61.ゆるふわお付きメイド、家庭事情とお嬢様
アイカパートです。2話ぐらいになる予定です!
私の家は一応貴族としての部類に入ってはいますが、何か大きな功績があるとか広い領土を持っているわけでもなく、言ってしまえば貴族社会では中の下でした。
ただ、そんな我が家がいまだ存続している理由は、いまだに行商人として働いている父のおかげなんでしょう。
元々父は行商人でこの国と他国を行き来して物品を仕入れ、それを売って利益を出すことを生業としていました。
そういうのが好きだからと、ずっと続けていたらその仕事ぶりがそれなりに評価されて何故か爵位を頂き、そして今の母を見つけて一目惚れ、そこからはトントン拍子で婚姻までしたと嬉しそうに言っていました。
母はとある家の令嬢で、それでいて病弱でした。
この国、というかどこでもそうらしいのですが、体が病弱だと嫁ぎ先というのは凄く減るらしいのです。それこそ跡継ぎや家事など家のことが任せられないという理由らしいですが、父はそんなことは関係ないと周囲の反対を吹き飛ばしたらしいのです。
それで実際に私含め弟と妹、三人を産んでいるのですから愛というのはすごいものだと思います。
「アイカ、ごめんね。急に熱を出しちゃって……」
「ううん、お母さんは気にしないで。マイもシィも昔と比べればずっとお利口だし、心配いらないよ」
ある日、父が自らの足で行商に行っている時、母が熱を出してしまいました。これはけっこうあることなのでそれ事態は問題なかったのですが、今回はタイミングが少し悪かったのです。
「でも、貴女の奉公先のエトセリア家のご令嬢も今熱を出してって……」
そう、ちょうどその時私のお付きしているセリーネ様が高熱を出して臥せていたのです。病状は意識が朦朧とするほど酷いものらしく、寧ろ私がいてもどうしようもないという状況だったので、こうしてお休みを頂けたのですが、本来であればあまり許される行為ではありません。
私は母に心配させまいと言い聞かせます。
「セリーネ様は今お医者様が見てるから大丈夫。それよりもお母さんこそ医者は呼ばなくて良いの?」
「私はいつものだから薬を飲むしかないもの。だから心配してお休みまでしなくて良いのよ?」
「それこそあの子達のお世話が必要でしょう?私に任せてお母さんは寝てて」
「……ありがとうアイカ。貴女がいてくれて本当に助かるわ」
「ん、じゃあ安静にしててね。私はあの子達の面倒を見てくるから」
そういって母の寝室を後にする。父は行商の頃の癖が取れないのかそこそこ頻繁に家を空けます。それはもちろん家のために頑張っていることはわかっていますから、母も私も応援するしかありません。
それに父も家のことを放置しているわけではなく、旅先から珍しいものを買ってきてくれたり、帰ってくれば家族団欒もしっかりしてくれますし。
だから父が家にいない間は私と母でここを守らなければなりません。
「あ、おねーちゃん遊ぼう! 遊ぼう!」
「シィとも遊んでー!」
弟も妹もまだまだ小さいです。いずれは弟は父の後を継ぎ、妹はどこかに嫁ぐのでしょうか。今の小さい姿では想像もできません。
「今日はもう遅いから寝るよ。お母さんは熱だからお姉ちゃんの部屋でね」
「えー、遊びたい遊びたい!!」
「お人形遊びしたいー……」
「また次の休みでたくさん遊んであげるから。うるさくしてお母さんを困らせたい?」
まだ小さい弟と妹ですが、それでも家のことはしっかりわかっている賢い子達です。父が頑張っていることも母が病弱なことだって知っています。
「うー、わかったよ……」
「お姉ちゃんと寝るー……」
「よしよし、いいこいいこ」
母も一日休めばしっかり治ることがほとんどなので明日には元気になっているでしょう。
自室の大きめのベッドに三人で入って横になります。弟と妹も無意識に気を使って緊張していたのか、すぐに寝息を立て始めてしまいました。
(お嬢様が大変な時に休みを頂いて……怒られるかなぁ。暇を出されなければいいけど)
今はまだ寝込んでいるはずの、少々傲慢で我が儘なお嬢様。彼女に無茶苦茶な怒られ方をされないかだけが、唯一の気掛かりでした。
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私は家族のこともあり、またどこかの家に嫁ぐという考えを持っていなかったので、エトセリア家のメイドとして雇って頂いています。
奉公に出ている私のような女性には基本的に婚姻を申し込むのは無作法とされていますし、メイドとしてそれなりの給金も頂けるので、何だかんだで私には良いことでしかありません。
一応、家にはお見合いだとか、直球に婚姻の申し込みがあったりするのですが、今のところはそれに応じたことはありません。
「せめて弟や妹が一人で大丈夫になるまでお待ち下さい」
そんな断り文句もいつまで通じるのか、結婚って面倒だなぁと感じる私は、それとは全く違うため息を大きな扉の前でつきました。
「憂鬱ですねぇ」
何でも私がお休み頂いていた日にセリーネ様は目覚められたらしく、体調はまだ完全に安定してないものの、だいぶよくなったらしいのです。
酷い言い方ですがせめて私が戻ってくる今日まで臥せていてくれればよかったのにと思っていました。お嬢様すみません。
ただ、その日は少しだけ雰囲気が変な気がしました。悪い予感ではないのですが、どこか違和感があるような……そんな感じです。
それとセリーネお嬢様の元お付きメイドであるシグネも少し様子が変でした。
『会ってみればわかるんじゃないかと……いや、説明が難しくて……私もまだ理解が追い付いてないというか』
一体何があったのか、それは何一つわかりませんでしたが、私は意を決してお嬢様の部屋の扉をノックします。
「セリーネお嬢様ー? アイカです。入ってもよろしいでしょうかー?」
いつもなら何らかの返事があるのに今日はありません。やっぱり怒っているのでしょうか。それから何回かノックや声を掛けても応答はなく、仕方なく私はゆっくりと扉を開けます。
大体お嬢様が怒っているときは謝り続けるしかありません。それで機嫌がよくなれば、の話ですが。
「あれ?」
しかし私の予想は外れました。部屋の中に怒っているお嬢様は存在せず無人だったのです。まさか部屋から外へ出たのでしょうか。聞いた話ではまだ安静にしているはずなのですが。
そこで私はカーテンが風で靡いているのを見ました。どうやらバルコニーに続く大きな窓が開いているようなのです。
「……セリーネお嬢様ー?」
恐らく目当ての人物はそこだと確信を持った私はそろそろとバルコニーに足を運びます。
そしてその読みは外れることはなく、そこには質の良い就寝用のネグリジェを靡かせながら街を眺めているお嬢様がいたのです。
後ろ姿からは彼女がどんな表情をしているのかわかりませんが、もしかしたら怒りに染まっているのかもしれません。
だから出来るだけ刺激しないように、そっと声を掛けました。
「あ、あの、セリーネお嬢様ー?」
「ぴゃあああっ!?」
しかし、返ってきたのは今まで聞いたことのない声と、見たことのない飛び上がり方をするお嬢様でした。
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