93.シスコン悪役令嬢、墓参りと……添い寝?
フィアナの言った通り、お墓は村のはずれにあり多少歩くことになった。ただ、それでも村の敷地内だったので特に危険もなく辿り着いた。
「こちらです。すみません、お花を持ってもらって」
「これぐらいいいわよ。私がお邪魔しているんだしね」
護衛の人達にはお墓の入り口で待機してもらい、そこからはフィアナと二人だけで歩を進める。
この世界の墓は日本のそれとは違う形式で、十字架とその下に名前を彫ってある石が埋まっているようだ。
ただ、村の規模のせいなのか最低限の整理しかされてないのか、雑草は生えているし石も汚れも少し目立つ。
「……ちょっと掃除しないとだめね」
「え?」
日本人気質なせいだとは思わないが、こういう墓が汚れているのはあまり好ましくない。それにフィアナを素直で真っすぐで可愛い子に育ててくれたのは誰でもない彼女の両親なのだからそんな墓を放置するわけにはいかない。
「お、お姉様!? 何をしてるんですか!?」
「何ってお墓の周りは綺麗にしないとダメでしょ。いつも来られないんだったら余計にね」
出掛け用の服なので多少汚れる分は構わない。贅沢を言うなら軍手が欲しかったが流石に用意はしていなかった。
ただ、早速掃除をしようと身を屈めた私はフィアナにがっつりと掴まれてしまった。
「な、なっ、なにをしてるんですか!? いえ、わかりますけど! でも、そこまではいいですって!!」
「だって誰かがしないといけないでしょ? ほらフィアナもやりましょう。別に本格的にやるわけじゃないし、ちょっとだけだから」
「そ、それは私がしますから……わざわざお姉様が手を汚す必要は……」
「何言ってるのよ。私達は家族なんだから一緒にやって当然でしょ。フィアナの両親は私にとっても大事な人なんだから」
そう言ってブチっと雑草を根っこから引き抜く。そんなにボーボー生えているわけでもないし時間もかからないだろう。
「お姉様……ありがとうございます。私……」
「いいのいいの。さ、ちゃっちゃとやりましょう」
とまぁ、こんな感じで出来る姉アピールをしつつ、勿論フィアナの両親にも敬意を払いながらお墓の掃除を進める。目論見通り時間はあまり掛からなかった。
「こんなものかしら」
「はい! じゅうぶん綺麗になったと思います! ありがとうございます!」
出来れば墓自体の水洗いもしたかったが流石に無理だ。それ用のスポンジも洗剤もないし。とりあえずフィアナも満足してくれたようだし、今回はこれぐらいにしておくことにする。
「それじゃ、はい」
フィアナに以前買った花束を渡す。
「……こうしてちゃんと時間を作ってお花を供えられてよかったです。全部お姉様のおかげですね」
「私だけじゃないわよ。お母様やお父様もだし、色々な人のおかげだわ」
「そうですね……みんなのおかげ、ですね」
フィアナはそう言ってから無言になり、そっと花を供えた。そして立ち上がると目を閉じた。ここでも日本との違いが出てくるのだが、目を閉じて追悼の意を告げるのがこの世界の常識らしい。
私も同じように目を閉じて安らかな眠りと、そしてフィアナのことは任せてくれと決意を述べた。勝手だとは思うがそれぐらいの覚悟はある。
(……フィアナは今、何を思っているのかしら)
恐らく横で同じように目を閉じているフィアナの意中は私にはわからない。だけど、きっと思うところはたくさんあるはずだ。それが終わるまでは私もじっくりと──
「お姉様? 大丈夫ですか?」
「ほえっ?」
と思っていたら割とすぐに声がかかった。思わず目を開けたらフィアナの心配そうな視線と重なった。
「あ、あれ? もう終わったの?」
「……? はい、もう大丈夫です。戻りましょうか?」
もっと時間がかかると思っていたのだが、思ったよりあっさり終わったようだ。まあ、長ければ良いというわけでもないし、彼女が大丈夫だと言ったのなら大丈夫だろう。
