どうやら彼は思い出の花と共に眠るらしいですよ。
「これがワタシともう1人のローズのお話、そしてワタシが蘇生魔法を求めた理由よ・・・」
俺達はローズの話を聞いて、少しだけ悩んだ。こいつはただ、人間という生き物の願いを叶え続けて、ただ人間の喜ぶ顔が見たくて頑張り続けた。
それなのに、俺達人間が欲深くなり、こいつに負担をかけるだけの存在になり、そして結局お互いを傷つけ合った結果。この神獣は人に心を開かなくなった。元を辿れば人間がこいつの信用を奪ったようなもんだ。それはもう関わりたくなくなるのも無理はない。長い間眠りについて、やっと信頼出来る人間、ローズと出会い、幸せだった時間を過ごしていたのに、再び人間達のせいで大切な村を、そこに住む人をそして、いちばん大切だった・・・愛していた人を失った苦しみと怒りが、この神獣を堕としてしまったのだろう。そう考えると、こいつも被害者なのかもしれない。
「お前の・・・その気持ちはわからなくもない・・・」
きっと俺もこの神獣だったら、きっと同じ気持ちだった。大切な人がいない悲しみは、俺もよく知っているから・・・
「でも、気持ちはわかってやれるが、その後のお前の行動は間違っていると思うぞ」
「な・・・んだと?」
すると突然、周りに雨が降ってくる。大量の水が空から止まることなく降ってくる。
「あんたは・・・お前は俺の気持ちがわかって、俺の行動が間違っていると言うのか?!」
ローズは今にも消えてしまいそうな命をなんとか踏みとどまりながら、俺に向かって叫んでくる。叫ぶ言葉の一言一言が、俺の肌に突き刺さる。
「あぁそうだよ!お前がとった行動は間違っていると俺は思う!」
「じゃあお前は俺の気持ちを全然わかっていない!大切な人を失う悲しみが、どれほど心に深い傷がつくか!お前も同じ思いを知れば、必ず生き返らせようとするはずだ!」
「あぁ、俺も同じ立場だったら大切な人を生き返らせるね!」
「・・・何言ってんだよお前、じゃあお前も同じ行動しようとしてんじゃねぇか」
そう、俺だって大切な人を失って、もしも生き返らせる方法があるならば、俺はその方法を使う。
だけど・・・。
「でも、俺は人を殺したり、子供をさらって生贄にしてまで、大切な人を生き返らせようだなんて思わない」
俺の言葉に、ローズは大きく目を見開く。そして、最後の力を振り絞って起き上がろうとする。
「なんだよそれ・・・じゃあお前は大切な人を生き返らせる方法がそれしかなかったら、お前は大切な人を生き返らせないのか?!」
ローズは叫ぶ、自分が選んだ道を通らないはずがないと言わんばかりの顔で俺を見る。だか、俺の答えは決まっている。
「あぁ、俺だったらどんなに大切な人でも生き返らせない」
俺の答えにローズは一旦唖然としていたが、その後すぐに大声で笑い始めた。
「わかってねぇなてめぇは!そうか、てめぇはまだ会ったことがないからだな!じゃあお前は知るはずだ、大切な人を生き返らせるためだったらどんな手段でも使う!それが大切な人を失った者が持つ感情だと!」
「いいや、分かってないのはお前だよ。ローズ・・・」
「ぁあ?」
俺は間違っているとローズに告げる。ローズは分かっていないようだった。俺は感情を抑えられず、右手でローズの頭を掴んだ。
「せっ、晴明?!」
「せっ、晴明、なにしてっ」
「わかってないのはお前だローズ!いいか?まずお前は俺に大切な人がいないと言ったが、俺だっていたんだよ大切な人が!でも気がつけばその大切な人はいなくて、心臓が握りつぶされるような感覚だった!」
「っだったらわかんだろーが!生き返らせたいって言う俺の気持ちが!」
「じゃあ聞くけどよ!お前はローズちゃんが他人を犠牲にして私を生き返らせてって言うと思ってんのか?!」
