57.シスコン悪役令嬢、次の壁にぶつかる
何とかテストを終えて、周りはお気楽ムードだというのに、とある公爵令嬢は内心憂いていた。
いや、まあ私しかいないんだけど。
「うええええ、どうしよおおおお……」
「とりあえず……何か困ったら私のところに来るのは、どうにかならない……?」
私の前で本を読みながらアクシアはため息をつく。
「だって、こういうのが頼れるのアクシアしかいないんだもん……」
「そう言ったって……流石に今回のはどうにもならないと……思う」
「うえええええぇぇ……」
現在、私とアクシアは学園に設けられている図書館にいる。
時刻は放課後で、試験前はかなりの賑わいを見せていたここも、今はお役目御免とばかりに閑散としていた。
つまり込み入った話をするにはちょうどいい場所なのである。
「フィアナはちゃんと帰りついたかなぁ」
ここで密談をする時はフィアナには先に帰ってもらわないといけないのだが、それを伝えたとき彼女はだいぶ寂しそうな表情をしていたので、お姉ちゃんとしては辛いところだ。
そうだ、帰ったらお詫びとしてたくさんイチャイチャしよう。食後に軽いお菓子とお茶を用意して──
「パーティは現実逃避しても、消えない……」
「ふぐっ!!」
そんなフィアナと触れ合う妄そ……想像はアクシアの一言であっさりと打ち砕かれた。
「とにかく……試験の時と同じように、やることを整理したほうが、いい」
そう言ってアクシアは読んでいた本に栞を挟むとパタリと閉じた。何だかんだで手を貸してくれる彼女の存在は間違いなくかけがえのない存在であった。
「えっと、まずはやっぱりダンスかしら。踊らない方法ってないの?」
「ない、と思う……セリーネみたいな位の高い家は特に……社交でもあるし……」
「そもそも私、男の人となんか踊りたくないんだけど」
「そ、そんなこと言われても……」
「あっ、フィアナと踊るってのはどう!? それなら今からでもめっちゃ練習するよ!?」
ズイっと身を乗り出したが、アクシアはまたかという風に息をつく。ひどい。
「フィアナと踊るのも別にいいかもしれないけど……でも、彼女だけっていうわけには、いかないと思う……それに彼女だって今回のパーティでは注目されているだろうし」
アクシアの言葉にグッと言葉が詰まった。そう、あまり考えたくはないのだが私の可愛い妹であるフィアナはここ最近でかなり認知されてきていた。
そりゃ魔法院に認められた元平民の少女となれば注目はされるし、それに加えて今はエトセリア家の一員であり、身分も証明されているのだ。
そんな元平民の彼女となら、自分でも関係を持つことも出来るだろうと、そう浅く考えるバカが大勢いるのが事実だった。
「セリーネ……顔、怖いよ……?」
「えっ、あ、ああごめんなさい。妹を思うあまり修羅になってたわ」
「しゅ……???」
とにかく、学校でなら私がそんな糞みたいな輩は片手で追っ払えるのだが、パーティだとそうもいかない。
何せ仮に私が誰かと踊っているその間は、フィアナは無防備になってしまうのだ。そこを狙われたら……
「やっぱりパーティは欠席……いや、それ自体を消し飛ばせば……?」
「せ、セリーネ? あの、ちょっと……」
「……ねえアクシア。王城がなくなればパーティは中止になるかしら」
「……セリーネの人生が一生中止になると思う……」
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「ううう、結局どうしたらいいのよー。フィアナに変な虫を近寄らせたくないのに」
「何か、目的が変わってるような……」
試験の時とは違い、私とアクシアの会議は難航していた。
「やっぱり一番のネックはダンスね。挨拶やマナーは覚えればいいし、その時間はフィアナと一緒にいれるもの」
「どちらにせよ、ダンスは練習した方が、いい……フィアナと踊りたいなら、尚更……」
「それは、勿論そうしたいけど」
ダンスホールで音楽に合わせてフィアナと踊る。手を紡いで足を合わせて体を時に近づけながら……
「最高だわ。ダンス覚える、私ダンス覚えるよ!」
「え、あ、ああ、うん……」
だけどそのダンスタイムをどう乗り切るのかは課題だ。私は正直フィアナ以外と踊りたくないし、フィアナが誰かと踊っているのを見るのも嫌だ。
(もしもフィアナにも踊りたい相手がいるなら……それは譲るけど……)
元々このパーティはゲームでの大きなイベントの一つで、その時点での好感度が一番高い相手と一番良い音楽が掛かるときに踊るものだ。当然、専用のイラストだって用意されている。
(でも今のところフィアナに近寄る埃は吹き飛ばしているし、何なら好感度で一番高いのは私の可能性だってある)
それならフィアナと踊ったあと、彼女を拐って時間を潰すか。しかし、立場上会場からいなくなるのは難しい。
「はぁぁぁ、どうしよう……」
「うーん……」
そう思っていたら図書館の閉館時間になったらしく、以前と同じように申し訳なさそうに頭を下げる司書さんにお礼を言ってから外に出ることになった。
既に外はかなり薄暗く、長い時間アクシアを付き合わせていたことを暗喩していた。
「ごめんねアクシア。こんなに付き合わせちゃって」
「んん……悩みを聞けるのは私だけだろうし、それに、あんまり解決しなかった……だからごめんなさい……」
「あ、謝らないでよ! 完全にこっちが巻き込んでいるだけだし! 話を聞いてくれて本当にありがとう。もう少し上手くパーティを潰せないか考えてみるわ」
「物騒なことは、やめてね……?」
そんな話をしながら正門まで来た私達はそこで別れることになる。
と、そこで私はもう一つ聞いておきたいことがあったことを思い出した。例のもう一人の公爵令嬢のことである。
「あのさ、フロールと私って試験で勝負してたんでしょ?」
「……? うん、毎回やってたけど……」
「それで負けた方が勝った方の言うことを聞くってルールがあるらしいんだけどさ、セリーネって何をさせてたの……?」
「え? あー、うん……」
それを聞いた途端、アクシアは何だが微妙な表情になり歯切れが悪くなる。何だ、一体どんなとんでもないことをさせたというのか。
聞きたいの? と言うアクシアに概して頷く。とりあえず知っておかねばいけない気がしたからだ。
そして帰って来た答えは……
「一週間、メイド服で登校させて、自分のことを「ご主人様」って呼ばせてた……」
「…………」
「…………」
「じゃあ、また……」
「う、うん。またね……」
何とも言えない空気の中で別れた私は、過去のセリーネに戒めの言葉を呟きながら帰路に着くことのなった。
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