13歳 その2
あの後のことは正直よく覚えてない。
気が付けば私は自室で頭を抱えていた。
リチャード様の事はそれなりにちゃんと学園に送り出した。はずだ。
多分、きっと。大丈夫よね?
だって、見送りのシーンなんて覚えていなくて当然である。
それよりも私の脳内を占めているのは先ほどのアレだ。
いったい何だったというのか。どうしてそんな事になったのか。
未だに混乱の真っ最中である。
まさかこんなイベントが自分の身に起きるとは思ってやしなかったんだから、当然の事だろう。
「私、リチャード様と、キスして……」
そっと唇に手を当てると、先ほどまでの感触が蘇ってきそうになって慌てて頭を振る。
だけど少し思い出しただけで私の顔は真っ赤になっていた。思い出しただけでも恥ずかしさが募ってくる。
中身は24歳なのにまるで中学生の乙女みたいに浮かれている。いや、エイミーは13歳だから中学生でも正しいのか。
でも、それだけあのキスは破壊力が強かったのだ。だって、推しと……リチャード様とキスするなんて、あり得るはずがないと思っていた事が起きたのだから。
それにしても、リチャード様の唇は柔らかかった。
対する私の唇はガサガサとかしてなかっただろうか……なんて。大丈夫。大丈夫なはずだ。
前世の私ならともかくエイミーになってからスキンケアに抜かりはない。自分じゃなくて侍女達がしっかりしてくれてるおかげだけど。
うん。触ってみても、ちゃんとぷるぷるで柔らかい。
なんて、ついうっかり現実逃避をしていまう。
だってリチャード様からキスされるなんて一体全体どういう事だ。
その真意がどうしてもわからなくて戸惑ってしまう。
「そのうえ……好きだなんて……」
それに。キスだけじゃなかった。
「誰よりも好きだ」なんて、思い出すだけでも赤面物の愛の告白めいた言葉がセットでついてきたのだ。
いや、というかアレは普通に考えれば愛の告白じゃないか。
どうしてこんなことになったのか。
いくら考えてみても自分ではさっぱりわからなくて、更に頭を抱えるばかり。
「フィル兄様だって流石にこんな事はしないわ……」
そうだ。流石のフィル兄様でもさっきのアレはあり得ない。
いくらシスコンだとはいえ、そのスキンシップには節度があった。
唇にするキスは頬や額にするそれとは訳が違う。
そう考えると、さっきのアレは「兄妹」としての範囲を逸脱しているように思えた。
それは、つまり……。
リチャード様の中での私が妹のような存在とは違っているってことになる訳で。
そう考えると今回の事につじつまが合う。つじつまは合うけれど。
だけどそれを認めてしまっていいんだろうか。
だって私は、妹のように思われているとずっと思っていた。
それがゲームのシナリオ通りだから。
「妹のような婚約者」それがエイミー・シュタットフェルトに与えられた役割だったから。
でも、もしそうじゃなかったとしたら?
リチャード様は婚約者としてちゃんと見てくれているとしたら?
今までのスキンシップの意味も大きく違うとしたら?
「どうしよう……」
つぶやいた言葉は誰に届くことなく空に消えていった。