その言葉にローズは口を開けたまま固まる。俺は思ったことをローズにしゃべり続ける。そして、降っていた雨が、徐々に弱まっていく。
「確かにその辺の女は他人を殺して生き返らせてって言うかもしれない。しかも同じ人間に殺されたらなぁ!でも、お前のローズちゃんは、人間に殺されたら、人間を犠牲にしてでも私を生き返らせてって言う女の子かどうかは、お前がいちばんよく知ってるだろぉが!!」
ローズはピクリとも動かない。上がっていた顔が下を向く。何も言わずただそこに座っている、まるで地蔵だ。
「黙ってねぇで答えろよ!どうなんだよ?!」
「晴明?一旦おちついてっ」
俺がそう言った瞬間。空から降っていた雨が止み、光が雲の上から突き抜けはじめる。その光がローズを照らして見えたのはローズの目から、一線の涙が流れている顔だった。
「いっい゛わ゛ね゛ぇよ!!ローズなら絶対にそんなことを思うことさえしない!あいつは本当に優しいから、人に殺されても、きっと怒るだけで、恨みは絶対にしない!!わかっていたさ!これは俺がただ人間に復讐したいだけだってことぐらい!」
ローズは力が抜けたように横になる。片腕で自分の泣いている顔を隠す。きっと今までの思いが溢れ出てきたのだろう。すると、ローズが激しく咳をし始めら口から血を流し始めた。
「俺はもう死ぬ。でもきっとあいつのところには行けないだろうな・・・」
「ローズ・・・」
でも、ローズの顔は優しい顔をしていた。まるで全ての鎖が解き放たれ、自由を手にした表情だった。
「お前には感謝しているよ人間・・・良かったら名前を教えてくれないか?」
俺は座り込み、ローズの顔を真っ直ぐ見ながら、手を握りる。
「神宮寺・・・晴明だ」
「晴明よ、俺は、あいつのところに行けるか?あいつは俺に会ってくれるか?」
「あぁ、きっと行けるさ、でもきっと怒っているからちゃんと最初は謝れよ」
「あぁ、そうだな・・・怒ってるよなぁ・・・でも、あいつに怒られるのも、悪くねぇな」
すると、森の向こうから強い風が吹いてきた。その風といっしょに、さまざまな色をした花びらが、俺たちに向かってくる。そして、その花びらの中から、一輪の黄色い花がローズの真横に落ちる。
「この花は・・・」
そう言ったローズは、フッっと笑った。俺達にはよくわからないが、その後すぐ、ローズは息を引き取った。その表情は、本当に安らかな顔をしていた。
その後、俺達はローズを一旦その場に置いて、村に戻った。するとそこには、 馬車から脱出した子供達と、村の住人の皆が俺たちの帰りを待っていた。
「あっ!勇者様だ!!」
1人の少女が俺達に気づくと、村の皆が俺達の方を見る。子供達が、俺達に向かって走って来る。そして、1人の少女が俺に向かって飛び込むと、俺は倒れてしまった。もちろん1人だけでは終わらず、続けて子供達が俺にくっついてくる。子供たちの体温は暖かくて、なぜか気を抜いたら泣きそうになった。
「勇者様があいつを倒してくれたの?」
男の子がそう聞くと、子供達全員が一旦黙る。俺の答えを聞こうと、真剣な顔で俺を見る。
「いいや、倒してないよ」
俺の答えに、子供達は残念そうな声で叫ぶ。その声を至近距離で聞いた俺の耳が壊れるかと思わせるようなでかい声だった。
「じゃあまだ森の中にいるの?」
「ちゃんと倒してきてよ!勇者様でしょ?」
「俺達も力を貸すからさぁ?!」
それぞれが発する子供達の声を聞いて、俺は立ち上がる。そして胸に乗っていた小さい少女を抱っこする。その少女は一瞬キョトンとするが、すぐに笑顔になってくれた。
「倒していないけど、あのバケモノは実は神獣って言って、本当は優しいんだよ?でも、少しだけ人に嫌なことされて、悪い神獣さんになったけど、俺と戦って、元の優しい神獣に戻って、どこか遠い所に行ったよ」
「本当にぃ?」
