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10歳 その12

「はぁ……」

 お茶会も終わり、その夜。ベッドに寝そべってため息を吐く。

 リチャード様にフィリップにシリル、アレン。改めて攻略対象の4人と顔を合わせると、やっぱりここは「貴方と私で幸せに」(ゲーム)の世界なんだと実感させられる。


 今日改めてはっきり思ったのは、今の私はどうやら前世の記憶に相当引きずられているらしいという事だ。薄々気が付いていたけれど、現世の私(エイミー)よりも前世の私(木崎絵美)としての意識が強く表面に出ている。

 言葉遣いや基本的なマナーなんかは、エイミーの経験が残っているし生きている。だから、エイミーとしての意識が全く無くなった訳ではないと思うのだけれど。物事を考える上で出てくる性格はほぼ木崎絵美のものだ。

 過ごしてきた年齢の長さの違いなのか、そうでない理由があるのかはわからないけれど、このままで良いのか少し悩んでしまう。


 今回のお茶会でも、迎えに来てくれたことにしろ、衣装の色にしろ、婚約者として大切に扱ってくれるその気遣いに嬉しくなると同時に胸が痛んでいた。

 前世の記憶が戻ってからはずっとこうだ。大事にされるたび離れがたい気持ちが出てきて、自分をたしなめてを繰り返す。

 スキンシップに慣れる事がなくてぎこちないままなのも、そのせいだとはわかっている。

 推しの婚約者。そんな素敵ポジションを満喫しながらも、いつかくる別れの日の事を考えてしまう。こんな事なら前世の記憶なんて戻らなければ良かったと思いに囚われる。

 いつか来る日の事を覚悟しようだなんて思っていても、結局はこの様だ。リチャード様と触れ合えば触れ合うほど、好きの気持ちが募っていく。そして別れを思うと苦しくなる。


 エイミーの記憶だけだとしたら絶対にありえなかった感情。本来であれば大好きな婚約者に大切にされたなら無邪気に喜べばそれでいいはずなのに。そんな簡単な事ができなくなっている。

 今のところは「照れ屋で控えめな婚約者」で済んではいるけれど、あまりにもこれが長続きすると流石に不審に思われそうだ。

 けれど、そもそもが前世の推しとのスキンシップに慣れるってところから始めないといけない訳で。前世からの気持ちが募っているだけに、正直に言えばあまり自信がなかった。


 でも、この後ヒロインは確実に登場するだろう。そしてリチャード様と恋に落ちる可能性がある。

 ヒロインが誰のルートを選ぶか未知数な以上、まだ「可能性」に過ぎない。なんて、自分にまた言い訳してしまう。


 時期的にゲームの開始はまだ先の事とはいえ、いつヒロインが現れるかわからない。ずいぶん後回しにしてしまったけれど、とりあえずゲーム中の設定だけでも思い出しておくべきだろう。

 ゲームの開始は5年後、貴族が通う学園にヒロインが入学するところから始まる。そして、そこから1年間でエンディング。

 攻略対象は5人。

 第二王子のリチャード様、伯爵嫡男のフィリップ、宰相息子のシリル、騎士団長息子のアレン。そこにヒロインの幼馴染のローランが加わる。

 リチャード様ルートとフィリップルートでのライバルキャラが私。シリルとアレンはそれぞれ婚約者がいて、ローランはライバルキャラは存在せず。

 ヒロインのデフォルトネームは、マリア・ロレーヌ。

 ブルネットの髪にブラウンの瞳。という日本人に近い配色のキャラクター。特別美人ではないけど愛嬌がある顔立ちという説明だった。

 キャラ立ちはそんなにしてなくて、割りと入り込みやすいように設定されたヒロインだったように思う。

 と、こんなところだろうか。本編の内容はルート次第で変わってしまうから、今思い出せる情報と言っても正直に言えばそこまで多くはない。


 後はそう。リチャード様ルートでエイミーがどんなふうに身を引くか。だとか。

 あのシーン感動的で何回もやったなぁ。それでエイミーに感情移入してうっかり泣いたりもして。

 忘れてしまいたいというか、無かったことにしてしまいたいという気持ちはあれど。あの時の彼女(エイミー)の覚悟を思うとそんな事も言ってられない。

 好きだけど、好きだからこそ身を引いて幸せを願うのが本当の恋愛なんじゃないかと。そんな事を前世では考えたりもしたっけ。

 まあ、その時の私ってば恋愛なんて乙女ゲーの中でしか体験していなかったけれどね。

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