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87.純粋無垢な妹、姉への気持ち

 私にとってお姉様の存在は、綺麗な花の苗が土から芽を出して徐々に徐々に成長していくように大きくなっていきました。


 両親を失って、偶然の縁からこの家に拾われて、突然新しい家族が出来て──激動の年だったといえばその通りです。


 そんな中で出会ったセリーネ様、私のお姉様はとても不思議な方でした。


「あ、フィアナ! こっちこっちー!」


 学園ではお昼休みになると毎日私を迎えに来てくれて、周りのことなんか気にせずに大きく手を振ってくれます。


「相変わらず、です……」


 隣でアクシアが呆れたように言うのは最早日常の一つで、そんな彼女にクスリと笑いながらお姉様と一緒に午後を過ごす。


 それは私にとって大切な日常の一つ。


「今日は、カツサンドが買えたのよ! いつも売り切れてるし諦めてたから今日は最高の一日だわ!」


「そんなカツサンドで最高って……」


「何よアクシア、貴女カツサンドの魅力を知らないわね? だったら苦渋の決断だけど一つあげるわ」


「い、いや、それはいい……」


 コロコロと表情を変えながら楽しそうにアクシアと話すお姉様は木漏れ日に照らされてとっても綺麗に映ります。

 私はいつからかそんな風にお姉様に無意識に見惚れるようになっていました。


「フィアナ? どうしたの? お腹減ってない?」


「えっ、あ、いえ、なんでも、ないです」


「あっ、わかった。カツサンド欲しいんでしょ? この半分ので良かったらあげるわよ」


「……あ、ありがとうございます」


 お姉様の半分食べたカツサンドを何となく受け取って、これにさっきまでお姉様が口をつけていたんだと思うと、自然と体がポカポカとしてきます。

 その時はまだ、その熱が何なのかさっぱりわかりませんでした。




 それをちょっとだけ自覚することになったのは、一人でいたときの出来事がきっかけです。


「あ、あの、フィアナさん!」


「はい?」


 講義を終えた放課後。帰る準備を終えた私が廊下に出ると一人の男子生徒が声をかけてきました。その人は見たところ私よりも上級生で、私の学年の所にいるのは少しおかしい人でした。


「……えっと、なんでしょう?」


「急に声を掛けてごめんね。貴女のお姉さんにこれを渡して欲しいんだ」


 そういうと彼は一つの手紙を渡してきます。それはきっと彼の気持ちを綴ったものだということは私でも理解できました。そして、それを何故私経由でお姉様に渡そうとしているのかも。


 お姉様は他人の気持ちにはどこか敏感で聡いぐらいでした。しかし、何故か自分に向けられる好意という気持ちには恐ろしいほど鈍感でした。


 お姉様は妹の贔屓目をもってしても美人です。身長もスラッと伸び、スタイルだって出るところは出て、引っ込むところは引っ込む理想型。強気な瞳は寧ろ魅力的で、誰しもが将来彼女を隣に侍らしたいと思うのはしょうがないことだと思います。

 そして、私を前にしてお姉ちゃんと化す彼女もまた、誰から見ても魅力的に映ってしまうようでした。いつもキリッとした表情を不意に綻ばす彼女は、周りの生徒がどんな目で見ているのか全く考えていないに違いありません。


『いやいや、まさかこんな私にそんな目を向ける人はいないでしょう。それよりフィアナはどうなの!? 変な人に言い寄られてない!?』


 一度、そのことを注意がてら軽く伝えてみたら上記のような返事がきたので、本当に筋金入りの鈍感さんに違いありません。

 だから、彼女は自分に寄ってくる男子生徒を殆ど無意識に蹴散らしているようなのです。適当な理由をつけて、ちぎっては投げ、ちぎっては投げ……そうなると、何とか振り向いて貰えないかと方法を考えて私を伝書鳩にしようとしているのです。


 直接が駄目なら、ゾッコンに見える私に託して伝えて貰う。そうすれば少しは考えてくれるんじゃないかという希望を抱いて。


 だけど、私はその遠回しの思いを受け取った事はありません。


「申し訳ありませんが、お姉様に用事があるなら直接伝えて貰えないでしょうか。きっと私から渡すと逆に怒るかもしれませんから」


 事実、私がこういう事があったとその手紙を渡したら、彼女は憤ると思います。『わざわざ妹に声をかけて文を寄越すな』と叫ぶ姿が容易に想像が出来ます。

 そして何より、私も渡すのが嫌なのです。お姉様が色んな方に人気があり、その愛を向けられたいと思うのは私も同じだからわかります。だからこそ嫌でした。


「どうか、お姉様に直接お伝えください。すみません」


 お姉様が見知らぬ男性の腕を抱き歩く姿。楽しげに話す姿。愛する誰かに抱きしめられる姿。それを想像するだけで足下に大きな穴が空いたような強烈な虚無感に襲われるようになったのは最近の話。


(嫌……それは嫌……)


 それがどういう気持ちであれど、根底に強い独占欲があることはわかっています。いつか遠い未来、それが現実になる可能性だってあったとしても、それでもお姉様の横に私はいたいのです。


(私は、どうしたらいいんだろう)