「ほんとほんと!だからもう大丈夫だけど、これからは皆も、動物さんとかに優しくしてあげるんだよ?」
「「「はーい!!!」」」
子供達の元気な声を聞いて、俺は抱っこしていた少女を下ろす。すると、子供達は自分の親の元に走っていった。その親たちが、俺に向かって一斉にお辞儀をする。すると、ゆっくりと村長のジァバさんとジラが近づいてくる。
「勇者様、この度は村の子供達を救っていただき、本当にありがとうございました。村長として心から感謝を・・・感謝を」
「ジァバさん、頭は下げなくていいですよ!でも良かったです。皆さんも無事で」
俺がそう言うと、ジラが俺の目の前まで近づいてくると、俺に勢いよく頭を下げてきた。
「今回はお前がいてくれて助かった。本当にありがとう、そしてすまなかった。来た時失礼な態度をとって、あの時は娘をさらわれてイライラしてて、つい当たっちまった。本当にすまない」
「いいですよ気にしなくても、今は娘さんと一緒にいてあげてください」
「あぁありがとう・・・」
そう言ってジラは自分の家族の元に帰った。俺達は再びローズのところに戻り、ローズを抱えて、どこかローズを埋めるいい場所を探して歩き続ける。
「っ晴明!こっちに来てください!」
歩き続けること約30分、どうやらシルフィがいい場所を見つけたようだ。俺は走りながらシルフィの声がした方向に進み、森を抜けると、そこは、色とりどりの花が咲く、まさしくローズが言っていた花畑のような場所だった。
「ここってもしかして・・・」
俺がそうつぶやくと、少し離れたところにいたシルフィとカナリアが俺に気づく。
「晴明!こっちに来てください!」
「せっ、晴明!はやく!」
そう言われて俺は走る。そして、シルフィ達の元に辿り着くと、そこには平らな岩と、その傍に縦に置いてある字が書かれた岩があった。
「この岩・・・ローズって書いてあるぞ!」
「えぇ、私達も驚きました。まさかローズさんの大切な人が眠っている墓だったなんて、しかもこんな近くに・・・」
「でっ、でもこれで決まったね。ここに埋めてあげようよ」
「そうね。ここならきっと彼も喜ぶわね」
「あぁ、じゃあ隣に穴を掘ろうか」
「あっ、それなら私がやります」
シルフィがそう言うと、風を操って地面に穴を掘っていく。ほんの数秒でローズが入る深さにしてみせた。
そして、ローズを穴に入れた所をシルフィが風の魔法でとしようとした。
「ちょっとまってくれ!」
俺の掛け声で、シルフィが魔法を止めた。
「どうしましたか?何かやり忘れたことが?」
「いや違うけどさ・・・やっぱり埋めるのは自分達の手でやろう。掘ったのは魔法でやったんだからさ、せめて埋めることは自分達の力でやってやりたいんだ」
俺がそう言うと、2人はお互い顔を合わせてから軽く笑った。
「分かりました。晴明がそういうのなら」
「わっ、私もそれがいいと思う」
「ありがとう・・・」
そうして俺達は、約15分間をひたすら埋めていった。そして、辺りに咲いていた黄色い花をまとめて2人分と、少し歩いたところにあった岩をちょうどいい大きさに砕いて、そこにローズの名前の文字を書いて置いた。
「これでいいかな!」
岩には「神獣 ローズ 愛する人の隣で眠る」と書いておいた。
「にしても、この2人を思い浮かべると、何だか悲しくなりますね」
「お姉ちゃんの気持ち、凄くわかる。この人たちを不幸にしたのは私たち人間なのにね」
2人の表情が悲しみの感情とくらい感情が混ざっているようだった。元気づけようと思ったが、俺もそんな気分じゃなかった。
「イースター街に着いたらさ、ローズが話していたブラックとホワイトの話の本を買ってくるか」
「晴明、それってどういう・・・」
