64.シスコン悪役令嬢、舞う(練習)
とにかく今はダンスだ! 何はともあれそれを人に見せれるレベルまで上げなくてはならない!
「さあさあ、やるわよ!」
フンスフンスと物凄い気合を入れる私に対してしかし、フィアナとシグネは若干引き気味だった。
「随分やる気ですね……いえ、いいことだとは思いますが」
「そりゃそうよ。フィアナと踊る為なら足を増やしたって構わないわ」
「え、えぇ……」
「それはちょっと気持ちが悪いですね……」
残念ながら私の意気込みが上手く伝わっていないようだ。でも、そんなことは関係ない今はやることをやる。それだけだ。
「じゃあ、昨日の続きから……今日はセリーネお嬢様も一緒なのでちょうどペアになってやってみましょうか」
「よしきた! さあフィアナ手を組みましょう!」
「え? え?」
とりあえずペアと言うからにはダンス中にクルクル回ったりするあれだろうと勝手に想定して、戸惑っているフィアナに手を差し出す。しかし、それはシグネに制されてしまった。
「まずは初心者の動きからですから……そういうのは後々で」
「あ、はい……」
初心者向けであることを完全に忘れてた……
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「まずは基本のストレッチからです。激しく動くわけではありませんが、長時間踊ることにもなるかもしれませんし、出来るだけ体への負担は小さくしましょう」
シグネの教えは本当に基礎の基礎からだった。フィアナとペアを組んだ私はお互いにストレッチをしたり──
「じゃあ次はステップに入りましょう。まずはリズムからです」
足の動きを学んでそれを二人で見せ合いながら取り組んでいく。シグネが言うにはステップの動きは数十種類以上あるということで、正直それらをちゃんと覚えられるかどうか不安だった。
しかし、ここでちょっと予想外なことが起きる。
「わぁ、お姉様はやっぱり上手ですね……」
「流石に慣れていらっしゃるだけありますね」
「……う、うん」
タタン、と決まった動きで足を運んで簡単なポーズを取る。当たり前だけど私はダンスなんてしたことはないはずなのだが。
(なんで、踊れるんだろう?)
何故かわからないが、シグネからステップの動きについて聞くとまるで体が覚えているかのように勝手に動いてくれるのだ。
間違いなくこれは、朝倉美幸じゃなくてセリーネが覚えていた技に違いない。
(やっぱり記憶が上書きされているわけじゃなくて、何らかの形で横入りしているだけ……? でも勉強とか魔法の知識はからっきしだったし……うーん???)
ポーズを取った姿勢で固まりながらそんなことを考える。流石にそれを不思議に思ったのか二人からどうしたのかと尋ねられて、我に返った。
「あ、うん。大丈夫大丈夫、ちょっと基本を振り返ってただけ」
「そうですか。それじゃセリーネお嬢様は大丈夫そうなので、フィアナお嬢様のサポートをしてください」
「ようし、任せなさい!」
そしてフィアナが絡んだので、悩んだことはとりあえず後回しにされることになった。どの道今考えたところでどうしようもないのも確かだ。
「あ、あの、よろしくお願いします……」
とにかく今はフィアナの為に頑張ることにしよう!
そんな日々がしばらく続いたある日のことだった。ダンスの練習もだいぶ進み、本格的に踊りを学び始めた私は必然的にペアの相手がフィアナとなるので毎日が上機嫌だった。
「セリーネさん! おはようございます!」
「ん? あ、フロール。おはよう」
そんな日の朝、フィアナと一緒に登校した私は教室に着く前にだいぶ久しぶりに彼女に絡まれた。どうしたんだろうと要件を聞く前に彼女は口を開く。
「今日は待ちに待った試験の結果発表の日ですわね! 心の準備はよろしいからしら!」
「うぇっ、今日なの? 知らなかった……」
そういえばダンスの練習に現を抜かしていたが、そういう勝負をしていたことを思い出す。正直試験が終わった段階で忘れてしまっていた。私は試験の結果は気にしないタイプなのだ。
「な、忘れてたの……!? それだけ余裕だということかしら……」
「いや、別にそういうわけじゃ……」
「結果を見て泣くことになっても知りませんからねー!!」
そう言ってフロールは去って行ってしまった。決して煽るつもりはなかったのだがどうやら勘違いされてしまったようである。
「困ったなぁ」
敗者は勝者の言うことを聞く。その約束を忘れていたわけではない。今回の試験は私が負けている可能性が高いので、かなり無茶なことを命令されなければいいのだが……
「メイドさんならやったからいいんだけどなぁ」
そんなわけでちょっと憂鬱になった私だったが、だからと言って試験の結果発表が後回しになるわけはなく……
「それでは、試験の順位は昼休みに校舎の前の掲示板に貼りだされるので、確認したい人は見に行ってください」
先生の声と同時に昼休みが始まると、ゾロゾロと生徒は廊下に出て行く。
この学園ではゲームでもそうだったが、個人の結果は紙面で渡され順位などの大まかな部分は掲示板に貼りだされることになっているので、それを確認しに行ったのだろう。
(私も確認しないわけには行かないよね)
紙面で渡された結果はそんなに悪くないものであった。というか即席でのインスタント試験勉強であった点を鑑みれば中々の好成績だと思う。たぶん日本の学校で取った成績よりも良い可能性すらある。
(でもフロールはこれより良いんだろうなぁ)
あまり気は進まないが昼食をフィアナやアクシアと一緒に食べる義務があるので、掲示板の前は通らざるを得ない。案の定そこは野次馬を含めて中々の賑わいを見せていた。
「あら、セリーネさん! 奇遇ですわね!」
「……フロール」
私がそこに着くと同時にフロールといつもの取り巻きの二人が現れる。まさか待っていたわけではないだろうな。
「さ、折角会えたのですから一緒に確認しましょう! 今回はかなりの自信がありますわよ!」
「というかそれならさ、お互い成績の書かれた紙面でそれぞれ確認したらいいんじゃない?」
「何を言ってますの! この掲示板に貼りだされているのを確認することに意義があるんじゃありませんか! だから私はまだ個人のは確認してませんのよ!」
「えぇ……」
何という自信だろう。少なくとも不安があれば自分の結果ぐらいは確認するはずだ。それだけ自信満々なのは外見からでも容易に判断できるが。
「さ、行きますわよ!」
そして私が何かを言う前にグイグイとフロールは人混みを掻き分けて進んでいく。私は小さなため息をつきながらも彼女の後ろから付いていき、そして貼りだされている掲示板の前に立った。
「……んん?」
しかし、そこで私は不可解な物を目にすることになった。
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