俺は黒い服着た少女と出会ったその日に異世界に飛ばされたらしいですよ。
嵐が吹き荒れる山奥で俺は恐怖で動けないでいた、木と木の間からこちらをのぞき込む黒くおぞましい人影が1人、また1人と俺の周りを囲んでいく、雨が体に当たる感覚がなく、強風が吹いてるのに寒く感じない。俺はその場から動けない、いや、動かせないでいた。黒い人影は徐々に増えていき、俺の視界を埋めつくしていた、その影は少しずつ、少しずつ俺に近づいてくる、逃げなきゃ、逃げないといけないのに俺の足はその場に固定されているかのように動かせない。呼吸が乱れ、恐怖心がさらに大きくなっていく、黒い人影はもうすぐそこまで迫ってきていた。足は動かず声も出ない、もう逃げられない。この時の俺は死を覚悟することしか出来なかった。
「・・・ァ・・・シメェ」
黒い人影から小さい声で近づきながら俺の首に手を伸ばしてくる。何を言ってるのかは次の言葉でハッキリとわかった。
「キサマラハクルシメェ!!!!!!」
その声は憎悪の塊をそのまま吐き出したようだった。
俺の首に黒い影の手が届く瞬間、突如1人の少女が目の前に現れた、少女は泣きながら
「ごめんなさい、私のせいです。全部私の・・・」
少女はポロポロとおおきな涙を流す
「おこがましいけど、身勝手だけど、でもあなたならきっと・・・」
俺は少女に手を伸ばす、けど届かない。
「お願いします。どうか私を世界を救ってください」
その瞬間、俺は黒い何かに吸い込まれた、吸い込まれた瞬間やっとあの黒い影、本当は聞こえていたけど恐ろしくて聞こえなかったふりをして忘れようとした名前を。
呪人影を。
晴天の夏、今の学生は夏休みにはいっていた。
高校生初の夏休みのはずなのに、ある一室の机で夏休みの宿題を進めている俺、神宮寺晴明はある者達によって強制的に宿題をさせられていた。
「なぁ、今日宿題やる必要なくねぇ?まだ夏休みはいって2日目なんだぞ結」
「そうゆうこと言って去年の夏休み最終日に私に宿題写させてくれぇって言ったのはどこの誰だったんでしょうねぇ?」
彼女は夜桜結、小さい頃実の両親の元から離れてうちにやってきた。俺にかなり口うるさいため、口喧嘩がちょくちょく起こる。
「晴明は後でじゃ絶対やらないしね、あとで楽をするために今のうちに片付けとけば絶対後悔しないと思うよ」
こいつは俺の2つ上の兄貴で神宮寺晴天、勉強出来て美男子というスペックの持ち主であり性格も優しくラブレターは何枚も貰っているがいまだに誰とも付き合ったことがない。
「2人はすぐにできるかもしんねぇーけど、俺は頭良くねぇからすぐには終わらせられないんだよ」
「そのために今こうして一緒に宿題をやってるんじゃない、1人じゃ絶対やらないんだから感謝して欲しいものよ」
「て、てめぇ」
「何よ、なにか間違ってる?」
「まぁまぁ晴明も結ちゃんも喋るより手を動かした方がいいと思うんだけど」
兄貴にそう言われて俺も結も自分の宿題に取り掛かった。
12時になって昼食を済ましたあと、俺と結は部活の練習に向かった、俺と結は小学校の時から陸上をやっていてお互い同じ長距離選手、昔からよくどちらのタイムが良いか勝負するいいライバル関係であった、兄貴は文化部に入っていてそんなに活動日数はないらしい
午後の部活も終わり、結と一緒に帰ろうと思ったが友達と何やら話していた様子だったので、先に帰ることにした。1人で歩いて帰っていると、少し先に黒い服を着た少女が見えた、近づいてくと長い黒髪のロングヘアーで前髪が少し目にかかっていた、そして何よりその少女は裸足で突っ立っていたのだ、誰か待っているのかと思ったのだがこんな田んぼのとこに待たせるやつは居ないはず、俺は少し心配になったため声をかけることにした。
