6.シスコン悪役令嬢、情報を整理する
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片手に食事が載ったお盆、もう片方には飲み物が載ったお盆を器用に持ってきたアイカから出来るだけ情報を集めつつ、既に私自身が持っている情報も混ぜ込みながら整理していく。
まずは年齢。これはゲームの設定どおり私が17歳でフィアナが13歳。
それでメインの舞台になる学園の名前は「リトルリア学園」だ。そこは初等部、中等部、高等部に別れるエスカレーター式の学園だ。通う生徒は基本的に貴族の子供達が通う場所となっており、その格式は高い。
年齢の関係で私は高等部に、フィアナは中等部に区分されている。ちなみに卒業後は家を継いだりだとか、嫁いだりとかそこら辺は人それぞれだ。
「私が後一年で卒業、か」
そこら辺の設定はゲーム内でも語られるためわざわざアイカに聞く必要もなかったが、念のために確認しておいた。
「あのーお嬢様?」
「なに?」
「いえー、どうしてそんな誰でも知っているようなことを聞くのかなーって」
「うぐっ!」
やっぱり怪しまれないように慎重に質問しよう。失礼だがアイカは勘が鋭い方ではなさそうだし、上手く誤魔化すことぐらいは出来るだろう。
「そ、それよりも私が寝込んでいた間には何もなかったの?」
話題を変えようとした私の言葉にアイカは少し考えて、ポンと思い出したように手を叩いた。
「あ、そういえば確かパーティーに招待されていましたよ。当然欠席になりましたけど」
「そう……どこの家のパーティーだったかしら」
「……お嬢様本当に大丈夫ですか? あれだけ楽しみにしていたのに」
「ちょ、ちょっと忘れちゃっただけよ!」
やっぱりダメかもしれない。こちらはセリーネ自身の常識が抜け落ちているようなものだ。どうあがいても怪しまれる。
「シグネも昨日心配してたんですよ? 錯乱してたって」
「さ、錯乱……」
確かに今までフィアナに冷たく当たっていた人物がいきなりドバドバ涙を流して謝罪したあげく寝落ちするなんて普通じゃおかしい。でも錯乱はひどくない?
「まあ忘れたならしょうがないですけど。パーティーはチュリア伯爵家主催のものですよ。お嬢様、アクシア様と仲もいいですし楽しみにしてましたよね?」
「…………」
「お嬢様?」
だ、誰だ!? ゲームで聞いたことすらないよ!?
「あ、あぁぁー、そうだったわね! いやー、参加出来なくて残念だったわー」
怪しまれないように咄嗟に反応したには自画自賛したい。棒読みだったのは放っておいてください。
「そうですよー。あ、それで思い出したんですけど学園の方はどうします?」
「へ? 学園?」
「はい。一応今日もお休みにはなっていますが明日はどうしましょう? まだ体調がよろしくないなら様子見でお休みしてもいいと思いますが」
「ああ、そうだったの。まあずっと休んでいるわけにもいかないし明日から行くわ」
「わかりましたー。それではそのように伝えておきますね。それでは一度失礼しますが、まだ病み上がりですからゆっくりお休みくださいー」
「え、あ、うん……」
アイカはそう言うと一度部屋の扉を開けて、来たときと同じように両手にお盆を持って出ていった。
「あ、あれ?」
その姿を見届けて、あることに気が付いた。
☆今回集まった情報☆
・年齢(知ってた)
・学園について(知ってた)
・チュリア家のパーティー(よくわからない)
・仲が良いらしいアクシア(よくわからない)
☆以上☆
何もわかってなくない!? むしろわからないこと増えちゃったよ! アクシアって子に会うのが怖いよ!
