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最終話

「それにしても何で急にこんなことを?」

 ようやく落ち着いてきたころ、そんな言葉を投げかけられた。

 その言葉にドキリとした。今になっては、マリアとリチャード様の仲を疑っていた上に、婚約解消されると思っていた。なんて言えるはずもない。

 想いが通じ合っていたことを知った今としては、先ほどまでの自分の考えが痛々しい。 

 明らかに先走った発言だったとはいえ、そのおかげでようやくリチャード様の気持ちに気付くことができたのだから取り消す訳にもいかない。

 どんな風に誤魔化すべきかと悩んでいると、リチャード様がにこりとほほ笑んだ。


「まあ、理由なんて何でもいいのだけれどね」

 そういってぽんぽんと優しく頭を撫でられる。

 目の前のリチャード様はとても機嫌が良さそうに笑っている。

「やっとエミィから好きだと言ってもらえて嬉しいよ」

「リチャード様……」

 リチャード様の言葉に私は恥ずかしさから思わず俯いてしまう。勘違いがあったとはいえ、ずいぶん熱烈な告白をしてしまったものだ。

 それでも想いが通じ合っていたことを確認できたのは、私にとっても嬉しい出来事だった。

「私も、嬉しいです」

 うつむいたままぽつりとつぶやくと、ぎゅっと抱き締められる。


「愛してるよ、エミィ」

 その後に甘い声が降ってきて、体温が上がっていく。

 やっぱりリチャード様とのスキンシップには慣れなくて、どうしても照れてしまう。

 なんだかんだ言ってもやっぱりリチャード様は私の推しなのだ。それは記憶が戻った時から変わらない。

 その上、この世界に生まれ変わってから触れた生身のリチャード様を知って、更に大好きになっている。

 そんな大好きな人から与えられるスキンシップは嬉しくも恥ずかしいものだった。


「ねぇ、エミィ返事を聞かせて?」

 頬に手を寄せて息がかかるほどの距離まで近づく。そんな体勢で問いを投げかけられて、ますます顔が熱くなっていく。

「……リチャード様」

 真っ直ぐにリチャード様の顔が見られなくて、思わず視線をそらしてしまう。

 けれど真っ赤になった顔は隠しようがなく、リチャード様は楽しそうにくつくつと笑っている。

 この行為にどこかからかいめいた気持ちがあるとわかっていても、反射的な反応だけは隠せそうにない。

「ほら、教えて? 私のことをどう思っているの?」

 おろおろしてしまう私とは裏腹にリチャード様はとってもご機嫌だ。

 今までのリチャード様はどこか完璧だった。それがどうだ。こんないたずらっ子の少年のような姿を見せてくれるなんて思いもしなかった。

 これが惚れた弱みというやつか、そんなリチャード様も素敵だなと思ってしまう。


 でも、今はそれどころではない。

 何を差し置いても顔が近い。そしてめちゃくちゃ顔がいい。

 推しの……推しのドアップ反則じゃないだろうか。

 視線を必死で逸らしてもリチャード様の整った容姿は目に入ってくる。

 髪の毛はサラサラ、肌のきめは細かくて、青い瞳は吸い込まれそう。瞳を縁取るまつ毛は長くて、薄い唇もすっと形が整っている。

 完璧な美貌がそこにはあった。今日も今日とて推しの顔がいい!


 そんな現実逃避をかますぐらいには私は動揺していた。

 何度でも言おう。距離が近すぎるのだ。

 顔は真っ赤だし心臓はドキドキうるさい。そしてリチャード様はそんな私をどこかで楽しんでいる。

 でも、きちんと告げなくては。リチャード様から貰った言葉に私は返事を返せていない。


 そらした視線をリチャード様に向けて、思いっきり息を吸う。

「私も……リチャード様のことを愛してます」

 一思いに告げるとリチャード様はにっこりと笑ってくれた。

 そしてそのまま二人の距離が近づいていく。

 予告もないままされた三度目の口づけはやっぱりどこまでも優しくて。そっと目を閉じて幸せな気持ちに浸る。


 私は今日やっと名実ともに推しの婚約者というポジションを手に入れた。

これで完結となります。

最後までお付き合いいただきありがとうございました。

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