「誰か待っているのか?」
少女は黙ったままだったが少し時間を置いて喋り始めた。
「べつに、誰も待ってない」
「そうか」
しばらく沈黙が続いたが俺は少女にあるものを渡すことにした。
「これやるよ、もう使わないし」
「?、くつ?」
「裸足だと痛いだろ、前に使ってたやつだけどな、少しでかいけどかんべんな、もうそろそろ暗くなるし道も見えづらくなるしな、なんなら家まで送ってってやろうか?」
少女は驚いていたが、少し時間が過ぎてから嬉しそうに笑った。
「ありがとう、でも1人で帰れるから大丈夫」
「そっかじゃあ俺はもう行くから、気ぃつけて帰れよ」
「うん、ありがとうおにぃさん、ばいばい」
少女が手を振ってくれてるのを見て、まっすぐ家に帰ることにしたのだった。
約10分後ようやく我が家に着いた。俺の家は寺で今は俺の父、源十郎が安福寺の住職をしている。顔は厳ついがかなり優しい性格の持ち主のため、村のみんなに好かれてる。軽く汗を流したあと、すぐに結が不機嫌な顔で帰ってきた。
「何で先に帰っちゃうのよ!!!」
「いや、友達と話してたから先帰っててもいいかなってな」
「そんくらい待っててくれてもいいじゃない」
「わかったわかった次はちゃんと待ってるよ」
そう言って俺は自室に戻った。
夜6時頃、全員祖母が作ってくれた夕飯を食べ始めた、祖母の正子は元々寺の子で俺たちを良く甘やかしてくれる優しい人だ。
「晴明ちゃんと結ちゃんは今日も部活だったのかい」
「そうだよおばぁちゃん、今日は午後からだったから楽だったけどね」
そんな他愛もない話をしてると、あの少女のことを無性に話したくなった。
「そういえば今日部活帰りに黒い服を着た女の子がいてさ、その子なんか裸足で突っ立ってたんだよなぁ、見ない顔だったけど親父はなんか知ってるか」
その話をした瞬間、親父と祖母は驚いていた、というよりなにか恐ろしいものでもおもいだしたような、そんな顔をしながら俺の肩を強く握り、強く揺さぶられた。
「どこだ!!!!!!そいつをどこで見た!!!!!!」
いつもの親父ではなかった、怒鳴られたことはあったが、こんなに怯えた顔をしながら怒鳴られたことは無かった。さっきまであった暖かい空気が一切なくなり、冷たい空気が俺を襲った。
「落ち着け!!!!!!源十郎!!!!!!」
祖母が親父の腕を掴む、すると親父は呼吸は荒いが冷静になろうとしているのは見ていてわかった。
「すまねぇかぁさん、頭冷やしてくる。あと村の人にも話してくる」
そう言って親父は部屋を出た、まだ部屋に重たく冷たい空気が漂う。祖母はため息をつき、兄貴の晴天は何かを覚悟したような顔をしており、結はさっきの親父の姿を見て涙目になりながら震えていた。
「晴明、今日風呂入ってからでいい。ばぁちゃんのとこに来な。大事な話がある」
そう言ったばぁちゃんの顔は今まで見たことないくらいの真剣な顔をしていて、これは行かなければならないことがなんとなくわかった。
「わかった。じゃあ俺風呂入ってくるから、ごちそうさん」
俺は食器か重ねて台所へと向かう。食器を洗っているとさっきの親父の顔を思い出す。何故あんなに怯えた顔で怒鳴っていたのだろう、たしか俺が今日黒い少女に会ったって話をした時、親父とばぁちゃんの顔色が一気に悪くなった、少女が関係していることはほぼ間違いないと思うが、一体何があるってんだ!!!。
そんなことを考えながら俺は食器を食器棚に戻し、風呂に入る準備をした。
風呂場に向かう途中、ばぁちゃんが誰かと電話している声が聞こえた。
「あぁまただよ、今回はうちの孫に手を出しおったわい。」
