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純白の鎧で、異世界救います  作者: スイミン
11/12

番外編 彼女は彼女にとっての光を失ったようですよ。1/4

私は気づくべきだった。彼のそばにいるべきだった。彼から離れなければよかった。彼と一緒におばぁちゃんとお義父さんのとこに行くべきだった。そう思いながら私は、動かなくなってしまった首から上がない彼の亡骸の前で涙を流して座り込みながら絶望していた。


彼との出会いはものすごく突然だった。私の家はお世辞にも仲の良い家族とは言えなかった。父は仕事を首にされてからは酒に走り、酔えば私に暴力を振るうような男だった。母は家にはいたけど私のことは、まるで存在しないような扱いだったのを覚えている。とある日の朝、私の両親はものすごい喧嘩をしていた。最初はお互い言い争うだけだったが、徐々にエスカレートしていき、結局お互いが暴力を振るい合っていた。私は怖くなって、その家を出て行った。とにかく走った。宛もなくただ走り続けていた。数時間後、私は自分がどこにいるかも分からなくなっていた。帰り道もわからず、ただ歩いていると、近くに公園が見えた。私は吸い込まれるように、その公園に向かった。その公園には、誰もいなかった。まだ朝早いからかもしれない。私はブランコに乗り、揺られながらこれからのことを考える。

「まずここがどこなのかもわからない。もうわたし帰れないかもしれない。でも帰ったところで、あの人たちは私を必要としていないから、帰っても無駄ね・・・」

私は気づいてしまった。自分は生きてても死んでても同じだということに、気づきたくなかったことに気づいてしまったとき、私はショックだった。

すると、ランドセルを背負った男の子3人が私の存在に気づき、ニヤリと笑いながら、私に近づいてきた。

「お前見ねぇ顔だなって、お前のその服なんだよきったねぇー!」

「てかこいつ、髪とかぼっさぼさだぜ?風呂はいってねぇんじゃねぇの!」

「うわぁ最悪だわ、これでも喰らえ!」

そう言った最後の男の子は、私に落ちていた石を投げてきた。気づいた時にはもう3人とも私に向かって投げていた。痛い、痛くて痛くて痛すぎて死んでしまうのではないかと考えてしまう。でも、私って生きてても死んでても関係ないことはさっき自分で気づいていた。私は自分の命を諦めようとした時。

「痛ってぇ!」

1人の男の子がそう言うと、もう1人の男の子も痛いと言い始めた。私は振り返って見てみると、そこには3人の男の子とは少し違う男の子がいた。

「てめぇなにしやがんだ!」

「あっ、俺あいつ知ってるぞ。あいつの家うちの近くの安福寺の子供だぞ、やべぇ呪われちまうぞ!」

「やべぇ逃げろぉ!」

そう言って、3人はその男の子から逃げていった。1人残った男の子は、ゆっくりと歩きながら、私に近寄ってくる。私は怖くて蹲っていると、私のすぐそばで立ち止まった。

「お前うちの学校の生徒か?なんでこんな所にいんだよ」

彼の質問に、私は答えたいけど、口から上手く言葉が出てこない。

「大丈夫か?もしかしてお前、喋られないのか?」

そう言って私の肩に手が触れた瞬間、反射的に彼の手を噛んでしまった。しばらくの間我を忘れて噛み付いていると、痛いっ!という声が、やっと聞こえた。よく見ると、私が噛んだ手から、血が出てきていた。