「いや、1回読んだらさ?ここにもってきてやろうかなって。俺にとってはただのお話だけど、こいつらにとっては、大切な本なんだろうからさ。そんときは見つけるのを手伝ってくれるか?」
「もちろんですよ。探すのは大変ですけど、頑張りましょうね」
「わっ、私も手伝うよ?」
そうして俺達は、その墓にまた来ることを約束して、その場を後にした。
再び村に戻ると、何やら村が騒がしかった。そこにはなんと、細長いテーブルに、ビッシリと並べられた大量の料理がそこにはあった。
「おや、今日の主役がようやく来たよ!」
1人のふくよかな女性がそう言うと、気づけば村の住人全員が集合していた。
「これは、一体なんですか?」
俺が口から出た言葉に、村の住人全員が口を揃えて発言してくる。
「「この度は、村を守って下さりありがとうございます。これはささやかなお礼です。どうぞ沢山食べてください」」
そう言った皆の中にいた子供達が、俺達の腕を引っ張って連れていく。
「今日はな!うちのかぁちゃん達が勇者様にお礼だって言って沢山作ったんだぜ?一緒に食べようぜ!」
俺を引っ張っていたのは、よく見るとリルだった。その表情は来た時とは全く違い、本当に安心した笑顔だった。
「そうだな・・・じゃあお言葉に甘えちゃおうかな?」
俺がそう言うと、リルのお母さんが泣いているのか笑っているのかわからないような、でも、すごく嬉しそうな顔で言ってくる。
「なにいってんだい。あんたはここの村を救った勇者、いや、英雄なんだからさ?なんでも言っておくれよ」
その言葉はすごく照れくさかったが、村のみんなのテンションに当てられて、その日の朝から俺達は夜まで騒ぎまくった。
そして、夜になり、村のみんなが眠りに入る時間。俺はまだ起きて近くの座るのにちょうどいい柵に座っていた。正直眠れなかったのだ。
すると、ジァバさんが俺の元にゆっくりと歩いてくるのが見えた。俺は柵から降りて、ジァバさんの元に向かう。
「どうしたんですか?こんな時間に・・・」
「いえいえ、勇者様が見えたので、どうかなさったのかなと思いましてな」
俺は何故か下を向いてしまった。それを見たジァバさんが俺の袖を引っ張る。
「この老骨でもよければ話し相手くらいにはなりますよ」
「いや、それは悪いですよ」
「いいから話してみてくださいな。きっと少しは楽になると思います」
ジァバさんの言葉を聞いて、俺は彼にローズのことを話したくなった。
「じゃあ少し場所を変えますので、どうぞ俺の背中に」
「とんでもない!勇者様の背中に乗るなど」
「話を聞いてもらうためですので、どうぞ乗ってください。てか乗ってくれないと話が進まないので」
そう言うと、ジァバさんは諦めて俺の背中に乗った。俺はゆっくり歩きながら、ローズ達が眠る場所に向かった。
そして、20分後、あの花畑に着いた俺達は驚いた。なんとあの花畑が綺麗な7色に光っていたのだ。俺も初めて見て驚いたが、ジァバさんもかなり驚いていたのは見なくてもわかった。
そうして俺とジァバさんはローズが眠る岩には座った。
「それじゃあ、何に悩んでいるのか、ワシにお話ください」
そう言われて俺は、村を襲ったローズの話をした。昔人間に失望したこと、人間に大切な人が出来たこと、そして、人間によって大切な人を奪われたことを、全て話した。
「ということがあって、俺の言ったことは正しかったのかがちょっと分からなくなってきちゃって・・・」
「どうして、そう思うんですかな?」
「俺は、あいつより全然短い年月しか生きていないのに、何偉そうなことを言ってんだろうって思えてきちゃって、あいつの方がずっと悩んでたし、ずっと苦しんでたはずなんです。それを俺が思ったことを言って、本当にそれが正しいのかが不安になって」
俺が下を見ると、ジァバさんが頭を撫でてくれた。その感触は、まるでうちのばぁちゃんに撫でられているようだった。
