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71.シスコン悪役令嬢、デートする(中編)

前編、後篇と言いましたが、諸事情により中編になりました。すみません。

また、今月の更新についてお知らせがあるので、良かったら後書きまで読んで頂けると有難いです。

 フィアナは私が贈ったチョーカーを大層気に入ったようで、馬車に戻ってからも嬉しそうにずっと手で触ったりしてそこにあるのを何度も確かめては、ホニャホニャと頬を緩めていた。


(ふぬぐぐぐ可愛すぎるぅ……)


 そんな様子を目の前で繰り広げられては私は平常心を保つのだけで精一杯。


「~~♪」


 ああ、そんな上機嫌に鼻歌まで口ずさむなんて……! 贈った側としては嬉しいけど理性が、理性がもう!

 気が付けば上機嫌で窓の外を眺めているフィアナに私はゆっくりと近づいていた。そして、その体に恐る恐る手を伸ばして──


「んぎっ!」


 最終的に抱き着こうとしたのかは自分でもわからないが、その寸前に馬車が停まったせいで、私は馬車の狭い中で情けなく転がった。


「お、お姉様!?」


 まさか後ろで座っていたはずの姉がゴロンゴロン転がっているなんて思ってもいなかっただろうフィアナが慌てて起こしてくれる。


「えっと、大丈夫ですか……?」


 その声にはこけていることに対する驚きと心配、そして何でそうなっているのかわからないという困惑が混じっていて、私は誤魔化すように咳払いをして大丈夫と伝えて立ち上がる。

 次は昼食だ。しっかりと気を張って良きお姉ちゃんを演じなければならない。転んだことは、まあ忘れよう。うん。


「わぁぁ……」


 馬車から外に出ると、フィアナは私の選んだお店に目を輝かせていた。きっとさっきのはなかったことにしてくれるだろう。

 今回私達が昼食をとるのは街の中心から少し離れた、人通りが少ない場所にある食事処だ。ここはゲーム内でフィアナがふらりと立ち寄って気に入る場所で、それを知っているので先取りした形になる。


 私達が到着したことに気づいたのか、中から中年の男性が出てきて頭を下げる。


「よ、ようこそいらっしゃいました……こんなお店ですが精一杯おもてなしさせて頂きます!」


 こじんまりとした佇まいから隠れ家的な印象を受けるこのお店は、従業員は中年の夫婦だけで、街での人気のある食事処とは違い賑やかさはない。その代わりに静かで落ち着いた雰囲気がこの店の良さだろう。


「ありがとうございます。今日はよろしくお願いします」


 最近漸く身に付いてきたお嬢様っぽい振る舞いをフルに発揮して応対する。

 一応事前に予約をしていたのだが、中々に急であったしこのお店は所謂穴場、まさか公爵家から客が来るなどとは思ってもいなかったのか、かなり慌てさせたことは申し訳なかった。


「で、では中の方へどうぞ……!」

「さ、フィアナ。行きましょう」

「は、はいっ」


 フィアナと一緒入ると、そこはゲームでも見たちょっと狭いながらも落ち着く空間が広がっていた。


「素敵……」


 フィアナの口からボソッと漏れでた声に「貴女も素敵よ」などと、古い返しをしそうになりながら席につく。

 貸し切りにはしていないはずだが、少しお昼の時間から外れているせいか店内には私達以外誰もいなかった。静かな空間に厨房からの音だけが響いている。


「どうかしら。フィアナなら気に入ってくれると思ったんだけど」

「あ、はい! 凄く、その落ち着いて良いお店ですね! でもお姉様どうしてここを知ってたんですか?」

「えっ? あ、いやぁ、私も静かな場所が好きだし、たまに街に出たらこういうお店を探してるのよ」

「そうだったんですか。お姉様は何でも知っていて凄いですね……」


 ゲームで知っているだけです。なんて言えるわけもないので優雅に微笑んで濁した。まあ、ゲームとは関係なしに実際良い雰囲気のお店だ。静かでお洒落という言葉がピッタリの日本で言うなら『女性に人気が出そうなお店』と紹介されそうな感じか。


「お待たせしました。どうぞごゆっくり」


 少し慣れていないような言葉遣いと同時に食事が運ばれてくる。ここで食べるのは高級コース料理ではなく、言ってしまえば庶民的な料理だ。一枚のプレートにパンやサラダ、メインには美味しそうな鳥の照り焼きステーキが添えられた至ってシンプルな料理。


「それじゃ、頂きましょう」

「頂きます!」


 一応、公爵令嬢ということで貴族的な高級料理を食べる機会もあったが、根っこは日本の女子高生である私にはこういう料理の方が合っている。温かいスープは優しい味わいだし、静かな空間にカチャカチャと響く食器の音も心地よい。


「なんだか、昔を思い出します……」

「……ん?」


 そんな風に静かに食事をしていたら、唐突に小さくフィアナが口を開いた。


「どうかしたの?」

「いえ、お母さんやお父さんとも、こんな感じで食事をしていたので……何だか懐かしいなぁって……」

「そう……」


 それに私は短い返事をした。しかし、その内心は物凄い焦っていた。


(も、もももしかして地雷だった!?)


 元々このお店はフィアナがゲーム内で気に入るお店だが、その気に入った理由までは明確に描かれていなかった。

 単純に静かで庶民的な雰囲気が気に入ったんじゃないかと私は思っていたのだが、その真実はきっと昔を思い出せるからだったんだろう。


 ゲームでは最初のうちはエトセリア家には居づらかった彼女は一人だけでこのお店に来るようになるのだが、終盤ではルートに入ったパートナーを連れてくる。要は信頼できる相手と一緒に来る場所なのだ。


 つまりは、私と一緒にいきなり来たのは間違いだったのではないか。


(どうしようどうしようどうしよう!! フォローした方がいいの!? それとも静かにしておくべき!? あわ、わわわ……)


 お茶を濁すかの如くスープを一口飲んだが、フィアナは何かを考えているのか箸を止めてしまった。

 迂闊だった。そこまで考えず、ただフィアナが好きだからと安直に選んだのはあまりにも単純すぎた。


「フィアナ……」


 思わず心配する声で彼女を呼ぶと、ゆっくりと顔を上げてこちらを見つめてきた。


(あれ……?)


 しかしその表情は私が思っていたよりも悲痛さは感じなかった。落ち込んでいるわけではなかったのだろうかと怪訝に思っていると彼女は私に笑顔を向けた。


「だから、こうしているとお姉様ともちゃんと家族になれたかなって、そんな気がします……って自分勝手なんですけど」


 そう言うだけ言った後、彼女はボンと顔を赤くして照れ笑いすると、それを誤魔化すように食事を再開した。

 美味しいですね。と言われたことには何とか頷いて返事をしたが、もう私はフィアナの感情攻撃にノックアウト寸前だった。

 果たして今日は何度彼女を前に理性が崩れそうになるのか、鼓動のうるさい心臓の音を聞きながら、表面上は静かな食事の時間がゆっくりと過ぎていった。

ブックマークや評価、感想、誤字報告などありがとうございます!


8月の更新に関しましてですが、仕事が繁忙期に入りまして、恐ろしい程追い込まれてしまうので、更新日を予めすべてお知らせします。

遅い更新になりますが今月の更新は以下の通りです。

8/10、8/16、8/25、/8/30

更新時間は22時で変わりませんので、どうぞよろしくお願いいたします。

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