70.シスコン悪役令嬢、デートする(前編)
デートは前編、後篇に別れます!
その日は浮かれる私を祝福するかのような快晴になった。
シグネやアイカに見送られながら、私とフィアナは馬車に乗って街に躍り出たのである。
「わぁ……」
フィアナ自身が言っていた通り、彼女は時間を作って街に出たことはない。親を亡くしてから我が家に引き取られて、そこから多忙の毎日でそんな余裕はなかったのだ。
だからこうして自由に来るのは初めてな彼女は、色々と新鮮なのか馬車の窓から外を見ては何度も感嘆とした声を出していた。
(今日も妹は可愛い!)
そして私はそんなフィアナに感嘆していた。遠慮がちで常に周りに気を遣っている彼女は年齢よりも大人びて見えるが、こうしてはしゃいでいると年相応らしさが出てそれもまたいい。誰かに自慢したいぐらいだけど独占もしたい欲張りな心情に囚われそうになる。
そんな複雑な思考に陥っていたらフィアナから声が掛かる。
「そういえば今日はどこに行くんですか?」
「最初は決めてあるんだけど、それ以降はまだちゃんと決まってないわ」
決めていないというのは半分嘘だ。基本的に好感度があがる……じゃなくて、フィアナが好きそうなお店は既にラインナップしているのだが、大事なのは彼女自身が行きたいところだ。
元々今回は彼女から「街に行きたい」という要望があったから成立したものだし、どこか希望があるなら馬車の御者に知らせてそちらに行こうという算段である。
「だからフィアナが行きたいところがあるなら話してね。それに合わせるから」
「……それじゃ、もし可能であればお花屋さんに行きたいんですけど」
「かわいい」
「へ?」
「ああ、ごめんなさい。つい心が飛び出しちゃった……お花屋さんね、それじゃ街で一番いいところに行きましょう」
「あ、ありがとうございます!」
女の子らしいといえばそうなのか、花屋は当然街中にたくさんあるが、何か彼女らしい用事があるのかもしれない。
でも最初の行き先だけは決まっているからそこだけは付き合って貰わないといけない。ちょうどそのタイミングで馬車が停まった。
今日はデートだから御者を除いて従者もいつもいるお付きメイドもいない。
「ささ、どうぞお姫様」
「お、お姫様って……恥ずかしいですよ」
先に降りて手を差し伸べるとフィアナは恥ずかしそうにしながらも、その手を握って降りてくる。
街中に大きめの馬車で来ると流石に人目につくようで、さらに降りてきた私達もバッチリとおめかししているため、どこぞの貴族と思われているのだろう。可愛い妹を大々的にお披露目してもいいが、今日はそういうことをしに来たわけじゃないので、気にせず前の店に向きあう。
「ここは?」
「入ってからのお楽しみ。すぐわかると思うけど」
そこは一見、こじんまりとした静かな佇まいの木造の家。ただ、それは表から見た印象。
「わ、きれい……」
そこに一歩入ったフィアナからそんな言葉が漏れた。このお店は宝飾店、日本でいうならアクセサリーショップである。それも知る人ぞ知る穴場なお店。
ここを知っているのは勿論私がゲームプレイヤーだったから。こういうところで知識があるの強すぎる。
「少し見て回ろうか」
「は、はい!」
先に言ってしまうと、実は数日前にお店に頼んでとあるプレゼントを用意しているが、まずは一緒に色々と見る。
(こうした方がデートっぽいよね!)
ただ、悲しいことにデートだと思っているのは私だけであり、フィアナにとっては姉とのお出掛けという認識だろう。どちらにせよ楽しませるつもりではあるが。
「フィアナはどういうのが好き? 欲しいのはある?」
「こ、こんな贅沢な物、買えませんよ……」
「大丈夫! お金ならあるから!」
「えぇ……」
流石に微妙な発言だったのかフィアナが若干引く。半分冗談のつもりだったけど、彼女が欲しいというものがあれば是が非でも手に入れる所存でもあった。
その後も指輪やらブレスレット、ピアスにネックレス。さらに最近流行っているらしい足首に巻く用の装飾なんかも見て楽しんだ。といっても店自体はそんなに大きいわけでもないので一周するのに時間は掛からない。ある程度見て楽しんだ後、私はこっそりと店員に目配せをする。
「あのね、フィアナ」
「どうしたんですか?」
「その、迷惑かもしれないんだけど……えっと」
タイミングと空気を読んで店の奥からやってきた店員は商品を載せる用のトレイを持って背筋を伸ばして立っていた。
そして、その上にはひたすら悩んだ末に贈ろうと決めたある物が載っている。
「フィアナに似合うかなって思って」
そこに載っていたのは至ってシンプルな造りのチョーカー。
フィアナは元々一般的な庶民として生活していたので派手な装飾には慣れていなく、過度な宝飾が苦手なのだ。
だから選んだのは派手さは控えめで、質に全力を注いだチョーカーである。
「こ、これ、私にですか?」
突然のプレゼントに驚いたフィアナであったが、どうやら悪い感じではないらしい。これなら大丈夫そうだ。
「うん。ちょっと前から用意してたんだけど……受け取ってくれる?」
「私なんかに、こんな……あ、でも、嬉しい、です。凄く……」
フィアナはそれを食い入るように見ながら言葉を紡ぐ。
思えばこうして物として何かをプレゼントするのは初めてのことだ。私も緊張していたのだが、フィアナが困惑しながらも嬉しそうに笑ってくれて、姉としては感無量であった。だけど、私は受け取って貰えそうということでフィアナに対して油断していたのかもしれない。
「あの、お姉様」
「ん?」
だから、そんなことを頼まれるということを全く想定していなかった。
「良かったら、これ、付けてくれませんか……?」
「……え?」
戸惑ったように、それでいて少し頬を赤らめて見上げられながらそんなことを言われて無事な奴なんているわけがない。事実、私は危うくあまりの可愛さに倒れる寸前だったのだから。
「あの、お姉様?」
「あ、う、うん。そうね、フィアナがそう言うなら、つ、つけてあげる……!」
「は、はい。お願いします……」
私は店員の持っているトレイからチョーカーを震える手で持つと、そうなっていることをバレないように必死に自分を制御しながら、ゆっくりとフィアナの細い首に手を回す。今回選んだチョーカーはベルトタイプの太いものではなく、紐に近い細いタイプだ。
「はい、出来たよ……」
「ありがとうございます……似合ってますか?」
「凄く、似合ってる。たぶん女神さまの生まれ変わりか何かだと思う」
「そこまではないと思いますけど……」
フィアナの華奢な首に、私の手で巻かれたチョーカー。控えめな彼女にぴったりのそれは、贈った側だというのに呆気に取られるほど似合っていた。
「これ、ずっと大事にします。ありがとう、お姉様」
そしてそう言って微笑むフィアナに、私は感情を爆発させないようにするので精一杯だった。
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※次回の投稿が7/3となっており時間を遡っていましたことお詫び致します。許して。