「話を聞いて、正直に言うとワシにも何が正しいのかなんてわからんよ」
その答えを聞いて、俺はジァバさんに聞いてもわからないのに俺に分かるわけがないと知った。
「でも、勇者様の話を聞いて、ローズとやらはありがとうと言ったのじゃろ?」
「はい。言ってました」
「じゃあ勇者様のその答えは正しいとワシは思うぞ?なんせ勇者様は、神獣ですら納得してしまった答えを出したんじゃからな。それが正しくないのなら、何が正しいのかなんてわからんわい」
「確かにローズはありがとうと言いましたけど、でももっといい言葉がっ」
「考えすぎじゃぞそれは。いいか?この世に正しい言葉や選択なんてもんは誰もわからん。その言葉や選択が正解だったり、違う状況でそれと同じ言葉や選択をしてダメだったりもするんじゃ。だからな、相手が納得してありがとうと言ってくれた答えが正しい言葉だとワシは思うぞ?」
それを聞いた俺は、ついローズの墓を見てしまった。あの時の感謝の言葉が、頭の中で聞こえてくる。
「俺はあの時、正しい答えをだしえ上げられたと、ジァバさんは思いますか?」
「ワシはローズに言ってあげた勇者様の言葉がおそらく最も正しい答えだったと、そう思いますよ」
ジァバさんの言葉を聞いて、俺に絡まっていたなにかが解けたような気がした。前よりも体が軽く感じる。
「ありがとうジァバさん。あと俺の事は晴明って呼んでください。今日は本当にありがとうございました」
「いえいえ、ワシも勇者、いえ、晴明様のお役に立てて嬉しかったです」
俺とジァバさんは固い握手を交わす。その手を握った時、うちのばぁちゃんと同じ手だということに気づいて笑ってしまった。
「それじゃあ戻りましょうか、俺もやっと眠くなってきました」
「そうですね、ワシももう眠くてこのまま寝てしまいそうですわ」
「背中にのっている間に寝てても構いませんよ。ちゃんと家まで運ぶので」
「それじゃあお言葉に甘えて」
そう言って、背中に乗せること5分、本当にジァバさんは寝てしまった。そう言えばうちのばぁちゃんも寝る時間が異常に早かったことに気づく。年寄りはみんなそうなのかと考えていると、村に着いた。俺はジァバさんを家のベッドに寝かせて、家を出た。そして俺も借りている借家のベッドに横になり、ゆっくりと眠りについた。
次の日の朝、村のみんなから朝食を貰い。食べ終えたので借家に戻り、帰る支度をする。
そして、10時頃、馬に乗って、村の門の前に止めてみんなにお別れを言う。
「今回は皆さんに良くして頂いてありがとうございました。またよることがありましたら、またお世話になりますので、どうぞよろしくお願いします。そしてジァバさん、昨日はありがとうございました」
「いえいえ、ワシは何もしてませんよ。それからいつでもいらしてください。ワシら全員、心よりお待ちしております」
ジァバさんがそう言うと、子供たちが一斉に俺とシルフィ、カナリアを囲む。
「これ、勇者様とシルフィ様とカナリア様に俺たちからのプレゼント」
リルがそう言って渡してきたのは、謎の袋だった。触った感触は木の実や果物のようだった。キッティはシルフィに渡し、マーインはカナリアに渡した。
「ありがとうなリル、開けてもいいか?」
「それはダメ。馬車に乗っている時にあけて」
「そっかぁ、じゃあそうしようかな」
少しの間、リルたちが黙って顔を下にしているので、下から覗いてみると。大粒の涙を落とさないように必死に我慢していた。
「勇者様!また、この村に来てくれるか?!」
リルがそう言うと、我慢していた涙がこぼれてしまったのが見えた。周りのみんなも泣くのを我慢しているようだ。
「あぁ、もちろんまた来るさ。こんな居心地のいい村なら直ぐにまた来るよ」
