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10歳 その11

 リチャード様との婚約発表のお茶会。その日は案外すぐにやってきた。

「こんにちは、エミィ。迎えにきたよ」

「ありがとうございます。リチャード様」

 やってきた迎えの馬車には、まるでそれが当たり前かのようにリチャード様が同乗していた。

 会場は王城の上、夜会と違ってエスコートもいらないお茶会なのに、わざわざ迎えに来てくれるなんてやっぱりリチャード様は優しい。


 差し出された手を取って馬車に乗り込みリチャード様の正面に腰かける。

 私の姿を上から下まで眺めた後、リチャード様がふっと微笑んだ。

「ドレス、よく似合ってるよ」

「はい。素敵なドレスをありがとうございます」

 私はといえば、今日のためにリチャード様から贈られたドレスやアクセサリーを身につけている。

 金糸で刺繍されたレモン色のドレスに青い石を使った髪飾りとネックレス。リチャード様の髪と瞳の色を使ったそれらは、全体的に可愛らしいデザインで作られており、10歳の少女(エイミー)の魅力を際立たせていた。

「……リチャード様も似合ってます」

 対するリチャード様は白地に亜麻色で刺繍を施した衣装に、カフスなどの小物には緑という私の髪と瞳の色を取り入れた服装をしていて、何だか照れてしまう。

 お互いの色を使った服を着ているなんて、バカップルみたいにも思えるけれど、婚約発表の日なんだから多分これくらい大げさでもいいんだろう。



 王城について、婚約発表のお茶会がはじまった。招待客の大半が知らない人で正直に言えば気が重い。

 代わる代わるやってくる人たちからお祝いの言葉を受けながら、リチャード様の横でにこにこするのがとりあえずの私の役目だ。


「二人とも婚約おめでとう」

 そんな折、フィル兄様が私たちの元にやってきた。実の兄という顔見知りの姿にほっとする。

「ああ、ありがとう。フィリップ」

「フィル兄様。ありがとうございます。」

 二人並んでお礼を言うとフィル兄様がいたずらっぽく笑う。

「エミィを泣かせるようなことだけはしないでくれよ。リチャード」

「当たり前だろう。大切なエミィを泣かせるだなんてあり得ないさ」

 兄様とリチャード様がいつものように軽口を叩きあっていると、そこに近付いてくる姿があった。

「相変わらずだな2人共」

 眼鏡姿のその少年は、目くばせすると自然に話に入ってくる。

「やあ、シリル」

 シリル・ローレンツ。宰相閣下の息子で一つ年上の11才。

 当然と言えば当然ながら彼も「貴方と私で幸せに」の攻略キャラクターの一人だ。

「リチャード殿下、エイミー嬢。この度はご婚約おめでとうございます」

「ありがとう、シリル」

「ありがとうございます。シリル様」

 形式ばった挨拶を受けてやはり形式に則ったお礼を返す。


 そこにもう一人近づいてくる影があった。

 長身で引き締まった体躯のその姿はアレン様のものだ。

 アレン・スペンサー。騎士団長の息子で伯爵家の嫡男。年齢は私と同じ10才。

 当たり前だがこちらも攻略対象の一人である。

「リチャード殿下、エイミー嬢。この度はおめでとうございます」

「ああ、アレン。ありがとう」

「ありがとうございます。アレン様」

 決まり切った挨拶を交わすと、アレン様が私たちの服装を見てにっこりとほほ笑む。

「仲良くやってるみたいですね」

「ああ、当然だろう」

 力強く頷くリチャード様。気づいたら腕を取られていて隣に引き寄せられる

「ええ、まあ」

 そんなリチャード様の行為に照れながらも私もはにかんで見せた。


 その後は男子4人での会話が始まって私は一歩下がる。

 リチャード様にフィル兄様にシリル様、アレン様。4人は幼馴染でとても仲が良い。4人揃うのも久々だろうから尽きない話もあるんだろう。


 それにしても攻略キャラクターが4人も揃うだなんて壮観な光景だ。

 ただし、それは前世の私(木崎絵美)からするとの話で、今の私エイミーからすればこれはごく自然な光景だ。

 むしろエイミーがリチャード様の婚約者である以上、今後もこの4人と行動を共にする事もあるかもしれない。


「エイミー嬢。傷の事を聞きました……残念でしたね」

 不意にシリル様から話しかけられた。一人で後ろに下がっていたので気を使ってくれたらしい。会話のチョイスが少し残念だけれども、そんなところも実直なシリル様らしい。

「いえ、シリル様。そんなに大した傷も残らなかったんですよ」

「大したことない訳ないだろうエミィ。結局消えていないんだから!」

 そこに入ってくるシスコン、もといフィル兄様。

「そうだよエミィ。可愛い顔に傷が残ってしまって……」 

 そして追随するリチャード様。

「フィル兄様もリチャード様も少し大げさに過ぎます。こうやって前髪を下ろしていれば見えないような傷ですのに」

「年頃の女の子の顔に傷が残るんですよ。二人の気持ちも分かってやってくださいエイミー嬢」

 大したことはないと言い張りたかったのに、アレン様にまで追撃されてしまった。

 傷に対してこの辺の感覚に馴染めないのは、前世の私の感覚が強いからだろう。

「それはそうですが……」

「まあ、そんなことは関係なく、エミィの事は私が大切にするから問題はないけどね」

 にっこり笑って会話を閉じるリチャード様。相変わらず発言が甘々です。

 照れくさいようなむずがゆいようなそんな台詞に、条件反射のように私の顔は赤く染まっていく。

「エミィは照れ屋だよね。そんなところも可愛いけど」

 そんな私を見てさらに笑みを深くするリチャード様。すっと頬に手が伸びて赤くなったそこに触れる。

「……リチャード様」

 リチャード様の方に顔を向けられてドキドキと心臓が高鳴る。真っ直ぐこちらを見据える青い瞳は吸い込まれそうなくらい綺麗で。

「見せ付けるのもほどほどにしてくれ」

 呆れ交じりのフィル兄様の声に、現実に戻ってきた。

 うっかり二人の世界を作ってしまっていた。恥ずかしい。

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