「ご、ごめんなさい!わざとじゃないの!あっあなたもわたしに石を投げるかと思って、それでつい噛み付いちゃったの、本当にごめんなさい」

私は下を向いたままとにかく謝った。こんなこと言っても、きっと許してくれない。そう思っていたのに。

「そーなんだ。じゃあ仕方ないか。実際俺もお前にじゃないけど石投げてたしな、誤解されて当然か・・・」

私は彼の予想外の発言にすごく戸惑った。普通なら、私のことを許さずに、怖くて逃げ出すはずなのに・・・逆に彼は自分が悪いと思ってしまっている。

「あっ、あの、怒らないの?」

「え、何に対して怒るの?」

「だっ、だって、私あなたに、怪我をさせたのよ?しかも血が出るほどの」

「あぁ、こんなのぜんぜん平気だよ。近所の猫に引っかかれた時に比べれば全然痛くないから、気にしなくていいよ」

私は初めて誰かにこんなに優しくされて、戸惑いと驚きで混乱していると、彼はそのまま公園の水飲み場に向かった。

「俺ちょっと、手を洗ってくるから、ちょっとまってて」

そう言って彼は、私のせいで怪我をした手を優しく洗い、ランドセルを開けて出てきたのは、消毒液と絆創膏だった。その光景は、私と似ていた。私も父親に怪我をさせられた時、自分で絆創膏を貼ったり、顔を冷やしたりしていたから。

「おまたせ!てかお前も傷がひでぇな、俺の持ってる絆創膏じゃ足りないなぁちゃん」

気づけば彼は私の目の前にいた。驚いて私はまた彼の手に噛み付いてしまった。再び彼の口から痛いっと言わせてしまった。

そして、彼の手に絆創膏がふたつ貼られたところで、ブランコ一個分空けて、私達は座った。

「で、君はどこの小学校に行ってるの?」

「しっ、森海(しんかい)小学校・・・」

「なんだ同じ学校じゃん、何年何組?」

「にっ、2年生」

「同い年じゃん、クラスは?」

「・・・わかんない。最近学校行ってないから」

「そっかぁー」

ここで一旦彼との会話が止まった。同い年だから私から話しかけてもいいのかなぁ。いやでも彼から話しかけてくれればそれに越したことはないし、あぁ、でもこのまま黙っていたらどんどん気まずく・・・。

「ギュールルルル」

ものすごい大きな音が鳴った。この音の正体は、私のお腹の音だった。そう言えば、朝から何も食べていなかった。私は恥ずかしくなって体育座りで足で顔を隠す。すると、彼はランドセルを開けて、おにぎりを取り出してきた。

「お腹減ってるならこれあげるよ。俺の朝ごはんだけど、朝少し食べる時間あって食べてきたから今食べられないし、良かったら食べていいよ」

私は返事をせず、ただずっと顔を隠していると、彼は私に近づいてきて、いきなり手を握ってきた。

「もうお前1回うちに来い!おにぎりが嫌ならうちで飯食わしてやる」

そう言って彼は私の手を引きながら、彼の家に向かって走って行くのでした。


そして長い間走り続けて疲れていたの彼は察したのか、私に合わせて歩いていると、右手に寺が見えてきた。

「ここが俺んちなんだぜ?でけーだろ?」

そう言った彼の顔は、とても輝いた笑顔をしていた。でも、確かに大きい寺だった。私の家に比べたら何十倍とでかい。そして私は彼に引っ張られながら階段を上がり、勢いよく家のドアを開けた。

「ただいまぁ!」

でかい声でそう言った彼は、玄関に腰をかけ、靴を脱ぎはじめる。すると、向こうの扉から1人の大きな男の人が出てくると、私たちの存在に気づき、怖い顔でこちらに向かって走ってくる。

(やっ、やられる・・・!)

私は思わず、なぜか手で耳を抑えて、体を小さくする。しかし、いくら待っても痛みが来ない。私はおそるおそる耳から手を離し、顔を上げると・・・

「晴明てめぇ!こんなか弱い女の子の服をボロボロにしやがって!てか、おめぇ学校に行ったはずなのにどう家に戻ってくんだよ!」

「痛ってぇなクソ親父!殴ることねぇじゃねぇか別によ!しかもこんなボロボロにしたのは俺じゃねぇし、同じ学校のやつがこいつをいじめているのを俺が助けてやったんだよ。しかもこいつ、なんだか腹が減ってるみたいだし、こんなに傷だらけだし、なら俺んちに寄らせて、飯と怪我の手当をさせてやろうかなって」