そう言った瞬間、子供たちが一斉に泣き始めてしまった。それを見た親たちが、自分の子供を抱いて村の門の中に入る。おそらく俺たちに迷惑をかけないようにしてくれたのだろう。そして俺達は馬車に乗り出発する。
「それじゃあ、また来ます」
俺とカナリアが手を振ると、村のみんなが手を振ってくれた。それは、見えなくなるまで続いた。
それから1日が経っているのに、なぜかカナリアは、村を離れてからずっと泣いていた。
「ほらカナリア、もう泣きやめよ。またすぐに会いに行くからさ」
「だっ、だって゛、あの子供たちがいい子すぎて、あんなみんないい子なら、私離れたくなくなっちゃって、うぅ」
「こらカナリア!晴明に迷惑かけないの、今生の別れじゃないんだから、晴明も言ってたでしょ。すぐに会いに行くって」
「ぐすっ。うん・・・」
さすが姉妹の姉、カナリアのことならシルフィに任せた方がいいと、俺は確信した。
(そう言えばこの間からあの夢を見なくなったな。そう言えば咲羅が言ってたな、しばらくは会えないとかなんとか・・・)
俺がそんなことを考えていると、シルフィが俺に話しかけてきた。
「晴明、今からまた馬車のの扱い方を教えるので隣に来てください」
「あっ、あぁ今行くよ」
俺は少し急いでシルフィの隣に座る。それから数時間後、イースター街が見えてきた。早くガングさんとシェラのいるあの家に戻って、早く疲れた体を休めたいと思いながら。シルフィに少しだけ早くするようにと伝える。
「それじゃあ少しだけ飛ばしますよ!」
そう言ってシルフィは馬を少しどころかものすごい速さで馬の速度をあげる。気づけば角が生えるほど早くしていた。
「おいおい、この速さで馬って急ブレーキできるのか?」
「いえ、速度を落とすために、最低でも2キロは必要ですね」
「じゃあ今街まで何キロ?」
「あっ、えぇーっと、1.5きろくらいでしょうか」
「早く止めろぉー!!!」
そしてこの後、俺達は残りの500メートルをやむなく右に曲がってやり過ごしたのだった。
同時刻
帝都、王宮アイアン・メイデン内 英雄の間
「どうやら近頃、黒き喰人を倒せる輩が現れたようですよ?」
水色の髪をしたメガネの男がそう言うと。
「なんと、そやつは一体誰だ!」
金髪のキラキラした服を着た男が、突然叫び出す、
「まぁまぁ落ち着きましょうよ。きっと噂でしょ?う・わ・さ」
同じく金髪の青年が、その報告を信じようとしない。
「でも、それが本当なら、どれほどの実力か確認しなければ」
赤髪の女性は、その者の確認を要求する。
「ガハハッ、そいつは一体どんなやつなんだ?」
茶髪のガタイのいい大柄の男は情報を要求する。
「どうやら全身純白の鎧を着て戦っているとか・・・」
青髪のメガネの男性がそう言うと・・・。
「はぁ?何それ、我が身大事に守っている腰抜けじゃない!それなら私がそいつに会ってくるわ」
オレンジ色の髪をした少女が、自分が行くことを宣言すると。
「おっ?嬢ちゃんが行くのか、それは楽しみだなぁ」
茶髪の男は楽しそうに笑った。
「おいまて、誰が行くかは全員が揃ってから決めるべきだ」
「いいのよ、私がそいつの所に行って実力を見るだけでしょ?すぐに終わるわ・・・情報資料はサーラに渡しといて」
そう言って、少女は出ていってしまった。
「全く、相変わらず自分勝手な女め・・・」
「まぁいいじゃねぇか、あぁいう女は嫌いじゃない」
「お前の好みなど聞いていない。この脳内筋肉」
「なんだと、このヒョロメガネ!」
「まぁまぁ落ち着いて落ち着いて、今回は彼女に任せましょ?」
金髪の青年の一声で、両者の喧嘩を止める。そして、青髪のメガネの男がそのまま次の話に進める。
「それでは、今後の我らSクラス、聖七王武の会議を始める!」
この時、すでに晴明達に、刺客が送られていることは本人が知る由もなかった。