電話しているばぁちゃんの声はとても悔しそうでとても怯えた声だった。
「もうあれから40年も出て来てなかったからやっと収まったかと思っていたのに。またあいつが攫いに来るんだね」
40年前、一体何が攫うんだよ。おれは少し怯えながら
その正体のを聞こうとする。
次の瞬間、バシッっと誰かが背中を叩いてきた。
「何してるのそんな所で。早くお風呂に入ってきな。じゃないと私が入るの遅くなるんだから」
そう言いながら俺の服の襟をつかみ、引きずりながら風呂場へと連れてこられた。
服を脱ぎ、体を洗い、風呂へと浸かる。ここまではいつもの日常だ。でも風呂に浸かっていても、全く落ち着けなかった。
そんな時、脱衣所に誰かが入ってきた。少しびっくりしたが、その声を聞いてほっとした。
「晴明、今大丈夫?」
結が心配した声で俺に喋りかけてくる。本当ならこのまま黙ったままだとあいつが心配して扉を開けてくるから、俺はそのまま立った状態で俺の名刀ムラマサを見せてやるところだが、今日はそんな気分じゃなかったし、あいつもそんなこと今はして欲しくないと思ったのでやめておいた。
「どしたよ。なんか用か」
「いや、別に用とかはないけどさ」
「じゃあなんだ?、一緒にまた風呂にでも入るか?」
「ば、馬鹿じゃないの。信じらんない」
その後しばらく沈黙が続いた。何を喋ったらいいか俺は分からなかったし、あいつもきっと同じことを思っているはずだ。だがまた、結の方から話しかけてきた。
「あんたはさぁ、怖くないの?」
「なにがさ?」
「今日、源さんがあんな顔で怒鳴っていたんだよ。私あんな源さん見たことないし、正子さんだってあんな真剣な顔、きっと大変なことが起ころうとしてるんだよ?!あんたはけっこう適当なところが多いから、私は心配なんだよ」
ぼやけていてもわかるほど肩が震えているのがわかる。それよりもわかったのがあいつが今涙声で、今必死に泣くのを我慢している事だった。
あいつは昔からそうだった。小学校3年生の時、自分が怪我してもそんな泣かないくせに、俺が怪我をしたのを見ると、そりゃもう大きな声で泣いていた。
あいつは、結は、自分が辛いのは我慢出来るが、俺が怪我したり、辛かったりすると自分のこと以上に辛いと感じてしまう。そんな優しいやつ、俺の知ってる人間で結だけだ。だからこそ俺はこいつから不安を取り除いてやりたい。いつも笑顔でいて欲しい。だって俺は、結のことが好きだから。
「大丈夫、安心しろ、なんかあっても絶対お前のとこに戻ってくっから、1番にお前に顔を見せに行ってやる。約束してやるよ。」
「本当に?、もし破ったらどうすんの」
「そうだなぁ、んー」
少しでもこいつを安心させてやる言葉・・・
「約束を破るなんて現象は来ない、永遠にだ!!!」
その言葉に結は軽く反応した。ほとんど聞こえなかったが、少し笑ってくれたような、そんな気がした。
「あっそ、じゃああんたの大好きなチーズ料理を今度作ってあげるよ」
「おい、チーズは兄貴が好きなだけで、俺は逆に嫌いなんだけど!!」
「う、うるさい、もうチーズって決めたの、んじゃあね」
そう言った後、脱衣所の扉が閉まる音が聞こえた。
俺も覚悟が決まったところで風呂からあがり、和服に着替え、鏡の前で再度覚悟を決める。
「さてと、あいつのチーズ料理のために行きますか」
そして、ばぁちゃんが待つばぁちゃんの部屋に向かった。
「ばぁちゃん、入るぞ」
「入りなさい」
そう言われて入ってみると、そこには親父と一緒に静かに待っているばぁちゃんの姿があった。俺も目の前で座り、話を聞く姿勢に入った。
「晴明、お前が見たその少女はたしかに黒い服を着ていたのだんだな」
