74.シスコン悪役令嬢、出発する
王城に着いた私達が馬車から降りれば一斉に周囲の視線が集中する。
(まぁ目立つよねぇ)
いつも通学に使うような普通の馬車じゃなくて、今日は名を表すように装飾が一段と派手な馬車だ。そこから降り立った私達を見る目は多い。
「お姉様……」
「大丈夫よ。ほら腕組んで」
こういった場所に慣れていないのか不安そうに私を呼んだフィアナに腕を差し出した。本来こういうのはエスコートしてくれる相手とするもので、本当の話ではフィアナと好感度の高い男性キャラがその役目を担うのだが、今回は私だ。この可愛い妹をどこぞの馬の骨に渡すつもりは毛頭ない。
それにこうして私と腕を組む効果はけっこう高く、安易に横から声を掛けようと入ってくる連中も弾けるし、何より私の精神衛生上非常に好ましい。
「……すいません、思っていた以上に人が多くてびっくりしちゃって」
「いいのよ。こういうのは慣れだから。今日は私が傍にいてあげるからね」
「は、はい。ありがとうございます……」
そういって私の腕に両腕でしがみつくフィアナは凄く可愛らしい。しかし、私自身もこういう場には慣れていないのは同じで、実はこちらに向いている視線の多さに私も驚いていたりする。
(まあ、それだけフィアナとお近づきになりたいんでしょうね)
血は繋がっていないにせよ公爵家に身を持ち、魔法院に声を掛けられるほど秀でた魔法の才能もある彼女と何とか縁を持とうとするのは理解できるし、誰だってそうする。
性格も慎ましやかで、将来はきっと、いや間違いなくとんでもない美人さんになる。そんな彼女と一緒になりたいという輩がいないわけが(改行不要)
ないのだ。言ってしまえば私だってその中の一人でもある。
「おーい、行くぞー」
同じく馬車から降りたお父様に返事をしてフィアナと一緒に歩き始めながら考える。
当たり前だけど、私はフィアナが大事だ。幸せになって欲しいと心から思っている。だからもしも彼女が選んだ相手がいるならばそれをちゃんと…………たぶん…………恐らく応援するつもりだ。
だけど、こういう場ではそうしたのとは関係無しに無理矢理誘ってくる相手がいないとは限らない。だから今日の私はフィアナの番犬だ。彼女を守る忠犬と化すのである。
「グルルルル……」
「お、お姉様?」
そんな私達は城の中庭へと入った。一年を通して温暖な気候なので、今日みたいな大きなパーティーや催しはこの広大な中庭で行われるのが普通だった。
時刻は夕方。間もなく日が沈めば魔法灯の明かりがつけられ一面が華やかになる。そしたら遂にダンスタイムの始まりだ。
「それじゃ、私達は挨拶回りをしてくるからな。お前達も羽目を外しすぎないように楽しみなさい」
そしてこのタイミングで両親とは別れることになった。関係者への挨拶は私もしないといけないんじゃないかと思ったが、どうやら仕事の話で立て込むことが殆どらしく、収穫祭の今日は子供だけで楽しめ、という意向らしい。
そっちのほうが動きやすいからありがたいといえばそれだけだが。
「じゃあフィアナ。私達も行きましょう」
「は、はいっ」
明らかに緊張しているフィアナを引き連れて会場を歩いてみる。基本的に今は立食式で歓談する時間らしく、設置されたテーブルの上には色々な料理や飲み物が並べられている。
それを囲むように幾重もの人が口を開き言葉を交えている。時折こちらを見て何か反応している様子もあったが、今は気にしないで歩く。
「何か軽く食べとく?」
「うーん、今は大丈夫そうです……」
緊張しているからお腹も空かないのだろう。私もそんな感じだ。二人になると嬉しいのだがこうした場だと意外と不安も感じてしまう。
そう思っていたら隣のフィアナが急に声をあげた。
「あ、アクシア!」
その声にちょっと驚いたものの、それに導かれるように声の先を見ると確かにアクシアがいた。彼女もこっちに気づいたらしくペコッと頭を下げてくる。
頼れる友人との邂逅に私とフィアナは揃って近づいた。すると彼女の横に見覚えのある男性が立っている。彼も私達が近づいてくるとアクシアと同じく一礼してくる。
「ごきげんよう。もう完全に調子はよくなったようですね」
男性はアクシアの兄だった。ゲームでは攻略対象の一人であり、現実では私の病気を診てくれた人でもある。
私はとりあえず習った通り貴族用の礼を返す。
「ごきげんよう。先生のおかげで体もこの通り元気になりましたわ」
慣れないお嬢様言葉を並べると、フィアナは目を丸くして、アクシアは肩を震わせていた。ええい、確かに日頃使ってない言葉遣いだがその反応はひどすぎる。
アクシアの兄はそんな周りの様子には気づかず言葉を続ける。
「健康ならよかった。うちのアクシアともよくしてもらっているようで、よく家の中で貴女方の話を聞くんですよ」
「え、そうなんですか?」
「ちょ、ちょっと、やめて……!」
思わずそう聞き返したら、笑いを隠そうとしていたアクシアは一変、顔を真っ赤にして兄の服を引っ張っていた。そんな様子を見た彼は小さく笑う。
「……どうやら妹も私がいると恥ずかしいらしいので一度席を外します。それではどうか今後ともよろしく」
「え、ええ、こちらこそ」
そう言って彼は他の席に移動した。医者というからか付き合いも多いらしく、すぐに人に囲まれているようだ。
「うぅ、内緒にしてって言ってたのに……」
そして残ったのは赤面しているアクシアだけ。髪型はいつも通りだが黒を基調とした落ち着いたドレスを着て少し大人の雰囲気が漂う。
「アクシア、私とお姉様のこと話してるの?」
「う、ま、まあ、どんな話をしたか、とかそんな感じ……別に深い意味はないよ……」
「じゃあなんでそんな恥ずかしそうなの?」
「恥ずかしいのは恥ずかしいの……!」
もっと顔を赤くする珍しいアクシアにフィアナはクスクスと笑う。同学年の彼女らはやはり
仲がいいのだろう、私とはまた違う学友という仲の良い感じに思わず嫉妬してしまいそうだった。
「グルルルル……」
「え、な、なに……?」
「お姉様、さっきからどうしたんですか………?」
嫉妬からの威嚇です。とは決して言えなかった。
ブックマークや評価、感想、誤字脱字報告などありがとうございます!
仕事が忙しかったため、更新が遅れていましたが何とか乗り越えたので次回からは通常の更新ペースに戻ると思います!
次回の投稿は8/29の23時を予定しております!どうぞよろしくお願いいたします!