彼の言葉に、彼のお父さんは私の方を見る。私は驚いてしまって、彼の後ろに隠れてしまった。

「あぁ、怖がらせるつもりじゃないんだよ?うちのクソ親父は顔が怖いだけで、実はそこら辺にいるような人達と変わんないから安心しろって」

「誰が顔が怖いだボケ!」

「痛って!グーで殴ることじゃねぇだろ別によ!せっかくフォローしてやったのに!」

「はぁー。まぁいい、お嬢ちゃんも上がりなさい。中で手当と飯を食わせてあげるから、晴明!お前がこの子に手当と飯を運んでやりなさい」

「わかってるよ。じゃあこっち来て」

私は頭の整理がつかないまま、彼に再び手を引かれながら、脱衣所に連れていかれた。

「ここでちょっと待っててくれ、救急箱持ってくるからさ、出来るなら傷口を水で洗っててくれ」

そう言って彼は走って救急箱を取りに行った。私は言われた通りに水道の蛇口を捻り、水で傷口を洗う、少々痛いが、これよりも痛いことを、私はされているので、慣れていて涙が出なかった。

すると、向こうからドタドタと大きな音を立てながら彼は走ってきた。

「おまたせ!傷口は洗ったか?」

「うっ、うん。洗ったけど・・・」

「よし!じゃあそこの椅子に座ってくれ!手当するから」

そう言って彼は、子供用の椅子に指を指す。私はさすがに、傷の手当までしてもらうのは申し訳なかった。

「いっ、いいです!自分でできますから!」

「いいんだよ子供は甘えてれば、しかもお前は客なんだから、俺がおもてなしをするのは当たり前なの!わかったら大人しく手当させろ」

その言葉を聞いた私は、不思議と体のどこかが暖かくなるのを感じた。

「あっ、あなただって子供じゃない・・・」

「ん?なんか言ったか?」

「べっ、別に、なんでも」

私は大人しく、彼の言われたまま椅子に座る。すると、彼は私がタオルで吹いていないことに気づいた。

「あぁごめん、俺タオルの場所教えてなかったな。ちょっと待ってくれ」

彼は扉から小さいタオルではなく、バスタオルを私に持ってきた。そして、私の濡れた足を拭いていく。

「なっ、ななななにしてるんですか?!」

「えっ?濡れた足を拭いてあげてるんだけど?」

「それくらい自分で出来ますから!」

私はそう言って彼からバスタオルを奪う。自分以外で誰かに濡れた足を拭かれたのは、私が覚えている限りでは、初めてだったかもしれないので、かなり恥ずかしかった。

「そっ、そうか?じゃあ拭くのは任せるよ」

そうしてひと通り濡れた箇所を拭き終わると、気づけば彼はもう消毒液と小さいタオルを両手に持ってスタンバイしていた。

「拭き終わったみたいだな、じゃあ一旦そのタオルは自分で持っていてくれ」

私は彼に言われたとおりにタオルを強く握りながら持っていると、彼にクスッと笑われた。

「いや、そんなに強く持ってなくていいから」

そう言われて私は恥ずかしくなって、ゆっくりと強く握っていた両手を弱くしていく。

「それじゃあ、消毒するけど・・・痛かったら別にタオル強く握っていてもいいよ」

彼はそう言った顔は、馬鹿にしているような顔をしていてイラッとした。

(絶対に痛くても、強く握ったりするもんか!)