親父にそう言われて俺は首を縦に振った。それを見た親父はとてもつらそうだった。どうやら嘘だと言って欲しかったようだがこれが真実なのだからしょうがない。
「晴明、お前が見たのは死神じゃよ」
ばぁちゃんにそう言われて俺は口に溜まっていた唾をゴクリと飲んだ。ばぁちゃんはさらに話をすすめた。
「昔な、ばぁちゃんも産まれてない時からこの村にはある出来事があったんじゃよ」
「ある出来事?」
「そうじゃ、昔からこの村では突然成人になる前の男女が突然消えるという事件がおきておったんじゃ、警察にも頼ったんじゃが全く手がかりがなくてな、結局警察も手を引いてしまったんじゃ」
ばぁちゃんの言葉、一言一句全て聞き逃さずに聞いた。でも昔の警察ならそれを解決できなくても仕方ないような気がした今と比べて技術の発展してない時代なら仕方ないと俺は思った。
「それからも必ず半年に1人は突然消える事件は起き続け、こんな村には居れないと村を出る者がでてきたのじゃ」
まぁたしかにそんな村には居たくないだろうな俺だってそんな村居たくないし。
「じゃがな数日後、村を出たある男が帰ってきたのじゃ、そいつは奥さんと子供ふたりを連れて出てった男なんじゃがな、なぜか村に来たのはその男だけじゃった。そしてその男の話を聞いてワシらはこの村から逃げられないことを知ったのじゃ」
「ばぁちゃん、それってもしかして・・・」
「あぁ、男残して消えたんじゃよ。女房も子供も」
「で、でも、もしかしたら奥さんが子供を連れて逃げだしたんじゃないの」
「それは無い」
ばぁちゃんは真っ直ぐに否定した。
「あの家族が一晩過ごした小屋で男以外女房も子供皆寝たのを確認した後すぐ男は用を足しに行ったのじゃがほんの数秒後には女房と子供2人がキレイさっぱり消えていたのじゃ、しかも来ていた服だけを残してな」
背筋が凍った、全身の鳥肌が全てたっているのが分かる。でも、俺はおかしな点に気づく。
「その死神?、そいつは成人する前の男女を襲うんだろ?ならなんで、奥さんすら攫われるんだよ」
「そんなのワシが聞きたいくらいじゃわい。だがおそらくじゃが、村から逃げたら見境なく攫われるのだろうと村の皆がそう言っておったわい」
「そんな・・・」
「それからはもう村から出ようなんて考えは村人からはなくなった。それをわかってくれたのか、死神は半年に2人から5年に1人になっていったのじゃ」
こんな静かな村にそんなことがあったなんて・・・
「そして、ばぁちゃんが生まれたのがその5年に1人が終わってすぐじゃった。おそらくワシの両親は感じたのじゃろう、次はこの子の番じゃと・・・」
たしかにそう感じてしまうのは無理もない気がする。そんな事件がおきていて5年に1人がちょうど終わって生まれてきたらそう考えるのは当然ちゃ当然かもしれない。
「それからは時は流れて、ワシが5歳になる誕生日を迎えたがワシは死神を見なかった、だから何とか5歳の誕生日を迎えられたワシの両親はとても喜んでおったのぉ、まぁ結局ワシよしもまだ幼い命が犠牲になってしまったのじゃが」
ばぁちゃんの顔はとても悲しそうだった。
「それからさらに時が流れて、ワシは無事20歳を迎えられた。その時の両親は今まで生きていて1番ほっとした瞬間だとそう言っておったわい、ワシもいままで恐怖していた日々からようやく解放された気分じゃった・・・」
ばぁちゃんは今までどんな思いで5年ずつの誕生日を過ごしていたんだろう、10歳、15歳はとにかく恐怖しながら過ごしていたに違いない。もしかしたら5年に1人もいつ終わりを迎えるかも分からないのに・・・
