

「どうなさいましたか?勇者様」

「あっ、いやちょっと考え事を」

「そうですか、ではまず子供たちのもとに行きましょう。勇者様の姿を見せて安心させてあげたいので」

「分かりました。行きましょう」

ジァバさんのおかげで我に返った。今は目の前のことに集中しようっと心の中でそう誓った。


「カ・・・カラダァ・・・」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