80.シスコン悪役令嬢、パーティを終える
ダンスの時間は長く設定されている。記念祭のパーティとはそういうものだ。
「ちょっと休憩にしましょうか」
「そう、ですね」
裏庭は本当に穴場で、フロールとクレスが先にいたものの、それ以降人が来ることは一度もなかった。
その中で私は気が済むまでフィアナと踊った。流石にパーティ会場ほど音楽は聴こえないが踊るには十分だった。寧ろ周りに人がいない分喧噪もなく、邪魔も入らないので逆に集中できたぐらいだ。
「大丈夫?」
「は、はい。流石に少し疲れましたけど」
踊り続けるには体力がいる。私も疲れを感じているし、フィアナだって同じだ。ちょうど私達が一息つこうとすれば、フロールとクレスが入れ替わる。その時フロールがパッと目配せをしてきた。
(すみませんが、しばらく見張りをお願い致しますわ)
彼女達はセリーネとフィアナが踊っている間、ずっと裏庭の入り口にいた。一応、誰かが来てしまう可能性を考えての行動だ。別に見られたって問題はないのかもしれないが、年頃の少女二人が人混みを避けてまで踊っているところを見られれば、変に勘繰られるかもしれない。
休息をとるついでに見張るのは簡単だ。裏庭の入り口には椅子が二つ置いてあり、それはフロール達が休息していた跡である。
ドレスを着ているので深くは腰かけられないが地面に腰を下ろすよりは百倍ましだ。フィアナにも座るように促して一息つく。
「びっくりしたわね」
そして一言呟いた。まさか今日のパーティでフロールの恋愛事情を知るなんて思いもしなかった。
彼女らは再び音楽に合わせて踊り始めていた。相変わらず距離は近く、傍から見てもそれはとても情熱的に見える。
「あの、お姉様」
「ん?」
二人の踊りに思わず見惚れているとフィアナから声がかかる。彼女は先程から少し様子がおかしかった。別段体調が悪いという感じではないが、何かずっと考えている様子だ。
「どうしたの?」
「その……あのお二人のこと、どう思いますか?」
「……え?」
一体どういうことだろう、と頭の中で考えることになった。どう思う、とはどういうことだろうか。彼女らがお似合いかどうか、それとも彼女らが恋愛していること自体か、フィアナの言葉だけでは結論がつけられない。
「えっと、ごめんなさい。どういうことかしら」
「で、ですから……女性同士で、恋をするということです……」
言葉尻になるにつれ声は小さくなっていた。こっちをジッと見つめているフィアナは少しだけ頬を染めているのが月明かりでわかった。決して踊りで上気しているわけではなさそうだ。
(女性同士の恋?)
フィアナはかなり深刻そうな表情を作っていたが、私としては特に彼女らの恋──所謂女性同士の恋愛について深く思うところはない。
「別に私はいいと思うけど」
「え?」
深く思うところはない。というのはどうでもいいという意味ではない。
「好きになったらしょうがないでしょう? それが絶対に男女じゃないといけないっていう決まりはないわけだし……お互いが好きなら男同士でも女同士でも私は良いと思うわ」
それは素直な気持ちだった。自分で言うのもアレだがシスコンな私からすれば自然と好きな対象は女性になる。フィアナに抱いている私の感情が「姉として妹の彼女が好き」なのか「一人の女の子として好き」なのか、正直その判断は自分ではできないのだが、そこに愛があるのは事実だ。
「そう、そうですか」
どうやら私の回答にフィアナは満足してくれたらしい。深刻そうだった表情も明るくなっている。
最近はフィアナに微笑まれたりすると胸が少し苦しくドキドキすることが多い。彼女は成長するにつれ、本当に美しく育っている証拠だ。引く手数多なのは間違いない。
(例えば、例えば私がフィアナを一人の女性として好きだったら……)
好き、という言葉は難しい。その一言の中にどれだけの意味が詰め込まれているのか想像すらできない。
視界の先で踊っているフロールとクレス。彼女らを繋ぐ「好き」は愛情と恋慕の入り混じるまさしく恋愛だろう。もしかしたらキスの続きだって既にしているかもしれない。
じゃあ、私の口にするフィアナに向けての「好き」とは……
(……好き、フィアナが好き。それは姉として? それとも一人の女性として?)
フィアナをじっと見つめると彼女は恥ずかしそうにしながら、どうしたのかという視線を向けてくる。
そういえば、とふと思いついたことを私はあっさり口にした。
「あのさ、フィアナって私のこと好きなの?」
「──ふぇっ!?」
質問を投げかけるとフィアナは固まった。そしてちょっと間をおいて飛び上がらんばかりに素っ頓狂な声を出した。
「な、なな、え、あ、ど!?!?!」
その慌てようは問いを投げた私も驚くほどだ。
「ちょ、ちょっと大丈夫?」
「あ、えあ、す、すいません……! 急に聞かれてびっくりしちゃって、その」
驚くほどでもないと思うのだが、もしかすると私がスッキリしすぎているのかもしれない。思えば相手に対して簡単に「好き」というのも何か違う気がする。
フィアナは私のことをどう思っているのか。彼女は決して「好き」と口を軽くして言う性格ではない。だからこそ、私が毎日振り撒いている好きという言葉に迷惑しているのじゃないかとそう思ったのだ。
そういう意味で、今の質問は最悪だった。大体、誰にでも優しい彼女があなたのことは嫌いです。と口にするわけがない。とんだ意地悪な質問である。たぶん私もどこかで心配だったのだろう。彼女に嫌われるのは死ぬことより辛いのだ。
私は苦笑して頭を下げた。こんな誘導尋問めいたもので「好き」が欲しいわけじゃない。
「ごめんなさい。急に変なことを聞いちゃったわね。私は勿論フィアナのことが好きだけど、貴女からしたらそれが迷惑なんじゃないかなって──」
だけど、そんな私の言葉は最後まで続かなかった。
「迷惑なんかじゃ、ありません!!」
珍しい、フィアナの大声だった。それに呆気にとられた私は目を丸くする。ちょっとして声を張り上げたことに気付いたのか、フィアナはいよいよ顔を真っ赤にしてサッと俯いた。そして今度は小さく、絞り出すような、本当にギリギリ聞こえるような声で呟いた。
「わ、私だって……お姉様のことは……ずっと前から……」
その後に口だけ動いて紡がれたその言葉を、私は聞くことは出来ず、そしてそれとほぼ同時に響いていた音楽が止んでいた。
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