「じゃがそんな日々にようやく終わりが来る時が来たのじゃよ」
「終わり?、5年に1人が終わったの?」
「あぁ、ある者の犠牲とある人によってな・・・」
そう言い放った瞬間、親父が自分の手を強く握りしめるのが見えた。
「その人って一体誰なんだ?」
ばぁちゃんは大きく深呼吸してから答えた。
「ワシの娘、香凛と霊媒師、光正様じゃ」
「?!ばぁちゃんの娘、じゃあ俺の伯母か?」
「そうじゃ、本来なら源十郎には姉の香凛がいるはずじゃった、じゃがの香凛は見てしまったのじゃ、黒い服を着た死神の少女を・・・」
外の天気が徐々に荒れていく、天気予報ではたしかにここら辺の天気は荒れるとは聞いていたけど、タイミングが良すぎな気がした。
「それからは村の皆にも相談したがこれは逃れられないことは既にワシがいちばんよく知っている事じゃった。じゃが自分の娘の為ならば必死になって探した、どうすればこの呪いを解くことが出来るのか、限界まで調べたが、全く解く方法は見つからんかった。絶望して落ち込んでいた時、あの人、光正様が来てくれたのじゃ」
さっき言ってた霊媒師か・・・
「光正様は、ワシの娘を救ってくれると約束して下さった、ワシはもうこれしかないと思い彼を香凛の元へと案内した、ワシの実家はこの寺だったため色々と準備はこっちで済ませられた。そしてとうとうその死神は現れたのじゃ、死神は光正様の命と引替えに山奥に封印されたが、何故かワシの娘はその時にはもう息をしておらんかった」
風が外で強く吹き荒れている、雨もいきなり強いのが降ってきた。
「どういうことだよばぁちゃん、だって死神の少女は封印されたんだろ?なんで香凛さんは死んだんだ?意味わかんねぇよ」
「ワシもそう思った。じゃがな、真実はもう虫の息だった光正様が教えてくださったのじゃ」
「真実ってなんだよ・・・」
雨と風がさらに強くなっていく。
「死神はただ守っていたのじゃ狙われている子供たちを」
「死神が、なんで人を守るんだよ訳わかんねぇ。じゃあ誰がやったってんだよ!」
さらに雨と風が強くなり、家がガタガタと音を立ててる。
「その正体はな、ジュッ」
その瞬間何も聞こえなくなった。雨の音も風の音も何も聞こえない。でも目の前にいる親父とばぁちゃんの顔は見えたがだんだんとさっきまでの表情とは違いまるで化け物を見る眼差しを俺に向けている。いや、正確には俺を飛び越えて、後ろを・・・カッっと雷で周りが明るくなる。その明かりで俺は気づいた俺の影と一緒に映るもうひとつの影に。その影が俺の耳を手で抑えて、何も聞こえないようにしているのを・・・俺はその瞬間眠るように気を失った。
気がつくと俺は木に囲まれていた。雨と風が容赦なく俺に攻撃してくる。寒い、このままじゃ寒くて死んじまうぞ、俺はとにかく状況を確認した。今ここはおそらく山奥の森の中、明かりはないけど近くのものならなんとか見える、そして雷の明かりも時々周りを明るくしてくれる。
「とにかく歩かなくちゃな」
俺は歩き始めた。道が合ってるのかすらわかっていないのに、しかも裸足だから歩く度に石や砂利が足の裏に刺さって痛い。でも歩かなければ寒くて死んじまう、なら歩くしか今のところ選択肢はない。
俺は今日の出来事を口に出しながら歩いていた。
「全くばぁちゃんには娘がいたなんてなぁ、生きていたら俺の伯母だったわけだからお年玉もかなり貰えてたかもなぁ、てゆうか死神が人を守るってどーゆーことだよ、死神なら死神らしく人の命を奪えってんだよなぁ。まぁあんなちっちゃな少女には無理ってもんがあるか。てゆうか早く帰んねぇとマジでやばいな、あいつとも約束してるしなぁ必ず帰るっていうな」