「じゃあ、戻ろうか」
「はい、あの、ありがとうございました。お父様もお母様も喜んでくれたと……思います」
「いいのよ。私も挨拶出来てよかったわ」
そして私達は待ってくれていた護衛の方と合流して村に戻る。戻った頃にはもう夕日の優しい光が村を包んでいたのが凄く綺麗で私の心に印象を深く残した。
「え? 泊まる場所? フィアナの家?」
「はい。それがどうやらそのまま残っているらしくて……」
「へぇ、そうなんだ」
村に戻った私達は一つだけある宿に一泊する予定だった。しかし、フィアナの話によればどうやら彼女の家がまだあるというのだ。
「私、詳しいことは知らないんだけど家って残るものなの?」
「いえ……大体はそのまま売られて譲渡されるか、取り壊したりするのですが……その、そのまま保管してくれていたらしくて」
「この村の人達が?」
そうだとしたらよっぽど優しい村人だ。しかし、フィアナは首を横に振った。
「その、エトセリア家の名義で買われていたみたいです……」
エトセリア家? それって私の家の名前だ。うん? ということは……
「お父様とお母様が、購入していたのかしら?」
そういえば大事な友人と言っていたし、もしかしたら残しておくつもりで買っていたのだろうか。流石にそればっかりは本人に確認しないとわからない。
「それで、一応……前回の住人、まあ私のことなんですけど。その人物だったら使用してもいいように契約がされているみたいで」
「あぁ、だから泊まれるってことなのね」
「はい。その、お姉様が良ければご一緒に……」
「まあ、そうね。フィアナがいいならお邪魔しようかしら。私も気にはなってたし。でも、本当にいいの?」
「もちろんです! というより一人だったら寂しいですし……お姉様にいて欲しい……ということもあるんですけど、なんてえへへ」
「まぁ……」
相変わらずありえないほどの可愛さクオリティを叩き出すフィアナに思わず脳から全てを惚けそうになってしまう。いかんいかん、あくまで姉としてしっかり役目を果たさねば。
しかし、その時の私はあまりにも浅慮だった。泊まる場所が一緒だということにどういう意味があるのか全く考えていなかったのだ。
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「あの、フィアナ?」
「はい?」
護衛の方達はそのまま予定通りの宿を取り、夜通し交代で警備をしてくれることになっている。仕事とはいえ本当にお疲れ様である。
食事も簡素ではあったが、村の方で用意してもらったのを食べた。フィアナの家は私の家と比べれば当然小さいけど、その素朴で一般的な造りは寧ろ日本のそれと似ていてある意味親しみを持てた。
そんな中でフィアナと二人きりの食事はワイワイとまでは言わないが穏やかに和やかに過ぎていく。フィアナの家族やこの家の思い出についても聞いたがフィアナは特に悲壮な感じもなく懐かしむように話してくれた。
それはいい。そこまでは何も問題はなかった。だけど……
「その、寝る部屋はここしかないの?」
「すみません、ベッド用の布団がこれしか用意できなかったみたいで……」
闇が降りてきて眠る時間になれば自然とフィアナの部屋に向かっていた。私も個人的な興味でどんな部屋に住んでいたのか気になっていたのだが、だけど寝る部屋がここしかないってのは聞いていない!
「その、私は別に床でも、いいのよ?」
「そんな……! それならお姉様がベッドに寝てください! 私が床に寝るので!」
「そ、それこそ無理よ! どこの世界に妹を床に放り出して眠る姉がいるのよ!」
「じゃ、じゃあ、一緒に!!」
「ぐ、ゆ、誘導された……!?」
いや、実際ベッドは多少大きいし、フィアナは小柄だしで寝ようと思えば寝られなくもない。しかし、しかし……!