思わず頭を抱えたがどうしようもない。アイカに言われた通りとりあえずベッドに戻り横になった。
「というか何も考えずに学園に行くなんて言ったけど不安しかない……」
フィアナ視点で授業を受けたことはあるが、セリーネは学年が四つ上でその内容のレベルは絶対に上がっているはず。加えて確かよりによって秀才設定なのだ。
申し訳ないが日本の私は至って普通の女子高生。別に頭が良いというわけはなく、場合によっては青ざめる点数を取ることもある。残念なことにその時点でセリーネには遠く及ばない。
「やばくない……?」
今からでも具合が悪いふりでもしようかと真面目に考える。公爵家の一人娘でもあるので、両親はそんな私を割りと溺愛している傾向があったはずだ。言えば休ませてくれるかもしれない。
ここで少しだけ両親のことについてもおさらいしておこう。
父がフォードで、母がマリンという名前だったはずだ。性格は二人とも貴族らしからぬお人好しで、それでいて若干親バカだ。
フィアナを引き取ることになったにも関わらず朗らかに受け入れ、彼女のことも娘として大事にしようとお互い話して決めていたぐらいなのだから。
ただ、ゲームではセリーネがフィアナを酷く毛嫌いしたせいで、両親はどうしようかと悩んでいくうちに徐々にフィアナと疎遠になっていくことになる。
ただ、ちゃんとゲームではエンディングできっちりと謝罪することにはなっている。私? あっさりと追放されてますよ、ええ。
このゲームは基本的に誰かが死んでしまうようなバッドエンドはない。悪事のバレた私は国外に追放されて遠い国に行く、それから彼女の行方を知るものは誰もいないという展開で私の人生は終了だ。
「そういえばフィアナはどうしているのかしら……」
思えば昨日の件から会っていない。あの様相でドン引きされていなければいいのだが。
「あれ?」
と、そこで気がついた。確かフィアナは引き取られてすぐに学園に通うことになったはずだ。つまりそれは──
「今、フィアナは学校!? ……あ、ああっ!」
そしてまたゲームの記憶を思い出す。
姉である私が病気で休んでいるとき、学園に来たフィアナにセリーネの取り巻き令嬢達が絡んでいくのだ。そして口々に悪口を浴びせかけフィアナは深く傷つく。
そんな疲弊した状態で家に帰って来た彼女をセリーネがまた追撃するかの如く責め立てるという胸糞悪いストーリーが続くのだ。
「ね、寝そべってる場合じゃないわ!!」
ガバッ、とベッドから起き上がるとそのまま部屋を飛び出した。
「セリーネお嬢様!?」
すると、ちょうどシグネが廊下の掃除をしていたらしく、突然部屋から飛び出した私に心底驚いているようだった。しかし、今は気にしているほど余裕はない。
「な、ど、どうしたんですか? お体の方は……」
「シグネ、今すぐ学校に行くから!」
「は、はぁ!?」
私の言葉に彼女は信じられないといった表情を返す。
「なにいってるんですか! 今日までお休みになるって……」
「事情が変わったの。何なら走っていくわ!」
「や、やめてくださいそんなことは! というか事情ってなんですか!? そろそろ最後の授業の時間も終わりますし、もう迎えの馬車が出る時間ですよ!」
シグネの言葉を聞いて頷く。なるほど、それなら寧ろ都合がいい。
「じゃあその馬車に乗って迎えに行くわ。フィアナを」
「ほ、本気で言ってるんですか……?」
その言葉にもう一度大きく頷くとシグネは盛大なため息をついた。
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そして現在馬車に揺られています。あれからシグネが色々と駆け回ってくれたので何とか許可がおりた形だ。何かお礼をしなくてはならない。
「あの街ってこんな感じだったのね」
家の屋敷から見た風景と馬車の窓から見える光景を照らし合わせる。ゲームでも街に来るイベントはあったが一枚絵であったり通過地点であったりとそこまで詳しい描写はなかったので凄く新鮮だ。
「もうすぐ着きますねー」
それで私の前にはシグネとアイカが隣り合って座っていた。シグネはフィアナお付きのメイドなので迎えにも行くのは当然なのだが……
「わざわざよかったのよ? 私の身勝手で来ただけだから」
私がそういうとアイカはにっこりと笑う。
「いえいえー、セリーネお嬢様に何かあってはいけないのでー」
アイカは間延びした声でニコニコと返事をする。ちょっと暢気だがそれはそれで場が和むからいいか。ただ動きに合わせて無駄に大きな胸が動くのを見せつけられるこちらの気持ちも多少は汲んでいただきたい。
「もう着きますよ。揺れに注意してください」
「確かに、揺れるわねぇ……」
「???」
シグネがそう言ってからすぐ、馬車が音を立てて止まった。先に降りたアイカに手を借りて馬車から降りる。
「本当にリトルリア学園なのね……」
二人に気づかれぬようボソッと呟く。その正門はゲームの絵で見た通り、立派な門構えをしていて少し感動する。
既にそこからは帰っていく生徒達がチラチラと出始めていて、貴族の通う学園だからかそこら辺に迎えの馬車が止まっているが、見慣れていないので少し異質に感じた。
「さて、フィアナを探さないと……」
一応、学園に行くということでパパっと制服に着替えてきた。悲しいことに髪を整える時間はなかったが、サラリと伸びている風に見えるのでたぶん大丈夫だろう。
「セリーネお嬢様! どこに行く気ですか!?」
と、迷わず学園に足を運ぼうとした私をシグネが制した。ええい、こちとら可愛いフィアナのことが心配でたまらないというのに……
「迎えに行くんでしょう? だったら行かないと」
「すぐに出てきますよ! それにすれ違ったらどうするんですか?」
「あー、それもそうか……」
シグネは私が落ち着くとため息をついた。何だかひどく疲れているように見えるけど。
「シグネ大丈夫? 何か疲れてない?」
「それ本気で言ってます?」
私が首を傾げるとやっぱりため息をついた。何だか呆れているいうに見えるのは気のせいだろうか。
「あ、来ましたよー」
そんな私達のやり取りはアイカの声で終了した。私がアイカの言葉に導かれるように門を見ると、そこには確かにこっちに向けて歩いてくるフィアナの姿があった。
私はその姿を見た瞬間、思わず声を──
「フィア……ナ?」
掛けようとしたのだが、途中で行き詰まった。
「…………」
何故なら、フィアナが酷く落ち込んだように項垂れて出てきたからだ。
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