そんなことを言っていると、目の前に人がいるのが見えた。俺よりも年上の男性っぽいな、きっと道を知っているはずだ。俺は徐々に近づき、目の前まで来て声をかけようとした瞬間、何かおかしいことにようやく気づいた。
「なんでこんな時間に1人で居るんだ?まずなんでこんな大雨の中傘をささない?いそれ以前になんで・・・」
「あんたの全身、そんな黒いんだ?」
やばい逃げなきゃっと思った時には遅く、何故か体が動かなかった。その全身真っ黒な男性はゆっくりと俺の方を向いた、俺はその瞬間恐怖しかしなかった、顔がなかったのだ、あるのは口だけだった。早くここから逃げるために俺は動かないからだに動け、動けっと強く念じながら体を動かそうとするも全く動かない。しかも体の感覚もなくなってきたためか雨が当たる感覚もなければ風の冷たさもない。そしてその黒い影は徐々に俺に近づいてくる。そして周りの木々の間からその黒い影が徐々に現れ始めた。気が付けば俺の視界はその黒い影でいっぱいだったおそらく後ろにもいるだろう、現れた影達も俺に近づいてくる。体はやっぱり動かない、俺は死を覚悟した。そして心の中で俺の好きなあいつに「ごめん、約束守れそうにねぇわ」っと思いながら俺の首まで来たその黒い手が触れそうになった瞬間、黒い影の動きが止まったのだ。一体何がと思いよく見ると目の前にあの少女が立っていた。少女は俺に喋りかけてきた。
「よかった、今回は間に合った。でもごめんなさい。説明している時間はないの。私の名前は咲羅。そしてこれからあなたにはこことは違う世界に行ってもらいます」
頭が働いてないのか、あまり理解出来ないでいる俺にさらに話しかける。
「怖い思いをさせて、ごめんなさい。私のせいです、全部私の・・・」
でも分かることことはあった、その少女は泣いていた。大きな涙を流しながら。
「おこがましいけど、身勝手だけど、でもあなたならきっと・・・」
俺は少女を助けるために手を伸ばしたが、届かなかった。
「お願いします。どうか私を、世界を救ってください」
その瞬間俺は黒い何かに吸い込まれた。吸い込まれた瞬間俺は思い出した。あの黒い影の名前を。あの時ばぁちゃんが電話で話していた時、本当は聞こえていたのに聞こえないふりをして忘れようとした名前。そうあの影こそ、呪人影だ。
あれからどうなったんだっけ・・・ここは家か、そうか俺は帰ってきたんだ。
「おはよう」
この声、毎日聞いてる声だ。間違いない、俺の好きなあいつだ。
「おはよう、むす・・・びっ」
声は結だった。だがその姿は黒くつつまれていて、正しくあの存在と一緒だった。
ハッ!となってようやく夢だということに気がついた。どうやら朝を迎えたらしい目覚めた場所はやはり山奥の森の中だった。周りにいたはずの呪人影とあの少女の姿はなかった。とりあえずまずは下山することにした。
「ちくしょうやっぱり靴が無いと痛てぇな」
そんなことを言いながら歩いていると何やら看板のようなものがあるのに気が付いた。見てみると「下山コース」と書かれていたのでその道を行くことにした。ようやく地上にたどり着くと、近くに湖があった。顔が汚れていたので湖で洗いながし、ようやく俺は気がついた。
「ここは何処だ」
全く見た事のない場所だった。あたり一面草原で、何やら道らしきものはあるものの自動車が通る道ではないきがした。でも道に残っている跡からしてどうやら荷車を使っていることがわかった。
「まぁこの道を通っていけばそのうちどっかにはたどり着くか」
俺はまた歩くことにした。正直とてもめんどくさいが歩くしか先に進む手段がないので、仕方がない。
歩きはじめようとしたとき腰に違和感を感じた。