そう自分の心で発言すると、彼の持っている消毒液が私の足にかかる。やはり多少の痛みはあるが、これくらいなら強く握ることは無いと思い安堵する。

「どう?痛くないか?」

「全っ然平気ですけど?!」

私は自慢げな顔で彼を見る。それに気づいた彼は、なぜかまた笑いだした。

「なっ、何がおかしいのよ?!」

「いや、ごめんごめん。さっきまで喋り方が緊張してオドオドしていたのに、なんか堂々としはじめたから、つい笑っちまったんだ」

そう言われて初めて気づいた。確かにさっきまで私は最初彼に恐怖していて、上手く喋られなかったけど、なぜか今は普通に喋ることが出来る。自分でも驚いてしまった。

「べっ、別に元からこんな感じだったけど?」

「そうだっけ?まぁいいや!このまま続けるよ」

彼の手際がよく、あっという間に怪我した箇所は消毒され、最後に絆創膏を貼られて手当は終わった。

「じゃあ終わったことだし、そろそろご飯食べよっか!」

「君はさっき公園でもう食べたって言ってなかったっけ?」

「ちょ、ちょっと動いてまた食いたくなったの!いいから行くぞ!」

そう言って彼は歩き出した。私も置いていかれないように彼の背中を追ってついて行く。少し歩くと、台所にたどり着いた。

「なんか食いたいもんとかある?」

「えっ、君が作るの?!」

「そうだけど?言っておくけど、難しいのはまだ無理だぞ?」

まだ私と同い年なのに、自分で料理出来る彼に、すごいという感心と、何か女性として負けている敗北感が私に同時にきた。

「で?何食いたいの?」

「・・・なんでもいいよ。食べられるなら」

「なんでもいいって言ったからには、俺が適当に作っちゃうけど、ほんとにいいのか?」

「いいよ、別に好き嫌いないもの・・・」

私がそう言うと、彼は冷蔵庫から卵とベーコン、そして、様々な野菜を取り出した。

「じゃあごまだれ野菜と玉子焼きとベーコン焼きでい?あ、玉子焼きは甘い系?醤油系?」

「それでいい。玉子焼きは甘いので」

「了解、じゃあ台所を出て左に進んで2つ目の右側の部屋で待っていてくれ」

「わっ、わかった・・・」

私は彼に言われた言葉を頭の中で繰り返しながら、進んでいく。私は1回ドアを開けるのを躊躇するが、覚悟を決めて、ドアを開けると、そこにはさっき彼を殴っていたお父さんがいた。

「ん、どうやら手当は終わったみたいだね」

私は言葉が出てこなかった。なにか喋らないと失礼なのに、顔が怖くて身動きすら取れない。

「まぁそこに突っ立ってないで、こっちに来なさいな。別に食べたりにないから」

私はゆっくりとテーブルまで歩き、ゆっくりと腰を下ろす。そして少しの間、部屋の中に沈黙が続く。

「ところでお嬢ちゃんは着替えてこなかったのかい?せっかくだからその服を洗濯してあげるよ」

「いっ、いいいいいえ大丈夫です!問題ないので!」

「そういう訳にもいかないよ?私達は君を家にあげた以上、それなりのもてなしをしなくてはいけないからね。待っていなさい、着替えを持ってこよう」

そう言って、彼のお父さんはどこかに行ってしまった。私は1人で正座しながら待っていると、彼のお父さんが出て数秒後にドアが開いた。そこにはおばぁちゃんが立っていた。

「おや?これはまた小さなお客さんだねぇ。晴明のお友達かい?」

私は突然喋りかけられて、なんて返したらいいか考えながら焦っていると。

「そんなに慌てなくていいんじゃよ?話したくなければそれでもええよ?でも、わしも少し座らせておくれ」

そう言っておばぁちゃんは、わたしの正面に座る。そして自分で持ってきたお茶を飲み始める。そして、ドアの向こうからゆっくりとしているのに、大きな足音が聞こえてきた。

「あっ、母さん起きてたの?」

「あぁ、源十郎。おはようさん」

「あぁおはよう。ごめんねいきなり更に知らない人が来ちゃって、でも安心していいから。あとこれ、晴明が前に着ていた和服だけど、着かたわかるかい」

「ごっ、ごめんなさい。和服なんて着たことがなくて・・・」

「おや、じゃあわしがやってあげるわい」

「えっ、でもそんな迷惑をかける訳にはっ」

「まぁまぁいいからいいから、ささっ、脱衣所に行きましょうね」

私はおばぁちゃんに背中を押されながら、脱衣所に向かった。おばぁちゃんは優しく私の着替えを手伝ってくれた。私が着ていた服も、わざわざ洗濯してくれた。

着替え終わってさっきの部屋に戻ろうとすると、さっきまで料理をしていた彼も出てきた。

「あっ、それ俺が前着ていた和服だ。サイズがちょうど良くて良かったな。似合ってるぞ」

「なっ、何言ってんのよ・・・」

「ん?なんで顔赤くしてるんだ?」

「あっ、赤くなんてしてないわよ!」

「そうか?まぁいいや、ご飯できたから、さっさと行こうぜ」

彼はそのままそのドアに向かって歩いていく。私も黙って、彼のあとを追いかけていった。


続く・・・


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