 手紙を持ってきた相手に謝って引いて貰うと私は教室を後にします。


「フィアナー!」


 いつも通り、入り口でお姉様は待っています。明るい顔でにこやかに私を迎えるその穏やかな顔を周りがどういう目で見ているのかも知らずに。


「さ、帰りましょう」


「……はい。お姉様」


 差し出された手はやっぱり温かくて、ギュッと握られると心の中まで包まれるような、そんな感覚に襲われます。


(私は、どうしたら……)


 お姉様に振り返って貰えるのでしょう。


 それからも仲睦まじい姉妹としてお姉様と過ごしてきましたが、とあるパーティで私は知ることになるのです。


「察しの通り、クレスとは……その、恋人ですわ」


 お姉様の友人であるフロール様とクレス様。二人は恋人としてずっとお付き合いをしているようなのです。私は彼女らとはそこまで親睦深くはなかったので本当に何も知りませんでしたが、少し恥ずかしげに話す傍らでどこか幸せそうに見えたのは、私の願望からくる幻だったのかもしれません。


(私が、お姉様と……?)


 幸せに見えたのは私がそれを願っているから……? そう気づくと急に顔が熱くなってきて不思議な気持ちに囚われます。

 流石にあまりに顔に出ていたのか、お姉様にも「好きな人がいるの!?」と声を上げられました。ただ、私にも好きが何なのかわらかず、その時は適当に誤魔化すことしか出来ませんでした。


 だから、その後に響いたお姉様の一つの言葉に私は心から驚きました。


「あのさ、フィアナって私のことが好きなの?」


 心臓が口から出そうになる、という言葉が過言ではないほど驚愕しました。突然、こういうことを聞いてくることがあるから、お姉様には油断出来ません。

 結局、それも言葉を濁して逃げてしまいましたが……


 そんなパーティの終わり際、チラリとフロール様に見つめられた気がして思わず顔を上げると、視線が彼女と交わりました。その瞳は何かを私に伝えたいようなそんな意思を感じましたが、それを知ることへの謎の恐怖を感じて私は心の中で首を振り何も考えないようにしながらその場をお姉様と後にしたのでした。




 誰にも言えない、というより自分ですらよくわからないお姉様への気持ちが大きくなって大きくなって、いよいよ溢れそうになってきた時、例の事件が起きたのです。


「っ! フィアナ!!」


 賑やかで楽しい祭りだったはずなのに、何故か私に覆い被さるように抱きついてきたお姉様の顔は悲痛に染まっていました。周りの悲鳴、高台の軋みと落ちてくる音、何もかもがゆっくりと動いていました。


 そのまま暗闇に意識を落とした私が次に目を覚ましたのは、自分の部屋のベッドの上でした。


「う、うぅ……」


「……フィアナ様? フィアナ様!」


 滲んでいた視界が徐々に鮮明になってきて、見慣れた天井を認識した瞬間私はガバッと起き上がりました。横にはシグネと何人かのメイドが不安と心配の入り混じった顔で立っていました。


「大丈夫ですか!? 私は、私はわかりますか?」


「し、グネ……」


 そう呼ぶと彼女はすぐに水が入ったコップを差し出してくれました。喉はかなり渇いていてほぼ無意識に飲み干してしまいます。近くのメイドは慌てて部屋を飛び出して行きます。きっと両親に伝えに言ったのでしょう。


「申し訳ありません、申し訳ありません! 私が、私が場を離れたせいで……っ」


 私の知っているシグネはいつも冷静沈着でクールなのが印象的だったのですが、そんな彼女も今は瞳を揺らしながら深く頭を下げています。


「シグネは何も、悪くありません。そんな頭を下げないで……」


「で、ですが、セリーネ様も怪我をしてしまい」


 その言葉を聞いて、私は無理矢理意識が覚醒しました。


「お姉様? お姉様は、お姉様はどうなったんですか!?」


 私は殆ど怪我をしていませんでした。恐らくあの時はショックで気を失ったのでしょう。つまり私を庇ったお姉様が……!


「シグネっ、お姉様は!? 無事なんですか!?」


 シグネは少し顔を伏せながらも教えてくれます。


「怪我は軽傷でした。命に別状はありません……奇跡的に。ですが」


「……ですが?」


「以前と同じなのですが、何故か高熱が出てしまい寝込んでいます……」


 それを聞いた瞬間、私はベッドから飛び出しました。


「きゃあっ!?」


 しかし、急に起き上がろうとしたことが祟ったのか、視界が不自然に揺らぐと私は床に投げ出されました。


「フィアナ様っ!」


 でも、咄嗟に抱えてくれたシグネのおかげでそれは防がれました。お姉様が無事なのか、不安を表すように足が震えています。


「すいません……」


「……部屋に向かわれますか?」


「お願いします」


 シグネからすればきっと私にも休んでいて欲しいに違いありません。事実、彼女の瞳はどうすればいいのかという戸惑いに揺れていました。それでも私の気持ちを優先してくれた気持ちは嬉しかったです。


「お姉様の部屋に行きます」


「かしこまりました」


 少しふらつく体をシグネに支えられてしっかり立つと、私はお姉様の部屋に向かうのでした。

ブックマークや評価、感想ありがとうございます!

次回の投稿は10/20の22時頃を予定しております!

フィアナ視点を書いたらいよいよ終わりが近づいてきますが、良かったら最後までよろしくお願いします!

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