何やら剣のようなものが腰にぶら下がっている、試しに手に取って鞘から抜いてみると。
「おぉ」
それは綺麗な白い剣でグリップの上のガードの真ん中には綺麗な赤の宝石のようなものが埋め込まれていた。剣を鞘に戻し、再び歩きだした。
3時間ほど歩いたところで、さすがに腹が減ってきていた。昨日は寒くて死ぬかもって思ってたのに、今日は飢え死にしそうになっていた。
「キャーーーーーーーーーー」
突然女の叫び声が聞こえてきた。そんな遠くないはずだが、よく見ると右の森から2人の女性が飛び出てきた。1人は銀髪の長い髪の女性ともう1人は紅色をした同じく長い髪をした女性だった。少し遅れてそれは出てきた。
それはまさしく黒い人だった。だが口だけしかなく、その姿はまるで、呪人影そのものだった。
俺は正直ビビってしまった。このまま反対方向に逃げれば俺は逃げ切れる。俺は助かるんだ。そう思いながら突っ立っていると銀髪の女性と目が合ってしまった。そして次の瞬間彼女は大きな声で俺に言い放った。
「たすけてぇー!!!!!」
すると俺はいきなり走り出した。おいおい嘘だろ、あれが恐ろしい存在なのは俺がいちばんよく知っているはずだぞ。でも、そうだ俺は彼女の顔を知ってしまった。彼女の助けを呼ぶ声を聞いてしまった。そうだ、親父が言ってたな。
「女が助けを求めたら死んでも守り抜くのが男の役割だってなぁ!!!!」
俺は全力で彼女の元へと走り出した。もう迷いはない。あれは俺が倒さなきゃいけないやつだ。きっと大丈夫だ。根拠はないけどこの剣があるから。だから頼む。剣よ、俺に彼女達を守れるだけの力を貸してくれ。
彼女達がすぐそこまでやってきた。俺は自分が今出せる最大の声でこう言った。
「しゃがめぇー!!!!」
彼女たちは反射的にヘッドスライディングの姿勢でしゃがみ、俺は剣を抜き、後ろにいた黒い化け物に斬りかかる。
すると突然剣が白く輝き出した。その白い光は俺の周りを包み込んで行く。一瞬俺は死んだのかと思った。確認のため自分の心臓がある胸に手を当ててみる。動いていなかった。
「あ、マジで俺死んだのか?でもさっきの緊張が抜けてなくて心臓がバクンッバクン言ってるのを感じるんだけどなぁ」
よく触ってみたらなんか硬すぎる感じがしたのでよく確認してみると、俺は鎧を着ていた。しかも純白の全く汚れのない白く美しい鎧を着ていたのだ。
「いつの間に着たんだろ?、てゆうかさっきまで持ってた剣どこいった?!」
自分の持っていた剣が無くなって混乱していると、ある重大なことに気づいた。
「そんかことよりもさっきの黒い化け物は?」
と思い後ろを見てみると、そこにあったのは化け物の下半身だけだった。上半身は周りを見渡してもどこにも落ちてはいなかった。下半身もなんでか徐々に粉状になって最終的に風といっしょに消えていった。どうやら倒せたようだったので安心した。
「あ、彼女達は?!」
彼女達のことをようやく思い出し、後ろを見てみると、2人共倒れていた。もしかして死んでしまったのではないかと恐る恐る彼女達の口に手を当てると彼女達の口から空気が出ているのが確認できたので、どうやら気絶しているだけのようだった。
「無事は確認できたけど、このままここに放置して行く訳にも行かねぇよなぁ」
俺は考えた結果、彼女達をとりあえず街まで運んで行くことにした。彼女達があの森から出てきたってことは近くに街があるに違いないと思ったからだ。しかもこの鎧を着ていると何故か彼女達を担いでも全然重たく感じないので別に苦ではなかった。でも、問題がひとつだけあった。
「この鎧、脱げるよな?」
そんなことを考えながら、俺、神宮司晴明は道のりを真っ直ぐ歩き始めた。