「お姉様……その、本当に嫌ならいいんです。だけど、やっぱりこの家で一人って少し寂しいんです……あの、だめですか……?」
「いいわよ? 当たり前じゃない。寂しい妹をほっとけるわけないもの!」
「おねえさまっ! うれしい!」
あれ、なんかうまくやりこまれただけの様な気が……
「お姉様の部屋のベッドよりは質は悪いかもですけど、どうぞ」
「ま、まあそれは気にならないから大丈夫よ。それにベッドがこれしかないのならしょうがないわ」
「そうですよ。しょうがないんですよ」
さっきから先手ばかりを取られているような気もするが、まあいいかと考えるのをやめた。流石に床にそのまま寝るのは身体的にもきついし、別にフィアナと一緒に寝たくないわけじゃない。寧ろ逆だ。
「ふふ、何だか私の部屋で私のベッドにお姉様がいるのって不思議です」
「そうかもね。私もけっこう新鮮だわ」
フィアナの家自体はゲームで語られることはあっても、訪れることはない。だからこそ余計にそう感じる。
さて、それはそれとしていくら大きくフィアナが小柄とはいえベッドに年頃の少女二人入るとやはり少しだけ狭い。普通にお互いの服が擦れるぐらいには。
「…………」
ふと、フィアナとの情熱的(?)な接吻を思い出して僅かに顔が熱くなる。向かい合っているせいでお互いの距離はかなり近く、どうしようにも意識してしまう。
(ええい、とにかく寝るのよ。何かが起こる前に寝るしかないわ!)
布団に入っているせいでいつもより身近に体温を感じるし、細かい息遣いもしっかり伝わってくる。無駄に心臓の音が早まって大きくなっていくのを嫌というほど感じた。
「おねえさま?」
「っ」
そんな中で私の胸元で腕に包まれているフィアナが声を掛けてきた。思わず反応しそうになったが、今の私は寝ているのだ。寝ているから反応は出来ない、それ常識。
「おねえさま、寝てしまいましたか?」
フィアナの声も少しだけ舌足らずでかなり眠そうだった。きっと久しぶりの我が家で安心したのかもしれない。横に私はいるけど。
「おねえさま……?」
モゾモゾ、とフィアナが動く感触が伝わってくる。寝巻と肌が擦れ合う擽ったい感触に思わず声が出そうになったが何とか耐えた。
フィアナはそのまま私の胸元から上に移動してきた。一体、どうしたのだろうかと思っていたら……
唇に濡れた感触と、ちゅ、と小さな音が響いた。
(まああああああっ!!??!!)
ソフトキスといえど、またも唇にキスをされ体が震える。フィアナは寝惚けたように何度も何度も弱いキスを落としてきた。唇から頬、首筋……とにかく触れたところにキスを落としていくのだ。まるで私を食べていくように。
(ひいいいぃぃいい……!! フィアナああああっ!!)
何となくこうなる予感はしていたが的中してしまうとは、このままではどうなってしまうのか……まさかこの先にも進むつもりなのだろうか!? 一応私は寝ているはずなのだが。なのだが!
(……そ、それは流石にまだ……まだだめよおおおっ!?)
しかし。
(あ、あれ?)
急にその感触がピッタリと止んだ。あまりにも突然だったため、あくまで確認のつもりでうっすらと目を開ける。すると目を閉じたフィアナが視界に入ってきた。
「すぅ、すぅ……」
聞こえてくるのは穏やかな寝息だけのようで、見た感じどうやら眠ってしまったらしい。
「…………………………はぁ、まったくもう……無駄に緊張した、はぁ」
きっと疲れが溜まっていたのだろう、先に力尽きてしまったらしいフィアナを軽く撫でてあげた。
「んん、おねえ、さま。んふふ……」
気持ちよさそうな声が返ってきて一体どんな夢を見ているのか気になってしょうがない。まあ、でも穏やかに眠ってくれているならいいか、と小さく笑う。
「私もう……さびしく、なんか、ないですよ……」
「……ほんとにもう。可愛すぎてもアレね、ほんと」
私はそう呟いてお返しとばかりにフィアナの額にそっと唇を添えた。小さくフィアナが身じろいだがすぐに静かな寝息が再び静かに聞こえ始める。
そんなこんなでちょっと色々とあったのだが、何とか何事もなく私のフィアナの村訪問&墓参りは無事(?)終了したわけである。
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次回の投稿は11/11の22時頃を予定しております!
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